COLUMN

第486回 アニメとお金

 タイトルはいちいち言いませんが、近頃アニメ映画がかなり大ヒットしてたりします。これは当たり前ですが、アニメ業界にとってはいい話に決まっているし、自分も喜んでおります。中には「次こそは僕も大ヒットを飛ばしてナントカ賞をもらって文化人の仲間入りを!」と野心を燃やしてたり、「俺だってチャンスさえあれば!」と嫉妬(?)したりの「作家」扱いされたがってるアニメ監督さんもいるようですが、板垣には縁のない話。何故なら俺は、この連載でも10年近く言い続けてるとおり「作家」→「賞」→「権威」→「金」には全く興味がないからです。あ、一応前もって言っておきますが、それらに拘る監督さんが悪いなどと言うつもりはもーとーありません! 他人の価値観をとやかく否定してもしょうがないですから。あくまで板垣個人の話です、ここからは。
 思えば自分の金銭感覚は、大概の人と同様に家庭環境に因るもので、単純に「貧乏」で「学のない家系」と整理できるでしょう。ま、食うのに困るくらいの貧乏ではなかったから、「金持ちじゃない」が丁度いい表現かもしれません。で、学のなさは、少なくとも自分が実家を出るまでの18年間で、両親とも本1冊読んでるトコを見た事がないし、もちろん活字の本は家に1冊もなかった程度。あと、東北の田舎育ちの父と母は、中学もろくに通わせてもらえず、家の手伝いばかりだったと聞きます。よって自分が活字を読む楽しさを知ったのは高校2〜3年くらいからと、「学歴社会」だ「受験戦争」だ言われた我々第2次ベビーブーム世代の中ではやや遅かったと思います。だから俺の人生では、親と学問らしい学問の話をした記憶は皆無。ゆえに東京で一人暮らしをするまでは、両親に対して感謝はするも尊敬はしていませんでした。「一人暮らしをするまでは」と限定したのは、今はそう思ってないからで。
 あれは専門学校を卒業して寮を出て、アパートを探し契約する際、連帯保証人の年収を書く欄があり、母親に電話したんです、「年収は?」と。すると意外なほど安い額を言われ(早い話、アニメーターでも動画マンくらいの年収)、キョトンとなって「そんなハズないでしょ!」とちょっと語気を荒げました。さらに母は「今は定年延長してるから半分になってるけど、あんたらが子どもの時だってそんなに稼いどらんって」と。訊けばいちばん貰ったピークですら今の俺の半分以下の年収だったのです。

その時、心底両親を尊敬しました!

 だって、その低収入で俺ら3人(姉・自分・妹)を不自由なく育て上げたうえ、3人とも大学進学もしくは専門学校に進学できるくらいの貯金もしてくれたんですから。特に母はパートで家計を補いつつも、趣味でバレーボールをやったり、友人とお茶したり、毎日楽しそうに過ごしているとしか、少なくとも俺の目には映っていませんでした。「伸を遊びに連れてって!」と母に言われて、シブシブ俺の手を引いて連れて行く先が、いつもパチンコ屋、立ち飲み屋だった父の事も、今ではなんとなく理解できるようになってますと。
 そんなわけで、自分にとって何千万〜何億といったアニメの制作費を雑に使うなんて考えられないし、「こんなに安いの受けなきゃいいだろ!」とか先輩監督から説教されても、俺はなんとかやろうとしてしまうんです。特にとても普通のアニメ監督風情が工面できないほどの金が動いて作った作品を「僕の作品」「君の作品」などと言い合って監督同士が楽しく批評し合うなんて、

自分の名前ひとつで全制作費を集める事ができるほどの大監督になって、ようやくその資格を持てるのであって、普通の(並の)監督は己で作ってるアニメが個人の「作品創り」である前に「会社の一大事業」だという緊張感を持って仕事をすべきだと思う!

んです。つまり、板垣にはその資格がありません。同年代の監督様たちはどうお考えでしょうか? ま、俺が小心者なだけなんでしょうね。