COLUMN

第45回 番外編 まだまだ涙がとまりません 〜おにいさまへ…(その3)〜

 腹巻猫です。ドコモの映像配信サイト「dアニメ」でも『おにいさまへ…』の全話配信が始まりました。時代は今『おにいさまへ…』なのでしょうか。未見の方はぜひご覧ください。


 『おにいさまへ…』サウンドトラック特集の第3回。
 今回は本アルバムの収録曲を詳しく紹介しよう。ブックレットにも解説を掲載しているが、そこに書ききれなかったことも含め、各章ごとに聴きどころを紹介したい。

序章 運命のめぐりあい

 アルバム全体の導入として、第1話の冒頭で流れた幼い奈々子と武彦との出会いの曲M-2を配した。幻想的な序奏からチェンバロが奏でる甘いメロディに展開する。アドリブをまじえたチェンバロの演奏が「あ、ハネケンだ!」という感じでぞくぞくする。

第1章 ピアノ・コンチェルト

 M-9は第1話の奈々子とサン・ジュスト=朝霞れいの出会いの場面をドラマティックに演出した曲。4分を超える聴きごたえのある曲で、単独の楽曲として完成している。華やかで繊細、クラシック的でありポップス的でもある、本作の音楽イメージを代表する曲だ。「『おにいさまへ…』から1曲」と言われたら、迷うことなくこの曲を選びたい。

第2章 花咲く乙女たち

 M-13は第1話の奈々子の初登校シーンで流れた曲。途中リズムパターンが変わるのはハネケンのお得意の手法。男性ファンには「奈々子、いいじゃないかとても。ああ、可愛い、すてきだ」と奈々子のパパの眼ではつらつとした奈々子を見守る気分になってもらいたい。

第3章 華麗なる人々

 宮様こと一の宮蕗子とソロリティ・メンバーズの初登場のイメージ。M-6は宮様のテーマとして作られたが、劇中では使用されていない。未使用が惜しい気品ある曲だ。

第4章 ガラスの靴

 奈々子の受難とそれを救う友情を描いたブロック。使用頻度の高い不安曲M-19に続いて奈々子と親友・智子との友情を描写する主題歌アレンジを収録。智子は、原作では登場場面が少ないが、アニメ版では『エースをねらえ!』の愛川マキに匹敵する助演ぶり。彼女がいなかったら観ていて辛い場面がたくさんあったことでしょう。

第5章 あなたがほしい

 ファンならタイトルでピンとくる、信夫マリ子に焦点を当てたブロック。愛に飢えたマリ子は、奈々子に執着して自宅に招く。もうね、M-29とかM-290とか聴いているとシーンが目に浮かんでたまりませんわ。だって、マリ子さんたら一緒にお風呂に入ったあとに奈々子さんをあんな目に……。きゃあ〜!!

第6章 静かなるたそがれに

 ……つい我を忘れてしまいました。気を取り直して、ここでほっと一息。夕暮れを描写するちょっと寂しげなM-14と学園のチャイムの曲M-3を聴いていただきたい。
 M-14は夕暮れをイメージした曲だが、少女たちが静かに想いをめぐらす場面によく使われている。第9話では薫が夕暮れの教室でひとり「人はなぜこの世に生まれてくるのだろうか」と泣く場面、第18話でサン・ジュストと奈々子が公園で過ごす場面、第35話では奈々子が主のいなくなったサン・ジュストの部屋で一夜を明かす場面に、ほぼフルサイズ流れていた。
 M-3は授業開始・終了時に鳴るチャイムの音として使われた曲。効果音ではなく音楽として作曲・録音されていたのだ。ファンにとっては本作品を象徴する音と言ってもよい印象深い曲だ。

第7章 薫の君〜命きらめいて
第8章 華やぐ心〜カムバック

 2章続けて薫に焦点を当てたブロック。M-4は薫のテーマだが、本編では2回しか使われていない。T-240、M-22、M-24は『おにいさまへ…』には珍しい躍動感のある曲。いずれも使用回数は少ない。薫のバスケットボールの試合シーンに選曲されている。

第9章 希望に燃えて

 ブラスバンド風の軽快な曲を2曲続けた。スポーツの試合や練習のシーンを想定した曲だが、ぴったりくるシーンがなかったのか、ほとんど使用されずに終わっている。試合シーンのイメージの延長でここに配した。「こんな曲もあったんだ」と思って聴いていただければ。

第10章 親愛なる人へ

 おだやかで抒情的な曲を集めたブロック。ここではエンディング主題歌をアレンジしたT-140がすばらしい。サックスとフリューゲルホルンのアドリブがぐっとくる。本編での使用回数は少ないが、CDでじっくり聴き、味わいたい曲だ。

間奏曲 おにいさま…涙が止まりません

 次回予告で流れた曲を収録してDISC1のラストとした。T-310は特に次回予告用に書かれた曲というわけではなく、本編でも何度か使用されている。予告用には30秒に編集して使用された。

第11章 セレナーデ〜花のサンジュスト

 ここからDISC2。1曲目はピアノ・ソロの曲M-8を配した。ハネケンのピアノがたっぷり聴けるこの曲はCD化の要望も高かった重要曲。劇中ではサン・ジュストや宮様が弾くピアノの現実音として使われている(中身がハネケンだからすごくピアノがうまいのだ)。次のM-5はサン・ジュストのテーマとして書かれた曲だが、本編では1回しか使用されていない。

第12章 夢の中へ

 章題は第18話のサブタイトルから借用。奈々子のサン・ジュストへの思慕をイメージしたブロックだ。M-18は友情を表現する曲で第12話で奈々子がサン・ジュストの部屋の前にサンドイッチを届ける場面に使用されている。T-220、T-230は第18話で奈々子とサン・ジュストがデートするシーンに流れていた。

第13章 ひと夏のできごと

 宮様の別荘に招かれた奈々子の衝撃の体験をイメージしたブロック。不安な曲想のM-20を聴くと、うら寂しい湖の情景、ボートから身を投げる宮様の姿が目に浮かんでくる。そして、サスペンスに満ちたM-32をバックに湖の中から奈々子の足をつかむ宮様の手……。きゃあ〜!!

