腹巻猫です。11月20日に構成・解説などでかかわったサントラCDが一挙3枚発売になります。「ドキドキ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック2」(マーベラスAQL)では構成・解説・インタビューを担当。「京騒戯画 音楽集」(日本コロムビア)では監督・松本理恵×音楽・椎名豪対談の取材・構成と曲タイトルを担当。アニメではなく実写劇場作品ですが、「すべては君で逢えたから オリジナル・サウンドトラック」(サウンドトラックラボラトリー)では構成・解説・インタビューを担当しました。どれも素敵なアルバムに仕上がっていますので、ぜひお聴きください!
「ドキドキ!プリキュアオリジナル・サウンドトラック2」
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「京騒戯画 音楽集」
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「すべては君に逢えたから オリジナル・サウンドトラック」
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上で紹介した「すべては君に逢えたから」の音楽を担当したのは池頼広。TVドラマファンには「相棒」シリーズ(2002〜)や「家政婦のミタ」(2011)の音楽で、アニメファンには『宇宙ショーへようこそ』(2010)や『TIGER & BUNNY』(2011)の音楽でおなじみの作曲家だ。
今回はその池頼広作品からTVアニメ『かみちゅ!』(2005)を紹介したい。筆者が初めて池頼広の名を意識して「これは話を聞きに行かなければ」と突撃取材を敢行。現在にまでいたるおつきあいのきっかけになった思い出の作品である。
『かみちゅ!』は2005年に放映されたTVアニメ作品。監督・舛成孝二、脚本・倉田英之の『R.O.D. —READ OR DIE—』(2001)のコンビによるオリジナル作品だ。
女子中学生がある日突然、神様になってしまうという設定のファンタジー。奇抜な設定とはうらはらに、ふつうの中学生の日常感覚を大切に描いた、ふしぎなテイストの作品だった。
音楽を手がけた池頼広はジャズ・ベーシスト出身。バンド活動を経て映像音楽作曲の道に入った。初めて音楽を手がけたアニメ作品は1995年のOVA作品『真・女神転生 —東京黙示録—』。2000年に手がけた劇場アニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の音楽が海外でも認められて映像音楽作家としての地位を固めた。現在まで続く人気TVドラマ「相棒」の音楽を担当するのはその2年後である。近年は劇場作品、ドラマ、アニメなどの話題作を次々手がける人気作家として活躍中だ。
池頼広の音楽というと、「相棒」や『TIGER & BUNNY』に代表されるように、ドラマティック、スリリング、スケール豊か、そんなイメージが強い。ところが、『かみちゅ!』はどちらかというとドラマティックやスリリングから遠い作品だ。
サウンドトラック・アルバムの収録曲は以下のとおり。
- 恋の自習時間
- 君につづく坂道
- ちゅう学生がゆく!
- バチあたるぞ!
- 恋は、ふしぎ
- 自転車で帰ろう
- 時はゆっくり流れてる
- なんでもありません
- もののけだよ全員集合!
- すこし、ふしぎ
- アイラブユーは川を越えて
- 神々(こうごう)Cガール
- センチメンタル・カントリー・ロマンス
- いつだってお昼寝ちゅう
- あたふた あたふた
- 天国時間
- 恋の片道フェリー
- 夢色坂道
- あの夏の坂道
- ウキウキ寄り道オーマイガッ!
- ちゅう学生がもっとゆく!
