COLUMN

第151回 危険な街のブルース 〜CITY HUNTER〜

 腹巻猫です。『劇場版 CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES』を観ました。旧作の復活というと現代的なリブート版が多い中、当時のままのテイストで作られていることに驚きつつ満足。音楽は『CITY HUNTER』のスピンオフとも呼べる『Angel Heart』の音楽を手がけた岩崎琢が担当していますが、オリジナル版の音楽も多数使われているのがうれしい。声優陣もオリジナルキャストが集結。個人的にはエンディングクレジットの「In Memory of 藤田淑子」に泣きました。


 『劇場版 CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES』の公開を記念して、オリジナルのTVアニメ『CITY HUNTER』のサウンドトラック・アルバム5タイトルがリマスターされて2月27日に再リリースされる。
 今回はTVアニメ『CITY HUNTER』のサントラ盤の話。

 『CITY HUNTER』は、新宿を拠点に活動するプロのスイーパー(殺し屋)・冴羽リョウ(けものへんに尞)の活躍を描くアクション作品。『CAT’S・EYE』で知られる北条司の原作マンガをサンライズがアニメ化した。TVアニメは1987年4月から放映開始し、『CITY HUNTER2』(1988)、『CITY HUNTER3』(1989)、『CITY HUNTER’91』とタイトル、放映時間を変えながら、1990年1月まで放映された(途中、中断あり)。TVシリーズ終了後もTVスペシャルが制作・放映されている人気作品である。
 今回再リリースされるのはTVシリーズのサントラ5タイトル。発売はいずれもソニー・ミュージックエンタテインメントだ(発売当時のレーベルはEPIC・ソニー)。

「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」
「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」
「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.1」
「CITY HUNTER 2 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック Vol.2」
「CITY HUNTER 3 オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」

 『CITY HUNTER』のサントラの再リリースはなんと放映当時以来約30年ぶり。2005年に「City Hunter Sound Collection」と題した2枚組ベストアルバムが3タイトル、アニプレックスとソニーミュージック・ダイレクトから発売されたが、オリジナル盤のリイシューはなかったのだ。
 『CITY HUNTER』のサウンドトラック・アルバム、実は発売当時はそれほど注目していなかった。サントラファンとしてはちょっと食指が動かない……というか、とまどう内容だったからだ。
 というのも、このアルバム、「サウンドトラック」とタイトルがついているにもかかわらず、収録内容の大半がボーカル曲なのである。
 筆者のような古いサントラファンには、サウンドトラック=劇中で流れたインスト曲(BGM)という刷り込みがある。
 しかし、80年代半ばから、「サウンドトラック・アルバム」の定義は拡大した。劇中で使用されたボーカル曲(多くは有名アーティストの曲)を集めたコンピレーション・アルバムも「サウンドトラック・アルバム」と呼ばれるようになったのだ。いわゆる「音楽映画」のジャンルに入らない作品——「ゴーストバスターズ」(1984)、「ビバリーヒルズ・コップ」(1985)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)、「グーニーズ」(1985)、「トップガン」(1986)——などのサウンドトラック・アルバムが、そういう作り方でヒットした。
 1980〜90年代に青春時代を送った映画ファン・音楽ファンの中には、「サウンドトラック・アルバム」=「ボーカル・アルバム」という印象を持っている人が多いのではないか。実際、「サントラなのにインスト曲ばかりでボーカル曲が入ってない」という意見を目にしたことがある。
 実際のところ、サウンドトラックの本来の意味(映像フィルムに記録された音声トラックのこと)を考えれば、サントラ=インストと限定する理由はない。ボーカル曲も、作中で流れる曲である以上はサントラに含まれてしかるべきだ。
 80年代後半は、サウンドトラック・アルバムがポップス・アルバムのように聴かれる時代の始まりだった。高揚感のある曲やおしゃれな曲を集めたサントラ(=ボーカル)・アルバムが人気になり、ヒットした。『CITY HUNTER』のサウンドトラックは、そんな流行のスタイルをいち早く取り入れたアルバムだったのである。
 発売元のEPIC・ソニーは、小比類巻かほる、TM NETWORKなど、J-POPシーンで活躍するアーティストをたくさん擁していたレーベル。多彩なアーティストが『CITY HUNTER』のサウンドトラック・アルバムに参加した。結果、アニメサントラのイメージを覆す、ぜいたくなアルバムが作られることになった。

