COLUMN

第127回 堂々たるデビュー作 〜マジックナイト レイアース〜

 腹巻猫です。サントラDJイベント「Soundtrack Pub【Mission#34】」を3月17日(土)蒲田のstudio80で開催します。特集は「2017年劇伴大賞」。2017年に放映・公開・発売されたサントラから「これぞベスト!」という作品をお持ちください。会場で紹介します。さらに特集その2として、相次いでサントラ盤が発売された『超合体魔術ロボ ギンガイザー』『ブロッカー軍団IV マシーンブラスター』をクローズアップ。サントラ制作秘話と聴きどころを構成者に語ってもらいます。サントラ作りの舞台裏に興味がある方もどうぞ。詳しくは下記リンクを参照ください。

Soundtrack Pub【Mission#34】2017年劇伴大賞 他
http://www.soundtrackpub.com/event/2018/03/20180317.html


 今回取り上げるのはTVアニメ『マジックナイト レイアース』。作曲家・松尾早人が初めてアニメ音楽を手がけた作品である。
 『マジックナイト レイアース』は1994年10月から1995年11月にかけて全49話が放送されたTVアニメ作品。「月刊なかよし」(講談社)に連載されたCLAMPの同名漫画を『戦え!! イクサー1』の平野俊弘(現・俊貴)監督が映像化した。アニメーション制作は東京ムービー新社(現・トムス・エンタテインメント)が担当。1997年にはTVシリーズとは異なる構想によるOVA(全3巻)も制作されている。
 東京の女子高生、獅堂光、龍咲海、鳳凰寺風の3人は東京タワーで突然謎の光に包まれ、異世界セフィーロに招喚される。彼女たちはセフィーロの危機を救う伝説の魔法騎士(マジックナイト)として選ばれたのだ。3人はとまどいながらも魔法の武具を手に入れ、襲いくる神官ザガートの手下や魔物と戦いながら、異世界の旅を続ける。
 TVシリーズは、幽閉されたセフィーロの柱=エメロード姫の救出をめざす第1部(第1話〜20話)と、セフィーロに侵攻しようとする隣国3国と魔法騎士との戦いを描く第2部(第21話〜49話)に大きく分かれている。
 ロールプレイングゲーム(RPG)のエッセンスを取り入れた設定と物語、傷だらけになりながら戦う少女たちのヒロイックなアクションなどが支持されて、たちまち人気作品になった。同時代に放送された『美少女戦士セーラームーン』シリーズや、『スレイヤーズ』(1995)などとともに「戦う元気な女性像」を見せてくれた印象深い作品だ。

