腹巻猫です。劇場版「プリキュア」20作目の『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』が3月19日に公開されます。そのサントラ盤の構成・解説を担当しました。発売は公開前の3月16日。先にサントラを聴いてしまうとネタバレになるので、劇場版を観てからお聴きください!
映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法! オリジナル・サウンドトラック
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劇場版「プリキュア」が20作目と聞いて感慨を覚えずにいられない。筆者が初めて「プリキュア」シリーズのサントラの構成・解説を手がけたのが、劇場版第1作『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』だったからだ。それ以降、TVシリーズと劇場版のサントラはすべて担当させていただいた。こんどの『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』のサントラが、筆者が手がけた通算40タイトル目の「プリキュア」サントラになる。
今回は、個人的にも思い出深い劇場版第1作のサントラを取り上げたい。
『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』は2005年4月16日に公開されたシリーズ初の劇場作品。TVではシリーズ第2作『ふたりはプリキュア Max Heart』が放送中だった。
スティックなどのアイテムを使いこなす最近のプリキュアとは異なり、登場したばかりのプリキュアは徒手空拳の肉弾戦で敵をやっつける、まるで初代仮面ライダーのような武骨な戦いぶりが印象的だった。とどめの光線技はあるが、主に使うのはパンチとキック。傷だらけになって戦う姿は少女向けアニメのヒロインというより、特撮ヒーローのようだった。
そんなプリキュアの活躍を彩る音楽を作ったのは佐藤直紀。今や日本を代表する映画音楽作曲家のひとりである。しかし、『ふたりはプリキュア』がスタートした頃は、まだ劇場作品やTVドラマで名前が出始めたばかりだった。
それでも、一部のサントラ好きの間では佐藤直紀の名は注目されていた。TVドラマ「GOOD LUCK!!」(2003)、劇場作品「海猿」(2004)など、代表作と呼べる作品を『ふたりはプリキュア』と前後して発表していたのだ。
『ふたりはプリキュア』の放送が始まったのは、劇場作品「海猿」が公開される2ヶ月前の2004年2月。音楽作りは前年の2003年から始まっている。そのタイミングで佐藤直紀の才能に着目して音楽を依頼したのは、初期『プリキュア』シリーズの音楽プロデューサーを務めた藤田昭彦(当時、東映アニメーション音楽出版)だった。
『ふたりはプリキュア』は好評をもって迎えられ、佐藤直紀は2004年から2008年にかけて、TVシリーズ5作品とその劇場版の音楽を担当することになる。シリーズの音楽イメージを作り上げたのは、まぎれもなく佐藤直紀だ。生楽器を中心とした躍動感あふれる音楽は、体を張ってひたむきに戦うプリキュアの活躍にぴったりだった。
佐藤直紀は1970年生まれ、千葉県出身。東京音楽大学作曲科の映画・放送音楽コースを卒業。在学中に薫陶を受けた作曲家の中に羽田健太郎もいた。
卒業後CM音楽などで作家活動を続けるうちに、ドラマ、劇場作品、アニメ等の映像音楽を手がけるようになる。代表作に「海猿」シリーズ、劇場作品「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005)、「るろうに剣心」(2012)、「暗殺教室」(2015)、TVドラマ「ウォーターボーイズ」(2003)、「龍馬伝」(2010)、「カーネーション」(2011)、「救命病棟24時[第5シリーズ]」(2013)、アニメ『交響詩篇エウレカセブン』(2005)、『ストレンヂア 無皇刃譚』(2007)、『BLOOD-C』(2011)などがある。
『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』の音楽は変身バンクの曲を除いて新作で作られている。音楽的にはTVシリーズの延長だが、楽器編成はTV版の1.5倍のボリュームになった。劇場版ならではのスケールの大きなサウンドが聴けるのが魅力だ。