 さて、『CITY HUNTER』の音楽といえば、矢野立美である。東映スーパー戦隊シリーズやウルトラマンシリーズ、SFロボットアニメなどのダイナミックかつシャープな音楽でファンを魅了する作曲家だ。『CITY HUNTER』では、独特のキラキラサウンドをまぶしたスタイリッシュな音楽を提供して本編を鮮やかに盛り上げている。
 が、今回は、矢野立美が参加していない1枚目のアルバム「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」を取り上げたい(矢野立美LOVEのみなさん、お許しを)。
 収録曲は以下のとおり。

  1. CITY HUNTER〜愛よ消えないで〜(歌:小比類巻かほる)
  2. COOL CITY(歌:The City Crackers)
  3. MR.PRIVATE EYE(歌:大滝裕子)
  4. MIDNIGHT LIGHTING(Instrumental)
  5. BLUE AIR MESSAGE(歌:大内義昭)
  6. Get Wild(歌:TM NETWORK)
  7. THE BALLAD OF SILVER BULLET(Instrumental)
  8. WHAT’S GOIN’ON(歌:小比類巻かほる)
  9. BLOOD ON THE MOON(Instrumental)
  10. GIVE ME YOUR LOVE TONIGHT(歌:鈴木聖美)

 全10曲のうち、7曲がボーカル曲。インストが3曲。大滝裕子、大内義昭、鈴木聖美、いずれもEPIC・ソニーで活躍していたボーカリストである。
 ボーカル曲が7〜8割を占める構成は、以降の『CITY HUNTER』のサウンドトラック・アルバムでも踏襲されている。ただし、ビクターと東芝EMIから発売された劇場版とTVスペシャルのサントラはインスト曲中心の一般的なサウンドトラック・アルバムのスタイル。それだけに、EPIC・ソニーのアルバム作りのユニークさが際立つ。
 小比類巻かほるが歌うオープニングテーマ「CITY HUNTER〜愛よ消えないで〜」とTM NETWORKが歌うエンディングテーマ「GET WILD」は、いずれも大ヒットを記録した。番組とアーティストの人気の相乗効果でヒットをねらうタイアップ路線を推し進め、決定づけた楽曲として印象深い。
 正直に言うと、筆者は、この2曲がそんなに好きではなかった。タイアップのヒット曲という印象が強く、当時は「安易にアーティストの曲を持ってきて〜」みたいに思っていたのだ。
 ところが最近、小比類巻かほるがTV番組で本作の思い出話をしているのを観て、印象を改めた。小比類巻かほるは、原作者の北条司とも打ち合わせをし、『CITY HUNTER』の世界観の中の女性の気持ちを大事にして歌ったという。また、ヒロイン・香役での出演もオファーされたものの、「声優なんて無理……」と辞退したそうだ。安易に持ってきた曲じゃなかったのだ。ファンのみなさん、ごめんなさい。ちなみに小比類巻かほるがアニメの歌を歌うのは、OVA『GALL FORCE』のエンディングテーマ「両手いっぱいのジョニー」に続いて2曲目だった。
 「Get Wild」も番組を観ていたファンには忘れがたい楽曲だ。本編のラストからイントロが流れ始め、そのままエンディングに突入する使い方が鮮烈である。これも、物語の終わりからフェードインさせたいからと、わざわざイントロを長く手直ししたのだという。物語の余韻にひたる気持ちをさらに高揚させるように疾走感のあるイントロが聴こえてくる演出は、ぞくぞくするほどカッコいい。スタッフはこの演出を「火曜サスペンス劇場」にならって「マドンナたちのララバイ方式」と呼んでいたそうだ。よみうりテレビのプロデューサー・諏訪道彦は、当時のアニメ雑誌のコメントで、この方法は「テレビシリーズとしては初めて」と語っている。TM NETWORKは本作以前にOVA『吸血鬼ハンター“D”』(1985)の主題歌を歌っていて、小比類巻かほる同様、アニメの歌は2曲目だった。

