COLUMN

第46回 それは伝説ではない 〜神魂合体ゴーダンナー!!〜

 腹巻猫です。渡辺宙明が音楽を担当したサンライズ制作のロボットアニメ『最強ロボ ダイオージャ』(1981)の音楽集がついにCD化! 旧LPに未収録の音源を大幅に増補して11月26日に発売されます。これを記念して11月15日に阿佐ヶ谷ロフトAにてイベント「渡辺宙明トークライブPart7」を開催しますので、お時間ある方、ぜひおいでください。前売券はe+で発売中!
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/28036


 東映Vシネマ『宇宙刑事シャリバン/シャイダー NEXT GENERATION』への新主題歌と新BGMの提供や現在放映中のTVアニメ『俺、ツインテールになります。』の挿入歌作曲など、89歳になる今も新曲を発表し続けている渡辺宙明。言うまでもない、ヒーロー・アクション音楽の第一人者であり、日本を代表する映像音楽作曲家である。
 創作意欲が衰えないばかりか、繰り出す曲は今でもパワフルな宙明サウンド、宙明節そのもの。新曲を聴くたびに涙ぐむファンは多いだろう。
 渡辺宙明がすごいのは、60年代、70年代、80年代、90年代、2000年代と、それぞれに代表作と呼べる作品を持っているところだ。60年代には『忍者部隊月光』があり、70年代には『人造人間キカイダー』『マジンガーZ』『秘密戦隊ゴレンジャー』『野球狂の詩』など、80年代には『電子戦隊デンジマン』や「宇宙刑事」シリーズ、80年代後半からは『戦え!!イクサー1』『破邪大星 彈劾凰』などのOVA作品に進出、90年代には『ゲッターロボ號』や『流星機ガクセイバー』、そして2000年代に入って『神魂合体ゴーダンナー!!』が登場する。

 2003年10月から放映された『神魂合体ゴーダンナー!!』は久しぶりに渡辺宙明が主題歌と劇中音楽(BGM)の作曲をすべて手がけたTVアニメ作品だ。謎の巨大生物「擬態獣」と世界各国で開発された巨大ロボットとの戦いが続く近未来。結婚を控えた男女パイロット猿渡ゴオと杏奈の2人を主人公に謎の敵と人類との激烈な戦いが描かれる。「新婚」と「ゴオ」と「旦那」を詠み込んだ冗談のようなタイトルに反して物語はなかなかハードで熱い。というより何より、この設定、かの『パシフィック・リム』の下敷きなのでは……? とひそかに思っているのだが……。
 それはともかく、本作は渡辺宙明ファンの間ではちょっとした事件だった。この直前に『銀河ロイド コスモX』(2001)というビデオ特撮作品があったが、まさか21世紀になってTVで宙明サウンドの新曲が毎週聴ける日が来ようとは。そればかりではない。できあがった曲を聴いて打ちのめされた。まぎれもない宙明サウンドがここにある!
 2003年11月に日本コロムビアから発売されたオリジナル・サウンドトラックの収録内容は以下のとおり。

  1. 来るべき明日
  2. 神魂合体ゴーダンナー!!(T.V.size)
  3. 平和の守り、ダンナーベース
  4. トレーニング・デイズ
  5. ゴオと杏奈、愛のテーマ
  6. 擬態獣の猛襲
  7. ハンターロボ出撃
  8. 紅の追撃
  9. 戦士たちの友情
  10. 折れた翼、今は休めて…〜神魂合体ゴーダンナー!!〜
  11. ミラのテーマ
  12. 塹壕の棺〈ザンゴウノヒツギ〉(Instrumental Version)
  13. ダンナーベースの午後
  14. 静かなる侵攻
  15. 危険なトライアングル
  16. 日々平穏
  17. ストップ・ザ・擬態獣!!
  18. ゴーダンナー発進せよ!
  19. 鉄の総力戦
  20. 運命の刻
  21. 二つの心を一つに燃やせ!
  22. 杏奈、決然と 〜塹壕の棺〈ザンゴウノヒツギ〉〜
  23. 紅蓮の戦闘領域
  24. ゴーダンナー ツインドライブモード!!
  25. 神魂合体ゴーダンナー!! (Instrumental Version)
  26. 平和の讃歌
  27. 塹壕の棺〈ザンゴウノヒツギ〉(T.V.size)