サウンドトラック・アルバムは映画公開から1ヶ月以上たった5月25日に発売された。当時は「公開に合わせてサントラを出す」というこだわりがなく、けっこうのんびりしていたのだ。筆者も完尺のビデオを観てからサントラの構成をした記憶がある。
収録曲は以下のとおり。
- プロローグ〜うごめく邪心(M-1)
- DANZEN! ふたりはプリキュア Ver.Max Heart(劇場Version)
- いつものタコカフェで(M-3)
- まさか? なぞの挑戦者!(M-4)
- 七人の妖精たち(M-7)
- 出発! 希望の国へ(M-8)
- きらめく光の国 〜 希望の園(M-9)
- もう限界!?〜宮殿の出会い(M-10)
- 美しき女王(M-11)
- 輝くダイヤモンドライン(M-12)
- パーティだもん、キメなくちゃ!!(M-13)
- 式典序曲(M-14)
- 襲来! 闇の世界の魔女!!(M-15)
- ルミナス変身(M-6/M-16)
- ピンチのルミナス、なぎさよ早く!(M-17)
- プリキュア変身 Max Heart(M-5/M-18)
- 魔女は笑う(M-19)
- 希望の涙〜Tears for tomorrow〜(劇場Version)
- 崩れゆく世界〜決意の旅立ち(M-21)
- 船の墓場の戦い(M-22)
- ボスコウモリをぶっとばせ!(M-23)
- 魔女の逆襲(M-24)
- 一閃! プリキュア・マーブルスクリュー・マックス(M-25)
- 悲しみの海をあとに(M-26)
- 突入! 魔女の洞窟へ(M-27)
- 怒りのパンチを受けてみろ!(M-28)
- 空とぶ幽霊船(M-29)
- 迫り来る危機(M-30)
- 絶体絶命の妖精たち(M-31)
- 光の戦士ふたたび(M-32)
- 負けない! 一人はみんなのために(M-33)
- デビル変身! 魔女の正体!?(M-34)
- 奇跡の力・希望の光(M-35)
- 別れのとき(M-36)
- 絶対忘れない!(M-37)
- 心のチカラ(SHORT EDIT FOR MOVIE)
アルバムには、本作のために用意されたすべての音楽を使用順に収録している(変身BGMは2回流れるので2回目の位置に収録)。
トラック1は本編の冒頭、悪の魔女の気配がただよう場面に流れる魔女のテーマ。弦の動き、低音が響く音の重ね方など、佐藤直紀らしいサウンドが1曲目から堪能できる。
オープニング主題歌を挟んで、トラック3「いつものタコカフェで」は、なぎさとほのかの日常を描写する明るい曲。なにげない曲だけど、これがいいのだ。ほんわかした序盤〜かすかな緊張〜再びほんわか〜短いブレイクをはさんでしっとりしたピアノになる。バンドのライヴ演奏のような味があり、画に合わせた音楽なのに、画を離れて聴き入ってしまう。
トラック5「七人の妖精たち」の後半では、なぎさたちを希望の国へと導く7人の妖精のテーマが登場する。ユーモラスな姿をした妖精たちを描写するのは、4ビートのジャジーな曲。佐藤直紀というとシリアスな映画作品が注目されることが多いが、こういう、いい感じで力を抜いた曲も実にうまい。TVドラマ「マンハッタンラブストーリー」なんかはこの路線の傑作だった。
トラック7「きらめく光の国〜希望の園」で、本作の主な舞台となる異世界「希望の園」が描写される。弦とティンパニのロールの序奏に続いて、壮大かつ美しい希望の園のテーマが奏でられる。まさに映画音楽と呼ぶにふさわしい、堂々たる雰囲気の音楽だ。劇場の大音量で聴くといっそう華やかさが増すのである。
「希望の園」のモチーフはトラック9「美しき女王」、トラック10「輝くダイヤモンドライン」にも登場する。ひとつのテーマをさまざまに変奏して散りばめることで世界観を統一し、観客に印象づける手法だ。映画音楽らしい音楽設計が効果を上げている。
トラック11「パーティだもん、キメなくちゃ!!」はお城のパーティの場面に流れる曲。こういう場面だとクラシカルなワルツが流れたりすることが多いのだが、ここではビッグバンド・ジャズ風の音楽が流れる演出になっていて、ワクワク感を増している。
トラック13「襲来! 闇の世界の魔女!!」で空気は一転、悪の色に染まる。オーケストラのトゥッティによる重厚な悪の描写からスリリングな襲撃のテーマに展開。モチーフとなっているのはトラック1に出てきた魔女のテーマである。「危機迫る!」という感じで曲は終り、いよいよプリキュア登場!となる。
トラック14とトラック16はTV版でおなじみの変身BGM。サントラの中盤まで引っ張ってようやく変身ですよ(序盤で1回変身しているけど)。ここはアルバムを通して聴いていても「来たぞ来たぞ!」と盛り上がるところ。
