COLUMN

第639回 第何次? 出崎ブーム

前々回(第637回)で話題にしたYouTubeの手塚プロダクション公式チャンネルで公開中の出崎統監督作品『おにいさまへ…』の話!

 『おにいさまへ…』は1991〜92年にNHK衛星第2で放送された手塚プロ制作の出崎アニメで、平素出崎ファンを公言して憚らない板垣にとって、おそらく「監督の名前を意識して観た初めての出崎アニメのTVシリーズ」です。俺の場合、『あしたのジョー』(’80年)や『スペースコブラ』(’82年)の頃には物心はついてたものの、監督名を意識した上でのリアルタイム視聴ではないし、『ガンバの冒険』(’75年)や『宝島』(’78)の頃はもちろん幼すぎておそらくリアルタイムでは観てないと思います(たとえ観ていたとしても憶えてない!)。つまり、『ガンバ』から『スペースコブラ』までの作品は、後年『エースをねらえ!2』(’88)や『同・ファイナルステージ』(’89)『B.B』(’90)『修羅之介斬魔剣』(’90)などのOVAで監督・出崎統を認識してから、再放送やビデオ(レンタル)で観たパターン。よって『おにいさまへ…』は自分にとって初めて毎週リアルタイムで楽しんで観た出崎TVシリーズに……なるはずだったんです(涙)! 当時「アニメージュ」誌上に告知が載って即、池田理代子先生の原作を買い、「この耽美な少女マンガを名匠・出崎統監督がどんなアニメにするのか?」と予習までし、放送開始日をマジで指折り数えて待っていた自分の最大の問題点が、そう、

ウチ(実家)が衛星放送を契約していなかったのです!

「どうしても観たい番組があるから」くらいでウチの両親が衛星放送など契約してくれるはずもなく。そこで「衛星放送を契約していて『おにいさまへ…』を録画してくれる知り合い」を探したら、いました近所に。こども会の会長で、俺のマイコンの世話をしてくれたNさん! ウチの親父の友人でもあり、よく遊びに来ていたので、自分のほうから「NHK衛星第2で観たい番組があるんだけど」と。するとNさん「じゃあビデオに録っといてあげるからテープ(VHS)渡しな」と言ってくれました。渡した俺、

 けしてオーバーとかデフォルメではなく、当時の自分にとって、その辺のジ○リアニメより出崎アニメの新作のほうが、泣くほど嬉しかったのです。で録画した第1話は、出崎監督と原作者・池田理代子先生も出演している特番仕様。TV画面で動いて喋る出崎監督にまず感激! 続いて本編を観てあまりの美しさ・カッコよさに感動!

 縦書きのメインタイトルから、クルクル回る奈々子へ! サンジェストに手を引っ張られ全面透過光バックにスローモーションのカメラ回り込みでバスを下車する奈々子、薫の君のバスケシーン、全部が躍動感ある出崎カットで、もう何十回観返したことか! 1シーン1シーンがまるで美しい詩のよう。『エースをねらえ!』のテニスがない版と言うより、自分的には『華星夜曲』(’89・OVA)の若者向けな印象でした。『華星夜曲』は大人の女を、『おにいさまへ…』は学生の女子をそれぞれ描いてます。出崎さんのコンテはいわゆる照れが一切ありません! 思いっきり自らが女になりきって、各キャラの心情の揺れをストレートにカット割りに落とし込んでいったのでしょう。だから、我々世代の映像インテリ気取りたちによる「FIX(カメラが動かない)至上主義」なぞ聞く耳持たなくてもいいのだし、万人に向けて「映像の持つ迫力・美しさ、そして映像の楽しさ・面白さとは何か?」と問いかけるような出崎作品は、誰がなんと言おうとも映像作品(フィルム)の本質というものを追究しているのです(断言)! などとまた出崎作品を語ると熱くなってしまう板垣です。
 ま、とにかく『おにいさまへ…』第1話を擦り切れるほど観た当時17歳の俺は、ビデオテープをNさんにまた渡しました。第2話を録画してもらおうと。

 その後、Nさんの録り忘れが幾度も(涙)。そしてできた歯抜けビデオテープ。

 つまり自分、リアルタイム(本放送)では半分くらいの話数しか観れませんでしたというオチ。しかし、たとえ話数歯抜けとはいえ、こちらのお願いというか単にわがままを聞いてくれたNさんには感謝しかありません。
 そして去年帰省した際、親父より「Nさん、亡くなったよ」と知らされました。小学生だった自分に中古のマイコンを譲ってくれ、さらには『おにいさまへ…』の録画までしてくれたNおじさん、本当にありがとうございました。