COLUMN

第30回 かわいい魔女がやってきた 〜魔法使いサリー〜

 腹巻猫です。文化庁メディア芸術祭の功労賞を受賞した音響効果マン・柏原満さんの仕事が堪能できる音盤、「サウンドファンタジア 宇宙戦艦ヤマト」が3月19日に再発されます。効果音と音楽で創造された「音のドラマ」。音質も向上しているようなので、ぜひ手に取ってみてください。

「サウンドファンタジア 宇宙戦艦ヤマト」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00HSP0OW4/style0b-22/ref=nosim


 「マハリクマハリタ」の呪文からテンポよく始まる主題歌が印象的な『魔法使いサリー』。TVアニメ第1作は1966年から1968年まで2年あまりにわたって放映された。音楽は小林亜星が担当している。
 小林亜星とアニメ音楽の縁は深い。『狼少年ケン』(1963)に始まり、『魔法使いサリー』に続く東映魔法少女もの『ひみつのアッコちゃん』(1969)、その正統な後継である『花の子ルンルン』(1979)、『科学忍者隊ガッチャマン』(1972)や『宇宙の騎士テッカマン』(1975)といったSFヒーローもの、『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976)、『百獣王ゴライオン』(1981)といった巨大ロボットアニメ、『怪物くん』(1980)、『プロゴルファー猿』(1985)といったファミリ—向けの作品まで、幅広く手がけている。
 けれど、『ガッチャマン』以降の作品は主題歌の作曲のみを担当し、アレンジと劇中音楽はほかの作曲家・アレンジャーにまかせるという参加のしかたが多くなった。『魔法使いサリー』は小林亜星が劇中音楽も含めて手がけているところがミソ。『狼少年ケン』や『ひみつのアッコちゃん』と並ぶ、トータルな意味で小林亜星サウンドが聴ける貴重な初期作品である。
 小林亜星は慶應義塾大学出身。医学部から経済学部に転部したという異色の経歴。慶大医学部には同時期に冨田勲も在籍していたという。
 アニメ音楽とのかかわりは『狼少年ケン』から始まる。これは小林亜星がまだ「ワンサカ娘」「レナウン」等のCMで注目される前の作品だが、オープニング主題歌からして小林亜星の才気が爆発している。そのメロディは現在もロッテのガム「Fit’s」のCMソングとして流用されている。小林亜星が作り出したメロディの先進性と普遍性がうかがえるエピソードだ。
 『魔法使いサリー』は、『狼少年ケン』の終了から1年を経てスタートした。日本アニメ史上初の「魔法少女アニメ」。その音楽は、現在「魔法少女もの」というジャンルからイメージされる音楽とはずいぶん異なっている。

 本作のサウンドトラックは放映終了から40年以上を経た2012年に発売された。発売元はウルトラ・ヴァイヴ。「アニメ・ミュージック・カプセル」という旧作のアニメ音楽をアーカイブするシリーズの1タイトルである。
 収録内容はざっと以下のとおり。

1.『魔法使いサリー』(TVオープニング)
2.BGM(『魔法使いサリー』インストゥルメンタル)
3.BGM(『魔法のマンボ』インストゥルメンタル)
4.BGMコレクション〈1〉
5.BGMコレクション〈2〉
6.BGMコレクション〈3〉
7.BGMコレクション〈4〉
8.BGMコレクション〈5〉
9.『魔法のマンボ』(TVエンディング)
10.『いたずらのうた』(TVエンディング)
11.『パパのチョイナのうた』(TVエンディング)

BONUS TRACKS
12.『落書きの唄』
13.『姉さんなんかやめちゃいたい(姉さんの唄)』
14.『現代っ子と昔の子(子供は王様)』
15.『サリーはかわいい魔法使い』
16.『北風小僧がやってきた(北風っ子)』