変身BGMは『ふたりはプリキュア』から『ふたりはプリキュア Max Heart』になってよりパワーアップしている。華やかさと力強さと兼ね備えた曲調は今聴いてもぞくぞくする。「可愛い」「やさしい」というより「力強い」。これは初期『プリキュア』BGMの特徴だと思う。
トラック23「一閃! プリキュア・マーブルスクリューマックス」はTV版でも使用されていた必殺技のテーマ。ここでは新録音で聴くことができる。が、頼みの必殺技は魔女にはねかえされてしまい、プリキュアはピンチに。音楽も途中で劣勢ムードに変わる。
一度は魔女に敗れたプリキュアが再び闘志を胸に戦いに挑む。そんな場面に流れるトラック25「突入! 魔女の洞窟へ」は、本アルバムの聴きどころのひとつ。TVシリーズ『ふたりはプリキュア』から使われているプリキュア活躍テーマ「プリキュア登場」(M-88)の劇場版アレンジである。「初代プリキュアといえばこの曲!」というくらい燃える1曲だ。
続くトラック26「怒りのパンチを受けてみろ!」もプリキュア優勢の活躍曲。こちらは『ふたりはプリキュア』の優勢〜ピンチの戦いを描写する「過酷な戦い」(M-75)の劇場版アレンジ。原曲だと後半は劣勢描写になるのだが、劇場版では優勢描写のまま終わるのがうれしい。前のトラックと2曲続けて盛り上がること請け合いの展開だ。
妖精の危機にプリキュアが颯爽と駆けつける場面のトラック30「光の戦士ふたたび」も激盛り上がりの曲。原曲は『ふたりはプリキュア』の「逆転勝利」(M-76)。原曲では危機描写〜反撃バトルと展開するのだが、ここでは前半部分をカット。力強い後半からスタートするのが爽快だ。
その次のトラック31「負けない! 一人はみんなのために」がまた名曲なのですよ。『ふたりはプリキュア』の「わき上がる闘志」(M-63)という曲の劇場版アレンジ。厚みを増した演奏と本編の展開とがあいまって、ひたひたと胸を討つ感動曲になっている。プリキュアがたびたび口にする「絶対にあきらめない!」という強い想いが刻まれたような曲で、聴くたびに勇気が湧いてくる。この曲調は変身BGMと並ぶ「プリキュア」音楽の典型のひとつになった。
最終決戦を描くトラック33「奇跡の力・希望の光」では、ふたたび「希望の園」のモチーフが登場。壮大なアレンジによる奇跡の力の描写〜勇壮な最強の技の描写〜弦の駆けあがりに導かれる希望の光の描写と展開する。たっぷり4分以上、クライマックスにふさわしい聴きごたえのある曲だ。
トラック34「別れのとき」とトラック35「絶対忘れない!」は切ない別れの場面の曲。異世界での冒険の終わりを描く音楽は、ちょっとさびしく、でも、温かいやさしさに満ちている。美しい余韻を残して本編は幕を下ろす。
ラストに置かれた「心のチカラ」は、工藤静香(女王役として出演もしている)が歌う、本作のために作られたエンディング曲。
あらためて聴きなおしてみて、「みごとに映画音楽になっているなあ」と思った。スケール豊かで、華やかで、演奏もいい。いくつかのモチーフを中心に組み立てられた音楽が組曲のようにひとつの世界を作っている。
佐藤直紀は溜め録りの音楽もうまいが、映像に合わせた映画音楽でより本領を発揮する作家である。各シーンの音楽の役割をふまえた上で、聴かせるところはしっかり聴かせる。職人芸的でありながら、「佐藤直紀サウンド」としか言いようのない作家性のにじみ出た音楽。その資質が、すでに本作に表れていると思う。
『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』は勢いのある作品だ。作品にも勢いがあるし、音楽も勢いがある。TVシリーズ2年目にしてようやく実現した劇場版。アニメ・スタッフも乗っていたし、音楽スタッフも乗っていた。今が勢いがないということではないが、この時でしか出せない、計算や経験に裏打ちされていない、まっすぐな勢いが伝わってくる。それは徒手空拳で戦うプリキュアの姿にも通じるものだ。
そして筆者も、初の劇場版「プリキュア」のサントラをたくさんの人に、とりわけ子供達に聴いてもらいたいなあと思ってサントラを作っていた。家族で映画を観に来たお父さんやお母さんが、子供のためにサントラを買って一緒に聴く、そんな光景をイメージして作っていたのだ。数年ぶりにアルバムを聴きなおして、そういう気持ちを思い出した。このサントラを聴いた人が、無我夢中で作っていた作り手の勢いを感じてくれたら、すごくうれしい。
映画 ふたりはプリキュア MAX Heart MUSIC LINE オリジナル・サントラ
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