COLUMN

第101回 官能のステージミュージック 〜真マジンガー 衝撃!Z編〜

 腹巻猫です。3月4日に渋谷で開催された「渡辺宙明スペシャルコンサート」、すばらしかったです。トランペットにエリック・ミヤシロ、トロンボーンに中川英二郎という日本最高峰の奏者を迎えたオーケストラの演奏に大興奮でした。その興奮冷めやらぬ3月12日に「渡辺宙明トークライブPart10」が阿佐ヶ谷ロフトで開催されます。SOUNDTRACK PUBレーベル最新作「渡辺宙明コレクション ガードドッグ/おーい!太陽っ子」の先行販売もあり。コンサートの余韻を胸に、ぜひご来場ください!

「渡辺宙明トークライブPart10 〜宙明サウンドのディープな世界〜」
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/58961


 「渡辺宙明スペシャルコンサート」でも大きくフィーチャーされていた渡辺宙明の代表作『マジンガーZ』。その原作を再び映像化した作品が2009年にTVアニメとして制作されている。2009年4月から9月まで全26話が放送された『真マジンガー 衝撃! Z編』である。
 監督は『機動武闘伝Gガンダム』(1994)、『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』(1994-1998)、『鉄人28号』(2004)等を手がけた今川泰宏。デザインや雰囲気は永井豪のマンガ版『マジンガーZ』に寄せつつも、独自の設定を多数盛り込み、誰も観たことがないストーリーを展開した意欲作だった。
 本作には1972年の元祖TVアニメ版『マジンガーZ』の影はない。音楽も変わった。音楽を担当したのは宮川彬良。『宇宙戦艦ヤマト』で知られる宮川泰の息子である。
 宮川彬良は1961年、東京生まれ。音楽一家に育ち、東京藝術大学音楽学部作曲科に進む。在学中から東京ディズニーランドのショー音楽などを手がけてプロとして活躍。学業より仕事が忙しくなって大学は中退してしまう。この頃に宮川彬良の仕事を手伝い、東京ディズニーランドの仕事を引き継いだのが、同じ東京藝術大学の後輩・佐橋俊彦だった。
 宮川彬良は高校生時代から父の『宇宙戦艦ヤマト』の音楽作りも手伝っていた。『さらば宇宙戦艦ヤマト』のパイプオルガンの演奏をした話はヤマトファンの間では有名だし、いくつか曲も提供している。
 が、宮川彬良は父のように歌謡曲や映画・TV音楽を主な仕事の舞台にはしなかった。彬良が選んだのはミュージカルなどの舞台・ショー音楽の世界。彬良は舞台音楽の第一人者としてメキメキと頭角を現していった。2004年には松平健の公演用に書いた「マツケンサンバII」が大ヒット。宮川彬良本人もTVやステージへの露出が増え、父ゆずりのサービス精神にあふれたトークとパフォーマンスを見せる機会が多くなった。近年は吹奏楽コンサートやサックス奏者・平原まこととのデュオによる「ふたりのオーケストラ」コンサートなど演奏活動も精力的に行っている。
 アニメの仕事では『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』(1992)、『星のカービィ』(2001)、『風の少女エミリー』(2007)などを手がけた。そして、2012年に『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽を担当。現在は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽を担当しているのはアニメファンならご存知のとおり。

 宮川彬良のアニメ作品の中でも『真マジンガー 衝撃!Z編』はちょっと意外な印象を受ける作品である。なにより、元祖『マジンガーZ』の渡辺宙明の音楽のイメージが強すぎて分が悪い。が、無心に聴いてみると、これはこれでいい。渡辺宙明とは別のアプローチによる、独自の魅力を持った作品になっている。
 筆者は本作の放送前に、宮川彬良に本作の音楽について聞いてみたことがある(正式の取材ではなくて、宮川彬良が出演したライブハウスの楽屋でだった)。そのとき、宮川彬良は面白い話をしてくれた。
「自分も子どもの頃に『マジンガーZ』を観ていて、渡辺宙明先生の音楽は印象に残っている。宙明先生の音楽はちょっとエロい。そのエロい感じを自分の音楽にも忍ばせてみた」
 「エロい」ではなく「色気がある」という表現だったかもしれない。とにかく、そんな意味のことを語ってくれた。
 たしかに渡辺宙明の音楽にはある種の官能性がある。その官能性に着眼して新しい『マジンガーZ』の音楽を紡いだというのだ。
 宮川彬良のちょっとエロい『マジンガーZ』。これは聴いてみたいではないか。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、2009年6月に「TVアニメ『真マジンガー 衝撃!Z編 on television』オリジナルサウンドトラック Vol.1」が、2009年10月に同「Vol.2」が、ランティスから発売されている。
 Vol.1から紹介しよう。収録内容は以下のとおり。

  1. 全能なる者
  2. 感じてKnight(TV size)(歌:ULTIMATE LAZY for MAZINGER)
  3. 戦士たちのレクイエム
  4. 敵軍侵攻!
  5. 迎撃戦線
  6. 兜甲児は止まらない!!
  7. 兜甲児は止まらない!!(リズムバージョン)
  8. バードス島
  9. ブロッケン・ワルツ
  10. 暗黒寺
  11. 兜十蔵
  12. 兜シロー
  13. 兜シロー(リズムバージョン)
  14. 錦織つばさ
  15. シュトロハイム
  16. くろがね屋の野郎ども
  17. それぞれの闘い
  18. 緊迫感
  19. Dr.ヘルの脅威
  20. Dr.ヘル
  21. 困惑と謎
  22. 危機感
  23. 響き止まぬ行軍歌
  24. 立ち上がれ、怒りと共に!!
  25. 進軍!ブロッケン伯爵
  26. Hurry UP!
  27. 出撃!パイルダー!!
  28. 燃えよ闘志!!
  29. 侵略作戦
  30. 漆黒の翼
  31. Brand new world(TV size)(歌:麻生夏子)

