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第77回 時を超える普遍の魅力 〜キャプテンフューチャー〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル最新作として、渡辺宙明が「人造人間キカイダー」以前に手がけた1960年代傑作刑事ドラマ「五番目の刑事」のサントラ盤を3月30日に、「あさが来た」『ガンダム ビルドファイターズ』などの林ゆうきが手がけた公開中の劇場作品「僕だけがいない街」のサントラ盤を4月6日に発売します。お楽しみに!

「渡辺宙明コレクション 五番目の刑事」
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映画「僕だけがいない街」オリジナル・サウンドトラック
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 東映ビデオよりTVアニメ『キャプテンフューチャー』のBlu-ray BOXが発売されるとの報が飛び込んできた。発売はVol.1が2016年9月14日、Vol.2が11月9日と少し先だが、今から楽しみ。これまで再放送の機会に恵まれず、映像ソフト化もされていなかった作品だけに、このときを待ち望んでいたのは筆者だけではないだろう。

☆東映ビデオ:「キャプテンフューチャー」特集ページ
http://www.toei-video.co.jp/BD/captainfuture.html

 『キャプテンフューチャー』は1978年11月から1979年12月までNHKで全52話が放送されたTVアニメ作品。他に年末特番としてスペシャル版「華麗なる太陽系レース」が1978年12月に放送されている。『未来少年コナン』に続く、NHKの連続TVアニメ第2弾として話題になった作品だ。アニメ制作は東映動画(現・東映アニメーション)が担当した。
 原作はSFファンなら誰もが知っているスペース・オペラの古典的名作。エドモンド・ハミルトンが1960年代に発表した宇宙冒険SFである(のちに他の作家も何作か書いている)。若き天才科学者にして冒険家カーティス・ニュートン(=キャプテン・フューチャー)が、頭脳だけで生きる科学者サイモン・ライトと、鋼鉄の体を持つロボット・グラッグ、変装の名手の人造人間オットーとともに宇宙で起こる数々の事件に挑む物語。60年代の科学知識をベースに書かれているため現在は古くなってしまった部分も多いが、グラッグとオットーの軽妙なかけあいや、奔放な想像力から生まれた奇想天外な設定と物語は今読んでも楽しめる。
 TVアニメ版では制作当時の最新の科学知識に合わせてアレンジが加えられた。そのため原作の大らかさが少々薄れてしまったのは残念だったが、主役の広川太一郎をはじめとする声優陣の好演やSF通で知られる脚本家・辻真先らの手堅い脚色で、世代を超えて楽しめる作品に仕上がった。
 本作が放送された1978年は、日本で「スター・ウォーズ」と「未知との遭遇」が公開された年。世はちょっとしたスペースオペラブームとなっていた。邦画でも、1977年末から1978年にかけて、「惑星大戦争」「宇宙からのメッセージ」「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」といった和製宇宙SF劇場作品が相次いで公開された。その流れはTVアニメにも飛び火し、『宇宙海賊キャプテンハーロック』『銀河鉄道999』『闘将ダイモス』『無敵鋼人ダイターン3』『宇宙戦艦ヤマト2』など、アクの強いSFアニメが多数作られた年である。
 そんな中で、『キャプテンフューチャー』はちょっと地味な存在だった。ヒロイックな活躍や派手な戦闘シーンはほとんど登場しない。「NHKらしい生真面目なSFアニメ」という印象だ。SFファンの間でも人気はいまひとつだったと思う。
 が、今回の原稿のために再放送のビデオを何本か見直してみて、「海外ドラマのようなクールな作品だな」と印象を新たにした。同時期の日本のTVアニメにしばしば見られる過剰なまでの演出や好戦的な場面がない。それがかえって本作を普遍的な作品にしている。アメリカやヨーロッパ、アジア各国で放映され、海外でDVD化もされているのはそのためだろう。その「海外ドラマっぽい印象」をさらに強固にしているのが、音楽である。

 音楽を担当したのは、『ルパン三世』でおなじみの大野雄二。本作が『ルパン三世』『100万年地球の旅 バンダーブック』に続く、3本目のTVアニメ作品だった。
 『キャプテンフューチャー』の音楽は、『ルパン三世』のアクティブなジャズ、フュージョン路線とは少し異なり、シンセサイザーをフィーチャーしたディスコ、テクノポップ風味のアレンジが特色になっている。
 当時のSF実写作品・SFアニメの音楽は、『スター・ウォーズ』に代表されるように、オーケストラを中心とした雄大なシンフォニック・サウンドが主流だった。『キャプテンフューチャー』のジャズ路線は異色というか、斬新である。これは東映動画のプロデューサー・田宮武の発案だったという。かくて、海外ドラマ音楽のようなクールなジャズBGMが『キャプテンフューチャー』の映像を彩ることになった。
 今、本編を観直してみると、大野雄二の軽快なサウンドが『キャプテンフューチャー』の印象を現代的でおしゃれなものにしていると感じる。これが重厚なオーケストラ・サウンドだったら、もっともっさりした重たい印象になっていたと思うのだ。
 サントラ盤は1979年8月に「キャプテンフューチャー 音楽集」のタイトルで日本コロムビアから発売された。選曲は大野雄二自身が手がけた。アニメサントラ・ファンのみならず、音楽ファンの間でも人気の1枚で、2014年にはアナログ盤で復刻されている。CD化は2001年に実現。オリジナル盤を復刻したDISC1「音楽集」と初収録曲を中心に構成されたDISC2「オリジナルBGMコレクション」の2枚組でリリースされた。
 収録内容は以下のとおり。

