COLUMN

第122回 前へ進め! ~家なき子(その2)~

 腹巻猫です。冬のコミックマーケットにサークル参加します。12月30日(土)(2日目)東ホール D-53b「劇伴倶楽部」です。既刊「THE MUSIC OF IEDON~『伝説巨神イデオン』の音楽世界~」「THE MUSIC OF TRITON~『海のトリトン』の音楽世界~」と新刊「THE MUSIC OF YAMATO 1974~『宇宙戦艦ヤマト』(1974)の音楽世界~」を頒布します。
 新刊は『宇宙戦艦ヤマト』第1作に特化した音楽研究本。内容はパイロットフィルムの音楽解説、主題歌解説、BGM解説、DISCOGRAPHYなど。ヤマト音楽の謎と魅力を探究しました。コミケに参加される方、よろしければお立ち寄りください。
 新刊のより詳しい内容は下記に掲載しています。
http://www.gekiban.soundtrackpub.com/archives/gekiban/gekiban14.html


 今回は前回に続いて「家なき子 総音楽集」の紹介。

 DISC-2&DISC-3はBGMコレクションだ。DISC-1のソングアルバム復刻以上にBGMのCD化を待ち望んでいたファンは多いのではないだろうか。
 LPレコード「家なき子II 音楽集」のライナーノーツで、プロデューサーの山崎敬之がこんなエピソードを紹介している。スタッフでフランスへ1週間のロケハン旅行に行ったときのこと。パリの宿で日本テレビのプロデューサー・吉川斌と話しているうちに音楽の話になった。『家なき子』には静かさと激しさ、雄大さと華麗さをあわせ持つ音楽がふさわしい。ベートーベンの交響曲「田園」のような……と2人で意見が一致した。その場に出崎監督はいなかったが、帰国して出崎監督と渡辺岳夫が音楽打ち合せをしたとき、「ひと言でいえば、どんな感じの音楽になりますかね」とたずねる渡辺岳夫に、出崎統は即座にという感じで答えた。「そうですね、たとえば『田園』みたいな――」。
 『家なき子』のBGMは美しい。小林七郎が手がけた、水彩画のような美しい背景と呼応するような瑞々しく詩情にあふれた音楽だ。しかし、美しいだけでなく、レミとビタリスの苦しい旅路を彩る厳しい曲調の音楽もたくさん作られている。『巨人の星』の音楽を思わせるような、重厚で心をゆさぶる音楽である。この部分は『アルプスの少女ハイジ』をはじめとする渡辺岳夫のほかの名作アニメ音楽にない要素で、『家なき子』の音楽の大きな特徴と魅力になっている。
 オーケストラは、木管、金管、ストリングス、ピアノに渡辺岳夫が好んで使う楽器――アコースティックギター、オルガン、ハープ、ビブラフォン、マンドリン、ダルシマーなどを加えた編成。そして、さりげなくサウンドの要となるエレキベース。
 『家なき子』は劇中に楽器が登場する。レミとビタリスが奏でるハープ、笛、バイオリン、マチヤのバイオリンなど。こうした現実音としての楽器の曲も、さまざまなバリエーションが録音されている。

 『家なき子』のBGMは4回にわたって録音された。総曲数はOK分だけで約140曲。1年間の放送ということを考えても相当な量である。
 あらかじめお詫びしておくと、今回のアルバムは「総音楽集」と謳っているにもかかわらず、収録時間の都合で全曲収録はかなわなかった。本編未使用曲や現実音として録音された曲の一部(レミの楽器練習の音など)を割愛し、約120曲を収録した。LP「音楽集」に収録されていたのが36曲なので、80曲以上が初商品化である。『家なき子』ファンにも満足していただける内容になっているはずだ。
 構成はLP「音楽集」とは一新。基本的に1曲1トラック収録とし、曲順はストーリーに沿ったものとした。DISC-2は前半(1話~26話)のレミとビタリスの旅路をイメージした構成、DISC-3は後半(27話~51話)のレミとマチヤの旅をイメージした構成でまとめた。
 詳しい収録曲は下記を参照。
http://www.soundtrackpub.com/label/cd/STLC033.html