 音楽を担当したのは新鋭・松尾早人。スタッフは「ドラゴンクエスト」のすぎやまこういちに依頼したかったらしいが、すぎやまの紹介で松尾の登板となった。松尾早人は当時、すぎやまこういちのもとで「ドラゴンクエスト CD BOOK」の編曲やアニメ『DRAGON QUEST ダイの大冒険』(1991)のオーケストラアレンジなどを手がけていた。本作ではすぎやまは「音楽監修」として参加。音楽制作もすぎやまこういちの事務所「スギヤマ工房」が担当している。
 松尾早人は本作以前にゲーム音楽を手がけたことはあったが、単独でアニメの音楽を担当するのは初めてだった。師匠の名を背負っての大任。それにみごとに応えて、すばらしい音楽を提供している。
 「まつお・はやと」という、ヒーロー番組の主人公のような名は本名だそうだ。小さい頃からエレクトーンを習い、小学生になってからはヤマハのJOC(ジュニアオリジナルコンサート)に参加して作曲を始めていた。小学校1年のときにELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)などのプログレッシブロックやデオダートのクロスオーバーサウンドにハマる。さらに『宇宙戦艦ヤマト』(1974)の宮川泰の音楽やミシェル・ルグラン、ニーノ・ロータ、ジェリー・ゴールドスミスらの映画音楽に傾倒し、映像音楽にも関心を広げていった。
 自然に作曲家を志すようになり、高校時代に作曲家・西村朗の指導を受けて、東京藝術大学作曲科に入学。在学中よりアレンジやゲーム音楽の作曲を手がけ、やがて、すぎやまこういちと知り合う。すぎやまは松尾の才能を認め、ゲームの仕事を紹介したり、アレンジをまかせたりして松尾の活躍の場を広げた。それが、『マジックナイト レイアース』につながることになる。
 リズムのあるロック的な曲から大編成のオーケストラ音楽まで、シンセの打ち込みから生楽器を使ったセッション録音まで、幅広くどんな音楽もこなす職人肌。ミシェル・ルグランやニーノ・ロータが好きというだけあって、美しく耳に残るメロディも書けるし、ジェリー・ゴールドスミスばりの緻密に構築された現代音楽的な曲もうまい。すばらしい才能の持ち主である。
 映像音楽の代表作には、『怪盗セイント・テール』(1995)、『黄金勇者ゴルドラン』(1995)、『超ロボット生命体トランスフォーマー マイクロン伝説』(2003)、「仮面ライダー555」(2003)、『よみがえる空 —RESCUE WINGS』(2006)、『HELLSING』(2006)、『レ・ミゼラブル 少女コゼット』(2007)、『神のみぞ知るセカイ』(2010)、『ジョジョの奇妙な冒険』(2012)、『DRIFTERS』(2016/石井妥師と共作)、『競女!!!!!!!! HiP WHiP GiRL』(2016)などがある。
 華麗で壮大なオーケストラサウンドの印象が強いが、暗い情念を秘めた「仮面ライダー555」の音楽や、抑えた曲調でリアルな災害救難活動を描く『よみがえる空 —RESCUE WINGS』の音楽も記憶に残る。本人は重厚で暗くて悲しい、救いのない曲が好きなのだという。明るい曲は苦手で、『マジックナイト レイアース』で初めて明るい曲に挑戦したのだそうだ。
 『マジックナイト レイアース』は松尾早人の名を一躍知らしめる作品になった。異世界ファンタジーらしい壮大でロマンティックな音楽、激しい戦いの音楽、光たちの心情を描くリリカルな曲などなど、多彩で聴きごたえがあり、華がある。アニメ音楽デビューとは思えない、堂々たる音楽作りである。
 放映当時、ポリドールからサウンドトラック・アルバムが6枚も発売されている。以下にまとめてみた。

オリジナル・サウンドトラック1 選ばれた少女たち(1994年12月1日発売)
オリジナル・サウンドトラック2 伝説の騎士(1994年12月1日発売)
オリジナル・サウンドトラック3 ゆずれない願い(1995年3月25日発売)
オリジナル・サウンドトラック4 新しい絆(1995年6月25日発売)
オリジナル・サウンドトラック5 光・海・風(1995年7月15日発売)
オリジナル・サウンドトラックBEST いつか輝く(1995年11月25日発売)

 1〜3が第1部のサントラ、4〜5が第2部のサントラ、6枚目の「いつか輝く」は1〜5から選んだ楽曲に主題歌アレンジの新曲2曲を加えたベスト盤である。
 1年間放映の作品とはいえ、サントラ6枚というのは異例の多さだ。サントラ以外にソングアルバムも2枚、キャラクターソングシングルも数種類発売されている。本作の人気の高さがうかがえるアイテム数である。
 今回はサウンドトラック1「選ばれた少女たち」から紹介しよう。収録曲は以下の通り。

  1. メイン・テーマ〈オーケストラ・ヴァージョン〉
  2. エメロード姫
  3. 出会い〜異次元の世界へ
  4. セフィーロの謎
  5. 序章 —ザガートの謀略—
  6. 楽園〜闘争と混乱
  7. 導師・クレフ
  8. 別れ
  9. 魔物出現!〜魔法の力
  10. 友情そして希望へ〈オーケストラ・ヴァージョン〉
  11. 聖なる場所〜不気味な気配
  12. Interlude —躍動—
  13. 神官・ザガート
  14. 魔物出現!〜総攻撃
  15. Interlude —安堵—
  16. 追手せまる!
  17. 少女達のワルツ
  18. Interlude —混沌—
  19. 果てしなき旅路
  20. 精獣招喚!
  21. 明日への勇気〈インストゥルメンタル・ヴァージョン〉

