腹巻猫です。1973年に放送されたTVアニメ『エースをねらえ!』の音楽(作曲:三沢郷)を完全収録したCDが3月7日に発売されます。初CD化曲満載の2枚組! 構成・解説を担当しました。当面はAmazon限定販売です。お楽しみに!
2012年に放映20周年を迎えた『美少女戦士セーラームーン』。1992年3月から1993年2月まで放映された第1作は、女の子がスーパーヒロインに変身して戦う「変身美少女もの」というジャンルを確立した記念碑的作品である。その後、『美少女戦士セーラームーンR』『美少女戦士セーラームーンS』『美少女戦士セーラームーンSuperS』『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』とシリーズは続き、5年間にわたって全5作が制作・放映される人気作品になった。
『セーラームーン』シリーズの音楽は、すべて有澤孝紀が担当している。有澤は1980年にEPICソニーからコーラス・グループ「SOAP」の一員としてレコード・デビュー(ボーカルと作曲、コーラス・アレンジを担当)。グループ解散後、作・編曲家として活躍を始めた。アニメ作品では1987年に『ビックリマン』、1991年に『きんぎょ注意報!』の音楽を手がけたのち、『きんぎょ注意報!』の後番組である『美少女戦士セーラームーン』に引き続き参加することになった。今回は、有澤孝紀が残した『セーラームーン』シリーズの膨大な楽曲の中から、記念すべき第1作のために書かれた音楽を紹介したい。
『美少女戦士セーラームーン』のために作られた音楽は短いブリッジ曲も含めると80曲以上。音楽録音は1回のみで、次の『美少女戦士セーラームーンR』に移行するまで追加録音は行われていない。この1回のセッションで、のちのシリーズでも使用される印象深い曲がたくさん生みだされた。代表的な楽曲は、放映当時発売されたCD『美少女戦士セーラームーン 音楽集』にほとんど収録されている(複数の楽曲を1曲に編集する組曲形式で収録)。
『美少女戦士セーラームーン 音楽集』(1992年5月発売:日本コロムビア)
- ムーンライト伝説/歌:DALI
- あたしだって普通の女の子
- 本当に選ばれた戦士なの?
- 星空はミステリアス
- おっちょこちょいは生まれつき
- 恋する乙女心
- 誰かが狙われている
- 夢見るおだんごアタマ
- 夕暮れ時は妖魔の予感
- ムーン・プリズム・パワー・メイクアップ!
- Heart Moving/歌:高松美奈絵
音楽:有澤孝徳(Track.2‐10)
『セーラームーン』の音楽といえば、なんといっても主題歌「ムーンライト伝説」(作曲は有澤ではない)と変身BGMが印象に残っているというファンが多いだろう。女声コーラスが「セーラームーン♪」と歌う変身BGMは、有澤孝紀自身が「コーラスを入れてみたら」とアイデアを出して生まれた。有澤がヒントを得たという海外TVドラマ『チャーリーズ・エンジェル』のテイストも盛り込まれている。音楽集では10曲目「ムーン・プリズム・パワー・メイクアップ!」と題されたトラックに変身BGM〜アクションシーンの曲をたっぷり収録。アルバムの中でもハイライトとなるトラックである。
しかし、本作の音楽の魅力が主題歌と変身BGMに集約されていると考え、ほかのトラックを聞き流したり、スキップしたりするのはあまりにもったいない。実は『セーラームーン』の音楽は、心情描写や情景描写に使用される日常的な音楽や不安感を盛り上げるサスペンス音楽などがすごくイイのだ。
たとえば2曲目「あたしだって普通の女の子」に代表されるキュートでおしゃれな感じ。管楽器やストリングスが奏でる小粋なメロディをリズム隊が躍動感たっぷりに支え、ライブハウスでバンド演奏を聴いているような気分になる。
4曲目「星空はミステリアス」や7曲目「誰かが狙われている」に登場するサスペンス曲は、パーカッションをスパイスにしたジャジーな曲調に仕上げられている。悪の暗躍の曲でありながら、これもどこかおしゃれな香りがただよう。
5曲目「おっちょこちょいは生まれつき」や8曲目「夢見るおだんご頭」で聴かれる『セーラームーン』になくてはならないコミカル曲も、騒がしいドタバタ調ではなくユーモラスに品よくまとめられていて、「うまいなあ」と思わず聴きいってしまうのだ。