- 海はグー!瀬戸内サーフィン天国
- 晴れのちハレ!(TV version)
- アイスキャンディー(TV version)
曲名が楽しい。「なんでもありません」とか「アイラブユーは川を越えて」とか、なかなか出てこないセンスだ。必ずしも曲名が楽曲の使用場面にぴったりというわけではないが、作品の雰囲気が伝わってくる秀逸なタイトルだと思う。
音楽は弦楽器・管楽器を含む小編成のオーケストラのセッションと、ギター、ピアノ、フルート、パーカッション、ドラムスというバンド編成のセッションに分けて録音されている。どちらもシンセサイザー等の電子楽器は使わず、生の弦や木管の音色を生かしたやさしい音作り。本作の舞台である瀬戸内の風景を思わせる暖かい曲に仕上がっている。
どの曲もすごくいい。けれど、そのよさを表現するうまい言葉を探すのに苦心する。「美しい」「叙情的」というのも違う気がするし、「感動的」「癒される」と言ってもぴったりこない。
なにかもっとふんわりした、軽さと繊細さが共存した感じ。その感じは『かみちゅ!』という作品そのものが持つ、ふわっとした、それでいて繊細な印象と重なっている。
1曲目の「恋の自習時間」は引っ込み思案の主人公・ゆりえのテーマのような印象の曲。第2話「神様お願い」のラストでゆりえが神様就任のあいさつをする場面に流れている。第4話「地球の危機」ではゆりえが火星人(!)と会話をする場面に、第7話「太陽の恋人たち」ではゆりえの力で日の出町の空に花火が上がる場面に使用。静かに始まって後半からしだいに明るい曲調に変化していくのが聴きどころだ。このメロディをバンド編成で演奏したのが「いつだってお昼寝ちゅう」という曲で、第2話でゆりえが家出した神様・八島様の悩みを聞くシーンに使われている。
2曲目「君につづく坂道」は弦と木管による感動的な曲。第1話でゆりえが意中の同級生・健児と屋上で出逢う場面、第9話「時の河を越えて」では戦艦大和が呉に帰還するシーン、第15話「小さな一歩」では思いがかなったゆりえを級友と町の人々が祝福する場面に使われた。このメロディは本作のメインテーマといってよく、さまざまにアレンジされて使われている。
たとえば「神々(こうごう)Cガール」は弦楽器によるしみじみとした変奏で、第1話でゆりえが健児を救おうとする場面などに使用。「夢色坂道」は何気ない語らいの場面などに使われたピアノによるアレンジ曲で、前半はちょっとさみしげな音色、後半は希望的な音色で演奏されていて1曲の中で変化を楽しむことができる。印象は異なるが「アイラブユーは川を越えて」もギターによるメインテーマの変奏曲。生ギターの音色は瀬戸内の夕景がよく似合う。
ギターとフルートで奏でられる「あの夏の坂道」は、『かみちゅ!』ファンなら誰もが印象に残っているに違いない、本作を代表する1曲だろう。第1話の冒頭場面とラストシーンに使われたのをはじめ、ゆりえたちの日常を描く場面によく使われた。
アップテンポで楽しい「ちゅう学生がゆく!」は「かみちゅ!のテーマ」ともいうべき曲。バリエーションである「ちゅう学生がもっとゆく!」ともども、アクティブなシーンを彩った活気のある曲だ。第3話でゆりえたちが貧乏神を退治しようとする場面や第9話の戦艦大和浮上シーンの使用が印象的。サントラのライナーノーツには、この曲の45秒付近から「メロディが“♪かみちゅ〜 かみちゅ〜 かみちゅが来るよ♪”と歌っております」と池頼広自身が書いている。一度そう聴いてしまうと、聴くたびに歌わずにはいられなくなってしまう。
4曲目の「バチがあたるぞ!」は第1話の台風接近シーンに流れた。15曲目の「あたふた あたふた」とともに池頼広らしいスリリングな楽曲だが、実は本編ではあまり使われていない。こういう、いかにもアニメ音楽らしい曲の出番が少ないのが本作の面白いところである。
「恋は、ふしぎ」はちょっとユーモラスな「ふしぎのテーマ」。恋もふしぎだが、本編ではもっぱら神様や神通力と共存するふしぎな日常を描写する曲としてよく使われた。同じメロディはギターと笛による「すこし、ふしぎ」、ギターによる「センチメンタル・カントリー・ロマンス」にも登場する。