 大ヒットした主題歌「ゆずれない願い」は収録されていない。音楽だけで勝負! というスタッフの自信と意気込みが伝わってくる内容だ。
 曲順は光たちがセフィーロに召喚されて、魔法騎士となるための旅を始める物語の序盤をイメージした構成。
 1曲目「メイン・テーマ」は本作全体のテーマとなる曲。異世界セフィーロのテーマとしても設定されている。雲の海の中に入っていくような木管の序奏から金管の雄大なテーマが現れる。弦がメロディを受け継ぎ、美しく奏したあと、木管と金管のアンサンブルでテーマが変奏される。中間部の律動的な動きが異世界の冒険のわくわく感を表現。終盤はふたたび雄大な曲想になり、テーマが繰り返されて終わる。
 演奏時間4分以上。『マジックナイト レイアース』の物語の開幕を告げる序曲であり、本作の音楽世界を象徴する1曲となっている。劇中では第1話のラストシーンで初登場。その後もここぞという場面で使用された。第1部のラストとなる第20話では、使命を果たした光たちが東京に帰還する最後のシーンに選曲されている。
 2曲目はもの悲しい旋律を持つエメロード姫のテーマ。第1話の冒頭、エメロード姫の初登場場面から流れている。幽閉されながらもセフィーロの平和を願い続けるエメロード姫の祈りをピアノとバイオリンの二重奏で表現する。松尾早人の作り出すメロディの美しさを味わえる1曲。
 アルバムの構成としても1曲目の厚いオーケストラ曲との対比で姫の哀しみが際立つ流れになっている。
 3曲目「出会い〜異次元の世界へ」は光、海、風の出会いから3人がセフィーロへ招喚されるまでをイメージした曲。躍動感あふれるメインテーマの変奏からスタートするが1分を待たずに曲は不穏に変化、乱れ散るフレーズが異変の発生を表現し、異世界へと飛ばされた3人の不安な心情を描写して終わる。本編の該当場面では使われなかったが、アルバムの流れとしては効果的なピースである。
 ミステリアスな「セフィーロの謎」をはさんで、いよいよ悪漢の登場。5曲目「序章 —ザガートの謀略—」は第1部の仇役、神官ザガートの企みや行動を表す楽曲である。軍隊的なリズムに威圧感をただよわす金管群と弦楽器の重厚な合奏。古代の兵士の行進を思わせる曲調だ。敵側の音楽が本格的だと戦いの音楽やヒーロー側の音楽も盛り上がる。抜かりのない音楽設計である。
 6曲目「楽園〜闘争と混乱」はタイトルどおりの描写音楽。セフィーロの平和な情景を描写する明るい導入部から不穏な曲想に転換、上下動する弦楽器が不安なフレーズをくり返し、低音の金管と強いリズムが魔物たちが跋扈する混乱した大地を描写して締めくくられる。
 7曲目「導師・クレフ」は光たちをセフィーロに召喚した魔法使い、クレフのテーマだ。金管群がスタッカートで刻むリズムに乗って、弦がエキゾティックな旋律を奏でる。見かけは若者に見えるが実は745歳という設定のクレフ。松尾はその年齢にふさわしい歴史を感じさせる曲にしようと考えたという。
 また、この曲は第1部の第2話以降、冒頭のあらすじ紹介の場面に毎回流れたのが印象深い。島津冴子のナレーションが聴こえてくるようだ。
 ピアノとバイオリンが奏でる8曲目「別れ」は、しみじみと胸に沁みる曲。「別れ」というタイトルだが、感傷的ではない。雨だれのようなピアノにバイオリンの穏やかなメロディが絡まって、ちょっとメランコリックな雰囲気をかもしだす。大人の香りがただよう曲だ。
 9曲目「魔物出現!〜魔法の力」は本アルバムの聴きどころのひとつ。前半は緊迫感みなぎるバトル曲。アップテンポのリズムに金管・木管の短いフレーズのかけあいで激しい襲撃と戦闘が描写される。テンポが落ち、じわじわと焦燥感をあおる曲想の中間部を経て、「魔法の力」と題されたヒロイックな曲に展開する。光たちが悲壮な決意を胸に立ち上がる場面、魔法の力を放つ場面などに選曲された本作の中でもきわめつけの燃える音楽のひとつである。本曲は、演奏時間5分を超えるミニ組曲のような構成で聴きごたえがある。
 10曲目「友情そして希望へ」は光と海、風の友情を描写する美しい曲。第1話で東京タワーで3人が初めて出会う場面から流れている。第14話では、旅を通して絆を深めた3人が魔法騎士になる決意を新たにするラストシーンに流れて感動を盛り上げた。

