COLUMN

第503回 デジタル化でお仕事

マンガ家はお話を考えてコマ割りして画を描く人。
じゃ、アニメ監督は何する人?

 自分が中学の時から、もしかすると今でも考えてる疑問です。この連載でも折に触れて話題にしてきたと思いますが、俺自身この仕事を目指すきっかけは、出崎統監督の一言。たしか中学生の頃に読んだ「アニメージュ」の出崎監督特集でのインタビュー記事で、監督自身が「アニメにはまったきっかけ」について

初めてコンテを切った時、「これはマンガと同じだ! しかも動いて音まで付く。なんて面白い仕事だろう!」と思いました

と。正確な言い回しかはともかく、こんな内容の事を仰っていたのは間違いありません。これはマンガ家出身の出崎監督らしい素直な感想だったのでしょう。実際、小難しい哲学などを交えつつ「今の子どもたちに対して描くべきテーマが云々」とか語られるより、当時中学生だった自分には、出崎監督の言った「なんて面白い仕事」の方が余程響いたのです。だってその一言のおかげで板垣は監督をやってるのですから。90年代に向けて評価が高まっていった「アニメ文化人」監督の方々による映像・映画哲学談義に、大して傾倒しなかった自分にとって、アニメとは観念である前に実務! そう感じたから出崎監督の「描く力」に惹かれたし、アニメーターから監督になったんだと思います。

そこで監督業のデジタル化です!

 まず手始めに社内の新人たちの後を追うかたちで、去年の7〜8月から自分もデジタル作画にし、レイアウト・原画チェックをPC+タブレットでやれるようにしました。さらに10月から『ベルセルク』のコンテもデジタル化。たしか第16話(2期第4話)からですが、この時はまだ作画ツールで描いてるだけで、ただのペーパーレス化。で、今年に入ってからは本格的にデジタル絵コンテツール

「STORYBOARD PRO」を使ってコンテ切ってます!

これがいいのはコンテを描いた端からタイムラインに並んでいき、コンテが上がると同時に「コンテ撮」が終わってるトコ。もちろん賛否はあると思いますが、単純な話、音響スケジュールのために生まれた「コンテを撮影する」などという日本アニメ業界の悪癖にいつまでも費用をかけるべきですか? その他のチェック工程もデジタル化で各セクションの仕事内容を見直し、構造改革をして

ちゃんと使うべきところに費用を使った上で作品を作り、「えっ!? 今までの制作費でここまでできるの!?」と周りに思わせて、初めて「もっとよい作品を作るには〜」と前よりも高い制作費を要求できるし、現場のスタッフにも労働に見合ったギャラを出せるようになるのではないか!?

と。そこを現場に説明した上で、スタッフに「今までとちょった違った作り方になるけど、チャレンジしてみよう!」と促す。これを企業努力というんだと思います。その努力をせずに、一部の監督や有名アニメーターにだけ金が流れるのが目に見えてる会社に対して、制作費って集まるんでしょうか? だから板垣は仕事を受けるとギャラ云々より先に

とやり取りが成立するプロデューサーと仕事をしたいし、これからのアニメ制作のためにちゃんとしたプランを持った会社で作品を作りたいんです。

 あと、今のアニメ作りに窮屈を感じてるアニメ業界人の方々には「90年代のアニメ作り」を一旦忘れる事をお勧めします。実写映画の業界もそうだと思うのですが、ひねたクリエイターが「昔はよかった!」を10〜20年説いてる間に、若き天才が現れるもの。旧態依然なアニメ作りに拘る業界人の眼前に

アレ? プロのアニメクリエイターを名乗っておきながら、
コンテしか描けないんですか!?

と言って現れる新卒が業界入りしてくる近い将来が目に浮かぶんです。だって、それくらいなんでもできるアニメツールを小学生の時から触ってアニメを作って業界に入ってくるんですから! もちろん観念も育む必要はありますが、デジタル化による実務の勉強もしておかないと足元をすくわれるのでは?