SPECIAL

窪岡俊之監督インタビュー
第5回 映画なりの積み上げ方を

── 今回、コンテ・演出に大勢の方が参加されてますよね。どういうシステムだったんですか?

窪岡 最初はとにかく少数だけで描いていこうと思ったんですけど、やっぱりいろいろ調べごとが多い作品なので、だんだん手が回らなくなってきて。制作的な危機というか、ここまでにはコンテだけでも全部かたちにしないと、みたいな局面がありまして。そのときに、一気に社内に撒いたりしたことはありました。

── ああ、コンテを。

窪岡 ええ。その後、上がったものをちくちく直していたりしたので、結果的にそれで作業が早くなったとは言えないですけどね。第III部はそれでも間に合わなくなってきて、「蝕」が始まってからは舞台も変わらないし、原作の画をそのまま参考にして作れそうなところだったので、もうコンテ自体がなかったですね。3Dからじかに作ってるところもあります。

── ああ、もういきなり3Dのほうでやってくれ、と。

窪岡 そうです。巨大な掌の上で、グリフィスが子供に戻って夢を見るシーンがあるんですけど、あのあとあたりからそうですね。間に入るグリフィスの少年時代の回想シーンは、また別なんですけど。グリフィスの「捧げる」、ガッツが追いかけて、掌の指が閉じていくあたりは、全部3Dから作っています。

── そこはコンテがなかった?

窪岡 うん、ありませんでした。

── 3Dの人がコンテをきったわけでもなく、ワンショットずつじかに作っていった?

窪岡 どうやって作ったんですかねえ? 最初にラフアニメーションみたいなものを作って、それを僕がチェックしたんですけど、その段階でもしかしたら自分なりのコンテを作っていたのかもしれない。おそらく原作をガイドにしながらやってたんじゃないですかね。それで「どうでしょうか」というので、「あ、全然いけるんじゃないですか」ということで(笑)。向きをちょっと直したりとか、分かりづらいところを少し補足したりしたかもしれないけど、ほとんどそのままいけましたね。多分、観ていても、普通にコンテをもとにしたシーンと、3Dからじかに作ったシーンの違いは分からないと思いますけど。

── その前後にある、グリフィスのイメージシーンもそうなんですか。

窪岡 グリフィスの内面世界みたいなところは、三原(三千夫)さんにお願いしたシーンです。

── あれ、三原さんのパートなんですか。

窪岡 そうなんです。実は、最初は大平(晋也)さんにお願いしていたんです。他のシーンとは切り離して、抽象的な感じにしやすいパートだったので、誰か個性派のアニメーターさんに丸ごとお願いしてしまおうと思って。コンテも原画も、フルで大平さんにやってもらおうと考えていたんですが、ちょっと時間的に難しくなってしまって……。

── 三原さんがバトンタッチしたんですね。

窪岡 そうです。三原さんと打ち合わせしたら、即座に自分でコンテを上げてきてくれて。基本的には、そのままやってもらってます。作画も含めて、グロスでお願いしました。

── ああ、パート自体を丸ごと。

窪岡 ええ。僕が次に見た時は、すでにムービーになって上がってましたから(笑)。内容は一応こちらで決めたんです。元々、三浦先生と話をしてたときに、連載時には描いたけど、単行本には入れなかったエピソードがあるとうかがって。グリフィスが神様と出会う話なんですが、そこで神の存在をはっきり描いちゃうと、いろいろと弊害があることに気がついて「ないことにしたんだ」と、三浦先生はおっしゃってました。

── 「蝕」の途中でそういう場面があった?

窪岡 あったんです。僕もそれは誰かに探してきてもらって読んだんですけど、かなり具体的な「神との対話」が描かれているんですね。わりと理路整然と、科学的に、というのかな。自分が生まれた運命とか、いわゆる因果律について。

── ああ、なるほど。

窪岡 ま、それをそのまま再現するわけではないですけど、グリフィスの意識がどんどん拡大していって、何か高次の次元に突き抜けて、人から人じゃないものに……神に近づいていくという描写があったら面白いんじゃないかと思って。そのイメージで、簡単なシナリオのようなものを書いて、三原さんにお願いしたんです。

── 三原さんは早かったんですか?

