なかむらたかし監督の新作短編『寫眞館』を観て「この作品と『パルムの樹』は表裏一体なのだな」と思った。『パルムの樹』は2002年に公開された劇場長編アニメーションで、なかむら監督のオリジナル作品だ。丁寧に作られており、映像に関しても非常に見応えがある。10月19日(土)に開催するオールナイト「新文芸坐×アニメスタイルセレクションVol.49 新作『寫眞館』公開記念 なかむらたかしとその作品」の目玉となるタイトルだ。
公開から10年以上経ったが、いまだに僕は『パルムの樹』を受け止めきれていない。なかむら監督の入魂の作品であるのは間違いない。だが、「こういう作品だ」と断言することができない。ジャンルとしてはファンタジーである。主人公はパルムという名の人形で、人間になりたいと願う彼と、他のキャラクター達のドラマが重層的に展開される。描写に甘さは一切ない。作り手は生きることの辛さ、満たされない想い、エゴといったものと正面から向き合い、物語を紡いでいる。単純に悲惨な話でもなく、徹底したペシミズムで作られているわけでもない。むしろ、悲惨なだけの物語であったなら、簡単に受け止められただろう。『パルムの樹』はそんなに単純な作品ではない。
「この人に話を聞きたい」でのなかむら監督への取材(アニメージュ2004年12月号掲載・第72回)では、別の監督作品である『バニパルウィット』の話題をきっかけに、ファンタジーに対する考え方について聞いている。彼は「ファンタジーこそが現実と向き合っていくための、精神的な支えになるだろう」という発想で作品を作っているのだと語る。ファンタジー世界を、病気になって休む体験に近いものとして考えているというのだ。病気をした子供が病気を治すために体を休めることによって同時に心も安らぎ、そのことによって抱えていた問題が解決することがある。それと同じように、観客が作品世界に行って、登場人物と何かを解決することによって、現実世界で立ち直ることができる。そういったものとして、ファンタジーをとらえたいと語っている。その考え方が『パルムの樹』にも影響を与えているはずだ。
『寫眞館』はある写真館を舞台にし、人間模様を描いた作品だ。監督・脚本だけでなく、原画までも担当しており、アニメーションとして出来がいいのは、いうまでもない。『寫眞館』のタッチは軽妙であり、口当たりがいい。その意味においては『パルムの樹』とはまるで違う。しかし、「人にとって大切なものとは何か」「人生とは何か」といったことを見据えて作っているという点では同じだった。それに気づいた時、少しだけ『パルムの樹』について分かったような気がした。
1人の作家が同じ目線で、まるで違った作品をつくる。そんな驚きを感じるのも、作家を追いかけることの面白さだ。今回のオールナイトは『寫眞館』と『パルムの樹』を続けて鑑賞することができる。作家の幅の広さを楽しんでいただきたい。
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