 以下にはブロックタイトルだけを表記した。

  DISC-2
  01 オープニング
  02~04 シャバノン村のレミ少年
  05~07 レミの旅立ち
  08~10 はるかな道
  11~14 レミの初舞台
  15~18 ビタリス一座
  19 ドレミファ、レミ
  20~22 人生の旅
  23~25 思いがけない出来事
  26 ブリッジ・コレクション I
  27~30 白鳥号との出会い
  31~33 しあわせな船旅
  34~36 ふたたびビタリス一座と
  37~40 吹雪の中で
  41~43 ビタリスの愛
  44~47 さらばわが息子よ
  48~49 予告音楽~クロージング
  50~52 ビタリスの歌声

  DISC-3
  01 オープニング
  02~04 悲しみの朝
  05~07 アキャン家の人々
  08~11 兄弟の輪
  12~15 パリの親友マチヤ
  16~19 レミとマチヤ
  20~23 レミ一座旅をゆく
  24 ブリッジ・コレクション II
  25~28 ふるさとへの道
  29~32 バルブラン・ママ
  33~36 英仏海峡の彼方に
  37~39 ドリスコル夫妻
  40~43 ロンドンの仲間
  44~47 ミリガン家の紋章
  48~50 脱出
  51~54 嵐の海を渡って
  55~58 今、めぐり逢いのとき
  59~61 新たな旅立ち
  62 クロージング
  63~64 ボーナス・トラック