 2曲目と31曲目がオープニング&エンディング主題歌。主題歌の作曲は宮川彬良ではない。
 1曲目の「全能なるもの」は、マジンガーZがジェットスクランダーと初めて合体するシーンや科学要塞研究所が姿を現す場面に流れた短い曲。この曲がプロローグとなり、主題歌につながる。マジンガーZの無敵のパワーを強調する導入部である。
 主題歌が終わると、女声ボーカルとチェンバロがフィーチャーされたクラシカルな「戦士たちのレクイエム」が流れる。第2話の冒頭シーンや第3話でマジンガーZがブレストファイヤーを放つシーンで流れた曲である。最終話ではDr.ヘルが古代ミケーネ人を虐殺する回想場面に選曲された。マジンガー軍団とDr.ヘルとの壮絶な死闘を彩る曲だ。
 この1曲で、「元祖『マジンガーZ』とは音楽もまったく別物」という印象が際立つ。オペラ的なイメージの、宮川彬良らしい曲である。
 トラック4「敵軍侵攻!」にも宮川彬良の独自性が発揮されている。敵の侵攻を描写するサスペンス音楽だが、ギターとベースが刻むリズムは軽快で、思わず体をゆすりたくなるような高揚感がある。
 トラック6「兜甲児は止まらない!!」は軽快なファンク・ロック風の曲。アクション曲ではあるが、この曲も踊りたくなるようなダンサブルな曲調に仕上がっている。
 トラック27「出撃!パイルダー!!」も同様の雰囲気の曲。マジンガー出撃シーンなどによく使われたメインのアクションテーマだが、テンポはミディアムに近く、スピード感よりもダンスミュージック的な躍動感が感じられる。
 本作の音楽を代表する曲と呼べるのが、トラック9「ブロッケン・ワルツ」である。タイトルどおり、3拍子のワルツの曲だ。
 「『マジンガーZ』にワルツ!?」と意表をつかれるが、これがDr.ヘルとあしゅら男爵の登場シーンやマジンガーZ対機械獣の戦いの場面などに選曲されて、抜群の効果をあげている。緊迫した戦いの場面が、まるで舞台の上の1シーンのように見えてくる。
 実は『真マジンガー 衝撃!Z編』の音楽には、こうしたワルツの曲やミッドテンポのダンスミュージック的な音楽が目立つのである。
 トラック12の「兜シロー」は哀愁を帯びたジンタ風。ジンタというのはサーカスや芝居小屋などの客寄せに使われた大衆音楽だ。
 トラック15の「シュトロハイム」もワルツの曲。科学者シュトロハイム・ハインリッヒがミケーネ人の伝説を語る場面や兜十蔵とDr.ヘルの回想シーンなどに流れた。最終話では、あしゅら男爵の復活の秘密が語られるバックに使用。悲劇的でありながら、どこか甘美な抒情性がある。「ブロッケン・ワルツ」とともに印象に残る曲である。
 「オリジナルサウンドトラック Vol.2」に収録された「ゴッドスクランダー」も、曲名から受ける勇ましい印象を裏切るワルツの曲だ。マジンガーZの戦闘シーンや最終話でDr.ヘルが地獄王ゴードンを駆って科学要塞研究所を襲うシーンなどに使用された。
 元祖『マジンガーZ』では、マジンガーZの出動シークエンスにマカロニウェスタン調の「Zのテーマ」が流れてパイルダーオンの場面を大いに盛り上げていたが、本作では、それに相当するようなアップテンポの疾走感のある曲は登場しない。
 代わりに、ワルツやミッドテンポのダンサブルな曲が戦闘シーンや緊迫したシーンに流れている。
 ロボットアニメ音楽でよく聴かれる、激しく荒々しいサウンドや重量感のあるサウンドも、本作ではほとんど聴かれない。アクション曲でも、軽快で洗練されたサウンドに仕上げられている。そして、ちょっと大人びた香りがする。
 これって、ロボットアニメの音楽というより、ミュージカルの音楽のようではないか。

 カット割りやカメラワークで見せる映画の音楽とステージの音楽とでは、求められるテンポやリズムが異なる。舞台で生身の人間が動いたり歌ったりするときには、足運びや呼吸といった肉体性に沿った音楽が必要だ。ワルツなどのダンス音楽はまさにそういう音楽なのである。
 そして、肉体性は官能性に通じる。ステージの上の肉体を気持ちよく動かすテンポやリズム。さらに、ブロードウェイ的な華やかさと大人の香りをまとったサウンド。これが、宮川彬良が到達した自分の音楽だったのではないだろうか。
 ジャズとロックをベースにした渡辺宙明の先鋭的な音楽とも違う。歌謡曲的な大衆性で多くの人に親しまれた父・宮川泰の音楽とも違う。
 洗練されたサウンドと官能性をあわせ持った「アキラさんの音楽」が、『真マジンガー 衝撃!Z編』には結実している。
 そんなことを意識して聴いてみると、『真マジンガー 衝撃!Z編』の音楽も、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽も、宮川彬良ならではの独自の魅力を放つ作品として聴こえてくるのだ。

TVアニメ『真マジンガー 衝撃!Z編 on television』
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