腹巻猫です。いよいよ今週末、8月11日(金)19時より阿佐ヶ谷ロフトで「渡辺宙明トークライブ Part11」を開催します。アニメ・特撮作品で活躍する脚本家・荒川稔久さんをゲストに迎え、荒川さん作詞×宙明先生作曲のアニメソングの制作秘話や宙明先生の最新動向をうかがう予定。その翌日12日は、コミックマーケット92に「劇伴倶楽部」で出展します。新刊はありませんが、『海のトリトン』『伝説巨神イデオン』の音楽研究本と委託で「サンダーマスク」のライブラリ音楽研究本を頒布する予定。両日とも、お時間ありましたらぜひお立ち寄りください!
「渡辺宙明トークライブ Part11 〜宙明音楽夜話 featuring 荒川稔久〜」
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/68971
荒川稔久の代表作のひとつ「特捜戦隊デカレンジャー」(2004)は東映スーパー戦隊シリーズの中でも人気作のひとつだ。放送10周年となる2014年にはVシネマ「特捜戦隊デカレンジャー 10 YEARS AFTER」が公開され、今年2017年にはデカレンジャーが宇宙刑事ギャバンと共闘するVシネマ「スペース・スクワッド ギャバンVSデカレンジャー」が公開された。「スペース・スクワッド」のテーマソングは渡辺宙明の書き下ろし。劇中音楽は渡辺宙明と「デカレンジャー」の音楽を手がけた亀山耕一郎が連名でクレジットされている。
亀山耕一郎はスーパー戦隊シリーズ「未来戦隊タイムレンジャー」(2000)、「動物戦隊ジュウオウジャー」(2016)でも音楽を手がけた作曲家。テクノとプログレの要素を取り入れた「タイムレンジャー」、刑事ドラマ風の「デカレンジャー」、生パーカッションを使ってワイルドな味を出した「ジュウオウジャー」と、それぞれに工夫を凝らした音楽が印象に残る。今回は、その亀山耕一郎の作品を紹介したい。
亀山耕一郎は1962年生まれ、兵庫県神戸市出身。子どもの頃から音楽好きでミュージシャンになりたいと思っていた。小学生時代はピアノを習い、6年生になってバンドを始めた。中学、高校とバンドを続けるが、演奏ではうまいやつにかなわないとミュージシャンになる夢は挫折。作曲家を志す。
高校卒業後、浪人して東京藝術大学音楽学部作曲科に進学。前回紹介した三宅一徳や佐橋俊彦と同時期に東京藝大で学んだ。在学中からバンド仲間の紹介でCM音楽を作るようになり、作曲家としての道が開ける。
いっぽうで大学時代からシンセサイザーに興味を持ち、自身で機材を買い、打ち込みに取り組んでいた。その知識と技術が認められて、『忍者戦士 飛影』(1985)などの作曲家・川村栄二のもとでシンセサイザーオペレーターとして2年ほど活動した。川村が手がけた「仮面ライダーBLACK」(1987)やスーパー戦隊シリーズの音楽に亀山が作った音が生かされている。
TVのクイズ番組の音楽作りなどを経て、本格的な映像音楽デビューとなったのは1992年に制作されたイタリア=日本合作アニメ『冒険者』(日本では2002年放送)。以降、ドラマ、アニメを中心に活躍している。
アニメの代表作は、イメージアルバムから手がけた『炎の蜃気楼』(2002)、『ポポロクロイス』(2003)、『ボボボーボ・ボーボボ』(2003)、『銀盤カレイドスコープ』(2005)、『BUZZER BEATER』(2005)、『コヨーテ ラグタイムショー』(2006)、『ぷるるんっ!しずくちゃん』(2006)、『ビーストサーガ』(20013)、『金色のコルダ Blue♪Sky』(2014)など。
「タイムレンジャー」や「デカレンジャー」のクールでカッコいい音楽のイメージが強いが、ご本人は熱狂的な阪神タイガースファンという関西人。そのギャップが楽しい。趣味はトライアスロン。健康に気を遣ってスポーツをやる作曲家はいるが、トライアスロンにまで参加するツワモノは他に聞いたことがない。アクションものからギャグ、ファンタジー、美少女ものまで、幅広くこなす作曲家である。
しかし、ご本人が好きなのはどちらかといえばアクションものだという。「音楽とはカッコいいもの」という思いがあるのだそうだ。
今回、アニメの代表作を取り上げようと思ってちょっと困った。ダークな『炎の蜃気楼』、RPG風ファンタジー『ポポロクロイス』、メルヘンタッチの『しずくちゃん』、クラシカルな『銀盤カレイドスコープ』、ギャグ満載の『ボボボーボ・ボーボボ』、高校の管弦楽部を舞台にした『金色のコルダ Blue♪Sky』等、どれも魅力的だが、特撮作品のような突き抜けたカッコよさとインパクトのある作品がなかなかない。今回は筆者の趣味で『きらめき☆プロジェクト』を取り上げよう。
