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佐藤順一の昔から今まで(4)『とんがり帽子のメモル』と『ステップジュン』

小黒 『こてんぐテン丸』の放送が1983年10月に終わって、『メモル』が1984年3月に始まるまで、クレジットされている仕事は『愛してナイト』(TV・1983年)の演出助手が1本あるだけですね。他には何をされていたんですか。

佐藤 『メモル』は準備室があったんですよ。土田さんと葛西さんもいたと思いますけれど、一緒に設定作りや資料作りを手伝ってましたね。僕はアシスタントディレクター的な立場での参加でした。

小黒 準備段階で参加していた若手演出家は佐藤さんだけで、貝澤さんはその段階では入ってないんですね?

佐藤 貝ちゃんはいないですね。

小黒 名倉さんは当然その準備室にいるんですね。

佐藤 いましたね。

小黒 その段階でキャラクターデザインの鈴木欽一郎さんは参加していたんですか。

佐藤 鈴木さんの参加は、スタッフルームがちゃんとできてからだったかな。

小黒 『メモル』の準備段階では、佐藤さんはどのような作業を? アイデアも出していたんですか。

佐藤 やったのは資料探しみたいなことですね。例えば、土田さんがイメージのベースで「ノーム」という小人図鑑のような絵本(編注:オランダの絵本。著者はヴィル・ヒュイゲン、リーン・ポールトフリート)を持っていて、そこから必要なページを資料としてまとめたりとか。他には設定打ち合わせに出たり、小人達の生活に必要になりそうなアイテムを考えたりしましたね。考えたアイテムがあんまり使われなかったから、自分の話数で使ったりということもありました。

小黒 佐藤さんが準備段階で思われていたことと、実制作でギャップを感じるようなことはありませんでしたか。

佐藤 演出さん達が「小人だから、こうなるよね」ということにあんまり注意を払わないことですかね。演出は映画を作りたくて仕事をしている人が多くて、その人達はモンタージュを駆使して映像を作っているんだけど、「画作り」で作っていないというのが、やっぱり大きかったですよね。例えば「メモルが帽子を取ってテーブルに置く」とシナリオに書いてあったとして、コンテだと無理矢理手を伸ばして帽子を取ってテーブルに置く芝居が描いてあるんです。そうすると、小人の短い腕が頭までニューンと伸びてしまうんですよ(苦笑)。頭を傾けて帽子をポトンと落として脱ぐような、小人なりの仕草があると思うんですけど、そういうアイデアを投入する演出さんがあまりいなかった。だから、僕や貝澤が重宝がられましたね。他にもメモル達が葉っぱから葉っぱに飛ぶ時に、コンクリのように固い葉っぱの上をピョンピョン飛んでいく画が上がってきたりして、土田さんも「(葉っぱなんだから)揺れるだろう」ということをずっと言ってました。

小黒 『メモル』は準備段階で関わってはいるけれども、物語作りや作品世界の構築について、ガンガン意見を出したというわけではないんですね?

佐藤 そうですね。シリーズ構成の雪室(俊一)さんとプロデューサーの籏野(義文)さんがアウトラインを決めていたので、そこに僕がつべこべ言うものでもないですからね。あくまで当時は助手ですから。最初の演出だって3話で設楽(博)さんのコンテの後処理ですから。

小黒 東映動画としてもアクション物や魔法少女物でないオリジナルは珍しいですよね。意欲的な企画ということで、社内は盛り上がっていたんじゃないですか。

佐藤 オリジナルだから盛り上がるという感じでは、なかったんじゃないかなあ。ちっちゃな可愛い女の子が人の手に乗っかるのも、「手に乗るサイズの人形」という玩具のアイデアから出てきてたと思うので。だから、本編の話でもメモルが人形の振りをする展開がありましたよね。なぜオリジナルの企画が通ったか分かんないですけど、そういった玩具的な要請が先にあったんじゃないんですかねえ。とはいえ、企画にも関わってないので、想像でしかないんですけどね。

小黒 そして『メモル』の放送が始まると、佐藤さんは大活躍をし……。

佐藤 ああ、そうなんですか(苦笑)。

小黒 業界で「東映動画に佐藤順一あり」ということになるわけですよ!

