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第58回 変身ヒロイン+探偵+ゴシック 〜セイントオクトーバー〜

 腹巻猫です。構成・解説を担当した『Go! プリンセスプリキュア』のオリジナル・サウンドトラック盤が5月27日に発売されます。音楽は『プリキュア』シリーズの音楽担当3年目の高木洋。「クラシカルでエレガント」というコンセプトに合わせた華麗で品格のある楽曲がすばらしいです。ぜひ聴いてみてください!


 『Go! プリンセスプリキュア』の音楽を担当する高木洋は東京音楽大学作曲専攻・映画放送音楽コース出身。在学中より羽田健太郎に師事し、卒業後の2003年に羽田率いる作曲家チーム・Healthy Wingsの一員として「爆竜戦隊アバレンジャー」の音楽を手がけたのが映像音楽作家としての本格的デビューになった。以降、TVドラマ、アニメ、ゲーム等の音楽やテーマソング・キャラクターソングの作曲・編曲等で活躍。アニメ作品には『冒険王ビィト』(2004)、『怪談レストラン』(2009)、『AKB0048』(2012、スワベック・コバレフスキと共作)等がある。なかでも代表作といえば、神奈川フィルハーモニー管弦楽団で大編成のシンフォニック・サウンドを録音した『タイタニア』(2008)や男前の時代劇風サウンドが魅力の「侍戦隊シンケンジャー」(2009)、そして『ドキドキ! プリキュア』(2013)以来手がけている『プリキュア』シリーズが挙げられるだろう。
 が、今回はそのいずれでもなく、2007年に放送されたTVアニメ『セイントオクトーバー』を紹介したい。

 『セイントオクトーバー』はコナミデジタルエンタテインメント企画・制作のTVアニメ作品。架空の都市・アルカナシティを舞台に、カードの力で超ゴスロリに変身し、悪しきものを浄化(ジャッジメント)する3人の少女探偵の活躍を描く。変身ヒロイン+探偵ものにゴシック趣味が加わったユニークなコンセプトの作品である。ティム・バートン監督の作品を思わせるようなエキセントリックなキャラクターやちょっと気味悪いホラー風味が本作の特徴であり、魅力になっている。
 本作で高木洋はオープニング、エンディング主題歌と劇中音楽、そして30曲も作られたキャラクターソングの大半を作曲している。歌曲と劇中音楽の分業があたりまえになった昨今では珍しい作品だ。それだけに歌と本編音楽との一体感は抜群。もともと「歌ものが書きたい」と希望していた高木洋にとって、やりがいのある作品だったに違いない。本作も間違いなく、高木洋の代表作のひとつだろう。
 サウンドトラック・アルバムは放送終了間際の6月27日にコナミデジタルエンタテインメントより発売された。2枚組でオープニング主題歌と2曲のエンディング主題歌を含む全44トラック収録。トラック数が多いので収録内容は下記リンクを参照いただきたい。

