COLUMN

第608回 物事の多面性

 現在『コップクラフト』第9話のコンテ作業中。来月中旬には全話分のコンテを終わらせて、作画にも参戦します。そこまでは社内の若手で演出・作画を突っ走ってもらって、自分は総合の打ち合わせとチェックがメイン。月並みな意見ですが、1人では作れません、アニメは。色々な人の手で作られるものです。人の手とは「人の時間」とも言い換えられます。さらに時間とは、ぶっちゃけ人生のこと。人様の人生のある一部を借りて作品を作るのが監督である以上は、各スタッフのテンションのバラつきは覚悟の上。制作中のダメ出しはもちろんあっても、最終的にでき上がったものに対して「会社がいいアニメーターを揃えられなかった云々」は言うべきではありません。なぜならいいアニメーターが揃わないのも「監督にカリスマ性がないから」でしょう。少なくとも俺は最初からそう思ってたし、監督・演出家として渡り歩いたどの会社(スタジオ)においても、「もっと優秀なアニメーターを揃えてきて!」などとは1回も言ったことはありません。それは世間で活躍しているヒットメーカーと自分を比べても仕方ないからです。「この人についていけば、私を幸せなトコへ連れてってくれるハズ」と信用されたカリスマ監督には、自然と人が集まるし、制作さんらもスタッフ集めに苦労はしないでしょう。当たり前な話。だから板垣は、監督の責任であるコンテを上げきったら作画もお手伝いするわけ。自分のカリスマ性皆無が招いた部分はおのれでできるだけ回収しないと!
 実際俺の場合「一作画マン」としても、アチコチ会社をまわったため、

アニメーター側から見た「監督」と「ダメ監督」の違いはハッキリ差をつけて接してました!

 コンテを持って自宅にこもった挙げ句連絡がつかず、何人ものアニメーターにタップと鉛筆を握らせたまま、何週間も待たせる作家気取り監督や、現場に来たら来たで、自らのザルチェックを棚に上げまくってリテイクを山ほど出して帰る監督。ずっと手を動かしてる総作監の後ろに立って話しかけ続け、終いには「飲みにいこう!」とさらに職人の時間を奪っていく(だったら最初から飲み屋でダベるべき)自分ではフランクで親しみやすいと思い込んでる監督とか。
 監督は上り詰めた地位を永遠に維持できて当然だと思ってはいけません。いつどこの現場でも寝首をかかれないように、自宅でのみ発揮される作家的センスより、現場に貢献できる実務を磨くことの方が重要です(断言)! そもそも俺自身は「上り詰めた」とも「地位を維持したい」とも思っていません、あしからず。

監督とはあくまで制作現場で作品の方向性を仕切るという「役職」であり、ある種の作家足りうることの証明でもなんでもありません!

から。よって少なくとも自分がアニメーター側として渡り歩いてきた現場では、前述のようなダメ監督は制作サイドから静かに嫌われていきました(誰にも忠告されずに)。例えば、某スタジオに原画マンとして呼ばれた際、

てことがありました。このデスク氏は、監督のコンテを今か今かと待ち続け、監督の自宅に何度も押しかけては「上がってない」の繰り返し。その監督様のコンテ待ちのおかげで、カッティング(編集)とアフレコを3回も飛ばされたために、役者(声優)さんもバラされ、さらにその間集めていた原画マンにもどんどん逃げられ、この時点でコンテが上がったところで半分以上は海外まきになるのが分かってて……。これ、デスク氏悪いですか? 俺はこのデスク氏の態度は当然だと思います。その後このデスク氏は「あの監督の作品をやらされるならオレ辞める」と会社側に進言。以降その監督はその会社に呼ばれなくなりました。実はこれに似た事例、あちこちでありました。アニメーター側から見て「あ、この監督、次はないな」と。同時期周りにいた俺と同年代のアニメーターに起こった例を挙げると、最初は「○○監督に認められて」と意気揚々付いていくと、制作中にその監督がダメ監督なのが発覚して、その制作が終わるまでとガマンにガマンを重ねつつもデスク・制作Pと「○○監督の次は、君に監督を任せたいから」という流れで監督になった、ということがありました。その際、委員会でそのダメ監督を指名した張本人のプロデューサーですら説教ひとつせず、悲しいかな自然と離れていくのがほとんど。これらの事例は、どっちが正しい悪いとかは関係なく、ただそこにあるのは現場を回す制作側が「お前とはやりたくない!」と言っている大人な現実だけ。自らの恥部をさらしますが、10年近く前に監督降板があった時に、そのことが分かってたので公では何も言い訳しませんでした。そりゃ腹も立ったし、言いたいことはありました。でも「お前とやらない!」と言わせてしまったのが俺であるのは間違いないのです! あ、もちろん周りの知人には思いっきり愚痴りましたよ。その説はご迷惑をおかけしました! また次回、この続きをGW明けで!