佐藤 まあね。やっぱり注目されたなっていう実感がありましたからねえ。

小黒 実際にはどのような意気込みで参加されたんですか。

佐藤 やっぱり「いよいよだな」と思ったというのはあるんですよ。いちいちはりきってるんですよ(笑)。最初にやった5話(「どうしてお腹がすくのかな?」)をご覧になったら分かると思いますけど。

小黒 ええ、ええ。

佐藤 家の中でメモルが猫と追いかけっこをするんですけど、そのレイアウトでいちいち宮崎駿さんのテイストをコピろうとしてますからね。

小黒 (笑)。あれは宮崎さんを意識していたんですね。

佐藤 ええ。屋根を使って登っていったりするところも含めて、レイアウトを弄って「俺にもこういうのができるんだ!」というのをやろうとしてるんです。でも、結局カット数が400ぐらいになってしまって、すげえ怒られたので「これは駄目だな」と学習して(笑)。

小黒 400カットだから枚数も当然オーバーしてるわけですね?

佐藤 オーバーするし、宮崎駿さんのレイアウトをトレスしてるので、いちいち組み線が多いんですね。似たようなレイアウトなのに組み線があるせいで兼用できないから、土田さんにも怒られる。

小黒 背景の枚数も多くなってしまったんですね。

佐藤 「このレイアウトを兼用にしてくれれば1枚で済むのに、なんで別なんだよ?」と怒られてしまって、「そういうケアも必要だな」と勉強になったので、次の話数は230カットぐらいに収めました(笑)。

小黒 それが10話「みんなそろって忘れ草」ですね。

佐藤 そうですね。250カットぐらいあったかな。とにかく、減らしています。

小黒 ファンの間で傑作と呼ばれているのは、やはり「忘れ草」ですね。僕個人としても『メモル』全話の中で一番好きかもしれない。貝澤さんの9話「マリエルの目玉焼」と10話「みんなそろって忘れ草」がワンツーパンチって感じでしたね。

佐藤 「目玉焼」もよかったですからね(笑)。

小黒 「忘れ草」は名倉さんの画もいいですけど、セリフのテンポもめちゃめちゃいいんですよね。

佐藤 その辺からシナリオにもちょいちょい自分テイストを入れることを覚え始めてますから(笑)。そもそもシナリオでは「忘れな草」だったと思うんですが、分かりにくいので勝手に「忘れ草(わすれそう)」に直してましたね(笑)。

小黒 ダジャレにもなると(笑)。

佐藤 駄目と言われても直せるタイミングで、コンテを出してると思います。

小黒 この頃、宮崎さんに傾倒してるということでしたが、ポピットがメモルを助けるために鳥に襲われそうになって、凄く凛々しく走るじゃないですか。『未来少年コナン』のスピリッツを感じますよ。

佐藤 そうでしょうねえ。鳥の動きも、原画に結構ラフを入れてますね(笑)。

小黒 この頃、佐藤さんは絵コンテも生半可じゃないぐらい描いてますもんね。

佐藤 描いてるはずですよ。

小黒 これまた読者に説明すると、貝澤さんの絵コンテはまた別の意味でアートなんです。

佐藤 コンテが既にアート(笑)。

小黒 当時、貝澤さんが描き直したレイアウトを見たことがありますけど、レイアウトもやっぱりアート的でしたね。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 30年以上経つので話題にしていいと思うんですけど、佐藤さんの『メモル』はアニメファンのハートを掴む描写が多かったですよね。

佐藤 そう、ですか?(笑)

小黒 マリエルとメモルが同じベッドで、すやすやと寝てるところで終わったり、一緒にお風呂入ったり、今風に言うと「尊い」感じで、2人の仲のよさを描いてるんですね。

佐藤 あんまり自覚はないですけどね(笑)。

小黒 5話「どうしてお腹がすくのかな?」の最後、腹が空いたマリエルの頬が赤くなっているところとか、凄くいい感じでした。マリエルのヒロイン度数が高いですよね。『ルパン三世 カリオストロの城』に似た描写があるわけではないですが、クラリスに通じるものがあると当時から思っていました。

佐藤 そういうところは、きっと無自覚ですね。

小黒 15話「あくびをしたお人形」がマリエルとメモルがお風呂に入る回ですね。これは青山(充)さんの作監回なんですけど、佐藤さんがかなり手を入れてるんじゃないかと思うんです。