 DISC-2の「シャバノン村のレミ少年」は美しい田園風景を描写する音楽3曲で構成。いずれも第1話の冒頭で流れた音楽で、本作の音楽の「静かさ」と「華麗さ」を代表する楽曲になっている。震えるようなストリングス、フルートのやさしい調べ、哀愁ただようマンドリン。『アルプスの少女ハイジ』の自然描写音楽を受け継ぐ曲調である。
 続く「レミの旅立ち」と「はるかな道」のブロックはレミの辛い旅立ちと旅芸人としての苦難に満ちた旅を描く音楽。渡辺岳夫の実写ドラマ音楽に通じるシリアスで繊細な心情を描写する楽曲を集めた。
 「レミの旅立ち」では、第3話でビタリスに連れられて峠を登るレミが「ママの声が聴こえる」と振り返る場面の「愛する人の声(M-22)」とバルブラン・ママが「神様、あの子をお守りください」と祈る場面の「レミの旅立ち(M-21)」が胸に迫る(ともに初商品化)。
 「はるかな道」は『巨人の星』的な曲想を持つ「試練の旅路(M-16)」と「悲しみをこらえて(M-19)」の2曲と挿入歌「おやすみなさい」のアレンジM-21で構成。M-16とM-19は全編を通して使用頻度の高い曲で、険しい山道を登る旅、雪の中、雨の中の旅などの描写のほか、訪れた土地で旅芸人ゆえに理不尽な対応をされるレミたちの悲哀を表現する使い方が多かった。悲しい曲調であっても、人間への温かいまなざし、逆境にくじけない心情がにじみ出ている。いかにも渡辺岳夫らしい楽曲だ。
 「レミの初舞台」では第5話「レミの初舞台」で使われた「希望の一歩(M-28B)」が聴きどころ。マンドリン、オルガンをフィーチャーしたオープニング主題歌アレンジである(初商品化)。
 「ビタリス一座」にはレミとビタリスが演奏する笛とバイオリンの曲を集めた。
 「人生の旅」にはとりわけ感動的な曲想を持つ3曲を収録した。トランペットが朗々と歌い上げる「陽はまた昇る(M-20)」、ビタリスのテーマとも呼ぶべき「心のお師匠さん(M-23)」、力強く希望に満ちた「明日への前進(M-6)」。レミが苦しい旅路の中で人のやさしさに打たれる場面、ビタリスの気高い心に触れて感動する場面などに流れた印象深い曲である。中でも初商品化となるM-23は、マンドリンとピアノと弦を中心とした端正で品のある曲調がしみじみと胸に沁みる名曲だ。  「白鳥号との出会い」には、『家なき子』ファンなら誰もが覚えているレミのハープの演奏と歌を収録。レミのテーマのように使われた、とりわけ印象深い曲である。この曲には歌詞がついていて、劇中でレミがたびたび歌っている。第19話ではレミが「ぼくの夢」と曲名を紹介する場面があった。
 このレミの歌はソングアルバムには収録されていなかった。ファンが長年待ち望んでいた曲だが、今回、マスター音源が見つかって初商品化が実現した。劇中ではフルサイズ流れることはほとんどなかったので、貴重な初収録である。本アルバムの目玉のひとつだ。
 レミがミリガン夫人とアーサーとともに運河を旅するエピソードをイメージした「しあわせな船旅」では、白鳥号のテーマとして「すてきな白鳥号」の1コーラスサイズ・カラオケを収録。フルサイズ・カラオケがDISC-1に収録されているが、劇中でくり返し流れて印象深い曲として、どうしてもここに配置したく、1コーラスに編集したものを収録した。
 「吹雪の中で」以降は、ビタリス一座の仲間たちが次々と倒れていき、ビタリスもまたレミを守って命を落とすという悲劇的な展開に合わせた構成。不安な曲や緊迫感のある曲、激しい衝撃を表す曲などが続く。こうした楽曲もほかの名作アニメ音楽にはあまりない要素である。『家なき子』の音楽の激しい一面を代表する楽曲だ。
 そんな中でも、「ビタリスの愛」に収録した「もう一度、前へ(M-106)」、「気高き心(M-110)」、ビタリスのテーマの変奏「ビタリスの愛(M-24)」の3曲は、苦境にあっても誇りと希望を失わない人間の強さを描いた渡辺岳夫ならでは人間賛歌で胸を打つ。
 第26話「さらば わが息子よ」のラストに流れた荘厳な「ビタリスの死(M-111)」でDISC-2の本編は終わる。
 DISC-2の最後にはボーナス・トラックとしてビタリスの歌声を収録した。
 ビタリスはかつて高名なオペラ歌手だったという設定で、劇中でも歌声が披露される場面がある。その歌声はレコード等の流用ではなく、本作のために録音された音源が使用された。歌っているのはビタリス役の近藤洋介ではない。名前は明らかでないが、本格的な声楽家が呼ばれたようである。劇中で使用されたイタリア民謡「光さす窓辺」「ニーナの死」を収録した。これも本アルバムの目玉のひとつだろう。

