COLUMN

第113回 ただよう『風格』 ~機動戦艦ナデシコ~

 腹巻猫です。9月2日(土)13時より、神保町・楽器カフェにて「テレビまんがソノシート大放談!」なるトークイベントを開催します。タツミムック『日本懐かしソノシート大全』(水落隆行著/辰巳出版)が9月5日に発売されることを記念してのイベント。著者の水落隆行さんと早川優さん、腹巻猫が出演し、ソノシートよもやま話のほか、珍しいソノシートの現物も紹介する予定です。お時間ありましたら、ぜひご来場ください!

「テレビまんがソノシート大放談!」
http://gakki-cafe.com/events/event/『日本懐かしソノシート大全』発売記念-テレビま/
予約はこちらから。
https://airrsv.net/gakki-cafe/calendar/menuDetail/?schdlId=T0007A6733

 9月2日に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の第5話「激突 ルウム会戦」が劇場公開される。今回は、その音楽を担当している服部隆之の作品を紹介したい。
 服部隆之といえば、昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」や大きな評判を呼んだTVドラマ「下町ロケット」の音楽も記憶に新しい、劇場作品・TVドラマ音楽の第一人者である。ダイナミックで明るく、胸がスカッとする音楽を書かせたら右に出るものはいない。日本を代表する映像音楽作曲家のひとりだ。
 服部隆之は1965年生まれ。祖父は服部良一、父は服部克久という音楽一家。幼少時から音楽教育を受けて育った。ピアノの練習は嫌いだったそうだが、少年時代はブラスバンドや洋楽系のバンドで活動。高校を2年で中退し、パリ国立高等音楽院に5年間留学する。パリで音楽を学びながら、各国の本物の音楽や文化に触れて感性を磨いた。
 帰国後、さだまさしのアルバムアレンジで編曲家としてデビュー。ポップス、ゲーム音楽等のアレンジやTV、ステージの音楽などでキャリアを積んだ。1990年、TVドラマ「代表取締役刑事」で映像音楽デビュー(矢野立美、米光亮と共作)。1994年にはTVドラマ「お金がない!」、劇場作品「ゴジラvsスペースゴジラ」で音楽を担当し、サントラファンの注目を集めた。
 以降、音楽を担当したTVドラマ・劇場作品はサントラファンならずともご存知のものばかり。TVドラマでは、「王様のレストラン」(1995)、「正義は勝つ」(1995)、「総理と呼ばないで」(1997)、「HERO」(2001)、「新選組!」(2004)、「のだめカンタービレ」(2006)、「華麗なる一族」(2007)、「半沢直樹」(2013)、「下町ロケット」(2015)、「真田丸」(2016)、劇場作品では、「ラヂオの時間」(1997)、「ゴジラ2000 ミレニアム」(2000)、「みんなのいえ」(2001)、「電車男」(2005)、「宇宙兄弟」(2012)など、話題作、ヒット作を挙げればきりがない。アニメでは、劇場版『スレイヤーズ』(1995)、『機動戦艦ナデシコ Martian Successor NADESICO』(1996)、『シスター・プリンセス』(2001)、『キャプテンハーロック』(2003)、『大正野球娘。』(2009)、『CODE:BREAKER』(2012)といった作品を手がけている。
 今回は、服部隆之が手がけた初のTVアニメ『機動戦艦ナデシコ』を紹介しよう。

 『機動戦士ナデシコ』は1996年10月から1997年3月まで放送されたTVアニメ作品。『飛べ!イサミ』(1995)の監督を務め、のちに『学園戦記ムリョウ』(2001)、『宇宙のステルヴィア』(2003)などを手がける佐藤竜雄が監督。アニメ制作はXEBECが担当した。
 ナノテクノロジーや重力制御技術の発達で人類が地球以外の惑星に進出するようになった22世紀末。謎の敵が来襲し、人類の拠点を次々と制圧していく。木星蜥蜴と名づけられた敵の圧倒的な戦力に地球連合軍は苦戦し、反撃の機がつかめない。そんなとき、火星に残された住民を救うべく、地球の民間企業が建造した宇宙戦艦ナデシコが発進した。ミスマル・ユリカ艦長以下、個性的なクルーを乗せたナデシコの波乱に満ちた航海が始まる。