第14章 あなたを夏の日にたとえようか

 はあはあ……。次へ行きましょう。ここでは宮様とサン・ジュストの過去を語るドリーミーな曲を収録した。M-16、M-160ともに「夜、美しい空」という同じメニューで書かれている。第24話「アンコール」と第25話「薔薇のルージュ」の回想シーンでたっぷり聴くことができる。

第15章 メランコリヤ〜桜の園

 静かにたたずむ青蘭学園の校舎。しかし何か起こりそうな予感が……。そんな波乱含みの学園の情景をイメージしたブロック。章題の「桜の園」は吉田秋生のマンガ作品を意識してつけた。
 T-320はチェンバロと木管のかけあいが不安な気持ちを描写する曲。不安というより、憂鬱=メランコリーという言葉がぴったりくる繊細な曲だ。
 M-25は学校の情景をイメージした曲だが、静かな曲調の中にそこはかとない不安感がただよう。シーンに応じて曲の一部分が切り出されて使用されているので本編ではなかなか曲の全貌がわからなかった。校舎に閉じ込められた青春の迷いや悩みを映し出すような味わいのある曲である。

第16章 学園に吹く風

 T-130は軽快で明るい主題歌アレンジ曲。本編では使用されていないので、構成上どこに配するか迷った末、ここに入れてみた。DISC2が全体に緊張感のある重い印象なので、ここでちょっと雰囲気を明るくしたかったからだ。

第17章 巷に雨の降るごとく

 ソロリティ崩壊を描く第32話「誇り、ラストミーティング」をイメージしたブロック。宮様がいらだちを込めて弾く激しいピアノ・ソロM-10。宮様がソロリティ・ハウスでひとりメンバーを待つシーンの不安曲M-21。そして、「私は誇りあるものを愛します」と宮様が気高く語る場面のT-190を続けて、名場面を再現してみた。

第18章 ノクターン〜哀惜

 サン・ジュストの死をめぐる曲を3曲。M-2 Pf Soloは奈々子とサン・ジュストが最後に会う場面に、またサン・ジュストの葬儀の場面にも流れていたピアノ・ソロ。M-31、M-26はその死を悼む奈々子や宮様の心情を描写する曲だ。このあたり、聴いていると辛い曲が続く。

第19章 蛍火の恋

 物語の終盤に、薫の君のドラマが用意されていた。そのエピソードを象徴する曲T-200を収録。T-200は「意地悪な心」というメニューで書かれているのだが、第36話〜38話では、まるで薫の悲恋のテーマのように使用されている。選曲のマジックである。

第20章 過ぎし日の思い出

 物語の余韻を味わってもらうために思い出をテーマにした曲を集めた。M-12は奈々子と父との幼い日の思い出を描写する曲。M-120は数々の名場面に選曲された重要曲のひとつ。フリューゲルホルンの温かい音色に、奈々子とサン・ジュストの初デートのシーン(第18話)や、「自分を嫌いになってはいけない」とマリ子を諭すポルノ作家の父の言葉(第28話)、最終回、乗馬クラブで武彦とサン・ジュストの面影を思い浮かべる宮様の場面などがよみがえってくる。

終章 おにいさまへ…

 奈々子のドラマを締めくくるブロック。T-110は第37話「回転木馬(メリーゴ−ランド)」で長く流れた主題歌アレンジ。奈々子との出会いを思い出す武彦の回想から流れ始め、視点が変わって武彦への想いを語る奈々子のモノローグまで流れ続ける。「この手紙は出しません」という奈々子の台詞が胸を打つ名場面だ。そして、T-300は最終回のラストシーンでほぼフルサイズ流れたグランドフィナーレの曲。アニメ版の終幕は原作よりも余韻と希望があり、すばらしい。ああ、いいドラマだったなあ。

 そう、『おにいさまへ…』ってアニメというよりドラマ、それもTVドラマではなく、舞台劇のような印象なのである。その印象を後押ししているのが、ハネケンの華麗な音楽。だって、バスの中で出会っただけでピアノ・コンチェルトがばばーんと鳴りだすなんてふつうのアニメやTVドラマでは考えられない。でも、舞台劇なら大いにありだし、本作にはそういう演出が合っている。学園ものだけど、華麗なキャラクターたちによる非日常的で濃縮されたドラマが展開するアニメ。『おにいさまへ…』ってそういう作品なのだ。
 それを支える華やかで美しくドラマティックな音楽はハネケンの音楽以外考えられない。このアルバムは、『超時空要塞マクロス』や『スペースコブラ』のハネケンしか知らない人にも、『おにいさまへ…』を観たことがない人にも聴いてほしい。そして、もし本作を観たことがなかったら、このサントラをきっかけにぜひ全話観てほしい。ハマることうけあいですから。そういう気持ちもこめて、このサントラを作りました。

 全国の『おにいさまへ…』ファン、ハネケン・ファンに、この音楽が届きますように。

おにいさまへ… オリジナル・サウンドトラック

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