 劇中音楽の話に戻ろう。
 『CITY HUNTER』の音楽は、初期は国吉良一が担当している。矢野立美の名前がクレジットされるのは第7話から。第26話までは国吉良一と矢野立美が連名でクレジットされ、第27話から矢野立美の単独クレジットになる。『CITY HUNTER』の初期エピソードの雰囲気を固めたのが国吉良一のサウンドだったのだ。
 国吉良一は山口県出身。青山学院大学在学中よりプロのキーボーディストとして活動を始めた。数々のバンドやセッション、レコーディングに参加したのち、1975年からソロ活動を開始。作曲家、アレンジャー、キーボーディストとしても活躍の場を広げた。1980年にデイビッド・マシューズの助言を得てフロリダ州マイアミ大学音楽科に入学。帰国後、オリジナルアルバム「Asia Dream」をリリースするとともに、映像音楽の分野にも進出した。映像音楽の代表作に、劇場作品「幕末純情伝」(1991)、「鉄道員(ぽっぽや)」(1999)、「ホタル」(2001)などがある。アニメでは、眉村卓原作、真崎守監督の劇場アニメ『時空(とき)の旅人』(1986)の音楽を担当している。
 「CITY HUNTER オリジナル・アニメーション・サウンドトラック」の収録曲のうち、国吉良一は6曲を作・編曲、1曲を編曲している。残る3曲はオープニング&エンディングテーマと小比類巻かほるの主題歌シングルのB面曲「WHAT’S GOIN’ON」だ。国吉サウンドの色濃いアルバムなのである。
 トラック2「COOL CITY」はコーラスが「COOL CITY」とくり返すソウル風のナンバー。第1話でリョウが歌舞伎町の店で依頼人・菜摘と会う場面で使用されている。ちょっと退廃の香りがただようような新宿のテーマだ。作詞も国吉良一が担当。
 トラック3、大滝裕子が歌う「MR.PRIVATE EYE」は、リンダ・ヘンリックの作詞、国吉良一の作・編曲による軽快なポップス風の挿入歌。リョウが孤独な少女・道子のために依頼を引き受ける第7話などで使われた。
 「PRIVATE EYE」とは私立探偵のこと。助けを求める依頼人が冴羽リョウに呼びかけるイメージの歌詞になっている。この曲は『劇場版 CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES』にも挿入されていて、『CITY HUNTER』の世界を象徴する曲のひとつと言ってよいだろう。
 同じくリンダ・ヘンリック作詞、国吉良一作・編曲のトラック10「GIVE ME YOUR LOVE TONIGHT」は第1話でリョウが菜摘の部屋に泊まろうとする場面や第2話のワクチン開発シーンに流れていたボーカル曲。ミディアムテンポの、これもソウルっぽい大人びたナンバーだ。
 トラック4「MIDNIGHT LIGHTNING」は淡々としたシンセのリズムの上でシンプルなフレーズがくり返されるインスト曲。夜の新宿の闇を映し出すような、軽いサスペンスタッチの曲だ。
 トラック7「THE BALLAD OF SILVER BULLET」はシンセのリズムとPAD音にサックスのメランコリックな演奏が重なるバラード調のインスト曲。バラードといっても情感を抑えたストイックな曲調になっている。
 トラック9「BLOOD ON THE MOON」はシンセのベース音をバックにトランペットがジャジーな演奏を聴かせるブルース・スタイルのインスト曲。軽快な曲調ながら、明るくはじけるわけではなく、トランペットやピアノのアドリブが渋く展開される。聴きごたえのある1曲である。
 あらためて聴いても、アニメのサントラらしくないアルバムだ。
 国吉良一のインスト曲は、感情移入を拒む抽象画のようなトーンで書かれていて、2枚目のアルバムから登場する矢野立美のメロディアスな楽曲とは対照的である。

 『CITY HUNTER』のサントラ・アルバムで国吉良一の音楽が中心になっているのは1枚目だけだ。2枚目以降は矢野立美の音楽がメインになる。本編でも、第7話以降、矢野立美の楽曲の使用頻度が高くなっていく。
 けれど、国吉良一の音楽が『CITY HUNTER』の世界に合わなかった、と考えるのは違うと思う。その証拠に、『劇場版 CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES』では、国吉良一の楽曲が3曲も使われているのだ。
 国吉良一の音楽からは、大人のムードがただよう。サスペンスを内包した淡々とした曲や感情を抑えたバラード曲は、危険な街「新宿」の負の面を表現しているように感じられる。ニューヨークの闇を描いたマーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」のバーナード・ハーマンのスコアに通じるような音楽だ(音楽スタイルは違うけれど)。『CITY HUNTER』のスタッフが最初に求めたのは、そのような緊張感に満ちた音楽だったのではないだろうか。
 冴羽リョウが活躍する80年代末の新宿。その大都会のカオス、闇をすくいとっていたのが国吉良一の音楽だと思うのだ。今にもバランスを崩しそうな、不安定な世界を表現した音楽。『CITY HUNTER』の世界が立ち上がるために、国吉良一の音楽は欠かせないものだったのである。
 今回のリマスター再リリース5枚の中では唯一、矢野立美が参加していなくて、サウンドの印象が違う1枚目のアルバム。しかし、『CITY HUNTER』の原点に触れる意味でも、また、80年代後半に現れたサントラ・アルバムの新潮流を知る意味でも、ぜひ聴いてもらいたい1枚なのである。

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