COLUMN

第152回 サントラ一本勝負 〜YAWARA!〜

 腹巻猫です。3月23日(土)にサントラDJイベント・Soundtrack Pub【Mission#38】を蒲田・Studio80にて開催します。特集は「2018年劇伴大賞」。大賞といっても得票数でベストを決めるなんて野暮なことはせず、サントラファンの琴線に触れた曲を流しながら、2018年の映像音楽(サントラ)シーンをふり返ります。推薦したい曲、思い出の曲があればお持ちください。リクエストもどうぞ。詳細は下記を参照ください。
http://www.soundtrackpub.com/event/2019/03/20190323.html


 今回は1989年にスタートしたTVアニメ『YAWARA! a fashionable judo girl!』を取り上げる。
 原作は浦沢直樹が1986年から1993年まで「ビッグコミックスピリッツ」に連載したマンガ作品。祖父から柔道の英才教育を受けた女子高生・猪熊柔が柔道界にデビューして勝ち進み、バルセロナオリンピックをめざす物語だ。
 TVアニメは1989年10月から1992年9月まで全124話が放送された。ほかに劇場版が1992年に公開、TVシリーズ終了後の1996年にTVアニメスペシャルが放映されている。めっぽう強いのに愛らしい主人公・柔に人気が集まった。「柔ちゃん」のニックネームを生んだヒット作である。アニメ版に先立って公開された浅香唯主演の実写劇場版(1989年4月公開)を記憶している人も多いだろう。
 TVアニメ『YAWARA!』の音楽を手がけたのはピカソの森英治。ピカソはTVアニメ『めぞん一刻』の主題歌「シ・ネ・マ」などで注目された3人組のバンドで、森はキーボーディスト、作・編曲家として活躍していた。アニメ音楽では、ほかに『めぞん一刻 完結編』(1988)、『空中ブランコ』(2009)などを担当。ちなみに作詞家・森雪之丞は森英治の実兄である。
 『YAWARA!』は柔道を題材にした作品だが、ちょっとユーモラスな青春ものとしての側面が強い。音楽も、スポ根的な熱血系の曲や力強い曲はどちらかというと脇役で、さわやかな曲やしゃれたポップス風の曲、しっとりした曲が主役になっている。都会的なポップスを発表していたピカソのカラーが強く出た印象だ。

 サウンドトラック・アルバムはキティレコードから3タイトルが発売された。一見するとサウンドトラックであると気づかない、独特のアルバム名がつけられている。
 1枚目は1990年9月に発売された「YAWARA! 恋の一本勝負 オリジナル・サウンドトラック」。「YAWARA! 恋の一本勝負」という作品のサントラ盤のようだが、TVシリーズのBGMを中心としたサウンドトラック・アルバムである。
 2枚目は1991年4月に発売された「YAWARA! 名場面サウンドセレクション!!」。名場面を彩ったBGMを収録したアルバムだ。解説書には各曲の使用場面が紹介されている。
 3タイトル目が1992年9月に発売された「YAWARA! MEMORIES」。ボーカル集とBGM集の2枚組。BGMはTVシリーズ後期の音楽を森英治と共同で担当したAXISSの曲が中心になっている。
 この他にソングアルバム「YAWARA! SONGS!!」「YAWARA! COVERS!!」と劇場版『YAWARA! a fashionable judo girl! それゆけ腰ぬけキッズ!!』のサウンドトラック盤が発売されていた。

 1枚目の「YAWARA! 恋の一本勝負 オリジナル・サウンドトラック」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. Introduction
  2. ミラクル・ガール (Opening Theme)(歌:永井真理子)
  3. Jingle(Half Size)
  4. MC 猪熊滋悟郎/永井一郎
  5. 《BGM希望編》
  6. さやかの決意
  7. 柔の決断
  8. 優しい少女
  9. 猪熊家のだんらん
  10. 希望
  11. MC 松田耕作/関俊彦
  12. GLORIA(歌:関俊彦)
  13. 《BGM戦い編》
  14. 決勝進出
  15. さやかの猛特訓
  16. 対決・対戦・敵意
  17. 挑戦デビューさっそうと
  18. Eye Catch
  19. MC 本阿弥さやか&風祭進之助/鷹森淑乃&神谷明
  20. 《BGMくつろぎ編》
  21. 憧れ
  22. 清らかな人
  23. なんとなく
  24. 理解
  25. 夢、そして感動
  26. MC 猪熊 柔&滋悟郎/皆口裕子&永井一郎
  27. 夢がはじまる時(歌:皆口裕子)
  28. 《BGM刹那編》
  29. もの憂げに…
  30. 回想
  31. 少女の迷い
  32. ひとり海を見て
  33. もの想い
  34. Jingle(Full Size)
  35. MC 猪熊 柔(皆口裕子)
  36. スタンド・バイ・ミー (Ending Theme)(歌:姫乃樹リカ)