生楽器によるバンド・スタイルの演奏であることも、本作の音楽をリッチな印象にしている。現在のアニメ・サントラではシンセの打ち込みで処理されることが多いドラムスやエレキベース、ラテンパーカッションなどもすべて生。本作の音楽を聴いているときに感じるなんともいえない幸せな感じ、豊かな感じは、生楽器による演奏のノリ、熱気によるところも大きい。さしせまった用事がない休日の午後などに聴くと、ちょっと華やいだ気分になれる。『美少女戦士セーラームーン』はそんな音楽なのである。
この『美少女戦士セーラームーン 音楽集』、2曲目から9曲目までの8曲は最初から組曲として構成され、録音されたのだという。10曲目の「ムーン・プリズム・パワー・メイクアップ!」のみがあとから組み入れられたものだ。もしかしたら——想像であるが——『美少女戦士セーラームーン』で有澤孝紀やスタッフが一番大切にしたのは、変身BGMやアクション曲よりも、日常に密着した心情曲や情景描写曲だったのではないだろうか。少女たちの日常のよろこびもときめきも不安も、すべてが2曲目から9曲目までの8曲に表現されている。10曲目は日常をはなれた夢の時間だ。日常を大切にいつくしむ8曲があるからこそ、夢の時間の1曲が映えるのである。
そう思ってあらためて『音楽集』を聴くと、さりげない日常描写曲がいっそう愛おしく聴こえてくる。小さいときに『美少女戦士セーラームーン』に熱中した少女たちが、20年を経て『セーラームーン』の音楽を聴き直したとき、「当時は意識しなかったけど、子ども頃にこんなおしゃれな音楽を聴いていたのね」と新たな魅力を発見してくれるかもしれない。そんな姿を見たら、有澤孝紀は「わかってくれたかな、おちびちゃん」とちょっと照れて微笑むんじゃないかと思う。夢見る頃を過ぎても聴いてもらえる音楽。大人になったときにこそ聴き返してもらいたい音楽。有澤孝紀が『セーラームーン』に残したのはそういう音楽だった。
有澤孝紀は『セーラームーン』シリーズ全5作の音楽を担当したのち、『夢のクレヨン王国』(1997)、『デジモンアドベンチャー』(1999)、『Dr.リンにきいてみて!」(2001)、TV特撮ドラマ「燃えろ!ロボコン」(1999)などの音楽を手がけて活躍の場を広げた。しかし、2005年11月26日、惜しくも病のために死去。54歳という若さだった。有澤孝紀が今も元気で活躍していたらどんな魅力的な音楽を書いていたかと思うと、残念でならない。
『セーラームーン』シリーズのCDは、2010年に日本コロムビア創立100周年記念企画として高音質のHQCDで再発売された。音楽集9枚とソングアルバム3枚が発売中だ。これから聴くなら、まずは1作目『美少女戦士セーラームーン 音楽集』から。映像との緻密な連携が感動を呼ぶ『劇場版美少女戦士セーラームーンR MUSIC COLLECTION』、新たなセーラー戦士の音楽が登場する『美少女戦士セーラームーンS 音楽集』も聴き応えがある。
美少女戦士セーラームーン 音楽集[HQCD]
COCC-9896/2625円/日本コロムビア
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美少女戦士セーラームーン 〜愛はどこにあるの?〜[HQCD]
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美少女戦士セーラームーン 〜In Another Dream〜[HQCD]
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美少女戦士セーラームーンR 音楽集[HQCD]
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美少女戦士セーラームーンR 〜未来に向かって〜 音楽集[HQCD]
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美少女戦士セーラームーンS 音楽集[HQCD]
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美少女戦士セーラームーンセーラースターズ MUSIC COLLECTION Vol.2[HQCD]
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