腹巻猫です。映像音楽専門バンドG-Sessionのライブ「G-Sessionライブ 巻之六 忍者大戦」が5月16日(土)17時より中野のLive Cafe 弁天(地下鉄・新中野駅から徒歩5分)で開催されます。テーマは「忍者」! 古今東西の忍者に関するアニメ・特撮作品の主題歌・BGMを一堂に集めた大忍術演奏会です。お時間ある方はぜひおいでください! 筆者も2ndキーボードで参加しています。詳細は下記を参照。
http://www.soundtrackpub.com/event/2015/05/g-session_live_6th.html
前回に続いて「忍者」を題材にした作品を紹介したい。タイトルは「仮面の忍者 赤影」。1987年放送のアニメ版ではなく、1967年に放送された実写版のほうである。
「仮面の忍者 赤影」は1967年から1年間にわたって関西テレビ/フジテレビ系で放映された特撮TVドラマ。時代劇を得意としていた東映京都テレビプロの制作による作品である(東映には東京と京都に撮影所がある)。
舞台は豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった戦国時代。天下を恐怖と混乱に陥れる悪の忍者軍団と戦う飛騨の忍者・赤影、青影、白影の活躍を描く一大娯楽作品である。同時期に放送された「ウルトラセブン」や「ジャイアントロボ」等とともに、少年たちの心をがっちりとらえた特撮TVドラマだ。繰り返し再放映されているので、リアルタイムで観ていなくても再放映で出会ってその面白さに釘づけになったというファンも多いだろう。
「赤影」の魅力の第一は主役3人のキャラクター。颯爽とした青年ヒーローの赤影、ムードメーカーの少年忍者・青影、頼りになるベテラン忍者・白影とそれぞれに役割が異なるもののキャラクターは明朗闊達。当時の少年たちの憧れの存在だった。第二は波瀾万丈にして奇想天外な物語と忍法合戦の描写。時代劇なのに光線が飛び交い、空飛ぶ円盤や怪獣まで登場する自由すぎる展開を子どもたちは息をのんで見守り、大喝采した。そして第三に挙げたいのが小川寛興の血沸き肉躍る音楽だ。
「仮面の忍者 赤影」の音楽を担当したのはTV放送の初期から作曲家として活躍していた小川寛興。1925年生まれの小川は作曲家を志して服部良一の弟子となり、TV放送開始以前の舞台やラジオの音楽の仕事からキャリアをスタートした。1953年にTV放送が始まると小川もラジオの仕事の延長でTV番組の仕事も手がけるようになる。当初は生放送の番組にピアノ1台で臨機応変に生で音楽をつける仕事だったという。大衆娯楽の中心がTVに移行すると小川の仕事もTVがメインになっていき、数々のTV番組の音楽を担当した。代表作には現在もテーマ曲がCMやバラエティなどでよく使用されるNHK朝の連続テレビ小説の1本「おはなはん」(1966)や人気番組「細うで繁盛記」(1970)、「遠山の金さん捕物帳」(1970)などがある。そして、小川寛興といえばヒーロー番組。白黒放送の時代から「月光仮面」(1958)、「七色仮面」(1959)、「快傑ハリマオ」(1960)、「隠密剣士」(1962)等の少年向けヒーロー番組の音楽を数多く手がけた。いわば「日本のヒーロー音楽のルーツ」を創り上げた作曲家なのだ。アニメ作品は『ピュンピュン丸』(1967)、『イルカと少年』(1971)ぐらいしかないのでアニメファンにはなじみが薄いかもしれないが、実写・アニメを含めたキャラクター番組の音楽をTV創世記から手がけた作曲家として忘れてはならないひとりである。
小川寛興の音楽の魅力は、師匠・服部良一ゆずりのポピュラリティ(大衆性)抜群の曲想だろう。小川が作曲したテーマ曲はどれも一度聴いただけで耳に残り、容易に口ずさめる親しみやすいメロディを持っている。しかも、ほかの用事に気を取られていてもTVからテーマ曲が流れ始めるとはっと注意が向くような、キャッチ—で華のあるメロディだ。番組のテーマ曲としてはなくてはならない音楽性である。本作「仮面の忍者 赤影」の音楽も同じだ。