 松尾早人は本作の音楽作りをふり返って、それぞれに個性的なキャラクターのテーマが印象深かったと語っている。すでに紹介したエメロード姫、クレフをはじめ、光たちに寄り添う妖精モコナ、光たちの武器を創る創師・プレセア、そして、敵の神官ザガート。多彩なキャラクターのテーマが作られている。
 サウンド的にはオーケストラが基調になった。レイアースの世界のスケールの大きさを表現するためには、壮大なオーケストラ曲がふさわしいと考えた結果だという。残念ながらすべてが生楽器による録音ではなく、多くはシンセサイザーによる演奏で収録されている。「生オケならもっと感動的なのに」と思う曲もあり、ちょっと残念な点である。しかし、松尾のオーケストレーションはすばらしく、シンセサイザーの演奏でも十分迫力がある。
 そんな松尾がこだわった曲のひとつが13曲目の「神官・ザガート」だ。これは生楽器による演奏。悪の神官であり、同時に悲しみを背負ったキャラクターとして、「適役ながら魅力あふれる」というイメージを込めて作曲したという。ピアノとチェロの二重奏。妖しいピアノの音色と地を這うようなチェロの重く、昏い旋律がザガートの哀しいさだめを表現する。「本当は暗い音楽が好き」という松尾の音楽性がよく表れた曲だ。派手さはないが本アルバムの中でキラリと光る名曲のひとつである。
 アルバム後半では、のちの「仮面ライダー555」を思わせるスリリングなロックスタイルのチェイス曲「追手せまる!」、「少女たちのワルツ」と題された優雅なワルツの曲、魔法を使った戦闘場面によく流れた「精獣招喚!」などが印象深い。
 アルバムのラストはエンディング主題歌「明日への勇気」のインストゥルメンタル・バージョン。シンセの打ち込みによる現代的なアレンジになっている。藝大時代からシンセサイザーの打ち込みを手がけていた松尾は、こういうアレンジも得意なのである。
 さて、本アルバムはサントラ2「伝説の騎士」と同時発売。「伝説の騎士」はサントラ1で開幕した物語を引き継ぎ、さらに激しくなる戦闘、深まるセフィーロの謎を描写して、光たちの冒険の行方を暗示して終わる構成となっている。締めくくりの曲はオープニング主題歌「ゆずれない願い」のオーケストラ・ヴァージョンと次週予告音楽。本来なら、2枚通して聴きたい内容だ。
 そして、サントラ3「ゆずれない願い」には、第19話の劇中で流れた主題歌「ゆずれない願い」のアンプラグド・バージョン(歌入り)と、第20話のエンディングに使用された主題歌「明日への勇気」のアコースティック・バージョン(歌入り)が収録されている。この2曲はソングアルバムには収録されていないので、ファンはサントラ盤を要チェックである。
 これが本格的な映像音楽デビューとは思えないほどの堂々たる風格とクオリティを持った松尾早人の『マジックナイト レイアース』の音楽。改めて聴きなおしても、才気あふれる音楽に胸が熱くなる。90年代アニメ音楽を代表する、忘れられない作品のひとつである。
 サントラが6枚も出ているので、どれから聴いたら? と迷う人も多いだろう。とりあえず6枚目のベスト盤から手にするのもよいが、こぼれたよい曲もたくさんある。現在は中古市場でどれも手軽に手に入るので、1から順にぜんぶそろえるのがお奨めだ。

魔法騎士レイアース オリジナル・サウンドトラック1 選ばれた少女たち
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