腹巻猫です。前回お知らせした『超合体魔術ロボ ギンガイザー』に続いて、同じく日本アニメーション制作のロボットアニメ『ブロッカー軍団IV マシーンブラスター』のオリジナル・サウンドトラックが3月7日に発売されます。音楽は主題歌・小林亜星×劇中音楽・筒井広志の黄金コンビ。同時期(1976〜1977年)に2人が手がけた『超電磁ロボ コン・バトラーV』『超電磁マシーン ボルテスV』と比べても勝るとも劣らぬ音楽が聴ける充実作です。主題歌のオリジナル・カラオケも初収録! ぜひ、お聴きください。
ブロッカー軍団IV マシーンブラスター オリジナル・サウンドトラック http://www.amazon.co.jp/dp/B079T4JJR5/
ナムコが運営する秋葉原の次世代キャラクターカフェ「アニON STATION」にて、サンライズとのコラボイベント「サンライズミュージックバー」が2月16日から3月25日まで開催中だ。サンライズ作品の音楽が流れる店内で作品をイメージしたコラボドリンクを飲みながらCDやレコードのジャケットイラストの展示が楽しめる企画。リクエストタイムもある。
サンライズミュージックバー in アニON 秋葉原 http://www.namco.co.jp/cafe_and_bar/anionstation/special/sunrise/
サンライズミュージックバーでは開催期間を3週に分けて、それぞれ異なる作品をフィーチャーしている。WEEK1は80年代名作、WEEK2は勇者シリーズ、WEEK3は『鎧伝サムライトルーパー』や『魔神英雄伝ワタル』シリーズ、エルドランシリーズなどが中心という具合。 WEEK1では『伝説巨神イデオン』『太陽の牙ダグラム』『クラッシャージョウ』『銀河漂流バイファム』『装甲騎兵ボトムズ』などがラインナップされている。各作品の音楽を担当した作曲家は、すぎやまこういち、冬木透、前田憲男らのベテラン勢と乾裕樹、渡辺俊幸ら新鋭が並ぶ、いかにも80年代らしい顔ぶれ。その中で異彩を放っているのが『巨神ゴーグ』の音楽を担当した萩田光雄である。 今回は、その『巨神ゴーグ』の音楽を紹介したい。
『巨神ゴーグ』は1984年4月から同年9月まで全26話が放送されたサンライズ制作のTVアニメ作品。安彦良和が原作・監督・キャラクターデザイン・レイアウト・作画監督を手がけたオリジナル作品である。 父が遺した手紙に導かれて地図から消された南海の島オウストラルを訪れた少年・田神悠宇が、謎の巨大ロボット・ゴーグと出逢い、島に眠る異星文明の遺跡をめぐる争いに巻き込まれていく物語。もの言わぬロボット・ゴーグと悠宇の間に友情にも似た関係が築かれていく展開が見どころだ。 音楽を手がけた萩田光雄は70〜80年代の歌謡曲・J-POPを支えたアレンジャーである。慶応義塾大学工学部を卒業したのち、一大決心をしてヤマハの作編曲教室に入門。半年ほど作編曲を学んだあと、ヤマハ音楽振興会に勤務。スタジオエンジニア、教材制作、音楽誌用原稿作りなどの経験を経て、アレンジャーとして活躍を始めた。1975年の「シクラメンのかほり」(布施明)と1976年の「メランコリー」(梓みちよ)でレコード大賞編曲賞を2年連続受賞。編曲を手がけた代表作に、太田裕美「雨だれ」「木綿のハンカチーフ」、山口百恵「横須賀ストーリー」「プレイバックpart2」「秋桜」、岩崎宏美「二重唱」、久保田早紀「異邦人」、あみん「待つわ」、中森明菜「少女A」「飾りじゃないのよ涙は」、原田知世「天国に一番近い島」、小林明子「恋に落ちて」などがある。曲名を見ればアレンジとともに歌声が甦るという人も多いのではないか。TVドラマ「スケバン刑事」シリーズのファンだった筆者は、南野陽子が歌った「さよならのめまい」「風のマドリガル」「楽園のDoor」などが思い出深い。 アニメソングでも「想い出がいっぱい」(『みゆき』1983、主題歌)、「風の谷のナウシカ(劇場『風の谷のナウシカ』1984、イメージソング)、「少年ケニヤ」(劇場『少年ケニヤ』1984、主題歌)、「カムイの剣」(劇場『カムイの剣』1985、主題歌)、「Step by Step」(『魔神英雄伝ワタル2』1990、主題歌)などのアレンジを担当するほか、『まんが偉人物語』(1977)では後期主題歌「これでいいのか」「誰かが前を」の作曲を手がけている。 