佐藤 描いてますね。青山さんが作監で、原画も描いているんですけど、その原画に、演出の僕がアタリを描いて入れたんです。そうしたら、青山さんから電話が掛かってきて「これは作監の画なんだけど、なぜ演出の君の画が入ってるんだ?」とおっしゃるので、「青山さんはシリーズの途中からの参加なので、作品のテイスト等も掴みにくいかと思い、最初から参加している僕が参考までに入れてます。どうしてもおかしいと思ったら破ってもらってもいいです」という説明をしたら、納得してもらえたので、そのままずっとアタリを入れ続けるという感じでした。

小黒 前のめりな仕事ぶりですね。

佐藤 そうですね。撮影的にも色々と試せていましたよね。光と影を意識した画作りをして、撮影処理もかなり凝っていた時期ですね。

小黒 光と影といえば、25話「二人を結ぶ風の手紙」ですよ。これまた大傑作。

佐藤 これも気合が入った回ですからね。

小黒 実質的な最終回ですよね?

佐藤 そうですね。マリエルが町に帰ることを言っちゃうのが久岡(敬史)さんの23話(「さよならマリエル!」)なのかな?

小黒 はい。

佐藤 コンテが凄く盛り上がって泣けるものだったので、「これに負けちゃいけない!」というプレッシャーもあって(笑)、かなり頑張った記憶があります。講堂で鳥の影がバタバタ入ってくるところとか、撮影的に面倒なこともやってますね。

小黒 もの凄く広い空間を表現していて、それだけでもTVアニメとしては画期的でした。若さ溢れるというか、才気迸る仕上がりですよ。

佐藤 「やりきってしまおう」みたいな感じがありますよね(笑)。

小黒 そういう意味では、佐藤さんの数少ない暴走時期の作品ですね。

佐藤 その後は、大人しくなりますからね。

小黒 『とんがり帽子のメモル』だけで言っても、シリーズ後半の佐藤さんの演出回はちょっと大人しくなりますね。貝澤さんはシリーズ後半でも35話「白い木の実の秘密」、44話「ポピットが家出!?」といった回で炸裂していましたけど。

佐藤 そうですね(笑)。貝澤はそういう意味ではブレずにやってた感じがあるなあ。

小黒 後番組の『は~いステップジュン』(TV・1985年)の貝澤さんは居心地が悪そうというか、個性が上手くハマりきらない感じがありましたけど。

佐藤 貝澤は『ステップジュン』では「何が面白いのか分からない」と言ってましたからね(笑)。我々と見るとこが違って、アレンジの仕方がちょっとマニアックと言いましょうかね。

小黒 はい。

佐藤 それもあって、貝澤は『メモル』の時に上のほうからチクチクやられていて。確か20話近辺やってないですよね?

小黒 21話は演出処理だけで、絵コンテと演出をやったのは14話の次が27話ですね。

佐藤 本当は貝澤がローテーションだったんですけど、「1回お休み」になって、僕が1本多くやることになったんですよ。

小黒 なるほど。でも貝澤さんは復帰した後に「白い木の実の秘密」を作ってしまうんですね。

佐藤 そうです(笑)。復帰したら、またあの展開に行くんです。あの頃、貝澤的には色々な想いもあったんでしょうけど、やっぱり画作りが凄かった。我々の発想外の画を作るので、毎回初号の時には負けた気分になっていましたね。

小黒 ああ、そうだったんですか。

佐藤 偉い人達には僕のほうが喜ばれたんですけど、画的に見ると、どう考えてもアート性は貝澤のほうが高くってですね(笑)。

小黒 いやいや。

佐藤 「あの画は作れねえなあ。負けた」って、ずっと思ってます。

小黒 佐藤さんの「負け人生」は、この頃から始まるんですね?

佐藤 そう。貝澤には、全然勝てないっていう意識がずっとありますからね。

小黒 多分、佐藤さんが一番直したのが、32話「あたしは星空のバレリーナ」だと思うんですが。

佐藤 描き直してますね。

小黒 これは「シンシアが初めて脚光を浴びる回だから、ちゃんとしなきゃ」という意識があったんでしょうか。

佐藤 そうです。そして、確か原画が少し弱かったので、ちょっと多めにラフを入れた記憶がありますね。

小黒 『メモル』の時は一演出家なので、物語の展開について「こうしましょう」と提案するような立場ではなかったんですね?

