小黒 話は前後しますが、佐藤さんは『セーラームーン』の45話「セーラー戦士死す! 悲壮なる最終戦」で絵コンテを担当している。これは『ユンカース』の制作に入ってる最中に描いてるわけですね。
佐藤 そうですね。
小黒 その頃は脚本打ちには参加されていなくて、思いもよらない壮絶な内容の脚本を受け取ったということになるんでしょうか。
佐藤 ええ!(笑) そうです、そうです。(声が裏返りそうになりつつ)「本当にこれやるの!?」っていう感じのものが上がってきたので、びっくりした(笑)。
小黒 当時、「こういうものから一番遠いところにあるものを作っていたはずなのに」とおっしゃっていました。
佐藤 「どうしちゃった?」って、やっぱ思いますよね(笑)。だけど、やるなら、しっかりやるしかないしなあ、という感じでしたね。
小黒 でも、ご立派な出来でしたよ。「佐藤順一絵コンテ全集」を出版するなら、ぜひともこの話のコンテは入れたい。
佐藤 どちらかというと、出発する前に、うさぎが作ったカレーを食べる場面のほうが、生き生きしてますよね(笑)。
小黒 『セーラームーンS』の話をうかがう前に、幾原邦彦監督について聞かないわけにはいかないんですが、新人の頃から見どころのある若者だったわけですね。
佐藤 まあ、そうですね。どう見どころがあったかは正確には覚えてないですけど。
小黒 (笑)。『もーれつア太郎』放映時に、佐藤さんは「幾原というやつが見どころがあるので「アニメージュ」に取り上げてくれ」と僕に言ったんですよ。大々的に取り上げることはできませんでしたが。
佐藤 どうしてそういう依頼したのか、ちょっと覚えてないですけど。日常で喋ってることが小生意気だったんでしょうね(笑)。
小黒 そして、『S』で『セーラームーン』に戻ると、佐藤さんは各話演出として参加です。いかがでしたか。
佐藤 やっぱ、各話演出が自分の性に合ってるなって思うんですよね。監督よりも各話演出で入って好きにやりたいなっていうとこがあるんで、結構テンション上がりましたね。『セーラームーンS』の1話(通算話数では90話。サブタイトルは「地球崩壊の予感? 謎の新戦士出現」。以下、『セーラームーン』の話数で特記なきものは通算話数)は、レイちゃんが神社で襲われるやつで、安藤(正浩)さんが作監をやった話数ですよね。
小黒 そうですね。
佐藤 あの時、シリーズ構成会議に呼ばれて、シリーズディレクター的な発言を求められたりもしたんですよね。『R』がドラマ寄りだったので『S』は方向性を戻したいということを言われたりもして、愉快な方向にするんだったらこうかなと、考えながらやったかもしれないです。
小黒 なるほど。佐藤さんは、劇場版『R』(『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』)をご覧になられて「あ、これかあ!」と思って、『S』の最初のエピソード(90話)で肉体に関する表現を取り入れるんです。
佐藤 ああ。レイちゃんが磔にされたり、うさぎがブローチを取られたり。
小黒 そうです。佐藤さん風に劇場版『R』を咀嚼するとこうなるのかと思いました。その後の104話「友達を求めて! ちびムーンの活躍」では、伊藤(郁子)さんと組んで、最初のシリーズで幾原さんがやったようなギャグ回をやって、幾原さんの得意技をどんどん潰していくというですね。
佐藤 そうだった! そういう狙いでやっていたんですよ。
小黒 そうですよ。物凄く怖い先輩ですよ(笑)。
佐藤 (笑)。確かにそうだった。そのことを忘れてた。
小黒 やってたでしょう? 『SuperS』(『美少女戦士セーラームーンSuperS』)の最初のエピソード(128話)で、幾原さんがアバンギャルドなものを作っていて、佐藤さんはアフレコ現場で「これは真似できない」と言ってたんですよ。
佐藤 確かにそういうつもりはありました。フフフ(笑)。