『巨神ゴーグ』が放映された1984年当時、萩田はすでに歌謡界の名アレンジャーとして知られていた。いっぽうで、映像音楽作品は実写劇場作品「化石の荒野」(1982)、「みゆき」(1983/奥慶一と共同)、『綿の国星』(1984/音楽監督として参加)などがあったくらい。TVシリーズのアニメの音楽は『巨神ゴーグ』が初めてだった。 80年代は、歌謡界で活躍する作家がアニメ音楽に進出し始めた時代である。『六神合体ゴッドマーズ』(1981)の若草恵、『ナイン』(1983)の芹澤廣明、『アタッカーYOU!』(1984)の鷺巣詩郎、『忍者戦士飛影』(1985)の川村栄二らだ。その中でも、萩田の起用はちょっとした事件だったのではないかと思う。 楽曲を引き立てる変幻自在のアレンジで“奇才”とも呼ばれた萩田光雄。冒険SFものである本作の音楽には、パンチの効いた曲やジャズタッチの曲、はたまた、シンフォニックな曲などが合いそうな気がするが、萩田は、この時期のJ-POPアレンジでよく用いていた、生楽器とシンセサイザーを組み合わせたサウンドをメインにアプローチしている。 本作のサウンドトラック・アルバムは番組放映中の1984年4月に「音楽篇」Vol.1が、6月に同Vol.2がビクター音楽産業からLPレコードとして発売された。1986年には、2枚から選んだハイライト楽曲に未発表曲3曲を追加したベスト盤CD「巨神ゴーグ スーパーコレクション」が発売されている。その後、1994年に2枚が単体で初CD化され、1999年には「ビクター・アニメ『殿堂ツイン』シリーズ」の1タイトルとして2枚組にまとめたCDアルバムが発売された。惜しいことに「スーパーコレクション」に収録された未発表曲は「殿堂ツイン」版には収録されていない。 今回は「音楽篇」Vol.1から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。
- 輝く瞳〈BRIGHT EYES〉(歌:TAKU)
- オウストラル島の謎
- 紐育(ニューヨーク)
- GAILのテーマ
- ミステリーゾーン
- 大平原
- BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU〈君を信じてる〉(インストゥルメンタル)
- BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU〈君を信じてる〉(歌:STEAVE)
- 冒険への旅立ち
- 青息吐息
- エスケイプ
- 絶体絶命
- 対峙
- 前進
- 陰謀策略
レコードでは7曲目までがA面、8曲目以降がB面になる。 主題歌2曲は鈴木キサブローが作曲。作詞は康珍化が担当している。オープニングは番組タイトル「ゴーグ」を織り込んだ躍動感あふれる曲、エンディングは友情を歌った胸に沁みるバラードだ。バンドサウンドにシンセを加えた萩田光雄のアレンジも冴えて、80年代ポップス感あふれる名曲に仕上がっている。この時期のサンライズロボットアニメの主題歌は、『聖戦士ダンバイン』(1983)、『銀河漂流バイファム』(1983)、『装甲騎兵ボトムズ』(1983)、『重戦機エルガイム』(1984)、『機甲界ガリアン』(1984)と工夫を凝らした新しいサウンドが次々登場してワクワクしたことを思い出す。 「音楽篇」Vol.1は放送が始まって間もない時期の発売なので、物語の序盤をイメージした構成になっている。 主題歌に続く2曲目「オウストラル島の謎」は謎を秘めたオウストラル島のテーマ。リュート風の音色が奏でるエキゾティックな旋律とバックに流れる儚いシンセの音が印象的だ。エキゾティックといえばシルクロードをテーマにした久保田早紀のヒット曲「異邦人」のアレンジを思い出すが、本作への萩田の起用もそのイメージがあったのかもしれない(想像です)。 3曲目「紐育(ニューヨーク)」は1人でニューヨークにやってきた悠宇が大都会の光景に目を瞠る第1話のシーンに流れる。ビッグバンド+弦楽器の編成で奏でる華やかなショー音楽風の曲だ。中盤はニューヨークのダウンタウンを描写するジャズタッチの曲。さらに軽快なリズムにシンセとブラスのメロディが絡むアクティブな曲へと展開する。萩田の職人的なアレンジのうまさが生かされたトラックである。 