 設定はシリアスながら、キャラクターや物語展開は破天荒でギャグも多い。SFとラブコメ、メカと美少女という80~90年代SFアニメ王道の要素を盛り込んだにぎやかな作品である。
 服部隆之の音楽は、スケール豊かなオーケストラ編成の曲から、室内楽風の小品、ラウンジ音楽風、ポップス風と多彩。コミカルな要素はほとんどなく、じっくり聴かせる音楽になっている。巧みなオーケストレーション、耳に残る旋律、それらを包みこむように、大らかで品のよい風格のようなものが感じられる。祖父・服部良一から受け継がれてきた音楽性だろうか。
 当時の服部隆之は、大作「ゴジラvsスペースゴジラ」でその力量を示し、「王様のレストラン」で高い評価を得て、まさに勢いに乗っていた時期。『機動戦艦ナデシコ』の音楽からは、そんな服部の意気込みが伝わってくる。
 サウンドトラック・アルバムは1996年12月に第1弾「機動戦艦ナデシコ CD-001」がキングレコードから発売された。「CD-001」は劇中のナデシコの機体番号「ND-001」のもじりで、「CD-002」「CD-003」と続くわけではない。三方背スリーブケース入り、CDブックレットとは別に作品の設定やキャラクター&メカニック紹介をまとめた24ページ・フルカラーブックレットが同梱されている。『BLUE SEED』や『新世紀エヴァンゲリオン』のサントラ盤の仕様を引き継いだスタイルで、本作への力の入れようがうかがえる。
 サントラ盤2枚目は「機動戦艦ナデシコ~これがホントの『三枚目』?」のタイトルで1997年6月に発売された。これもスリーブケース入り。放送終了後の発売となったことで、2枚目には最終話までの音楽使用状況が反映されている。ファンにとっては理想的な発売スケジュールと言えるのではないだろうか。
 今回は1枚目「機動戦艦ナデシコ CD-001」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. YOU GET TO BURNING(歌:松澤由実)
  2. スキャパレリ・プロジェクト
  3. Enemy from Jupiter
  4. ナデシコのワルツ
  5. YURIKA
  6. 強襲
  7. ナデシコ発進す!
  8. いまはおやすみを…
  9. チェンジ!ゲキ・ガンガー1.2.3!!
  10. 必殺パワー!ゲキガンパンチ
  11. キョアック星人の野望
  12. 戦いの野に夕陽が沈む
  13. レッツゴー・ゲキ・ガンガー3(歌:金田めろん[タフ・ラフ])
  14. アイキャッチ
  15. Three Angels
  16. ゴート・ホーリー
  17. 哀しい記憶
  18. 戦闘領域突入
  19. アキト、起つ
  20. Go! エステバリス
  21. 虚空のトライアングル
  22. 勇荘なるナデシコ
  23. 新たなる航海
  24. 私らしく(歌:桑島法子)
  25. 次回もみんなでみよう!

 オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌と次回予告音楽で終わる構成。トラック9~13は劇中アニメ『ゲキ・ガンガー3』のBGM集。本編と同じくバラエティに富んだ内容で飽きさせない。
 構成・解説は早川優。ツボを押さえた曲順と文字数オーバーに違いない濃厚な楽曲解説で繰り返し楽しめるアルバムだ。
 オープニング曲「YOU GET TO BURNING」は、『GS美神』(1994)主題歌「GHOST SWEEPER」の作曲や『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)主題歌「残酷な天使のテーゼ」のアレンジなどを手がけた大森俊之の作・編曲。
 TV版はミステリアスなアバンタイトル曲から始まり、トランペットのハイトーンで一気に曲の色彩が変わったあと歌がスタートするのが印象的。本アルバムにはアバンタイトル部分のないフルサイズが収録されている。ここはTVサイズのほうが雰囲気が出たと思うが、サントラ盤の1枚目には主題歌のフルサイズを収録するのが『機動戦士ガンダム』以来のキングレコードの伝統だった。TVサイズは2枚目のアルバム「機動戦艦ナデシコ~明日の艦長はキミだ!」(ソングアルバム)に収録されている。
 トラック2「スキャパレリ・プロジェクト」はアルバム全体のプロローグとなるトラック。曲名はナデシコの初期任務につけられたプロジェクト名。「スキャパレリ」は火星の地図を作ったイタリアの天文学者の名前である。本トラックは2曲を1トラックに編集。1曲目はポップス・オーケストラ風の地球連合司令部のテーマ。雄大で温かみのあるオーケストレーションが服部隆之らしい。2曲目はナデシコの勇姿をイメージしたエモーショナルなテーマだ。
 トラック3「Enemy from Jupiter」は謎の侵略者を描写するミステリー曲。豪快な音楽の印象が強い服部隆之だが、インタビューによれば、「HERO」のような曲は本来の好みではなく、実はすごく暗い世界観が好きなのだそうだ。侵略SFものならではのダークな曲に、「華麗なる一族」などにつながる服部隆之音楽の奥深い面が表れている。
 続く2曲は雰囲気を変えて、優雅な「ナデシコのワルツ」とラウンジ音楽風の「YURIKA」。「王様のレストラン」にも通じる、しゃれたヨーロッパ音楽の味わいがあるナンバーだ。単なるSFアクションものでない『機動戦艦ナデシコ』の音楽設計の妙を感じさせる楽曲である。アルバムの序盤にこの2曲を置いた構成もうまい。
 次のトラック6「強襲」は『ナデシコ』のロボットアニメとしての一面を代表するスリリングな楽曲。2曲を1トラックに編集している。1曲目は木星蜥蜴の出現を描写する曲で、複雑にからみあうオーケストラが得体の知れない敵の襲来を表現する。緊迫感の中に聴こえる軽妙な音の動きに、服部隆之が学んだフランス音楽の香りがただよう。2曲目はナデシコ劣勢を描写する緊迫曲。激しいリズムとかけあいを演じる弦のフレーズは主題歌「YOU GET TO BURNING」のモティーフを崩したもの。ナデシコ危機の場面をたびたび盛り上げた、全編を通して印象深い曲である。筆者お気に入りの1曲だ。
 トラック7「ナデシコ発進す!」はM-1のMナンバーが付された本作のメインテーマ。主題歌のオーケストラによるアレンジ曲である。金管群のファンファーレに始まる堂々たるアレンジでオーケストラが主題を奏していく。演奏時間は3分を超え、聴きごたえ満点。ポップスのアレンジやステージ音楽を手がけてきた服部隆之の手腕が発揮された、まさにメインテーマと呼ぶにふさわしい仕上がりである。
 バンドスタイルによる主題歌の瀟洒なアレンジ「いまはおやすみを……」でアルバムの3分の1が終了。
 トラック9から5曲は『ゲキ・ガンガー3』BGMコレクションになる。
 「テレビ・BGMコレクション ゲキ・ガンガー3」という設定で設けられたこのブロック、早川氏の解説も暴走気味で、『ナデシコ』という作品にふさわしい。
 楽曲は70年代ロボットアニメの典型的スタイルを踏襲。あえてチープな音作りで「100年前のロボットアニメ」の空気感を演出している。
 アイキャッチを挟んで、アルバムは終盤へ。
 服部隆之節全開の軽快なトラック15「Three Angels」から、ブルージーな「ゴート・ホーリー」、ピアノが奏でる悲哀曲「哀しい記憶」とメリハリの効いた曲順でつないでいく構成がいい。
 トラック18「戦闘領域突入」から危機感が盛り上がり、主人公テンカワ・アキトの決意を表現する悲壮な「アキト、起つ」、人型機動ロボット・エステバリスのクールな活躍テーマ「Go! エステバリス」、弦合奏による主題歌のメランコリックな変奏曲「虚空のトライアングル」とドラマティックに展開。SFメカ戦を描くダイナミックな音楽とキャラクターの心情を描く繊細な音楽が対比され、戦場の人間ドラマが際立つ。起伏に富んだ人間ドラマで真価を発揮する服部隆之音楽の魅力が存分に味わえるトラック構成である。
 トラック22「勇壮なるナデシコ」は4分30秒を超える大曲。まるで大河ドラマのテーマ曲のような、本アルバム中の白眉とも呼べる曲である。雄大な曲想の中、ピアノとホルンの音色が深く胸に響く。本作の時点では服部隆之はまだ大河ドラマを手がけていないが、8年後の「新選組!」、20年後の「真田丸」での活躍を予感させるトラックだ。
 サウンドトラック・パートの締めくくりは、大団円を思わせる主題歌のロマンティックな変奏曲「新たなる航海」。これも4分50秒に及ぶ長い曲で、オーケストラ音楽の醍醐味をたっぷり味わうことができる。

 音楽、パッケージ、解説と三拍子がそろったアルバムである。服部隆之の初期作品としても、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』へとつながる音楽性がすでに表れていて聴き逃せない。90年代アニメ音楽を代表する名盤のひとつと呼んでよいだろう。何より、悠々たるサウンドを聴かせる服部隆之の音楽に名盤の「風格」がただよっている。サントラ2枚目「これがホントの『三枚目』?」には、追加録音曲やエキストラ曲もフォローされているので、ぜひ、2枚セットで聴いていただきたい。

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