腹巻猫です。昨年10月から放送中のTVアニメ『タイガーマスクW』のサウンドトラック・アルバムの発売日が発表されました。4月26日、キングレコードより発売。音楽は、『NARUTO疾風伝』や『FAIRY TAIL』、「プリキュア」シリーズ等で熱いバトル曲を書き続けてきた高梨康治。現代の『タイガーマスク』サウンドの作り手としてこれにまさる作家はいない! と期待が膨らみます。
タイガーマスクW オリジナル・サウンドトラック
http://www.amazon.co.jp/dp/B06W2LY184/
『タイガーマスクW』の主題歌には1969年から放送された初代のTVアニメ『タイガーマスク』の主題歌がアレンジを一新して使用されている(ボーカルは湘南乃風)。劇中にも主題歌のメロディを使った音楽がたびたび流れ、初代アニメ版のファンには涙ものだ。
今回は、初代TVアニメ『タイガーマスク』の話。
TVアニメ『タイガーマスク』は梶原一騎(原作)・辻なおき(作画)による漫画原作を東映動画(現・東映アニメーション)がアニメ化した作品。1969年10月から1971年9月まで、よみうりテレビ系で全105話が放送された。
悪役レスラー養成機関・虎の穴出身のレスラー・タイガーマスクが虎の穴を裏切り、次々と送り込まれる虎の穴の刺客と死闘を繰り広げる物語。悪役レスラー対タイガーマスクの壮絶な戦いとともに、社会問題を扱ったエピソードやタイガーマスク=伊達直人と子どもたちとのふれあいを描く抒情的な一面が心に残る。同時期に放送された『巨人の星』『あしたのジョー』等とともにスポ根アニメの一角を占める作品であるが、内容はスポーツ根性ものの範疇には収まらない。仮面のヒーロー対仮面の悪役の構図は、むしろ変身ヒーローものに近い。
そう、『タイガーマスク』は「仮面ライダー」(1971)に始まる変身ヒーロー番組の原型ともなった作品なのだ。組織を裏切った主人公が、組織から送り込まれる刺客と孤独な戦いを続けていくというプロットは『サイボーグ009』から見られるし、そのルーツは時代小説や時代劇の抜け忍ものにあるのだろうが、それをグロテスクとも見える仮面対仮面の闘いとして描いたところに子どもたちは食いついた。このプロットとヒーロー像は「仮面ライダー」『デビルマン』(1972)に受け継がれていく。
本作の音楽を菊池俊輔が担当したことは運命的である。菊池俊輔こそ、「仮面ライダー」シリーズを始めとして、70年代変身ヒーローブームを音楽面で支えた立役者のひとりだからだ。「超人バロム・1」(1972)、「変身忍者嵐」(1972)、「アイアンキング」(1972)、「ロボット刑事」(1973)、「ジャンボーグA」(1973)、「鉄人タイガーセブン」(1973)、「電人ザボーガー」(1974)などなど。制作会社もレコードメーカーも異なるさまざまな作品の音楽を菊池俊輔は一手に手がけた。『タイガーマスク』の音楽には、菊池ヒーロー音楽のプロトタイプが刻まれている。本作なくして、「仮面ライダー」も『ゲッターロボ』も、もしかしたら「暴れん坊将軍」もなかったかもしれない。それほど重要な作品と言っても言い過ぎではないだろう。
菊池俊輔は1931年生まれ、青森県弘前市出身。少年時代から映画の魅力に取りつかれ、映画音楽の作曲家を志して、日本大学芸術学部作曲科に進む。卒業後、木下忠司に師事し、1961年公開の東映作品「八人目の敵」で映画音楽作曲家として一本立ちした。その後、時代劇、任侠もの、サスペンス、アクション、怪奇、SFなど、娯楽作を中心に多彩なジャンルの映画音楽を手がける。特撮ファンになじみ深いのは、東映の「海底大戦争」(1966)、松竹の「吸血鬼ゴケミドロ」(1968)、大映の「ガメラ」シリーズ(「ガメラ対大悪獣ギロン」[1969]から担当)などだろう。
TVドラマは1963年の「野菊の墓」を皮切りに、「遠山の金さん」(1975)、「暴れん坊将軍」(1978)などの時代劇、「キイハンター」(1968)、「Gメン’75」(1975)などの探偵・刑事ドラマ、「赤い」シリーズ(1975-1980)や「スチュワーデス物語」(1983)に代表される大映ドラマなどで活躍。「砂の器」(1977)などシリアスな作品も手がけた。