「自転車で帰ろう」と「時はゆっくり流れている」は実に『かみちゅ!』らしい、やわらかく繊細な曲。「自転車で帰ろう」は第1話でゆりえが嵐の中、健児に告白する場面に流れている。感動というほど大きくはないけれど、じんわりくるいい曲だ。第16話(最終話)「ほらね、春が来た」のラストシーン、ゆりえと健児が並んで夕陽を見る場面に流れたのもこの曲。
「時はゆっくり流れている」はさみしくも暖かくも聴こえる、タイトルどおり時が「ゆっくり流れている」印象の曲。第7話での、廃屋になった休憩所「浜風」でゆりえたちが雨宿りする場面の使用が印象的。
筆者が特に気に入っているのは8曲目の「なんでもありません」だ。第2話で家出していた八島様が帰ってきてゆりえたちに謝る場面、第7話で日の出町の人々が「浜風」に集まってくるラストシーン、そして第15話でゆりえが健児に告白しに行く場面などに使われて、心をほんわかと温めてくれた。泣けるというほどでもないけれど、なんだか幸せな気持ちになる。そういう感じの曲である。
同じメロディを使ったピアノの曲「天国時間」は第12話「ふしぎなぼうけん」のラストでゆりえがクラスメートに挨拶する場面や第16話でゆりえと健児が大きな石の上で語らうシーンに使用。これも、涙を誘うほどではないけれど心にぐっとくる場面をさらりと演出している。
ギターとパーカッションによる「ウキウキ寄り道オーマイガッ!」も同じメロディの変奏なのだが、ずっと軽快で楽しい雰囲気に仕上がっている。でも、この曲も楽しい中にどこか切ない秋空のような色を帯びている。
かつて池頼広にインタビューした際「TVドラマでは感情を限定しない中間色の音楽を書くことが多い」という話を聞いた。アニメでは対照的に喜怒哀楽のはっきりした曲を要求されることが多いのだという。
けれども、『かみちゅ!』の音楽は、どちらかというと中間色である。「うれしいけれどちょっと悲しい」「さみしいけれど希望もある」みたいな、ひとつの感情に限定できない感じの曲が多い。そして、人間の気持ちって、ほんとうはそういうものなのだ。
神様になってしまったゆりえのとまどいと悩みと前向きな思いがないまぜになった気持ち。それを見守る友人たちの心配と、でもちょっと面白がらずにいられない気持ち。中学生のふわふわと定まらない感情のゆれは、単純な「うれしい音楽」「悲しい音楽」では表現できない。ふわっとした、微妙な色合いを帯びた中間色の音楽でなければ表せない繊細なものだ。
90年代頃までのアニメ作品だったら、こういう音楽は「アニメっぽくない」と言われてNGになっていたかもしれない。
けれども『かみちゅ!』にはこういう音楽が似合う。瀬戸内の町を舞台に、神様やもののけと人間が共棲する世界。アニメっぽい記号化された少女ではなく、女子中学生らしいふにゃっとした顔と手足で描かれたゆりえたち。ほとんど大きな事件が起こるわけではなく——いや、起こることもあるのだが、それが中学生の日常と等価なものとして描かれるふしぎな作品。ゆりえも神様たちも、切実になりすぎず、がんばりすぎない。『かみちゅ!』はファンタジーというより、『けいおん!』や『たまゆら』のような作品の味わいを先取りした日常アニメである。
その「ふわっとした感じ」を表現するためには、やはり「ふわっとした音楽」でなければならなかったのだろう。中間色で描かれた音楽は一聴するとシンプルなようで、実はすごく深くて繊細だ。大げさな言い方かもしれないが、アニメ表現の進化に応えてアニメ音楽も進化している。そんなことを実感させてくれる作品である。
と難しいこと言っちゃったけど、何も考えずに聴いても『かみちゅ!』の音楽はすごくいい。聴けばあなたの心にちゅっちゅーっ! ですよ。
かみちゅ! オリジナル・サウンドトラック
SVWC-7291/3045円/アニプレックス
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宇宙ショーへようこそ オリジナル・サウンドトラック
※『かみちゅ!』と同じ、監督・舛成孝二、脚本・倉田英之、音楽・池頼広による作品
SVWC-7690/3045円/アニプレックス
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