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第44回 番外編 まだ涙がとまりません 〜おにいさまへ…(その2)〜

 腹巻猫です。9月24日「おにいさまへ… オリジナル・サウンドトラック」発売になりました。発売日から好評でうれしいです。そして願わくば、『おにいさまへ…』ファンの方、ハネケン・ファンの方、「いいネ」と思ったら、ぜひブログやTwitterやリアルな口コミ等で紹介してください!


 『おにいさまへ…』サウンドトラック特集のつづき。
 今回はサントラ構成の話から始めたい。
 サントラの構成とは、録音された楽曲の中からサントラ盤に収録する曲を選び(選曲)、曲順を決め、曲タイトルをつけること。この作業はメーカーの音楽ディレクターが担当したり、本編の音響監督や監督が行ったり、作曲者自ら行ったりと、誰が担当するかに明快なスタンダードはない。筆者はこの構成作業を専門に行っている一人だが、正直、認知度の面でもビジネス的な面でも、業種として確立されているとはいえないと思う。要するにたいへんなわりに報われないというか、「好きでないとやってられない」仕事のひとつだろう。それでも構成という仕事が成り立つのは、作り手視点ではなく、視聴者・リスナーの気持ちに近い立場で構成を行う構成者が必要とされているからだと考えている。
 サウンドトラックの構成作業は本編に使用された音楽を確認する作業から始まる。作品中の音楽が流れているシーンすべてについて、使用されたBGMを特定するのだ。
 映画の場合は本編がせいぜい2時間程度なのでまだいいが、TVシリーズだと26話とか52話(場合によっては100話以上)を全話、音源と首っ引きで視聴することになる。
 たいへんに手間がかかる作業だ。しかし、これをやっておかないと、本編に使用されていないBGMを収録してしまったり、逆に本編中の重要な場面で使用されているBGMを収録時間の都合等でオミットしてしまったりする。また、本編中での使用状況がわからないと曲順も決められない。うっかりすると「なぜ、あの曲が入ってない」「曲順がイメージと違う」等とお叱りをいただくことになる。サントラ構成者にとって、「BGMを確認しながら本編全視聴」は避けて通れない作業なのだ。
 『おにいさまへ…』の場合も劇中で流れている音楽をすべて確認してから構成作業に入った。CD2枚組でBGMが全曲収録できるとわかっていたので、考えなければいけないのは曲順である。

 サントラ構成にはいくつかの方法がある。本編に登場する順にBGMを並べていく「初出順」、キャラクターテーマ、アクション曲などのテーマごとにまとめていく「テーマ別」、作品中の使用状況はあまり意識せず、音楽的流れに着目して並べる「音楽性重視」など。実際にはこれらを組み合わせて、本編のストーリーの流れを追いつつ、音楽アルバムとして気持ちよく聴けるようにまとめることが多い。
 筆者は、作品のテンポ感やトータルな印象をサントラ盤でも再現したいと考えて構成している。たとえばテンポが速く観終わってスカッとする作品ならサントラ盤も聴き終わってそういう印象になるように。ゆったりした感動作なら、サントラ盤もそういうイメージに。1話完結の作品であればサントラ盤でも定番フォーマットを再現したいし、大河ドラマ的な作品であれば、サントラ盤も大きなうねりを持ったストーリー性のあるアルバムにしたい。そういう全体的なゴールを決めてから構成に取りかかることにしている。
 『おにいさまへ…』の場合は、なんといってもキャラクターの強烈さ。ここに焦点を当てるべきだと考えた。そして、全体としては華麗でドラマティックな舞台劇のような雰囲気。
 物語の導入として第1話の冒頭で流れた回想シーンの曲M-2を置くことにした。続いて、サン・ジュストと奈々子が初めて出会うシーンに流れたピアノ・コンチェルトM-9。ハネケンのピアノとオーケストラの共演が印象的なM-9は、『おにいさまへ…』という作品のイメージを象徴するといってもよい曲だ。序曲としてこの上なくふさわしい。
 また、しめくくりは最終回のラストに流れた主題歌アレンジの曲T-300。この曲は長く流れるのは最終回だけで、まるでラストシーンを意図して作曲されたような印象がある。グランドフィナーレにはこの曲しかない。
 最初と最後を決めて、その間をキャラクターのドラマにそって埋めることにした。
 『おにいさまへ…』は群像劇である。複数のキャラクターのドラマが並行して進んでいく。ストーリーの流れに忠実に曲順を決めると、視点が定まらず散漫な印象になりかねない。そこで、全体をいくつかの大きなブロックに分けて、DISC1はマリ子と薫、DISC2は宮様とサン・ジュストに焦点を絞った構成とした。加えて、全体としては全39話の流れを追うように、DISC1が前編、DISC2が後編になる感じの構成を試みた。
 完成したアルバムの内容は以下のとおり。

