腹巻猫です。6月1日に発売されたCD「Dr.スランプ アラレちゃん んちゃ!ベスト」の選曲とテキストを担当しています。1981〜86年に放送されたTVアニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』の放映35周年記念ベスト・アルバム。主題歌全6曲にシングル盤で発売された挿入歌と劇場版主題歌を加えたシングル・コレクション的選曲にしました。さらにCDの後半には、1997年放送のリメイク版『ドクタースランプ』の主題歌・挿入歌を全曲収録! 『ドクタースランプ』の歌が1枚のアルバムにまとまるのは初の快挙なんです。旧作ファンも新作ファンも、手に取っていただきたいです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B01FESSFJK/
6月22日発売予定の「ベルサイユのばら 音楽集[完全版]」を紹介する番外編の第2回。3枚組の各ディスクの収録内容がユニバーサルミュージックのサイトにUPされている。なお、ユニバーサルミュージック通販サイトだけの特典もつく予定だそうだ(近日発表予定)。 http://www.universal-music.co.jp/p/UPCY-9490/
今回は、DISC1の内容について紹介したい。DISC1は放送当時発売されたアルバム「ベルサイユのばら オリジナル・サウンドトラック 薔薇は美しく散る」のリマスター復刻にカラオケなどを加えた構成である。
「ベルサイユのばら オリジナル・サウンドトラック 薔薇は美しく散る」は1979年12月1日にキティレコードから発売されたLPアルバム(品番:MKA7002)。主題歌2曲と挿入歌4曲、BGM3曲が収録されている。
オリジナル盤の収録内容は以下のとおり。
1.薔薇は美しく散る(歌:鈴木宏子)
2.情熱の紅いばら(BGM/ナレーション:田島令子、志垣太郎)
3.愛ゆえの哀しみ(歌:鈴木宏子、田島令子)
4.MAGICAL ROSE(コーラス:ブロウニー)
5.星になるふたり(C’est Toi)(コーラス:ブロウニー)
6.麗しき人よ!(BGM/ナレーション:上田みゆき)
7.私はとらわれびと(歌:鈴木宏子)
8.優しさの贈り物(BGM)
9.愛の光と影(歌:鈴木宏子)
LPでは1〜4がA面、5〜9がB面だった。
オープニング主題歌「薔薇は美しく散る」から始まり、挿入歌、BGMをバランスよく配して、エンディング主題歌「愛の光と影」で締めくくる構成。作・編曲は全曲、馬飼野康二が担当している。
オープニング「薔薇は美しく散る」は、ストリングスのドラマティックな駆け上がりからディスコ調のリズムに転じる華麗なアレンジの歌。チェンバロの響きがなんとも切なく、甘い。この作品がデビュー作となった鈴木宏子の歌唱も、愁いを湛えた大人びた味わい。同時期のアニメソングの中でもとびきりノーブルなサウンドの名曲だ。コーダにアンドレ役・志垣太郎のナレーションがひと言(「ジュテーム、オスカル!」)入って余韻を残す。
エンディング「愛の光と影」は、アンドレの視点でオスカルへの想いを歌う切ないバラード。ボーカル以上に耳に残るのが、間奏とコーダに挿入される志垣太郎のナレーション(セリフ)だ。TVでは、第21話までナレーション入りが使われ、22話以降はナレーションのないバージョンに変更された。アニメ版『ベルばら』といえば、このエンディングのアンドレのセリフを思い出す人もいるのではないだろうか。
挿入歌は、しっとりした「愛ゆえの哀しみ」、ディスコ調の「MAGICAL ROSE」「星になるふたり」、ポップス風の「私はとらわれびと」と曲調はさまざまなれど、どれもロマンティックな仕上がり。とりわけ、70年代クロスオーバー・サウンドの雰囲気を残す「MAGICAL ROSE」は馬飼野康二ならではのヨーロッパ風ディスコ。『ベルばら』にディスコ? と意表をつかれるが、それも含めて、アルバムのハイライトと呼べる1曲である。
残念ながら、4曲の挿入歌はいずれもアニメ本編では一度も使われなかった。18世紀フランスの王宮のドラマに、ポップス風の挿入歌はやはりそぐわなかったのかもしれない。
3曲のBGM「情熱の紅いばら」「麗しき人よ!」「優しさの贈り物」は、どれも約3分から5分の長い曲で、当初からアルバム収録を前提として作曲されたことがうかがえる。こちらは劇中でも使用され、けっこう重要な場面で流れている。
