COLUMN

第153回 本物か? 偽物か?〜ギャラリーフェイク〜

 腹巻猫です。サントラDJイベント・Soudtrack Pub【Mission#38】2018年劇伴大賞&メモリアルの開催が、いよいよ今週末となりました。3月23日(土)15時〜20時、蒲田studio80にて。昨年発売されたサウンドトラックと、昨年以降に亡くなった映像音楽ゆかりの音楽家を振り返ります。思い出の曲、お気に入りの曲をお持ちください。大好きだった藤田淑子さんの追悼コーナーを設けようと思っています。お時間ありましたら、ぜひおいでください。
http://www.soundtrackpub.com/event/2019/03/20190323.html


 魔夜峰央のマンガを原作にした実写劇場作品「翔んで埼玉」が快進撃を続けている。「テルマエ・ロマエ」の武内英樹監督だけに、奇天烈なことを大真面目にやる面白さが炸裂。劇場を出るとき、つい「埼玉ポーズ」をとってしまいそうになる(埼玉県民じゃないのに)。
 この「翔んで埼玉」の音楽を手がけているのが2人組の音楽プロデューサー・ユニット、Face 2 fAKE。筆者はサウンドトラック・アルバムの解説書のインタビューを担当させていただいた。2人で楽しみながら作ったというケレン味たっぷりの音楽が、埼玉の「伝説」に説得力を持たせている。
 Face 2 fAKEはAchilles DamigosとOh!Beの2人で結成されたユニット。Achillesはギリシャ人の父と日本人の母の間に生まれ、10歳までギリシャで育った。Oh!Beはシャンソン歌手の母と讃美歌作家の父の間に生まれた日本人。2人はそれぞれソロで音楽プロデューサー、作・編曲家として活動していたが、Oh!Beがオーストラリアに住んでいたときに出会って意気投合。ユニットを組んで活動するようになった。「Face 2 fAKE」というユニークなユニット名は「Face to Face」をもじってつけられた。2人のマルチな音楽性を合わせるとフェイクっぽい音楽も作れるという意味が込められているそうだ。EXILE、Kinki Kids、SMAP、BoA、島谷ひとみ、郷ひろみら多彩なアーティストとコラボレーションしているポップス界のヒットメーカーである。
 Face 2 fAKEが映像音楽を手がけるようになったのは武内英樹監督との出会いがきっかけだった。たまたまとあるバーで知り合ったことから、フジテレビのTVドラマ「できちゃった結婚」(2001)の音楽の一部を依頼されて手がけることになる。以降、「ウエディングプランナー SWEETデリバリー」(2002)、「電車男」(2005)、「小早川伸木の恋」(2006)、「ホームレス中学生」(2008)、「全開ガール」(2011)といったTVドラマで武内監督と組んでいる。筆者がFace 2 fAKEの名前を覚えたのも、「電車男」だった。
 だから、「翔んで埼玉」の音楽をFace 2 fAKEが担当したのは、いわば必然。武内監督と長年組んできた2人だからこそのアイデアやセンスが「翔んで埼玉」の音楽に盛り込まれている。
 R&B、ポップス、ジャズ、ロック、ダンスミュージック、クラシックと駆使する音楽スタイルは多彩。「音楽ユニット」でなく「音楽プロデューサー・ユニット」と名乗っているところからも、作・編曲にとどまらない戦略的な音楽づくりをしていることがうかがえる。単に音楽を提供するだけでなく、アーティストをどう見せるのか、映像とどう絡んでいくのか、そんな演出的視点、もしくはメタ音楽的視点で音楽づくりをしているのがFace 2 fAKEなのである。
 そのFace 2 fAKEが音楽を担当したTVアニメが、2005年に放映された『ギャラリーフェイク』だ。

 『ギャラリーフェイク』は細野不二彦のマンガを原作にしたTVアニメ作品。2005年1月から同年9月まで全37話が放送された。アニメーション制作はトムス・エンタテインメントと東京キッズが担当している。
 贋作専門の画廊ギャラリーフェイクのオーナー藤田玲司を主人公に、美術品の売買や鑑定・修復などにまつわる人間ドラマを描く作品。石坂浩二がナレーションを担当しているのがニヤリとさせられる。
 『ギャラリーフェイク』の音楽にFace 2 fAKE。「フェイク」の符合は意図したものだろう。偶然かもしれないが、そう思ったほうが面白い。
 本作でFace 2 fAKEが採用した音楽スタイルはジャズとクラシック。現代的なデジタルサウンドは控えめに、ビッグバンドジャズの曲や70年代クロスオーバー風の曲、しっとりしたピアノ曲、弦主体のクラシカルな曲などが全編を彩っている。美術品と贋作をテーマにしたミステリータッチの作品にぴったりの音楽である。
 サウンドトラック・アルバムは放映終了間際の2005年9月にアニプレックスから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. Theme of Gallery Fake
  2. ラグタイム(歌:勝手にしやがれ)
  3. Bad person
  4. Victoria’s Secret
  5. Cat walk
  6. Magi! Magi!
  7. 思い過ごしの効能(歌:サンタラ)
  8. Mystery Clock
  9. Theme of Sara
  10. Tanz like a Gun
  11. だから、私は歌う(歌:ナチュラル・ハイ)
  12. pray
  13. December rain
  14. the past
  15. the past (piano ver.)
  16. ビューティフルライフ!(歌:OUTLAW)
  17. Theme of Fujita
  18. Chain Reaction
  19. Memories
  20. Autumn leaf
  21. Anything For You(歌:PUSHIM)