佐藤 そうですね。東映システムなので、シナリオの打ち合わせには一応出ますけれども、全体的な構成に関して発言した記憶はないです。

小黒 ご自分の演出回に関しては、シナリオ打ちに出て、ああしましょう、こうしましょうということは言えたんですね。

佐藤 それは言っていますね。

小黒 シナリオ打ちは上手くできたんでしょうか。

佐藤 雪室さんを始め皆さんベテランなので、若造を見守る態度で接してくれたんじゃないですか(笑)。

小黒 なるほど。そして、次回作は『は~いステップジュン』でシリーズディレクター補ですね。

佐藤 補佐として、設楽さんに色々教えてもらうというスタンスですね。

小黒 ご自身にとっては、どんな作品だったんでしょうか。

佐藤 『ステップジュン』は、企画の当初から関わっていました。バンダイとの打ち合わせ等にも全部連れて行ってもらえたので、凄く勉強になりましたね。ディレクターを後々やるにあたって、重要なことを沢山学習できたのが『ステップジュン』ですね。

小黒 なるほど。

佐藤 「吉之介の玩具の売れ行きがよくないのでこうしてほしい」とスポンサーから直接オーダーが来るところに立ち会うことができて「ああ、本当にそういうことあるんだあ」と思いましたね。

小黒 吉之介の玩具を売るための番組だったんですね。

佐藤 そうなんですよ。売りものは女の子向けロボット人形なんだけど、いまいち売れ行きが伸びない。ゼロ(加納零)の人気が高いから、その分、吉之介が人気ないんだという理屈でしたね。

小黒 それで、シリーズの途中で、急にゼロが英国に留学することになるんですね。

佐藤 結局留学をすることになるんですけど、それに対して雪室さんがきちんとした反論をしていたのも勉強になった。

小黒 雪室さんが反論してたんですか。

佐藤 雪室さんも呼ばれているのでその場(スポンサーとの対話の場)に同席しているんですよ。そんなちょっとした修羅場的なものも経験できました。

小黒 個々の演出された回で印象的なものはありますか。

佐藤 それだと、先生の恋の話かなあ。

小黒 32話「ヘーハチローの恋」ですね。ポイントは先生のヘーハチローじゃなくて、彼が好きになる保健の先生のほうですね。

佐藤 そうですね。あれは自分でも結構好きな回だった(笑)。

小黒 保健の先生が初めて出たのは7話「吉之介がんばる」でしたね。僕の記憶が確かなら、保健の先生は脚本にいないキャラなんですよ。

佐藤 あっ、そうでした?

小黒 いたとしてもああいう感じの人じゃなくて、佐藤さんが絵コンテ段階で変な芝居をつけて、面白みのあるキャラクターにしてしまって。

佐藤 はいはい。してますね。

小黒 それが佐藤さんの中に残っていて「へーハチローと保健の先生を恋愛させちゃおう」という発想になったのではないでしょうか。

佐藤 あの先生に関しては、相当膨らませた記憶があるので、そんなところかもしれないです。

小黒 へーハチロー自体は、いかにも雪室さんが弄りそうな感じの先生でしたね。具体的に言うと『The・かぼちゃワイン』(TV・1982年)っぽいですよね。

佐藤 そうか。確かに『かぼちゃワイン』かもしれない(笑)。

小黒 シリーズディレクター補という役職は、各話の絵コンテをチェックするような仕事ではないんですね。

佐藤 そうではないんです。基本的にはシリーズディレクターに付いて、色んな勉強をする立場ですね。大島やすいちさんの原作は短編の読み切りぐらいしかなかったので、アニメはほぼオリジナルなんですよね。オリジナルの物語を展開する時、放送日が何の記念日であるかを調べるんです。敬老の日や勤労感謝の日なら、それに合わせたお話を組んでいく。そういう構成のやり方も覚えられたんです。演出以外の作業工程を具体的に見られた経験は大きかったですね。

小黒 『ステップジュン』に関しても、作品作りの方向性を決める部分には関わってないんですね?

佐藤 あまりないですね。

小黒 担当話数の演出に専念していたと。

佐藤 そう。思うようにやれたのは守備範囲だった自分の話数ぐらいだね。

小黒 なるほど。この頃も、ご自分の演出回ではレイアウト等に相当手を入れてますよね?

佐藤 入れてますね。


●佐藤順一の昔から今まで (5)『機動戦士Ζガンダム』と『メイプルタウン物語』 に続く


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