腹巻猫です。1月11日に赤坂・草月ホールで開催された林ゆうきさんの初ソロ・コンサート「林ゆうき10th Anniversary Concert〜劇伴食堂はやし屋〜」に足を運びました。2部構成で、前半はドラマ音楽、後半はアニメ音楽を演奏。林ゆうきの世界が凝縮されたステージを堪能しました。クリックを聴きながらの演奏、電子ドラムの使用、シンセ打ち込み音源との同期など、スタジオワークを思わせるステージは現代のサウンドトラック・コンサートならでは。いっぽうで、生のストリングスやサックス、トランペット、アコーディオン、ウッドベースなども入って、生音感も充実。YouTubeでのライブ配信も話題になりました。YouTubeにアーカイブが残っているようなので、未体験の方もぜひ視聴ください。
来週は菅野祐悟さんの「PSYCHO-PASS サイコパス IN CONCERT」。こちらもデジタルサウンドがどう再現されるか、めちゃ楽しみです。
https://psycho-pass-concert.com
筆者が林ゆうきの名を意識したのはTVドラマ「トライアングル」(2009)。テーマ曲がジャズピアニストの上原ひろみ。劇中音楽は澤野弘之と林ゆうきの共作という、今思えばすごい作品だった。筆者はこの作品がきっかけで上原ひろみのライブを何度か聴きに行った。
林ゆうきは「トライアングル」が映像音楽デビュー作。劇中音楽のメインテーマ「Cocoon」は林ゆうきの曲だ。サントラ盤を買った筆者は「なに? このカッコいい曲」と衝撃を受けて林ゆうきの名を覚えたのである。
2011年に放送されたTVドラマ「DOCTORS〜最強の名医〜」のサントラ盤の仕事で林ゆうきに初めてインタビューする機会があった。そのときは、まだアニメ音楽はほとんど手がけてなくて、「アニメもやりたいんです」と話してくれたのだが、すぐに状況は一変。『ガンダムビルドファイターズ』(2013)、『ハイキュー!!』(2014)、『僕のヒーローアカデミア』(2016)、『ボールルームへようこそ』(2017)、『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』(2018)、『からくりサーカス』(2018)、そして、『ポケットモンスター』(2019)と、話題作、人気作を次々手がけるアニメ音楽の人気作家になってしまった。ほかにも多くのアニメ作品を手がけている。
京都出身の林ゆうきは新体操選手出身という変わった経歴の持ち主。選手として活躍する中で新体操の演技のバックに流れる音楽を作るようになり、しだいに音楽が本業になっていった。
爽やかな感動を生む青春ものやスポーツものから、サスペンス、スリラー、SFアクション、『ポケットモンスター』みたいなキッズ向けアニメまで幅広いジャンルを手がける。しかし、ジャンルによって器用に書き分けるタイプではなく、どの作品にも林ゆうきらしい個性が刻印されている。とりわけ、躍動感に富んだ曲やスピード感のある曲は、これぞ林ゆうきサウンド! と思わせる魅力的なものだ。
そんな林ゆうきの作品の中でも異彩を放つのが『プリキュア』シリーズの音楽である。林ゆうきが手がけるアニメ作品は「少年もの」が多いイメージがある。可愛い、キラキラよりは、カッコいい、爽やか、ときどきダークの感じ。だからこそ、林ゆうきが作る『プリキュア』の音楽は新鮮だった。
今回はまもなく最終回を迎える『スター☆トゥインクル プリキュア』の音楽を取り上げよう。
『スター☆トゥインクル プリキュア』は2019年2月から放映されている『プリキュア』シリーズ第16作目となるTVアニメ作品。星空観測が好きな中学生・星奈ひかるがプリキュアに変身する力を得て、仲間とともに、宇宙から襲来する敵・ノットレイダーと戦う物語である。
ひかるがプリキュアに変身するきっかけとなったのは、宇宙生物のフワとプルンス、宇宙人のララとの遭遇。プリキュアの仲間に宇宙人が加わり、ひかるたちはロケットで宇宙の星々を訪問する。これまでの『プリキュア』シリーズにない新機軸だ。冒険の舞台となる宇宙がポップでカラフルな世界に描かれているのも面白い。50〜60年代の宇宙冒険もののセンスに80年代ポップカルチャーをブレンドしたような世界観である。
音楽もユニークだ。本作の前期エンディング主題歌「パペピプ☆ロマンチック」は80年代テクノポップ風サウンドを取り入れて話題を呼んだが、劇中音楽(BGM)も同様のコンセプトで作られている。