「仮面の忍者 赤影」の音楽の発掘と商品化は1970年代後半に始まった特撮・アニメ音楽ブームの時代から行われている。キングレコードから「ウルトラオリジナルBGMシリーズ」として発売された「ウルトラマン」「ウルトラセブン」等の一連の音楽アルバムに続いてリリースされたのが「仮面の忍者 赤影」だった。1980年発売のこのアルバムでは本編ドラマ音声とBGMを収録。ファンにはなじみ深い「青影のテーマ」「白影のテーマ」などの重要曲が聴けるようになった。本格的な音楽研究と音源発掘は1986年にキングレコードから「SF特撮TV音楽全集」の1枚としてリリースされた「仮面の忍者 赤影」で行われた(構成・解説は金田益実)。この盤では「赤影」のために書かれた楽曲と本編に流用使用された「大忍術映画ワタリ」(1966)、「忍者ハットリくん」(1966)の音楽(いずれも東映制作。音楽は小川寛興)から厳選された主要曲が収録された。
CD時代になって1994年に発売されたSLC(サウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーション)レーベルの「仮面の忍者 赤影 オリジナルTVサウンドトラック」は上記の「SF特撮TV音楽全集」の構成を引き継いでCD2枚のボリュームに増補した決定盤(構成・解説は浅井和康)。繰り返し音盤リリースが行われていることからも、本作と本作の音楽に対する人気のほどがわかる。現在入手可能なのは、バップから2001年にリリースされた「仮面の忍者 赤影 ミュージックファイル」。これは上記のSLC盤の内容を踏襲した上で1曲1トラックに再編したものだ。
アルバムの構成は、番組と同様に「第1部 金目教篇」「第2部 まんじ党篇」「第3部 根来篇」「第4部 魔風篇」と大きく4部に分けた上で各部で使用された印象深い楽曲を配置する内容。バップ版ではSLC版になかったフルサイズ主題歌とカラオケが収録された代わりに、SLC版に収録されていた4種のナレーション入りTVサイズ主題歌が割愛されている。収録時間の制約があるとはいえ残念だ。
トラック数が多いので収録曲は下記リンクから参照されたい。
仮面の忍者 赤影 ミュージックファイル
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005HSS3/
「赤影」の音楽には、小川寛興がTV放送の初期から手がけたきたヒーロー番組と時代劇音楽のエッセンスが凝縮されている。ドキドキワクワクしながらも安心して聴いていられる充実の内容だ。
まずなんといっても主題歌である。もちろんこれも小川寛興の作。
オープニング、エンディングに使用された「忍者マーチ」は作曲者自ら「会心の作」と語る傑作。作詞は脚本家・伊上勝の作だ。曲のイントロは「隠密剣士」の主題歌「隠密剣士の歌」のイントロをほうふつさせるが、こちらのほうがずっと洗練されている。筆者が小川寛興に取材したときに聞いた話によると、この歌のサビ「手裏剣しゅっしゅっ〜」以降の部分はもともとの歌詞にはなく、小川の発案で付け足されたのだという。そう言われて聴いてみると、たしかにその前の「仮面の忍者だ 赤影だ」で終わっても歌としては成立する。が、追加されたサビがないとなにか物足りない。この部分があることで印象に残る歌になっているのだ。テレビ番組のテーマ曲に必要な音楽性を熟知していた小川寛興ならではの発想だろう。
マイナーで書かれた副主題歌「赤影の歌」はもともと主題歌として作られた曲。哀愁を帯びたメロディは「月光仮面」の副主題歌「月光仮面の歌」(これも本来は主題歌として作られた)の流れを汲んでいて、小川寛興の好みの曲想だったことがうかがえる。が、明るい活劇作品「仮面の忍者 赤影」のオープニングにはやはり「忍者マーチ」のほうが合っている。
BGMの中心となっているのは、赤影のテーマ、青影のテーマ、白影のテーマの3種のキャラクターテーマと時代劇らしい立ち回り(アクション)音楽である。
赤影のテーマは副主題歌「赤影の歌」のアレンジ。カラオケにメロディをかぶせたインストゥルメンタル版も効果的に使用されている。
青影のテーマは笛がメロディを奏でるユーモラスな曲。「忍者マーチ」のメロディが引用されている。表情豊かな少年忍者・青影のキャラクターがよく表現された楽しい曲だ。