小黒 この記事を読んでる人に説明すると、佐藤さんが土台を作って『セーラームーン』は始まったんだけど、そのベースの中で、飛びぬけた仕事をしていた幾原さんが2代目のシリーズディレクターになった。そして、『S』で帰ってきた佐藤さんが、幾原さんの得意なところ、尖ったところをコピーして、追い抜いていこうとした。そういうストーリーですよ(笑)。
佐藤 そうそう(笑)。
小黒 だから、「ちびムーンの活躍」は立派なギャグ回でしたよ。
佐藤 そうでしたね。「やりたい放題とはこのことか」という感じがありますよね。狙いまくりですよね。大人力(おとなぢから)も使って。
小黒 大人力ですね。
佐藤 他の番組のキャストを呼びたい時に、局のプロデューサーを使って実現していく。
小黒 一応読者に説明すると、矢島晶子さんが出てきて『クレヨンしんちゃん』のしんちゃんみたいなキャラクターを演じたというだけじゃないんです。当時、矢島さんはぷろだくしょんバオバブの所属で、諸般の事情でぷろだくしょんバオバブ所属の方は、東映動画の作品には出演できなかったんです。
佐藤 今は出てますけどね。当時は青二プロダクションにいた人がバオバブを設立して、そんなに月日が経ってない頃だったので。
小黒 またまた読者に説明すると、東映作品のキャスティングを青二がやっていたわけです。
佐藤 矢島さんを使いたいって言ったら、作品担当のマネージャーが「オファーしてみたけど、ダメでした」と言うんです。当時『しんちゃん』と『セーラームーン』の局プロが同じ人だったから、その局プロに「オファーしたけどダメだったと言われたんですけど、本当ですか」と言って確認してもらったら、先方から「オファーはもらってない」という答えがきて、それで「オファーしてないというのは、どういうことなんだ」とマネージャーを問い詰めて。「局プロも了解してるコラボ企画なんだから、あなたの一存で決めないでください。ちゃんと交渉して」と言って、力技で出演してもらった。
小黒 確かに大人力ですね(笑)。
佐藤 ということをやったわけ、ですよ(笑)。
小黒 前後して、本郷(みつる)さんが『クレヨンしんちゃん』でセーラー・ムフ~~ン、セーラー・イヤ~~ン、セーラー・バカ~~ンというパロディキャラを出してるんですけど、そういうことをやってるのは知ってたんですか。
佐藤 それは局のプロデューサーさんから聞いてました。
小黒 佐藤さんのほうが先なんですか。
佐藤 言い出しっぺはこっちですが、放映は『しんちゃん』のほうが先なんです。(編注:『クレヨンしんちゃん』109話「アクション仮面に再会だゾ」が1994年8月8日放映。『美少女戦士セーラームーンS』104話「友達を求めて!ちびムーンの活躍」が同年8月20日放映)
小黒 あっちはイケメンアニメ監督がサイン会してるという展開があって、幾原さんをモデルにしたイケメンのキャラクターが出てくるんですよ。『セーラームーン』も『クレヨンしんちゃん』もやりたい放題でしたね。
佐藤 楽しいことをやりまくってますね(笑)。「これ、どこまでやったら怒られるの?」みたいな感じですね。
小黒 話は変わって、97話「水のラビリンス! ねらわれた亜美」が、僕にとって「佐藤順一の『セーラームーン』最高傑作」なんです。これは各カットに、相当にラフを入れてませんか。
佐藤 やってますやってます。
小黒 この前も観返して「あ、佐藤さんの画じゃん」っていうのがね、分かりました。
佐藤 確かに、凄く手を入れた回ですよ。
小黒 佐藤さんの水野亜美、ここに極まれりですよ。
佐藤 (笑)。磔になりますからね。
小黒 磔になるし、衛といい雰囲気出すし。
佐藤 確かに(笑)。
小黒 最後にうさぎが「ぎゃふん」って言って終わるのも凄い。本当にセリフで「ぎゃふん」と言うのは珍しいですよ。
佐藤 「ぎゃふん」と言わせて終わってやる! みたいなつもりだったからね(笑)。『セーラームーン』は、商業的な規模は大きくなったけど、やりたいことは割とできていたシリーズではありましたよね。