現代的なデジタルシンセとは異なるアナログっぽいシンセサウンド。『プリキュア』を観ている子どもたちには新鮮で、お父さん・お母さん世代には懐かしく響く音である。『スター☆トゥインクル プリキュア』のポップな宇宙には、この音がぴったりマッチしていた。
林ゆうきにとっては本作が3作目の『プリキュア』シリーズ。初参加となった『キラキラ☆ プリキュア アラモード』(2017)では明るく元気な音楽、2作目となった『HUGっと! プリキュア』(2018)では豊かな情感をたたえた音楽が印象的だった。3作目はプリキュアサウンドの集大成、となりそうなところを、まったく違う方向性で挑戦してきたことに驚いた。
『スター☆トゥインクル プリキュア』の音楽には、林ゆうきとともに橘麻美が参加している。橘麻美は林ゆうきと多くの作品で共作している作曲家で、数々のTVドラマのほか、アニメ『ガンダムビルドファイターズトライ』(2014)、『ソウルイーターノット!』(2014)などにも参加。ダークなサスペンスから軽快なアクション、爽やかな日常曲まで書ける才能を生かして、本作の音楽世界を広げている。
『スター☆トゥインクル プリキュア』のサウンドトラック・アルバムはマーベラスから2枚発売されている。1枚目は「スター☆トゥインクルプリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・トゥインクル・サウンド!!」のタイトルで2019年5月に発売。2枚目は「同2 プリキュア・サウンド・イマジネーション!!」のタイトルで2019年12月に発売された(一部のサイトでタイトルが「プリキュア・スタートゥインクル・イマジネーション!!」と表記されているのは誤り)。
今回は2枚目の「プリキュア・サウンド・イマジネーション!!」を紹介しよう。
収録曲は以下のとおり。
- スターカラーペンダント!カラーチャージ!(キュアコスモ・ヴァージョン)
- プリキュア・レインボースプラッシュ!
- キラリ☆彡スター☆トゥインクル プリキュア(TVサイズ)(歌:北川理恵)
- 宇宙航路異状なし
- 不思議な力だフワ
- ララの里帰り
- 惑星サマーンの憂鬱
- 星空連合の使命
- 対立する正義
- ダークネスト
- 宇宙を絶望に染めよ
- 灼熱の攻防
- 悲劇の星
- コズミック☆ミステリー☆ガール(氷柱ヴァージョン)
- 星に想いを
- 星空ティータイム(ギター&ヴァイオリン・ヴァージョン)
- 宇宙は大混乱
- オヨ〜
- 観星町星まつり
- この胸に星は輝く(ピアノ・ソロ・ヴァージョン)
- トゥインクル・イマジネーション
- 星を追われし者
- 消えた星座からの挑戦
- 激突!大宇宙
- 大いなる闇
- 闇に沈む心
- 滅びに立ち向かう戦士たち
- スターカラーペンダント!カラーチャージ!(クインテット・ヴァージョン)
- プリキュア・流星のごとく
- プリキュア・スタートゥインクル・イマジネーション!
- ずっと忘れない
- この胸に星は輝く
- 宇宙に架ける虹
- 教えて…!トゥインクル☆(TVサイズ)(歌:吉武千颯)
〈ボーナストラック〉 - スターカラーペンダント!カラーチャージ!(インストゥルメンタル・ショートサイズ)
選曲・構成は筆者が担当した。サントラ盤のタイトルも筆者がつけている。
『プリキュア』TVシリーズのサントラは年に2枚出るのが通例で、1枚目は番組のオーソドックスなフォーマットに沿った内容、2枚目は追加録音分を中心に、シリーズ中盤から終盤の展開をイメージした内容でまとめている。先日放送されたばかりの第48話「想いを重ねて! 闇を照らす希望の星☆」では、大半のBGMが2枚目のアルバムから選曲されていた。
以下、第48話の内容に触れる部分があるので、ネタバレは見たくないという未見の方は、ご覧になってから読んでください。
それにしても、第48話は驚いた。オープニングなし、サブタイトルもアイキャッチもなし。オープニングが省略されるのは昨今のアニメでは珍しくはないが、『プリキュア』シリーズでは初。『宇宙戦艦ヤマト』へのオマージュかと思っちゃいましたよ。本編は最終決戦から別れまでをぎゅっと詰め込んだ、実質的最終回と呼べる内容。音楽的にも聴きどころ満載だった。
アルバムの話に戻ろう。
