COLUMN

第640回 来年もコンテに夢中

 先週は出崎統監督作品について書いたので、もう少し自分の出崎愛を。まず、出崎ファンなら誰しもが思うこと、それは

出崎演出の核はその個性的な絵コンテにある!

ということ。自分はそれに憧れて業界に入ったし、「監督はコンテ」だと今でも思ってます。出崎監督も「俺にとっての現場ってのはコンテだよね」とオーディオコメンタリーではっきり仰ってたし。ぶっちゃけ出崎コンテでなら、誰が監督や演出をやろうとも紛うことなき「出崎フィルム」に仕上がります。好例は『ASTRO BOY 鉄腕アトム』第9話「フランケン」(監督・小中和哉、脚本・村井さだゆき、コンテ・出崎統、演出・吉村文宏/2003年6月1日放映)でしょう。「コンテでここまで支配できるんだ!」と感動したものです。それはもう”監督が出崎さんじゃないだけの出崎アニメ”!
あと出崎監督、「変なコト(変な画作り)をいっぱいやって」とか「変てことはそれだけ観る人の印象に残るんだ」的なことも(たしか劇場『ゴルゴ13』['83]のパイオニアLDC版のDVD、山本又一朗Pとの対談オーディオコメンタリー)お話しされてました。『ブラックジャック FINAL』特典映像でも宇田川純男P×桑原智監督×西田正義監督鼎談でも「(出崎)監督は”次のカットが(観客に)読まれたら自分は飽きられちゃう”と、常に新しい画面を作ろうとしてた」的なお話が出てました。「変なこといっぱい」とか「飽きられない新しい画作り」などと聞くと、教本を読んで勉強して高尚なコンテを切ろうとしてるインテリな方々には「巨匠にしてはやけに単純で俗っぽい言い方するな〜」と映るかもしれません。でも、そもそもアニメはマンガより音楽に似てます。なぜならマンガは見開いた分はすべてのコマが一望できる上、画が流れるスピードは読者に任せっきりで何度でも前のコマを見返せるのに対し、アニメは音楽と同じで「情報が時間とともに次々と入れ替わって消えていく」のみ。画像とメロディーの違いだけで、観る人・聴く人が次にくる画なり音なりの予想ができないことが基本事項。どちらもその時間を楽しむ代物だからです。つまり出崎監督の「変なコトをする」「次のカットを読まれない」などは、フィルムというものの本質的な面白さに極めて近い価値基準と言うべきでしょう。出崎監督はフィルムという文化を頭デッカチに考えず、生理的にとらえる演出を開闢したのだと思います。しょせん映像やコンテ・演出などの教本に書いてあるイマジナリーラインが何ちゃらどーたらなんて、セオリーではあってもルールじゃない。そんなもの一読もせずBOO OFFに売って「こんなの読んだって監督になれない!」ってことに気づくべき。教本なんぞ読んでる時間があったら、自分の好きな小説でもマンガでも自ら監督するつもりでコンテを切ってみたほうが余程勉強になります(これ何年か前にも1度書きましたよね?)。

絵コンテとは、先達らが勝手に解説した映像文法を盾に、他人の描いたモノにケチつけるだけで自分じゃ年間数分しか描かないインテリより、誰が読んでも「面白いもの」をたくさん描いたモン勝ちです(板垣持論)!

 だってプロデューサーが教本や巨匠のインタビュー集片手にコンテ読むと思います? 「このカット繋ぎ正しい!」とか「このアングル不正解!」「この画面分割の意味ある?」なんてジャッジ、お客さん(視聴者)の何割がそんなこと考えながら観るんでしょうか? そこからして、何様だか分からない人が勝手に決めた文法に従ったら、面白いフィルムになるなんて方程式はウソだと分かるでしょう。
 テレコムの先輩の中でも出崎演出について「あんなケレン味ばっかりな云々」「コンテ何が描いてあるか分からん」などと語った方がいました。出崎監督は『リトル・ニモ(パイロットフィルム)』(’87)でテレコムと仕事をしてたため、先輩方にとってはその時の印象が強かったのかと。何せ80年代前半のテレコムを育てたのは宮崎駿監督や高畑勳監督らで、その後の出崎版『ニモ』に参加された先輩方が戸惑うのは当たり前だったのではないでしょうか? しかしそんなことはどーだっていいのです! フィルムの作り方は監督ごとに違うもの。出崎監督のコンテは面白くてカッコいい! それだけで良し!
 少なくとも板垣は、アニメは普通にいろいろ観たけど「フィルムとして面白い!」と感じたのは出崎アニメだけだし、出崎アニメがなかったらアニメ業界にも入らなかったと思います。だから自分も、もちろん出崎監督のようには絶対無理ですが、とにかくコンテ! 1本でも多くコンテを描きたいんです! 最近は嬉しいことに各スポンサーさんやプロデューサーさんらに「板垣さんにはコンテをたくさん描いてほしい」との要望があり、文字どおり「たくさん」描かせていただいてます。『ユリシーズ』も『コップクラフト』も。

ということで、来年もコンテ・監督をやらせていただけそうなので、何卒よろしくお願いします!