「キャプテンフューチャー オリジナル・サウンドトラック —完全版—」

DISC1
  1. 夢の舟乗り(歌:タケカワユキヒデ)
  2. アンドロメダの彼方に
  3. 渦巻くサルガッソー
  4. 流れ星のダンス
  5. 時のロストワールド
  6. 忍びよるインベーダー
  7. おやすみフューチャーメン
  8. おいらは淋しいスペースマン(歌:ヒデ夕樹)
  9. きらめくインナースペース
  10. 透明惑星へワープ
  11. アストロノートの詩
  12. OK! キャプテン(歌:神城ユースコーラス)
  13. イカルスの星
  14. 陽気なエイリアン
  15. 異次元のエデン
  16. ポプラ通りの家(歌:ピーカブー)
DISC2
  1. 夢の舟乗り(歌:ヒデ夕樹)
  2. 輝く銀河の彼方へ
  3. 見知らぬ惑星
  4. 夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン1〉(歌:ヒデ夕樹)
  5. 銀河漂流記
  6. 悪しき宇宙犯罪者
  7. 太陽パラダイス
  8. 夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン2〉(歌:ヒデ夕樹)
  9. オットーとグラッグの休日
  10. 宇宙哀歌(スペース・エレジー)
  11. 我らの愛機コメット号
  12. 新宇宙創生
  13. キャプテンの凱旋〜予告編テーマ
  14. ポプラ通りの家〈インストゥルメンタル〉
  15. 夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン3〉(歌:タケカワユキヒデ)
  16. おいらは淋しいスペースマン〈インストゥルメンタル〉
  17. 謎めいた異次元空間
  18. OK! キャプテン〈インストゥルメンタル〉
  19. 大宇宙、危機切迫!
  20. 戦うフューチャーメン
  21. 夢の舟乗り〈インストゥルメンタル〉
  22. 遠い宇宙の果てまで……
  23. ポプラ通りの家〈TVサイズ〉(歌:ピーカブー)