『きらめき☆プロジェクト』は、2005年から2006年にかけて発表されたOVA作品。
『AIKa』(1997)、『ナジカ電撃作戦』(2001)、『ストラトス・フォー』(2003)などを手がけたスタジオ・ファンタジアの原作・制作によるオリジナル作品だ。美少女ゲームのようなタイトルだが、巨大ロボットが活躍するロボットアニメである。
日本企業が作った巨大ロボット・ビッグマイティがヨーロッパの小国・ジュネス王国に現われ、ロボットバトルを挑む。迎え撃つのはジュネス王国の巨大ロボット・ファンシーロボ。ビッグマイティは渋いおじさんチームが操縦する無骨なロボット。いっぽうのファンシーロボはひきこもりがちなお姫様カナの指令で動く身長45メートルの美少女お人形ロボット。ロボットアニメの定番である少年パイロットが登場しないのがユニークだ。代わりに、ハイパースーツをまとって空を飛ぶカナの妹ネネや、美少年4人組の薔薇騎士団、変形自在な美少女アンドロイド・リンクルなど多彩なキャラクターが華をそえる。『AIKa』でおなじみのお色気シーンもあるが、ビッグマイティを操るおじさんたちの心意気と、王国を守ろうとする少女たちのけなげさが心に残る。3DCGによる重量感のある巨大ロボット表現も見応えがある。アクションとギャグと熱血と萌えが渾然一体となった娯楽作品だ。
亀山耕一郎の音楽は、巨大ロボットのカッコよさ、重厚さ、美少女の可憐さ、お嬢様のほんわかした雰囲気、おじさんの哀愁など、さまざまな要素をイキのいいサウンドで演出する。クラシックからロック、演歌までカバーする亀山の音楽性が生かされた快作である。
サウンドトラック・アルバムは2005年8月にコロムビアミュージックエンタテインメント(現・日本コロムビア)から発売された。収録曲は以下のとおり。
- キミノハートニコイシテル(ビデオ・サイズ)
- プロローグ・謎の怪ロボット
- ジュネス王城の朝
- ビッグマイティ出現
- ハイパー・ネネ
- ジュネス王国の危機
- ビッグマイティの脅威
- 出動!ファンシーロボ
- リンクルのテーマ
- カナのテーマ
- 最大の敵
- ロボット・バトル
- ファンシーロボの戦い
- オヤジの哀愁
- 栄光らしき脱出
- 薔薇騎士団のテーマ
- リンクルのテーマ2
- リンクルのフライヤー・チェンジ
- コミカル・サスペンス
- 大矢・出張のテーマ
- オヤジたちの挽歌
- 父の国・日本
- オヤジ大感動
- ザ・パーフェクト・バトル
- ファンシーロボ最後の戦い
- 大団円
- SETSUNASAコミュニケーション(ビデオ・サイズ)
構成と解説はミュージックファイルシリーズでおなじみの高島幹雄。Mナンバー入りの解説がサントラファン向けでうれしい。トラック1からトラック10までは第1巻の物語をベースにした構成、トラック11以降は最終巻までを想定したイメージアルバム的な構成となっている。
1曲目と最後の曲はオープニングとエンディング主題歌。歌は実写ドラマ版「美少女戦士セーラームーン」の主題歌を歌った、当時19歳の歌手・小枝(さえ)。オープニング曲「キミノハートニコイシテル」は亀山耕一郎が作・編曲している。
このオープニング主題歌、なかなかの名曲である。
アイドルポップ風のさわやかで軽快な曲調。小枝の透明感のあるボーカルとあいまって、本作のキュートな一面を象徴する曲になっている。ハンドクラップを取り入れたアレンジも心地よい。亀山耕一郎は歌作りも巧みで、「タイムレンジャー」の正副主題歌を手がけたほか、多くの作品で挿入歌やキャラクターソングを担当。『キューティーハニーF』(1997)主題歌などアレンジのみを担当したアニメソングも多い。
トラック2「謎の怪ロボット」は、ビッグマイティが他国の巨大ロボットにバトルを挑んで勝利するアバンタイトルに流れた曲。戦隊シリーズの巨大ロボ戦を彷彿させるダイナミックな曲調で、開幕からわくわくする。
トラック3「ジュネス王城の朝」はチェンバロが奏でる優雅なジュネス王国のテーマ。よく聴くとオープニング主題歌の変奏になっている。後半は明るいワルツ。第1話のうららかな朝の場面をはじめ、ジュネス王国三王女の登場シーンにたびたび使用されている。ロック調の曲が印象的な亀山耕一郎だが、『銀盤カレイドスコープ』でも聴けるこうしたクラシック調の曲もうまい。