1965年の『宇宙パトロールホッパ』で初めてTVアニメの音楽を担当。『タイガーマスク』を経て、70年代以降は『バビル2世』(1973)、『侍ジャイアンツ』(1973)、『ミラクル少女リミットちゃん』(1973)、『新造人間キャシャーン』(1973)、『てんとう虫のうた』(1974)、『ゲッターロボ』(1974)、『UFOロボ グレンダイザー』(1975)、『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』(1975)、『ドカベン』(1976)、『大空魔竜ガイキング』(1976)、『闘将ダイモス』(1978)、『ドラえもん』(1979)、『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981)、『DRAGON BALL』(1986)など、数えきれないほどの作品を手がけた。
TV音楽で活躍した作家は多いが、菊池俊輔ほど多彩なジャンルの作品を手がけ、それぞれのジャンルでヒット作を生み出した作家はいないだろう。作品数もおそらく日本一で、1960年代後半から『ドラえもん』の音楽担当が沢田完に交替する2005年まで、TVでは毎週どこかで菊池俊輔の音楽が流れ続けていた。
『タイガーマスク』の音楽の初商品化は、1979年に日本コロムビアから発売された2枚組LPアルバム「テレビオリジナルBGMコレクション 菊池俊輔の世界」(『新造人間キャシャーン』『ゲッターロボ』『UFOロボ グレンダイザー』と混載)。このアルバムは1991年に「菊池俊輔BGMコレクション」のタイトルでCD化された。1997年には東芝EMIから「懐かしのミュージッククリップ(11) タイガーマスク」が発売されている。残念ながら現在は、どちらの盤も入手困難になっている。
BGMの収録曲数は、「菊池俊輔BGMコレクション」が35曲(LPでは28曲だったがCD化の際に7曲が追加された)、「ミュージッククリップ」が34曲。ダブっている曲は7曲しかないのでファンは両方買わないといけない。今回は「BGMコレクション」の内容から紹介しよう。
収録内容は以下のとおり。
1.オープニング・テーマ
タイガー・マスク(TVサイズ)
2.テーマ・ヴァリエーション
(1)タイガー・マスクは行く (2)去りゆくタイガー・マスク (3)みなしごのバラード
3.アクションBGM
(1)勝ち進むタイガー・マスク (2)「虎の穴」の訓練 (3)対立 (4)対決の時 (5)迫る悪の影 (6)悪の攻撃
4.情景描写BGM
(1)スリラー (2)忍び寄る影 (3)悪の行動 (4)尾行 (5)「虎の穴」の恐怖
5.心理描写BGM
(1)緊迫 (2)孤独 (3)悲しみのライバル (4)暗い過去
6.人物その他のテーマ
(1)直人ひとりさびしく (2)ルリ子寂しく (3)虎の穴
7.ブリッジ・コード
(1)〜(5)
8.エンディング
(1)緊張高まって (2)静かに
9.エンディング・テーマ
みなしごのバラード(TVサイズ)
〈ボーナス・トラック〉
19.「タイガー・マスク」未収録音楽
(1)I-7A (2)F-28 (3)Q-5 (4)I-12 (5)I-10 (6)I-13 (7)A-8+A-7
※本アルバムでは「タイガー・マスク」とナカグロ入りで表記されているので、そのまま記載した。
BGMをカテゴリ別にまとめた構成。複数曲が1トラックに収録されているので、お気に入りの曲を聴きたいときにすぐたどりつけないのが難だ。この点は「ミュージッククリップ」も同様だった。観賞用のアルバムというより、音楽資料集とでもいうべきまとめ方になっている。
しかし、選曲はなかなか充実している。『タイガーマスク』を観ていたファンなら印象に残っている曲が厳選されている。CD化の際に加えられたボーナス・トラックもツボをついた内容だ(ボーナス・トラックの選曲は早川優氏)。
まずは主題歌である。マカロニウェスタン調のオープニングテーマ「タイガーマスク」。子ども心にこの曲調には魅了された。もちろん「マカロニウェスタン」なんて言葉も知らない頃だが、「なんてカッコいい音楽だろう」とひたすら聞き入っていた。なお、曲名は「行け!タイガーマスク」と表記される例もあるが、JASRACには「タイガーマスク」で登録されている。
1コーラスがわずか16小節。短いのでTVサイズでは2コーラス歌われている。短い中にドラマがぎゅっと詰まった名旋律だ。注目してほしいのが流麗なストリングスが奏でる前奏部分。哀愁をたたえた美しいメロディが影のあるヒーローの登場を印象づける。これぞ菊池節の神髄と言いたくなる聴きどころである。
BGMでは、この主題歌のメロディがさまざまにアレンジされて登場する。マーチ風、スローバラード風、ウェスタン風、メロディくずしなど、菊池俊輔のアニメ・特撮音楽のスタイルがほぼできあがっている。