 シリアスな曲調が多かったDISC-2に比べると、DISC-3は明るい曲やアクティブな曲が多くなる。レミの旅に加わるマチヤのキャラクターが反映されているためだろう。
 「パリの親友マチヤ」「レミとマチヤ」「レミ一座旅をゆく」の3ブロックはマチヤとレミの出逢いと友情に焦点を当てた構成。中でも「レミ一座旅をゆく」に収録した「風の街道(M-115)」と「陽光を浴びて(M-120)」は後半の旅のテーマとして印象深い曲。太陽の下、風の渡る道をレミとマチヤが軽妙な会話をしながら(『エースをねらえ!』のひろみとマキのように!)旅を続ける場面が目に浮かぶ、さわやかで軽快な曲だ。この2曲も初商品化である。
 レミとバルブラン・ママの感動の再会を描くブロック「バルブラン・ママ」では、『家なき子』BGMの中でもとびきり美しい曲「愛の涙(M-114B)」が聴きどころ。弦とピアノとマンドリン、ダルシマーなどが奏でる優雅で気品に満ちた曲だ。
 トランペットとピアノとオルガンが奏でるオープニング主題歌の感動的なアレンジ「また逢う日まで(M-9)」を挟んで、いよいよ物語はロンドン編へ。
 レミの実の両親を探してレミとマチヤがロンドンを訪れるエピソードでは、新たに追加された第4回録音の楽曲が主に使用された。M-200番台のBGMで、多くの曲が本アルバムで初商品化になった。
 このロンドン編はそれまでの『家なき子』の物語とはちょっと雰囲気が違って、レミの偽の両親ドリスコル夫妻をめぐるサスペンスとアクション中心の展開になっている。そのため、音楽の雰囲気もかなり違う。のちの『機動戦士ガンダム』の音楽を彷彿させるような空間系の曲、ソリーナ(ストリングスの音に特化したシンセサイザー。この時期から渡辺岳夫作品に多用される)をフィーチャーした楽曲、軽快なアップテンポの曲など、色合いの異なる音楽が登場するのが興味深いところだ。
 けれど、『家なき子』らしいヒューマンな曲調の音楽も健在で、ミリガン夫人が母と知ったときのレミのとまどいと感動を表現する「母、その人の名は(M-203)」、英仏海峡を渡る旅を彩った「友情を胸に(M-201)」「試練の海を越えて(M-212B)」、第49話でバルブラン・ママとミリガン夫人が夕陽の中で対話する場面の使用が忘れられない「二人の母(M-225)」などは、使用回数は少ないものの、身もだえするようないい曲である。
 「今、めぐり逢いのとき」はレミとミリガン夫人が再会するクライマックスをイメージしたブロック。穏やかな「ばら色の空(M-209)」と白鳥号のテーマの変奏「白鳥号の思い出(M-123)」に続いて、レミの母への想いを表現する「めぐり逢いのとき(M-205)」。そして第50話のラストシーンを飾った「はじめての言葉(M-204)」という構成。M-204は挿入歌「ぼくとリーズ」のストレートアレンジで、レミとリーズのテーマという印象が強い。実際この場面では、レミのハープに気づき、初めて「レミ」と声を出して駆けだすリーズ~レミとリーズの再会~目を上げればそこにたたずむミリガン夫人、という展開で、声を取り戻したリーズの感動を表わす要素が強い選曲になっている。
 最後のブロック「新たな旅立ち」は最終話をイメージして構成した。ミリガン家に迎えられ、幸せな日々を過ごすレミとマチヤだが、心の中に落ち着かない想いがあった。ある日、2人は冬山に登って「本当の幸せとはなんだろう?」と自分の心に問いかける。本作のテーマに直結する重要な場面である。そのシーンに流れた「本当の幸せ(M-12)」。2人が新たな旅に出る場面の「新しい旅(M-105)」。「それから10年……」と宇野重吉のナレーションが語るエピローグに流れる「前へ進め!(M-206)」。大河ドラマ『家なき子』の掉尾を飾る3曲を並べた。わたくし、自分で構成していながら聴くたびに感動で泣きそうになります。
 DISC-3のボーナス・トラックには、本編未使用の「レミのワルツ」(マスターテープの表記)と題された弦合奏の曲M-59とレミの歌のカラオケを配して、アルバム全体のエピローグとした。

 『家なき子』は個人的に大切な作品である。『宇宙戦艦ヤマト』ブームに沸いた1977年。その喧噪に巻き込まれながら、筆者は毎週『家なき子』を観て、何か大切なものを受け取っていた。「生きること」について考える年頃だった。
 「忘れてしまいたいことや、忘れてはならないことがふるさとにはあります」というのは劇場版『家なき子』のラストでレミが語るモノローグの言葉だ。その言葉のように、人生で忘れてはならないことが『家なき子』にはたくさん詰まっている。今でも、進む道に迷うことがあると『家なき子』の場面を思い出すことがある。「前へ進め!」というビタリスの言葉に勇気をもらうことがある。『家なき子』の音楽がレミの旅から大切なものを受け取った人の心に残り、前へ進む光となりますように。そんな思いをこめてこの音楽集を作りました。愛聴していただければ幸いです。

家なき子 総音楽集
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