 番組で使用された2曲のオープニング主題歌と3曲のエンディング主題歌がすべて収録されている。ファンにはうれしい1枚だ。
 構成はBGMの間にボーカル曲を挿入するスタイル。BGMが3〜4曲続いたあとにボーカル曲が現れて空気が変わる。メリハリの効いた、うまい構成である。
 お気に入りのトラックをいくつか紹介しよう。
 トラック1の「Theme of Gallery Fake」はビッグバンドジャズのスタイルで書かれたテーマ曲。ミュージカルのオープニングのような、ゴージャスな幕開けの曲だ。ここは、華やかなオークションの開幕という雰囲気だろうか。
 トラック3「Bad person」は、海外の刑事ドラマやスパイドラマの音楽を思わせる、緊迫感と高揚感のあるアップテンポのジャズ。本作のミステリーものとしての一面を象徴する曲である。フェイク(贋作)を使ったたくらみが成功するのか? そんなサスペンスに富んだシーンが浮かぶ。この曲は次回予告にも使われていた。
 トラック9の「Theme of Sara」は、藤田のアシスタントを務める少女・サラのテーマ。エキゾティックなメロディラインを持つジャズが、アラブの王族の娘・サラによく似合う。劇中でサラの登場シーンにたびたび流れていた。
 この曲を沈んだトーンにアレンジした曲「Memories」も悲しみや孤独を表現する曲としてよく使われている。
 藤田が絵画の修復に挑む場面などに使われていたのがトラック10「Tanz like a GUN」。爽快感のあるフュージョン風の曲である。「Tanz」とはドイツ語でダンスのこと。軽快なギターのバッキングの上で自在に歌うサックスやフルートのソロが気持ちいい。
 「祈り」と題されたトラック12「pray」は、ピアノ・ソロから始まるリリカルな曲。後半から弦が加わり、情感豊かに展開していく。サラにスポットを当てたエピソード「レディー・サラ(後編)」(第24話)のラストで、すれ違っていたサラと藤田の心がようやく通いあう感動的な場面に使用されていた。
 トラック13「December rain」は全編を通して耳に残る悲哀曲。ハープのイントロに導かれ、弦楽器が切なくもロマンティックなメロディをたっぷりと奏でる。後半に現れる哀感に満ちたヴァイオリン・ソロが胸を打つ。第2話「傷ついた『ひまわり』」でサラの悲しい過去が明かされる場面に流れていた。
 主人公・藤田のテーマであるトラック17「Theme of Fujita」は本アルバムの聴きどころのひとつ。ファンキーなイントロから始まり、ブラスとフルートがスリリングなかけあいを聴かせる。70年代クロスオーバー風のカッコいい曲だ。第1話「贋作画廊の男」で藤田がオークションで勝利する場面など、手に汗握るクライマックスに使用されることが多かった。1曲目の「Theme of Gallery Fake」よりもこちらのほうが本作のメインテーマという印象である。
 BGMパートのラストは、小さなバーの中だけでドラマが展開する第25話「雨やどり」やメトロポリタン美術館を舞台にした最終話「メトロポリタンの一夜」でくり返し流れたピアノと弦合奏の曲「Autumn Leaf」。繊細で、ちょっとメランコリックで美しい。美術館や画廊で静かに絵を眺めている気分にぴったりの曲だ。派手でケレン味たっぷりの1曲目「Theme of Gallery Fak」と対をなすような、穏やかな終幕の曲である。

 『ギャラリーフェイク』の音楽は、ちょっと古いスタイルの人間臭い音楽である。ジャズを貴重にした曲調は60〜70年代の映画音楽を思わせる。アクションよりもドラマをじっくり見せる本作には、こういうスタイルがはまっている。良質の映画音楽アルバムを聴くような充実した1枚だ。
 しかし、気になることがある。
 ところどころにミュージカルやジャズの名曲、ミシェル・ルグランやニーノ・ロータ、ヘンリー・マンシーニといった海外の映画音楽作曲家の名曲を思わせるフレーズやリズムが顔を出すのだ。これはオマージュなのか、お遊びなのか。それとも、巧妙にしくまれたフェイクなのか……?
 いや、そんなことを考えること自体、すでにFace 2 fAKEの術中にはまっているのだろう。

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