小黒 この後の佐藤さんは『S』の124話、125話を担当されますが、2話連続でやることになった理由は?(編注:124話「迫り来る闇の恐怖! 苦戦の8戦士」、125話「輝く流星! サターンそして救世主」)
佐藤 正確な順序は忘れましたけども、伊藤郁子さんが2話連続でやるほうがいいということになって、伊藤さんからの条件が「佐藤さんがコンテを切ること」だったんです。制作担当からそう言われて「分かりました」と答えるしかなくなるという流れです。
小黒 なるほど。内容的にはいかがだったでしょうか。
佐藤 内容的にはやっぱちょっと難しかったですね。敵のファラオ90がどんなふうに凄いのか、最後まで分からないまま盛り上げなければいけなくて難しいなとか、そういう感じでした。
小黒 『S』と同時期に、ミソトハジメ名義で『マクロス7』(TV・1994年)で、シリーズ構成補をされていますね。これはどんなお仕事だったんですか。
佐藤 これもまた高梨さんに声を掛けてもらった仕事ですね。総監督が河森(正治)さんで、監督がアミノテツローさんでしたね。それと、富田(祐弘)さんがシリーズ構成か。
小黒 そうですね。
佐藤 高梨さん的には、河森さんをハンドリングできる人が必要ではないかみたいなことだったと思うんです。原作者でもある河森さんがいると、みんなイエスマンになってしまうのではないかということが、気になってたのだろうと思うんですよね。俯瞰で見られる人のジャッジが欲しいので、僕に声を掛けたんじゃないかな。
ホン読みの時に、河森さんが意見を言うと、みんなが右へならえで河森さんについていく流れになって、それを「こういうふうに考えるやり方もあるかもしれませんよ」と言って方向を修正することが実際にありました。ただ、参加したのは本当に頭だけですよね。
小黒 シリーズ構成打ち合わせや初期の脚本打ち合わせに出た感じですか。
佐藤 立ち会って、各話のライターの方が「こっちのほうがいい」と思ってるけれど流されそうになってるな、という時に助け舟を出したりする役割でした。
小黒 この年は『おさわが!スーパーベビー』(劇場・1994年)もありました。これは凄く短い作品なんですよね。
佐藤 15分か20分か。本当に短いんだよね。
小黒 今思い出しましたけど、『ア太郎』のアバンでニャロメがスーパーヒーローになるのと、イメージが近いかもしれないですね(笑)。
佐藤 かもしれないですね(笑)。オリジナル企画を東映に出していくプロジェクトで、自分の企画のひとつとして出したやつです。
小黒 これは佐藤さんの企画なんですね。
佐藤 そうなんです。それこそ、制作的なカロリーが低くって、長寿にもなれて、みんなが楽できるもので面白いのないかなと考えて、出した企画だったと思うんですけど。マンガも、ネームを僕が描いて稲上(晃)君がペン入れしたものが2話分ぐらいあるんです。「なかよし」別冊の「るんるん」だったかと思います。(編注:「おさわが!スーパーベビー」[構成/佐藤順一 文/雪室俊一 絵/稲上晃]が、なかよし増刊「るんるん」1995年1・3月号掲載)。そういうプロジェクトのひとつとして、劇場で短編を流したというわけです。
小黒 おお。手応えはいかがでした?
佐藤 手応えはよかったんですよ。面白かったんですけど、関係者にそれ以上、プロジェクトを進めたいという意志がなかったのでそのままになりました(苦笑)。作ってみたら、面白くなったと思うんですけど。
小黒 『セーラームーンS』と『蒼き伝説シュート!』が同時上映だったんですね。
佐藤 ああ、そんな時代かあ。この『スーパーベビー』のデザインって、その後『どれみ(おジャ魔女どれみ♯)』のハナちゃんとか、『はぐプリ(HUGっと!プリキュア)』のはぐたんに繋がる原型でもあると思ってますけどね(笑)。
小黒 ああ、似てますね。
佐藤 フフ(笑)。近いキャラクターなんですよ。