そして、出ました! 白影のテーマ。白影の立ち回り用に書かれた曲は「赤影」全編を通してアクションシーンに使用された定番曲。「赤影」の音楽といえばこの曲を思い出す人が多いだろう。アニメ音楽で言うなら『マジンガーZ』の「Zのテーマ」や『機動戦士ガンダム』の「颯爽たるシャア」に匹敵するような「ここぞ」という場面で流れる決め曲である。
曲の構成が凝っている。ゆったりした導入部から曲は始まる。ブラスとフルートが奏でる重厚な序奏に続いて弦の爽やかな旋律が短く挿入される。ふたたびブラスが加わって盛り上がり、一瞬の間を挟んでアップテンポの活劇音楽になる展開。アップテンポになってからが曲のメインで、サックスとブラスによるフレーズの繰り返しがいやがおうにも大活劇を盛り上げる。静から動への転換が印象深いドラマティックな曲である。
しかし、どうして「白影のテーマ」はこんな構成の曲になったのか? 「まんじ党篇」のクライマックスでは巨大円盤・大まんじの浮上とともに本曲が序奏から流れて絶大な効果を上げているが、もちろん作曲時にはそんな映像はない。小川寛興に取材したときに質問してみたところ、残念ながら作曲した当人も覚えていなかった。そこで勝手な想像をめぐらすと——。
行く手に現れた敵忍者群と対峙する赤影、青影! 頭上には殺気立つ地上とは対照的に爽快な青空。その空に浮かぶ雲の中から1枚の凧が姿を見せる。白影の乗った大凧だ。白影が地上に降り立つや始まる大活劇! と、こんな展開をイメージして書かれたのではなかろうか。そんな映像を妄想したくなるほど印象深く記憶に残る名曲である。
その他のアクション曲に目を転じると、「白影のテーマ」と並ぶアクションシーンの定番曲を収録したのが「死闘」。1曲目は赤影用の立ち回り用に用意された曲だが「赤影の歌」とはまったく別のメロディで書かれている。弦とブラスが激しくかけあう2曲目は「ワタリ」からの流用曲だ。「ワタリ」からは「謎のまんじ党」1曲目や「闇夜の襲撃」「追跡」など緊迫感あふれる楽曲が流用使用されている。
奇抜な能力で赤影たちを翻弄する敵忍者を描く「黒道士・つむじ傘」は「忍者ハットリくん」から流用されたユーモラスな活劇曲。「ハットリくん」からの流用曲では「ふんわかふんわか」と歌っているような「平和」1曲目(花岡実太のテーマ)も印象に残る。シリアスな「ワタリ」、コミカルな「忍者ハットリくん」、異なる個性を持った作品からの流用が「赤影」の音楽世界を広げている。
DISC2に収録された「暗闇鬼堂の最期」は第3部用に追加録音された立ち回り用BGM。ブラスと共にサックスやフルートなどの木管が活躍するのが「赤影」音楽の特徴だ。アルバムのクライマックスとなる「六大怪獣包囲陣」も追加録音の立ち回り用BGM。しだいに激しくなる戦いのようすが音楽でも表現されている。
キャラクターテーマとアクション曲を中心に紹介したが、時代劇らしいおおらかな情景描写曲や悪の暗躍を描くサスペンス音楽も快調。どの曲も聴くだけで場面が眼に浮かんでくるようなイメージ喚起力を持っている。また、第3部以降で登場する怪忍獣(忍者が操る怪獣)のテーマとして書かれた楽曲は、楽器の特殊奏法や口琴・ミュージックソー等の特殊楽器を駆使して不気味なイメージを表現した「赤影」ならではのモンスターミュージックとして興味深い。かくも多彩で豊饒な音楽が「赤影」の世界を支えているのだ。
小川寛興が創り上げたヒーロー音楽の集大成とも呼べる「仮面の忍者 赤影」。端正にして高揚感に富んだ楽曲からは、「赤影」の波瀾万丈の物語とともに古き良き時代劇撮影所の息吹が伝わってくるようだ。日本のTV音楽史に残る名作のひとつである。
1925年生まれの小川寛興は渡辺宙明と同い年。1990年代以降はTVの仕事から遠ざかったが、舞台音楽を中心に仕事を続けている。2000年代に入ってからもミュージカル作品「品川物語」や『イルカと少年』のエンディング曲「燃える太陽」を歌った森田克子のリサイタル用の曲などを作曲しており、現在も現役だ。「昭和のTV音楽の父」小川寛興の仕事をさらに知りたい向きはCD「小川寛興 TV・映画作品集」もぜひお聴きいただきたい(ちょっと宣伝)。そして、ライブ来てね〜!!