4曲目はオウストラル島に隠された秘密を手に入れようと暗躍する多国籍企業GAILのテーマ。レナード・バーンスタイン的なサウンドで奏でられる「陰謀渦巻く!」という雰囲気の曲だ。 情景描写的な「ミステリーゾーン」「大平原」に続いてエンディング主題歌「BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU〈君を信じてる〉」のしっとりしたインストゥルメンタル・アレンジが登場。このインスト版は最終話の悠宇とゴーグの別れの場面に流れている。使用回数は少ないながら本作のファンには印象深いナンバーである。 LPレコードB面はエンディング主題歌の歌入りからスタート。A面とは雰囲気が変わり、「さあ、冒険の始まり!」という流れの構成になる。 次の9曲目「冒険への旅立ち」は悠宇たちの旅立ちを高揚感たっぷりに表現する曲。第3話で悠宇たちがいよいよオウストラル島に渡ろうと中継地のサモア島を訪れる場面に流れている。ポップスオーケストラ・スタイルの希望に満ちた曲だ。 次の曲からは、「青息吐息」「エスエイプ」「絶体絶命」「対峙」など不安や緊迫感を描写する曲が続く。GAILやギャング団に狙われてトラブル続きの悠宇たちの旅を彩る楽曲群である。 14曲目の「前進」は弦をメインにしたサスペンスタッチのアクション曲。ミステリアスな15曲目「陰謀策略」でアルバムが終わるのは、Vol.2へのつながりを意識しての構成だろう。このトラックの最後に出てくる淡々としたシンセのメロディは第3話で悠宇とゴーグが初めて出会う場面に流れていた。Vol.2に収録された「異星人との出会い」と共通するモチーフの曲だ。ようやくゴーグ登場! というところで終わるので、ちょっとフラストレーションが残る。 せっかくなので「音楽篇」Vol.2にも触れておこう。 Vol.2は、ゴーグや異星人をめぐる悠宇たちの冒険をバラエティに富んだ曲で描く構成になっている。 第7話の悠宇とドリスの語らいの場面や第21話の二人の再会の場面に流れた「悠宇とドリス」、第17話で異星人マノンが地球に来たときの記憶を語る場面の「やすらぎのテーマ」、第22話、24話などで悠宇がずるい大人にやりきれない怒りをぶつける場面の「悲しみのテーマ」、第13話のレイディとロッドの回想シーンに流れる「レイディのテーマ」など、メロディアスな曲が多く収録されている。本作のSFアクションものとしての一面を代表する「神々の怒り」「好戦」「ゴーグの怒り」、最終話のラストシーンを飾った「エンディング・テーマ」も聴きどころだ。最後にサブタイトル曲やブリッジ曲を集めたトラックが収録されているのもファンにはうれしいところ。Vol.1と対をなすアルバムなので、ぜひ2枚合わせて聴いていただきたい。
本作の音楽は、全体的に主張しすぎない、オーソドックスでシンプルな曲調で作られている。主旋律たる映像を引き立てる裏方に徹した音楽は、ポップスのアレンジャーとして活躍する萩田光雄らしい音楽設計だ。 ただ、そのぶん、耳に残るメロディや思わず引き込まれてしまうようなキャッチーなサウンドは控えめ。萩田のセンスが光るポップな曲やメロディアスな曲も作られているが、全編、危機また危機の展開が続く本作では、そういう曲は出番が少ないのがもったいなかった。 エンジニア出身でレコーディングからトラックダウン、その後の処理にまでわたる音楽作りを熟知した萩田のサウンドは、サントラ盤で聴いてこそ細部の繊細な作りが見えてくる。あらためて味わってみたいサントラである。 萩田光雄は本作のあと、OVA『ロードス島戦記』(1990)、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1991)の音楽を担当。古典音楽と現代音楽を融合した『ロードス島戦記』はファンタジーらしい美しいメロディとサウンドが聴ける快作だし、海外映画音楽を引用しつつ重厚かつダイナミックなサウンドに仕上げた『STARDUST MEMORY』は堂々たる映画音楽スタイルの作品になっている。名アレンジャー・萩田光雄がアニメ音楽に残した軌跡をたどる上でも『巨神ゴーグ』は重要な作品である。
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