トラック2「テーマ・ヴァリエーション」に収録された1曲目「タイガー・マスクは行く」は悲壮感のあるマーチ風アレンジ。2曲目「去りゆくタイガー・マスク」はハーモニカとギター、ビブラフォンなどによる哀愁に満ちたバラード風アレンジ。アレンジによって表情が変わるのが菊池メロディの味わい深いところだ。ボーナス・トラックの7曲目にはエレキギターとトランペットによるインストゥルメンタルが収録されていて、「これだよ、これ!」と胸が躍る(ちなみにこれはギター・メロの曲(A-8)とトランペット・メロの曲(A-7)の2曲を1曲に編集したもの)。
エンディングテーマはアコースティック・ギターとハーモニカの伴奏が印象的な「みなしごのバラード」。3拍子と4拍子を行き来する、意外と複雑な構成の歌である。
オープニングとは雰囲気をがらりと変えた寂しげなバラード。オープニングが明でエンディングが暗。タイガーマスクと伊達直人の対比を音楽でも表現する試みだ。エンディングが静かなバラードというのは当時はまだ珍しく、本作以降、ひとつの定型になっていく。
「テーマ・ヴァリエーション」の3曲目「みなしごのバラード」はトランペットがメロディを奏でるインストゥルメンタル。このテーマは、トランペット、アコースティック・ギター、ビブラフォン、口笛、ピアノなど、さまざまなソロ楽器によるバージョンが作られている。
菊池ファン待望のトラックがトラック3「アクションBGM」だ。軽快なウェスタンのリズムが躍動感を生む1曲目「勝ち進むタイガー・マスク」はトランペットとフルートのかけあいが印象的。1コーラス目と2コーラス目の間にホルンとティンパニの間奏が入る。ここが菊池アクション曲らしくて実にいい。2曲目「「虎の穴」の訓練」は悪の陰謀が進行するイメージの曲。ブラスとエレキギターのアンサンブルは「仮面ライダー」等の悪のサウンドに受け継がれている。トランペットの歪んだ音色が不気味な雰囲気をかもし出すのは、菊池俊輔の怪奇作品やアクション作品でも聴かれる手法だ。続く「対立」「対決の時」「迫る悪の影」「悪の攻撃」も、変身ヒーローものの怪人登場曲をほうふつさせるサスペンス曲である。
ボーナス・トラックもアクションBGMで構成されている。1曲目(I-7A)はギターによるマカロニウェスタン調の曲。愁いを帯びたメロディが超絶にカッコいい。2曲目(F-28)と3曲目(Q-5)はサスペンス、4曲目(I-12)は1曲目の雰囲気を受け継ぐマカロニウェスタン風の勇壮な曲。タイガーマスクの緊迫した戦いぶりが目に浮かぶ。5曲目(I-10)と6曲目(I-13)は激しい危機描写曲となり、最後はタイガーマスクの勝利をイメージしたオープニングテーマ・アレンジ(A-8+A-7)で締めくくられる。ドラマを感じさせる曲順で、このトラック単体でも聴きごたえがある。
トラック4「情景描写BGM」もサスペンス系の曲が選曲されており、本アルバムの選曲コンセプトがタイガーマスク対虎の穴の闘いに焦点を絞ったものであることがわかる。
しかし、アクション、サスペンス系の音楽にばかり気をとらわれていては、菊池音楽の重要な魅力がこぼれ落ちてしまう。トラック5「心理描写BGM」に収録された「孤独」「悲しみのライバル」、トラック6「人物その他のテーマ」に収録された「直人ひとりさびしく」「ルリ子寂しく」などを聴いていただきたい。『タイガーマスク』の音楽の抒情的な一面を代表する楽曲である。
菊池俊輔のメロディはバラードにしたときに本領を発揮する。アクション曲ばかりが注目されがちだが、日本人の心の琴線にふれる抒情的な旋律こそ、菊池音楽の持ち味なのだ。そのメロディは「東北の匂いがする」と語られることもある。アクションでも、人間ドラマでも、メルヘンでも、ギャグでも、あらゆるジャンルの作品に菊池俊輔の音楽がフィットし、世代や性別を超えて愛されてきたのは、菊池節と呼ばれるメロディの力があったからこそだろう。アクションと叙情、光と影のふたつの面がひとつの作品の中に同居しているのが菊池俊輔のヒーロー音楽の魅力なのである。
『タイガーマスク』は菊池俊輔ヒーロー音楽の原点となった重要な作品だ。菊池俊輔の……というよりも、日本の変身ヒーロー音楽はここから始まった。その音楽が、手軽に聴けない現状は何かが間違っているとしか思えない。もう数年で、TVアニメ『タイガーマスク』の放送開始から50周年になる。そのときまでに、2枚組以上で構成した『タイガーマスク』単独サントラを実現してほしい……実現しなければ、と思うのだ。