 実は「BGMコレクション」の中がさらにトラックに分かれており、総収録トラックは132トラックにもなる。BGMを1曲1トラックで収録した労作である。
 なんといっても、1966年当時の音が聴けるのがうれしい。本作の音楽録音は7回にわたっており、当アルバムには第6回までの音楽が収められている(なお、録音回数は整理のしかたによって全6回と数える場合もある)。
 短い時間でインパクトを与えるCM音楽で活躍した小林亜星ならではの名調子が聴ける。
 『サリー』の雰囲気をよく伝えているのは、主題歌アレンジの「A-6/テーマ・ディキシー風」や「スイング」とコメントされた「A-21/スイング」「A-23/スイング・いたずら」「C-13A/スイング・けだるい遊び」「C-30/スイング・緊迫」など。ちょっと大人びたジャズ・サウンドが『魔法使いサリー』の音楽の魅力のひとつだ。
 当時流行のダンス音楽やエキゾチック・サウンドを取り入れた曲も楽しい。「C-15/せっせといたずら・アラビア風」「C-18/アラビア風ハバネラ〜マーチ」「C-23B/ゴーゴー」などだ。
 また、『魔法使いサリー』を代表する曲というと、いたずらシーンやドタバタシーンに使われた曲だろう。「B-06/コミック・軽いいたずら」「B08/楽しいマーチ(走り)」などは、カブや三つ子の巻き起こす騒動が目に浮かぶようなナンバーである。
 『魔法使いサリー』の音楽は、叙情的なサウンドよりも、シチュエーション・コメディを思わせる軽快な音楽が印象に残る。これは当時人気があった『奥さまは魔女』などの海外ドラマにも影響されたのではないかと思う。放映当時、本作を観ていた子どもたちは「女の子もの」「男の子もの」というジャンル分けを意識せずに観ていた記憶がある。サリーのキャラクターもお姫さまというより、「おてんば魔女」の面が前に出ていた。
 本作に続いて小林亜星が手がけた『ひみつのアッコちゃん』は音楽のタッチが変わり、主題歌からしてワルツ調のロマンティックなものになった。そして、1979年の『花の子ルンルン』にいたっては、「夢見る女の子のハートをわしづかみ!」とも言うべきおしゃれな主題歌になっている。時代時代にあわせて音楽を進化させる小林亜星の手腕にあらためて感嘆させられる。

 さて、ここまで紹介してわかるとおり、本アルバムの楽曲タイトルは「M-No.」と「コメント」の形で表記されている。「コメント」はいわゆる「音楽メニュー」の表記だ。
 また、全体の構成も、ストーリーに沿って楽曲を並べるスタイルではなく、録音回数ごとに大きくブロック分けして楽曲を収録する方式になっている。「観賞用のアルバム」というより、「音楽データのアーカイブ」といった印象だ。
 音楽自体に罪はないものの、この構成は「これでいいのかな?」と思ってしまうのである。曲順と曲タイトルに気を配り、「聴きやすく、作品のイメージを再現するサントラ盤」を作ることに頭を悩ませている身としては、「サントラ盤ってこれでいいの?」とちょっと問いただしたい気持ちになる。
 とはいえ、CDをプレーヤーにかけて聴くことよりも、メモリオーディオに取り込んで聴くことのほうが多くなった現在、「音楽は1曲1曲独立したデータ」という考えもあるかもしれない。さびしいけれど。
 でも、やはり、愛着がわくサントラ盤の形ってあるよなと思うのである。『魔法使いサリー』の音楽が初めてCD化されたコンピレーション盤『東映アニメーション 魔女っ子 ミュージック・サンプラー』(1999発売、コロムビア)では、早川優氏がBGMを抜粋する形で「かわいい魔女がやってきた」「すてきな学園」「町は大騒動」「小さな魔法使い」と4トラックに分けて構成・収録していた。気配りの行き届いた構成で、「アニメ・ミュージック・カプセル」には未収録の「ポロンのテーマ」などが収録されているのもポイントが高い。作品と音楽への愛情が感じられるこういう構成も捨てがたいなあと思うのである。

 とつい苦言を呈してしまったが、貴重な音源をアーカイブした本盤の価値はゆるがない。オープニング、エンディング主題歌のTVサイズ・バージョンの収録や、劇中で流れた挿入歌をマスターテープから収録したことも意義がある。
 『魔法使いサリー』を愛するファンは、本アルバムをベースに、独自にプレイリストを作って「マイ・サントラ」を構成してみるのも一興だろう。

アニメ・ミュージック・カプセル「魔法使いサリー」

CDSOL-1504〜5/3150円/SOLID RECORDS
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アニメ・ミュージック・カプセル「ひみつのアッコちゃん」

CDSOL-1272/3150円/SOLID RECORDS
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東映アニメーション 魔女っ子ミュージック・サンプラー 1966〜1981

COCX-30486/4200円/日本コロムビア
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