トラック4はビッグマイティがジュネス王国に現れるシーンのサスペンス曲。ジュネス王国側の緊迫感を伝える曲調で、これも特撮作品の敵出現曲を思わせる。
キーボードとエレキギターをメインにしたトラック5「ハイパー・ネネ」はハイパースーツをまとった美少女ネネの活躍をイメージした曲だ。ジュネス王国の三女ネネは好奇心旺盛で猪突猛進。スーパーヒロイン気取りで謎の敵に突進していく。亀山耕一郎の原点であるバンド音楽スタイルで作られた勢いのある曲である。
上下動する弦の動きが危機感をあおるトラック6「ジュネス王国の危機」とトラック7「ビッグマイティの脅威」を挟んで、トラック8「出動!ファンシーロボ」でいよいよ美少女お人形ロボット・ファンシーロボが出動する。
リコーダー風の素朴な笛の音がメロディを奏でるメルヘンタッチの可愛い曲調。ロボットの出動曲といえばブラスが鳴り響くアップテンポの曲、という常識を裏切る意表をついたテーマである。この曲が流れるシーンでは大爆笑してしまった。後半は「らららんらん」と可愛い女声ボーカルが同じメロディをくり返す。コミカルにも聴こえるが、それだけではない。『きらめき☆プロジェクト』という作品の雰囲気とファンシーロボのキャラクターを象徴するテーマであり、本作の音楽の聴きどころと言ってよいだろう。作品世界と遊び心がガッチリかみあった音楽設計だ。こういうセンスがとてもよい。
トラック9「リンクルのテーマ」はクラリネット、フルート、ファゴットなどを主体にしたユーモラスな曲。カナが作ったお友だちロボ・リンクルは飛行機、自動車、潜水艇など、さまざまな形態に変身できる美少女型アンドロイド。ご主人のカナを慕うあまり挙動不審のようなふるまいを見せるのが可愛く楽しい。
そのカナを描写するトラック10「カナのテーマ」は同じく木管をメインに、ややミステリアスな曲調を聴かせる3拍子の曲。天才的科学者でありながら人づきあいは苦手、ロボットが友だちという風変わりなキャラクターと愛らしさを表現する曲である。
弦がしみじみと歌うトラック14「オヤジの哀愁」は、マイティロボットをまかされた日本企業の課長・大矢の心情を表す曲だ。出張の多い大矢は家庭では妻と娘とすれ違い気味。現場では頑固な技術者と無理を押し付ける上司の板挟みになって苦労が絶えない。そんな大矢がジュネス王国でカナと出逢い心を通わす第4話のシーンで使用されたのが印象深い。後半部分は第5話でマイティロボがファンシーロボとリンクルを助けに現れる感動的な場面に使用されている。
トラック20「大矢・出張のテーマ」やトラック21「オヤジたちの挽歌」も、同じく男の哀愁をただよわせる曲。ジュネス王国側のリリカルな曲調と対比して、おじさん側のドラマを象徴する曲になっている。
最終話は大矢たちを見捨てた島田部長が、最強ロボ「ザ・パーフェクト」を操縦してジュネス王国に乗り込んでくる展開。アルバム終盤はクライマックスの激闘を演出する曲が続く。
トラック24「ザ・パーフェクト・バトル」はザ・パーフェクトの脅威を描く曲。エレキギターが唸る激しい曲調は悪の憎々しさ全開で、対決への期待を盛り上げる。
トラック25「ファンシーロボ最後の戦い」は、ジュネス王国の危機を察知したファンシーロボが自らの意思で出動する場面に流れた悲壮感あふれる曲。まるで60年代特撮ドラマ「ジャイアントロボ」(1967)のような展開で、ぐっとくる場面だ。
曲順は前後するが、大矢たちが最後の意地を見せてザ・パーフェクトに挑む場面には、トラック23「オヤジ大感動」が使用された。ホルンと弦が奏でる哀愁を帯びたメロディが、おじさんチームの熱い気持ちを表現する。そうそう、ロボットアニメやヒーローものにはこういう曲がなくては!
サウンドトラック・パートを締めくくるのは、オーケストラがゆったりと演奏する平和曲「大団円」。最終話のラストシーンに流れた曲である。弦の大きなうねりと金管の大らかな響きが安らぎを表現する。
カッコよさと可愛さと感動がパッケージされた満足度の高いサントラである。本編を観ていなくても、音楽を聴くだけで作品の楽しさが伝わってくる。翳りのないストレートな音楽は亀山耕一郎の人柄を反映しているようだ。
昨年から今年にかけて、特撮作品「動物戦隊ジュウオウジャー」「スペース・スクワッド」で健在ぶりを示した亀山耕一郎。アニメでもキラキラしたイキのいいアクション作品での活躍を期待したい。
きらめき☆プロジェクト オリジナルサウンドトラック
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