『ベルサイユのばら』のBGMでステレオで聴けるのはこの3曲だけである。その点はすごく貴重なのだが、「情熱の紅いばら」と「麗しき人よ!」にはナレーション(セリフ)が重なるのが、純粋に音楽を楽しみたいファンには少しもやもやするところだった。
このアルバム、なんといっても注目してほしいのはそのサウンドである。ポップ・クラシックともいうべき品格のある華麗なサウンドは、当時のアニメ音楽の中でも異色の大人びた雰囲気を持っている。演奏に参加したミュージシャンは、馬飼野康二が当時いつも一緒にレコーディングしていたという一流スタジオ・ミュージシャンばかり。音楽アルバムとしても聴きごたえのあるクオリティの高い作品だ。
発売元のキティレコードは、アニメ版に先駆けて公開された実写劇場作品「ベルサイユのばら」のサウンドトラック・アルバムも発売している。こちらの音楽はフランス映画音楽の巨匠ミシェル・ルグラン。アルバム「ベルサイユのばら オリジナル・サウンドトラック 薔薇は美しく散る」のサウンドは、そのミシェル・ルグランやレイモン・ルフェーベルなどのフランス・シネ・ミュージックやイージーリスニングのサウンドを意識したのではないか、と筆者は想像している。
その上質のサウンドを最大限に生かすため、今回の「音楽集[完全版]」ではマスタリングにも気を遣った。オリジナルのアナログ・マスターテープから24bit/96kHzのハイレゾ音質で取り込みを行い、解像度の高いデジタルマスターを作成した上でCD規格の16bit/44.1kHzにダウンコンバートするというひと手間をかけている。最新デジタル・リマスタリングで生まれ変わった音を味わっていただきたい。
さて、DISC1の後半にはこのアルバムのカラオケと新ミックス音源が収録されている。その音源について説明したい。
DISC1の後半の内容は以下のとおり。
〈カラオケ・コレクション〉
10.薔薇は美しく散る(オリジナル・カラオケ)
11.愛ゆえの哀しみ(オリジナル・カラオケ)
12.MAGICAL ROSE(オリジナル・カラオケ)
13.星になるふたり(C’est Toi)(オリジナル・カラオケ)
14.私はとらわれびと(オリジナル・カラオケ)
15.愛の光と影(オリジナル・カラオケ)
〈ボーナス・トラック〉
16.情熱の紅いばら(ナレーションなし) NEW MIX
17.麗しき人よ!(ナレーションなし) NEW MIX
18.優しさの贈り物(Version II) NEW MIX
10〜15のオリジナル・カラオケは、今回苦心して探してもらった音源である。詳細は省くが、全曲見つかったのは僥倖だった。カラオケをバックに歌ってみてもよいし、インスト曲として馬飼野康二の巧みなアレンジに耳を傾けていただくのもよいと思う。
注目は〈ボーナス・トラック〉の3曲。LPアルバムに収録されたステレオ版BGMの新ミックス音源である。
実は、もともと「情熱の紅いばら」と「麗しき人よ!」のナレーションなし音源を収録したくて探してもらったのだが、見つからなかったのである。が、思わぬ発見があった。マルチトラックテープが出てきたのだ。
マルチトラックテープとは、楽器セクションごとに異なる録音帯(トラック)に記録できるようにした磁気テープのこと。マルチトラックに記録された各楽器の音のボリュームや定位を調整してステレオ音源を作成することをトラックダウン、またはミックスと呼ぶ。
今回見つかったのは、BGM「情熱の紅いばら」「麗しき人よ!」「優しさの贈り物」を収録したテープ1本と、挿入歌4曲を収録したテープ2本(残念ながら主題歌のテープは未発見)。いずれも、2インチ(約5センチ)幅の24チャンネル・マルチトラックテープである。
オリジナルLPに収録されたBGMもこのマルチトラックテープからステレオにミックスされた音源である。では、同じテープからもう一度ナレーションなし音源をミックスすればよいではないか! という発想から、今回、新ミックスが実現することになった。
通常は同じマルチからミックスし直してもオリジナルと音が変わってしまうことが多い(むしろ変えるためにミックスし直すことが多い)のだが、今回はエンジニアさんにお願いして、極力オリジナルと同じようにミックスしていただいた。最新の技術でよみがえった音は、オリジナルと比べて違和感のない、しかし、まるで今録音されたばかりのような瑞々しい音に仕上がっている。37年ぶりの新ミックスの音、「音楽集[完全版]」の中でも聴きどころの3曲である。
ところで、トラック18「優しさの贈り物」に「(Version II)」とついているのは何? と疑問を持つ方も多いと思う。それについては、DISC2、3の〈BGMコレクション〉の話とともに次回で。