 音楽+セリフ(MC)+ボーカル曲で構成した充実の内容だ。
 BGMを「希望編」「戦い編」「くつろぎ編」「刹那編」の4つのブロックにまとめて収録。各ブロックの前後にジングル、アイキャッチ等の短い曲、ボーカル曲、MC(セリフ)を収録して大きな流れを作っている。
 ブックレットはオープニング&エンディングのカットと劇中の名場面を掲載したフルカラー豪華版。帯では名場面集を「写真集」と表記しているのが面白い。
 単なるサウンドトラック・アルバムでない。かといって、子ども向けの「歌とおはなし」とも違う。「CDでアニメの世界を楽しみたい」というファンの気持ちに応えた、秀逸な構成とパッケージだ。
 1曲目の「Introduction」はオルゴール風の音色が奏でる「ミラクル・ガール」のスローテンポアレンジ。『YAWARA!』の世界へのおだやかな導入である。
 すぐに続いて、軽快なイントロの「ミラクル・ガール」が流れ始めるのが最高に気持ちいい。永井真理子がはつらつと歌う初代主題歌である。1989年から1990年にかけてのヒットソングとしても思い出に残る曲だ。
 サブタイトルやエンディングに使われた短い曲「Jingle」のあとに猪熊滋悟郎のセリフ(MC)がインサートされる。短いセリフだが、永井一郎の名調子が楽しい。
 「BGM希望編」は明るくさわやかな曲が集められたブロック。
 トランペットが軽快なメロディを奏でる「さやかの決意」。フルートとサックスが軽やかな「柔の決断」。クラリネットが飄々と歌う「猪熊家のだんらん」。躍動感のある「希望」。主要人物が次々現れる導入編といった趣だ。
 トラック10は柔の才能をいち早く見抜いたスポーツ記者・松田のセリフ。試合に向かう柔に向けた応援の言葉になっている。松田(関俊彦)が歌う軽快なロック調のボーカル曲「GLORIA」が続く。
 次の「BGM戦い編」は、柔道界での柔の活躍を描くブロックだ。
 緊張感ただよう「決勝進出」。畳みかけるようなスピード感のある曲調で聴かせる「さやかの猛特訓」。焦燥感をあおる重厚な曲「対決・対戦・敵意」。勝利を予感させるヒロイックな「挑戦デビューさっそうと」。いかにも「スポーツアニメ」という雰囲気の曲が集まっていて、アルバムの中でも盛り上がるところである。
 トラック16「Eye Catch」で一息ついたあと、柔のライバル・本阿弥さやかとそのコーチ・風祭のセリフが挿入される。バックはピアノ、ギター、シンセなどによるしゃれた雰囲気の曲。二枚目半の風祭と勝気なさやかとのかけあいが『うる星やつら』を思わせてニヤリとさせられる。
 続く「BGMくつろぎ編」はあこがれや感動など、華やぐ心情を表す曲を集めたブロック。
 80年代らしいキラキラ感、フワフワ感のあるシンセの音がたっぷりフィーチャーされている。ポップでしゃれたサウンドは、大人向けの青春ドラマに流れてもおかしくない。このあたりが「YAWARA!」の音楽が他のスポーツアニメと一線を画すところだ。
 柔(皆口裕子)が歌う挿入歌「夢がはじまる時」は柔の心情を描いたアイドルポップ風の曲。歌詞の中で柔道のことはまったく触れられず、柔の恋する気持ちだけが歌われているのが本作らしい。
 「BGM刹那編」は柔のゆれる気持ちや迷いを描いたブロック。ピアノソロによる「もの憂げに…」やアコースティックギターとストリングスによる「回想」、もの思う柔の場面によく流れたヴァイオリンとピアノの曲「少女の迷い」など、森英治の持ち味が生かされた端正で美しい曲が堪能できる。じっくりと落ち着いて聴きたい、本アルバムのクライマックスである。
 最後のMC(セリフ)は柔のモノローグ。3分近いリリカルな曲をバックに、柔道で勝ち進むよりもふつうの女の子としての日常を願う柔の気持ちが語られる。まるでアイドルのアルバムみたいに。

 いや、まるで、ではないのだ。
 アルバムを最後まで聴いて気がつく。本アルバムは、柔をアイドルに見立てた、「YAWARA! 恋の一本勝負」というイメージアルバムなのである。ブックレットに掲載されたアニメの名場面集が「写真集」と表記されているのも、アイドルのアルバムと考えればおかしくない。
 キャラソンをメインにしたキャラクターアルバムというのはあるが、サントラでキャラクターアルバムを作ってしまったのが、本作のユニークなところである。『うる星やつら』『みゆき』『めぞん一刻』といったアニメ作品の音楽制作に関わってきたキティレコードの経験とノウハウが結実した1枚と言えるだろう。
 本アルバム以外の『YAWARA!』のアルバムも、同様のコンセプトで作られている。サントラにはこんな聴かせ方もあるのだ。新時代の到来を感じさせる意欲的なアルバムである。

YAWARA! 恋の一本勝負 オリジナル・サウンドトラック
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YAWARA! MEMORIES
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