[DISC1]
オープニングテーマ
 01.黄金の器 銀の器(歌:高田さとみ)
序章(プレリュード) 運命のめぐりあい
 02.M-2
第1章 ピアノ・コンチェルト
 03.M-9
第2章 花咲く乙女たち
 04.M-1/05.M-13
第3章 華麗なる人びと
 06.M-6/07.M-7
第4章 ガラスの靴
 08.M-19/09.T-260/10.T-260′/11.T-280/12.T-250
第5章 あなたがほしい
 13.T-180/14.M-29/15.T-290/16.T-210
第6章 静かなるたそがれに
 17.M-14/18.M-3
第7章 薫の君〜命きらめいて
 19.M-4/20.T-270/21.M-30
第8章 華やぐ心〜カムバック
 22.M-15/23.T-240/24.M-22/25.M-24
第9章 希望に燃えて
 26.M-17/27.T-170
第10章 親愛なる人へ
 28.T-150/29.M-11/30.T-140
間奏曲(インテルメッツォ) おにいさま…涙がとまりません
 31.T-310

[DISC2]
第11章 セレナーデ〜花のサン・ジュスト
 01.M-8/02.M-5
第12章 夢の中へ
 03.M-18/04.T-220/05.T-230
第13章 ひと夏のできごと
 06.M-23/07.M-28/08.M-20/09.M-32
第14章 あなたを夏の日にたとえようか
 10.T-160/11.M-16
第15章 メランコリヤ〜桜の園
 12.T-320/13.M-25
第16章 学園に吹く風
 14.M-27/15.T-130
第17章 巷に雨の降るごとく
 16.M-10/17.M-21/18.T-190
第18章 ノクターン〜哀惜
 19.M-2 Pf solo/20.M-31/21.M-26
第19章 蛍火の恋
 22.T-200
第20章 過ぎし日の思い出
 23.M-12/24.T-120
終章(フィナーレ) おにいさまへ…
 25.T-110/26.T-300
エンディングテーマ
 27.気まぐれな妖精(歌:野田貴子)

 全体を章分けして、組曲風にしてみた。単にBGMを並べるよりも格調ある感じが出る。各曲にタイトルをつけるケースもあるが、今回は章タイトルのみで各曲ごとのタイトルはつけていない。
 タイトルは曲のテーマやイメージをもとに考えるが、作品のサブタイトルや登場人物の台詞をもとにつけることも多い。音楽メニューがあれば大いに参考になるが、メニューで指定されたとおりに使われないケースも多いのが悩ましいところだ。結局、「本編中でどう使われたか」がいちばん大事になる。「あなたを夏の日にたとえようか」と「巷に雨の降るごとく」は本編中重要な役割を果たした詩からの引用。それぞれ、シェイクスピアのソネットとヴェルレーヌの詩から採ったものである。
 DISC1の1曲目とDISC2の最終曲はオーソドックスにオープニング主題歌とエンディング主題歌を配した。オープニングの前にプロローグ的な曲を置くこともあるが、これも作品の雰囲気次第。本編にアバンタイトル(オープニングの前に入る短い本編)があるならそれも大いにありである。『おにいさまへ…』にはアバンタイトルはつかないので、本アルバムでは素直にオープニングからスタートする構成にした。
 ちなみに、ネット上ではオープニング、エンディングともに作詞・作曲:小椋佳と表記されているケースがあるが、正しくはオープニングが作詞・作曲:小椋佳、エンディングは作詞:小椋佳、作曲:原田真二である。小椋佳は紹介の必要もないと思うが、アニメでは『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』『銀河英雄伝説』の主題歌などを手がけているシンガーソングライター。原田真二は1977年に18歳でデビューしたシンガーソングライターで、オリコンチャート入りの曲や他アーチストへの提供曲も多いヒットメーカーだ。アレンジも手がけ、本作のオープニング、エンディングともに原田真二が編曲している。このあたり、CDの解説書に書けなかったので補足しておく。
 では、本アルバムの聴きどころを紹介しよう……と思ったが、長くなったのでつづきは次回。
 またしても、涙がとまりません…。(つづく)

おにいさまへ… オリジナル・サウンドトラック

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