 主題歌「夢の舟乗り」がすばらしい。山川啓介の詩は原作のイメージを離れて、宇宙に憧れる少年の気持ちを郷愁感ただよう青春賛歌に結晶させている。大野雄二の曲も爽やかで高揚感あふれるメロディにジャズのグルーブとスペーシィなサウンドをまぶした名曲だ。
 TVでは当初、ヒデ夕樹がボーカルを務めるバージョンが流れていたが、「音楽集」に収録されたのは、番組後期で使用されたタケカワユキヒデ歌唱版。ヒデ夕樹版が気に入っていた筆者は歌手の変更に「おや?」と思ったが、タケカワ版のいい感じで力の抜けた歌唱もまた味わいがある。もともとタケカワ版の方が先に録音されていたそうである。
 スペシャル版「華麗なる太陽系レース」で使用された挿入歌「おいらは寂しいスペースマン」がまた背中がぞくぞくするような名曲。作詞は原作の翻訳者であり、「宇宙軍大元帥」としてファンに親しまれたスペースオペラの伝道師・野田昌宏。この歌はもともと原作の「謎の宇宙船強奪団」(「華麗なる太陽系レース」の元になったエピソード)の中でグラッグが歌っている歌として登場する曲(歌詞もそのまんまなので、E・ハミルトン原詩とすべきでは……)。アニメ版でもグラッグが口ずさむシーンがある。原作のイメージだと「俺ら宇宙のパイロット」(東宝映画「妖星ゴラス」[1962]に登場する歌。古くてすみません)みたいな曲かと思ってしまうのだが、大野雄二の手で、なんともロマンティックでメロウなバラードに生まれ変わっている。ヒデ夕樹の哀愁を帯びた歌唱がまたよいのです。
 BGMパートは、ディスコ風のビートに乗せたサックスとフルートの絡みがスリリングな「アンドロメダの彼方に」に始まり、シンセとパーカッション、エレピなどが奏でるスペース・サウンド「渦巻くサルガッソー」、疾走感たっぷりのベースとラテンパーカッションの上でエレピとサックスとフルートのアドリブが踊る「流れ星のダンス」とノリのよいジャズ・フュージョン曲が続く。
 「忍び寄るインベーダー」はサスペンスシーンによく使われたベースのリフが印象的な曲。
 「きらめくインナースペース」は第1話でカシュー主席がフューチャーメンを招集する場面、それに続いて月基地からコメット号が発進する場面に流れたキャプテン・フューチャー登場の曲だ。
 アコースティック・ギターとシンセを中心にしたしっとりしたバラード「アストロノートの詩」、宇宙の歓楽街の描写などに使用されたビッグバンド・ジャズ風の「陽気なエイリアン」とバラエティ豊かな曲が続き、緊迫感に富んだ「異次元のエデン」で締めくくられる。「異次元のエデン」はフューチャーメンやコメット号の活躍場面にたびたび流れたアクション曲。『キャプテンフューチャー』を代表する曲のひとつである
 「キャプテンフューチャー 音楽集」は名盤だが、不満もあった。本編でよく流れる印象深い曲が収録されていなかったのだ。大野雄二の意向を反映してか、音楽単体で楽しめる完成度の高い曲が主に選曲され、いわゆるアニメBGMらしい情感をあおるタイプの曲やわかりやすくカッコいい曲が落とされた印象がある。だから一般の音楽ファンにも人気の名盤になったわけだが、サントラファンとしては物足りない思いがあった。
 その不満を解消してくれたのがDISC2の「オリジナルBGMコレクション」である。選曲・構成は早川優。代表的な楽曲をストーリーをイメージした曲順で収録した申し分のない内容になっている。主題歌のTVサイズも番組で使用されたバージョン違い3タイプをナレーション入りで収録するこだわり。「これが聴きたかったんだよ!」とひざを打ちたくなるみごとな構成がうれしかった。
 筆者が一番聴きたかったのは「銀河漂流記」の1曲目に収録されたM-30。各話冒頭で前回までのあらすじを紹介するナレーションバックによく使用されたウェスタン調の曲である。第2話でカーティスの両親のなれそめからフューチャーメンの誕生が語られる回想場面など、ここぞという重要なシーンにも使用されている。自分でも気づかないうちに頭に刷り込まれていて、何かの折にふと口をついて出てくる印象深いメロディが誰にもあると思うのだが、筆者にとって、この曲はそんな「刷り込みメロディ」のひとつだった。
 「宇宙哀歌(スペースエレジー)」は「華麗なる太陽系レース」で謎の敵に宇宙船を奪われたカーティスと若きパイロット・ウォーカーが宇宙のサルガッソーで脱出方法を探す場面に流れていた哀愁たっぷりのバラード曲。
 「おいらは淋しいスペースマン〈インストゥルメンタル〉」も同じく「華麗なる太陽系レース」で、カーティスとウォーカーが宇宙開拓時代の英雄マーク・カルーの残したエネルギーのおかげでサルガッソーを脱出する名場面に流れた忘れがたい曲である。
 「大宇宙、危機切迫!」は「音楽集」に収録された「異次元のエデン」のアップテンポのヴァリエーション。本編ではこちらの方がよく使われた印象がある。
 「夢の舟乗り〈インストゥルメンタル〉」はサックスがメロディを奏でる主題歌のジャジーなアレンジ。放送当時、東映の企画・制作で徳間書店ファンファニーレーベルから発売されたフォノシート「キャプテンフューチャー(主題歌・曲集)」にのみ収録されていた曲だ(このシートにはもう1曲「輝く銀河の彼方へ」が「ギャラクシー」のタイトルで収録されていた)。「音楽集」と共に大切に愛聴していた曲なのでCD化はうれしかった。第5話でフューチャーメンがコメット号で1億年前の過去へ出発する場面に流れている。
 「遠い宇宙の果てまで……」も「銀河漂流記」(M-30)と並んで印象深い曲。アコースティック・ギターをバックにサックスがしみじみとしたメロディを奏でる。このメロディも頭から離れない「刷り込みメロディ」のひとつだ。第2話でキャプテン・フューチャーの誕生が語られる回想場面、第4話で事件を解決したカーティスが地球を飛び立つラストシーン、第5話で女性捜査官ジョオン・ランドールが1億年前に旅立とうとするカーティスと言葉を交わす場面、「華麗なる太陽系レース」で宇宙のサルガッソーで遭難しながらも後世のパイロットのためにエネルギーを残したマーク・カルーのメッセージが流れる場面など、数々の名場面に流れた必殺の名曲である。

 1枚の音楽アルバムとして完成された「音楽集」、サントラ盤として名場面を思い出しながら楽しめる「オリジナルBGMコレクション」。2枚のCDで構成された「キャプテンフューチャー オリジナル・サウンドトラック —完全版—」はバランスの取れた名アルバムだ。時代を超えて読み継がれるエドモンド・ハミルトンの原作と同じく、大野雄二の『キャプテン・フューチャー』サウンドも古びない「普遍の魅力」にあふれている。Blu-ray発売を待ちながら、スペーシィなジャズ・サウンドにひたってみてはいかがだろう。
 なお、本アルバムについては、過去に構成者の早川優氏がWEBアニメスタイルに寄稿している。構成秘話や収録曲のMナンバーが披露されているので、ぜひ、鑑賞のおともにお読みいただきたい。

☆アニメの“音”を求めて 第2回「音源復刻への長い道程」
http://www.style.fm/log/05_column/hayakawa02.html

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