1曲目に収録した「スターカラーペンダント!カラーチャージ!(キュアコスモ・ヴァージョン)」は第20話から加わった新しいプリキュア=キュアコスモの変身テーマ。次の「プリキュア・レインボースプラッシュ!」はキュアコスモの浄化技(ヒーローもので言うところの必殺技)の曲だ。サントラ2枚目の開幕の曲として2曲続けて収録した。
プリキュアたちが歌いながら変身するのが本作のユニークな趣向である。『プリキュア』シリーズでは、これまでもコーラスが入った変身BGMはあったが、ずばり「歌」入りの変身BGMは初めて。音楽演出としての「歌入りBGM」ではなく、劇中でキャラクターが実際に歌っている設定なのだ。番組スタート当初は「歌って変身!?」ととまどう声もあったが、放映が進むにつれ、変身の歌を子どもたちが遊びに取り入れるなど、すっかり定着した。
本作の変身BGMは、変身するキャラクターとその組み合わせよって、さまざまなバージョンがある。1枚目のサントラ盤には4人変身バージョンと、キュアスター、キュアミルキー、キュアソレイユ、キュアセレーネ、それぞれの1人変身バージョンを収録。2枚目にはキュアコスモの1人変身バージョンと5人変身バージョンを収録した。1枚目にはインスト・バージョン(カラオケ)も収録しているので、自分で歌ってプリキュアになりきることも可能だ。
トラック4「宇宙航路異状なし」は、本作のメインテーマの変奏曲。本作は主題歌とは別にBGMにおけるメインテーマが設定されており、そのアレンジ曲が全編に散りばめられている。中でもこの曲は、本作の音楽の特徴がよく出た80年代テクノポップ風のアレンジ。ひかるたちの日常シーンやロケットで宇宙を旅する場面によく流れていた。
トラック5「不思議な力だフワ」は宇宙妖精フワが不思議なパワーを使ってロケットをワープさせる場面などに流れていた曲。サントラ1枚目に収録した「フワのテーマ」のアレンジである。
続く「ララの里帰り」「惑星サマーンの憂鬱」「星空連合の使命」は追加録音分からの選曲。ララが故郷の星に帰るエピソードで流れた曲を集めた。
トラック9の「対立する正義」は、ひかるたちと宇宙人とが価値観や主張の違いから対立してしまう場面にたびたび流れた曲。本作のテーマのひとつである「多様性」が生む確執を表現する曲である。
トラック10からの3曲はノットレイダーとの戦いをイメージ。「ダークネスト」「宇宙を絶望に染めよ」は第1回録音の曲だが、第21話で敵の首領・ダークネストがよみがえってからは、もっぱらダークネストの脅威を描写する曲として選曲されている。トラック12「灼熱の攻防」は追加録音で収録された激しい戦いを描写するアクション曲。第46話のスターパレスの攻防などに流れている。
トラック13「悲劇の星」はキュアコスモ=ユニの過去が明らかになる第20話、21話で印象的に使われた悲しみの曲。
次の「コズミック☆ミステリー☆ガール(氷柱ヴァージョン)」はユニが変身したアイドル・マオが歌う挿入歌をアレンジしたエキストラ曲。第24話でひかるたちとユニの心が通う重要な場面で流れていた。
トラック15に収録したメインテーマアレンジの曲「星に想いを」は、ひかるたちの友情をイメージしての選曲。この曲は第48話でも、闇に呑み込まれたひかるたちが互いの無事を確認する場面に使用されている。
トラック16から19まではひかるたちの日常に流れる曲。穏やかな曲やコミカルな曲を集めた。「星空ティータイム(ギター&ヴァイオリン・ヴァージョン)」はサントラ1枚目にフルバージョンを収録しているが、劇中ではこちらのバージョンがよく使われているので2枚目に収録した次第。
トラック20と21は終盤の展開のカギとなる「トゥインクル・イマジネーション」をテーマにした曲。ひかるたちの心から生まれるイマジネーションの力を表現する曲だ。
「この胸に星は輝く」のピアノ・ソロはひかるたちの繊細な心情が描かれる場面で使用。オーケストラが壮大に奏でる「トゥインクル・イマジネーション」はトゥインクル・イマジネーションが覚醒する場面で使用されていた。第48話では、変身する力を失ったひかるたちが、自らの心からあふれ出たイマジネーションの力で変身を遂げるシーンに流れている。
トラック22「星を追われし者」はノットレイダーたちの過去をイメージした曲。虐げられた者の悲しみや理不尽な正義への怒りを表現するシリアスな曲である。こういう曲が用意されているのが、『スター☆トゥインクル プリキュア』の奥深いところだ。