セイントオクトーバー オリジナル・サウンドトラック
http://www.amazon.co.jp/dp/B000PWQQLA/

 アルバムの構成は、DISC1が第1クール(1話〜13話)、DISC2が第2クール(14話〜26話)のストーリーをイメージした内容になっている。
 1枚目は日常→事件発生→ピンチ→変身→戦い→必殺技→勝利・平和という正道の曲順。サブタイトルと次回予告音楽がしっかり収録されているのがうれしい。2枚目は前半に心情曲やキャラクターテーマを収録し、後半は最終決戦をイメージした構成。スリリングな曲、ユーモラスな曲、しっとりした曲と表情の違う曲の配置も絶妙で、聴いていて飽きがこない。「カフカフカフカフ…」「エスメラルダでち!」「深淵に眠りし根源の光よ」など作品の雰囲気に合った曲名もいい。構成者のクレジットがないのが残念だ。
 ブックレットの高木洋のコメントによれば、本作の音楽は「昔のキイハンターや、60年代アメコミのヒーロー物のような時代の香りを感じさせるドライでシンプルなもの」に「宗教的な厳粛さのエッセンスも加えてほしい」というリクエストで書かれたそうだ。そのコンセプトどおり、1960〜70年代の刑事・探偵ドラマ音楽のような雰囲気がある。バンド編成のセッション録音ではないが、弦、ホーン、ギター、ベースは生楽器の音。平原まこと(サックス)や中川英二郎(トロンボーン)といったトッププレイヤーが参加している。そして、近年では打ち込みで処理されることが多いベースが生。これが効いている(演奏は女性ベーシストの五十棲千明)。
 アルバムの開幕を告げるサブタイトル曲から、ジャジーな雰囲気が全開だ。
 続く「アルカナシティへようこそ」はウッドベースの音が小粋なジャズバンド風の曲。少しレトロな街並みの描写にぴったりだ。
 ゴスロリ少女探偵団の根城をイメージした「探偵事務所でのひととき」もサックスとヴィブラフォン、オルガンなどがからむ60年代テイストの曲。
 いっぽうで少女たちの日常を描く「お茶の時間ですもの」はチェンバロと弦を主体にしたバロック音楽風。のちに手がける『プリキュア』シリーズの「お嬢様音楽」の原型と呼べるような曲調でうれしくなる。
 同じバロック調でも、敵組織を描写する「リバース社のテーマ」はパイプオルガンの音が入って、やや重い雰囲気。本作のコンセプトのひとつ「ゴシック」をサウンドに盛り込んだ曲である。後半はややユーモラスな展開になり、コミカルとホラーがないまぜになった本作独特の味が表現されている。ティム・バートン作品でおなじみのダニー・エルフマンの音楽を連想させる部分だ。
 「絶対絶命!」「形勢逆転!」「迫り来る危機!」「決戦!!」等は、『プリキュア』シリーズのバトル曲にもつながるアクション系楽曲。ヒーロー音楽のような「形勢逆転!」の高揚感に胸が躍る。本編でもゴスロリたちの反撃場面などに使われて悪との対決シーンを盛り上げていた。「決戦!!」はまさに最終対決!という雰囲気の激しい曲。アクション曲が意外にハードでシリアスなのが本作の音楽の特徴のひとつである。
 そして、本作の音楽のいちばんの聴きどころと言えば、変身ヒロイン・アニメの華=変身BGMだ。
 本作の変身シーンは実にエキセントリック。変身ヒロインもののイメージをひっくり返す、一度観たら忘れられないインパクトのある映像である。
 3人のヒロイン=黒ロリ、白ロリ、赤ロリ、それぞれに変身テーマが作られている。曲は画コンテに合わせて作曲されたそうだ。
 「サークリッド!黒ロリ参上!!」はホーン隊のきらびやかな音が印象的なビッグバンド風の曲。ジャジーなサウンドが海外刑事ドラマのテーマ曲みたいでカッコいい。
 「サークリッド!白ロリ参上」は弦とシンセの音を主体にした流麗な曲。「サークリッド!赤ロリ参上」はエレキギターとブラスがセッションを繰り広げるワイルドな曲。各キャラクターのイメージに合わせてサウンドを変えている。いずれも、高木洋がのちに手がける『プリキュア』シリーズの変身BGMとはまったく違う雰囲気。『プリキュア』ファンが聴いても興味深いだろう。作品に合わせた音楽づくりとはこういうことなのだ。
 もうひとつ、本作で大事な曲といえば敵を浄化する「ジャッジメント」の際に流れる曲。「ジャッジメント!」と「新・ジャッジメント!!」である。いわゆる必殺技テーマだが、「浄化」の曲なのでオルガンが入った讃美歌のような曲調になっている。「新・ジャッジメント」は2クール目に入ってからの進化した技の曲。「ジャッジメント!」にエレキギターを加えたアレンジになった。最終話のクライマックスではこのメロディをピアノソロで演奏したヴァージョンが使用されている。
 その「新・ジャッジメント!!」を境にアルバムは終盤へ。DISC2のラストには味わい深い曲が並ぶ。
 「深淵に眠りし根源の光よ」は「宗教的な厳粛さ」という本作の音楽コンセプトが反映された神秘的でおごそかな曲。赦しと再生を願う祈りの曲のように聴こえる。「メロディとハーモニーを重視する」と言う高木洋らしい感動的な曲だ。
 続く「導かれる者たち」は上下動する弦のフレーズをバックに悲壮感を宿した弦のメロディが重なり、しだいに盛り上がる曲。第25話で敵の首領クルツに操られていた人々の呪縛が赤ロリのジャッジメントの力で解けていく場面に流れていた。最新作『Go! プリンセスプリキュア』にも共通する雰囲気の曲(「夢を守りたい」)があり、こういう「静かなドラマティックな曲」が高木洋はうまいなあと思うのだ。
 サントラを締めくくる「過ぎ去りし時よ」は、ピアノが奏でる透明感のある抒情曲。第15話で赤ロリが死神に「大切だった人のもとに連れて行ってくれ」と頼むシーン、第22話で黒ロリ=小十乃(ことの)の保護者である神父ヨシュアが小十乃との過去を回想するシーンなどに流れている。哀しみと懐古と希望、いろんな感情が聴こえてくる複雑な味わいの曲である。
 ほかにも、軽快でクールなギターサウンドの「ありったけの笑顔で」「一輪バイクに乗って」や最終回の大団円に使われたサックスの曲「風に託された思い」など、日常曲が大人びた雰囲気なのも本作の音楽の特徴。「ゴスロリ」というキーワードからは想像できないようなしゃれた楽曲がそろっている。「萌えアニメか」と思って敬遠するのはもったいないサントラなのである(萌えアニメじゃないよ)。
 同じ変身ヒロインものでも『プリキュア』シリーズとは好対照な雰囲気の『セイントオクトーバー』の音楽。『プリキュア』シリーズに通じる楽曲もあれば、『プリキュア』では聴けない渋い曲やダークなサウンドも登場する。『プリキュア』シリーズで高木洋を知ったというファンは、『タイタニア』や「侍戦隊シンケンジャー」の音楽ともども、本作もぜひ聴いていただきたい。

セイントオクトーバー オリジナル・サウンドトラック

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Go! プリンセスプリキュア オリジナル・サウンドトラック1

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