 串田アキラが歌う主題歌「神魂合体ゴーダンナー!!」がすばらしい。メロディ的には90年代あたりから登場してきた宙明節のパターンの集大成という趣。マイナーからメジャーに転調してまたマイナーに戻る展開。転調するたびに曲の色が変わり、ボルテージが高まってくるのが快感だ。
 BGMのほうも、よく聴くと『マジンガーZ』以来のロボットアニメBGMの集大成ともいうべき濃厚なものになっている。ファンなら「このフレーズはどこかで……」とニヤリとしてしまう曲があると思うが、それもまた宙明サウンドの楽しみのひとつ。1曲目の「来たるべき明日」からして、「来た来た!」と拳を握りしめてしまうのは筆者だけではあるまい。
 本作の音楽メニューには最初から「依頼曲」と書かれたものがいくつかあり、それは「過去のあの曲と同じような曲を」とリクエストがあった曲なのだ。
 3曲目「平和の守り、ダンナーベース」の後半に登場するC-1はゴオのテーマ。そのまま歌詞をつけて歌にしたくなるようなメロディだ。『ゴーダンナー!!』にはこうした「歌になるようなメロディ」のBGMがよく登場する。9曲目「戦士たちの友情」などもそうだ。「BGMであってもよいメロディを書くことを意識する」という渡辺宙明らしさが表れた楽曲だ。
 4曲目の「ゴオと杏奈」はストリングスが奏でるロマンティックな愛の曲。生のバイオリンとチェロにシンセのストリングスを足して音を豊かにしている。アクション曲だけでなく、こうした抒情的な曲も渡辺宙明の得意とするところである。
 筆者が当時から気に入っているのは7曲目の「ハンターロボ出撃」。これぞ宙明メカアクション・サウンド! 特に後半のA-5(メニューは「戦闘・快調」)がカッコいい。ギターとブラスによる印象的なイントロに続いて、ブラス〜ストリングス〜再びブラスと展開するスピード感あふれる曲。旧作ではあまり聴かれない新型宙明サウンドである。
 8曲目の「紅の追撃」は、5曲目「擬態獣の猛襲」と並んで80年代宙明アクション・サウンドを思わせる重厚な襲撃曲。
 9曲目「戦士たちの友情」からは、ほっと一息つくインターバルに突入。友情のテーマや、平和な情景描写曲、不安曲などが続く。
 17曲目「ストップ・ザ・擬態獣!!」は平和を破る擬態獣のテーマ。前半のB-5はイントロにアクセントを置いた出現の曲。後半のB-3は「敵の攻撃」というメニューで書かれた襲撃の曲だ。本作のBGMは[A]が「戦闘」、[B]が「敵の襲撃」、[C]が「心情・情景」、[D]と[E]はキャラクター・テーマ、[F]がサブタイトル・アイキャッチという分類になっている。
 18曲目の「ゴーダンナー発進せよ!」は本アルバムの聴きどころのひとつ。血沸き肉躍る発進のテーマである。前半のA-4のメニューはずばり「出撃」。これも「依頼曲」のひとつだが、旧作を超える工夫が凝らされている。後半のA-6は「戦闘・快調」というメニューの曲。トランペットとトロンボーンによるメロディのバックで絶え間なくリズムを刻むギターとパーカッション群が高揚感を盛り上げている。緻密に計算されたリズムやアクセントもまた宙明サウンドの醍醐味のひとつである。
 人類のピンチを描写する19曲目「鉄(くろがね)の総力戦」、20曲目「運命の刻(とき)」を経てアルバムは怒涛のクライマックスへ。
 23曲目「紅蓮の戦闘領域」は「80年代以降の宙明アクション・サウンドといえばこれ!」と言うべき必殺のパターンを使ったバトル曲。要は「レーザーブレードのテーマ」ですね。同じパターンを何度も聴いていても、このフレーズにはやはり胸躍ってしまう。
 24曲目「ゴーダンナー ツインドライブモード!!」では70年代から90年代の宙明バトル・サウンドを合体させたかのような燃える曲A-12(メニューは「戦闘・危機的」)が登場。後半の宇宙刑事サウンドを思わせるA-14はゴオが乗るゴーダンナーと杏奈が乗るネオオクサーの合体のテーマ。ずばり「合体」というメニューで書かれた軽快な曲だ。
 25曲目の主題歌インストゥルメンタルで戦いは最高潮に達し、明るいトーンの「平和の賛歌」がひとときの平和を歌ってアルバムは終わる。ラストを締めくくるのは堀江美都子と水木一郎が歌うエンディング主題歌「塹壕の棺〈ザンゴウノヒツギ〉」。爽快なオープニングと対照的に悲劇性を帯びた実にハードな歌詞の歌である。
 ツボを押さえた構成とゆきとどいた解説のブックレット。申し分ない仕上がりのアルバムだ。構成と解説は早川優。現在は在庫切れになっているようだが、宙明サウンド・ファンならぜひ押さえておきたい名盤のひとつである。

 一時は高齢者扱いされるのを嫌って自分の年齢を公開していなかった渡辺宙明は、近年になって生年・年齢を公開するようになった。年を明かしたほうがむしろプラスになると思ったからだそうだ。
 1925年生まれの渡辺宙明は、『神魂合体ゴーダンナー!!』を手がけた当時78歳(!)。年齢をまったく感じさせない若々しくパッションに満ちた音楽に圧倒される。しかも、同じパターンを繰り返しているように見えても、常に貪欲に新しいサウンドを追求して自らの音楽を進化させているのだ。『人造人間キカイダー』『マジンガーZ』から「宇宙刑事」シリーズ、『戦え!!イクサー1』『流星機ガクセイバー』と宙明サウンドを聴き続けてきたファンであれば、その進化が実感できるはず。その姿勢は90歳を目前とした今でも変わっていない。
 89歳にして現役であること以上に、89歳になった今でも新しい音楽を追求していることが、渡辺宙明の真のすごさなのである。その尽きることなき好奇心と飽くなき向上心がファンの心に勇気を与え続けている。宙明サウンドはいつまでたっても「伝説」ではない。常に「現在形」なのだ。
 機会があれば、『宇宙刑事シャリバン/シャイダー NEXT GENERATION』や『俺、ツインテールになります。』に提供された最新宙明サウンドもぜひ聴いていただきたい。あ、待望のCD化が実現した『最強ロボ ダイオージャ』もお忘れなく。

神魂合体ゴーダンナー!! オリジナル・サウンドトラック

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神魂合体ゴーダンナー!! セカンドシーズン オリジナル・サウンドトラック

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