トラック23「消えた星座からの挑戦」は敵の首領・ダークネストの正体であるへび使い座のプリンセスのテーマ。音楽メニューにも「へび使い座のプリンセス」と書かれているのだが、サントラが発売される12月の時点ではまだ正体が明かされていないので、曲名や解説書のテキストではそこを伏せて表記している。
実はこの曲、サントラ1枚目に収録した「スターパレス」という曲をダークなイメージにアレンジした曲調・構成になっている。スターパレスは12星座のプリンセスが集う聖域。その曲と共通性を持たせることで、敵も星座のプリンセスのひとりであることを暗示しているのだ。
トラック24からは最終決戦をイメージした構成である。宇宙規模の総力戦と巨大な闇の力、その闇に呑まれた絶望感を表現する曲を続けた。「激突!大宇宙」と「闇に沈む心」は第47話で、「大いなる闇」は第48話で使用されている。
トラック27「滅びに立ち向かう戦士たち」は絶望から立ち上がるプリキュアたちのイメージ。第1回録音の曲であるが使用回数は少なく、第30話でララのロケットのAIが復活する場面など、ここぞという見せ場でしか使われない重要曲である。第48話では、復活したプリキュアたちがへび使い座のプリンセスの攻撃を押し戻し、全宇宙から集まる想いを重ねた浄化技を放つクライマックスに流れている。
トラック28からの3曲は、5人バージョンの変身BGM、スピード感みなぎるプリキュア活躍曲「プリキュア・流星のごとく」、5人合体技の曲「プリキュア・スタートゥインクル・イマジネーション!」と続けて、アルバムのクライマックスにした。
以降はエピローグ。ひかるたちを待つ別れと友情をイメージした構成である。
トラック31「ずっと忘れない」はメインテーマの悲しいアレンジ。第12話で、映画撮影に参加していたひかるとララが別れの演技をするうちに真情があふれ出し、「ずっと一緒にいたい」と泣き出してしまう場面があまりにも印象的。
トラック32「この胸に星は輝く」はトゥインクル・イマジネーションの曲。ひかるたちが悩んだ末に自分の道を見出す場面によく流れていた。第48話では、戦いを終えたひかるたちがフワを復活させるためにプリキュアの力を注ぐ場面に使用されている。
そして「宇宙に架ける虹」は大団円をイメージしたオープニング主題歌アレンジ。第48話では上記の場面に続くひかるたちの別れの場面にたっぷりと流れて、ラストシーンを飾る曲となった。この曲自体は第20話や第31話にも流れているので、これが初出というわけではない。しかし、第48話ではオープニング主題歌が流れなかったぶん、主題歌のメロディを使ったこの曲が深く印象に残る。秀逸な選曲である。
なお、第47話ではオープニング主題歌をアップテンポにアレンジしたBGMが流れるが、これは『映画 スター☆トゥインクル プリキュア 星のうたに想いをこめて』の音楽の流用。TV版のサントラには収録されていない。
アルバムのボーナストラックには変身BGMのインスト・バージョンのショートサイズを収録した。1人変身用に用意されたバージョンである。
第48話では、復活したプリキュアがへび使い座のプリンセスに向かっていく場面に変身BGMのインストが流れる。変身BGMが変身以外のシーンに流れるのは異例で、この演出は驚きだった。この回は変身シーンにいつものBGMが流れないので、インスト版を戦闘シーンに持ってきたのだろう。これも神がかった選曲というほかない。
以上でサントラ2枚目の紹介は終わり。これで第48話に流れた曲はほぼそろった。しかし、まだ大事な曲が残っている。
第48話のハイライトは、プリキュアに変身する力を失ったひかるたちが、変身BGMの歌をアカペラ(途中からピアノ伴奏入り)で歌って変身するシーン。「歌って変身」の設定が生かされた感動の名場面である。
このアカペラ変身の曲はサントラ盤には収録されていない。しかし、1月22日発売のアルバム「スター☆トゥインクルプリキュア ボーカルベスト」に「スターカラーペンダント!カラーチャージ!(スペシャル・ヴァージョン)」のタイトルで収録されているのだ。第48話で感動にむせび泣いたファンのための、うれしいプレゼントである。
キラやば〜☆な音楽とともに1年間楽しませてくれた『スター☆トゥインクル プリキュア』。放送はあと1回残っている。最終話ではどんなドラマが描かれ、どんな音楽が流れるのか? サントラ盤を手元に置いて、お楽しみいただきたい。
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