窪岡 早かったですねえ。なんだか知らないうちに作業に入って、知らないうちにムービーになって上がってましたから(笑)。

── 結構、複雑なエフェクトもかかってましたが、それも三原さんの演出なんですか。

窪岡 多分、それも3Dの担当者と打ち合わせしながら作ったんじゃないですかね。僕も分からないんですよ、どうやって作ったのか。

── いろいろと話は尽きないんですが、そろそろまとめに入りたいと思います。今回の第III部は、ドラマとしても濃密だし、登場人物のエモーションも痛いほど伝わってくる大変な力作で、3部作のフィナーレに相応しい作品だと思いました。

窪岡 いやあ、そう言っていただけると……。今回の『黄金時代篇』は、言ってしまえば総集編を作るようなものなので、そこはすごく神経を使いましたね。

── 単なる総集編にはしないように?

窪岡 そうです。「ただのダイジェストになるならやめてほしい」とは、三浦先生のほうからも最初に言われていたんです。前のTVアニメでさえ入らなかったエピソードがたくさんあるので、映画のこの尺に入るわけがない、というリアクションだった。それはもう、当然の反応だと思いますけどね。でも、大河内さんがまとめてくれたプロットに対して「ダイジェストには見えなかった」とおっしゃっていただけた。とはいえ、原作に比べればやっぱりダイジェストではあるわけです。それはもう避けようがない。
 最初にも言いましたが、原作で長い時間をかけて形作られた起伏が、映画の短い時間の中だと、一気に観客の前に提示されてしまう。だけど、作っているほうは、その唐突さが意外と見えてなかったり、忘れちゃったりすることが多々ある。それがすごく怖かった。

── なるほど。

窪岡 だから、自分でチェック表みたいなものを作って、ドラマの流れや起伏、キャラクターの内面的な変化の推移を、常に確認するようにしていました。いわば「貸し/借り」の感覚というか。

── 何かを手に入れたり、与えたり、あるいはごっそり奪われたり。

窪岡 そうですね。特にグリフィスというのは、一緒に戦ってきたはずの仲間を最終的には悪魔に捧げてしまう、酷いヤツですから。そこに至るまでの積み上げは、原作に比べるとやっぱり圧倒的に足りないわけです。それは如何ともしがたい部分でもあるけれど、尺がないなりの気の遣い方もあるだろうと。そこがどこまでカバーできているか? というのは、ずっと気にしていましたね。

── そういえば、スタッフの中にも原作ファンの方はいらっしゃったんですか。

窪岡 ああ、それはいましたよ。いろいろ話していたら、実は大ファンだという人も多かった。打ち上げのときにも「どうしてあのシーンがないんですか?」とか言われましたしね。

── (笑)。ファン的な質問が。

窪岡 ええ。「どうしてガッツの少年時代の話がないんですか?」とか。やっぱり気になるんですね。

── ガッツの少年時代を残すかどうかというのは、かなり大きいですよね。

窪岡 そうですね。ただ、そこから始めると、主にガッツの視点の話に語り口が変わってきますから。その追いかけ方だと、やっぱり時間がかかってしまうのと、今回はガッツとグリフィスという2人の男が出会って、そこからどうなっていくのかという語り口なので。やるならちゃんとやりたいですけど、それは今回の映画の主題ではないということです。
 誰に向けて作るのかということで言えば、僕はやっぱり、初めて観る人を前提にして考えていましたね。ファンは内容がよく分かってますから。それこそ名場面・名台詞のオンパレードでも、不自然さは感じないでしょう。でも、一見さんが観たときには、ポンと出てくる名台詞がちょっと唐突だったり、それをスムーズに受け取れるほど描写を積めていないと感じるのではないか、とか。そういうところは気にしていましたし、「積んでないから言わせられない」台詞も多々ありましたね。

── いい台詞だし、原作のファンはきっと好きな台詞だけど、言わせるとかえってよくない、みたいな。

窪岡 うん。そういうところは、申し訳ないのですが、結局カットしたり、映像で代弁させるようにしてます。風の吹く丘、鷹の団員に囲まれたガッツのラストシーンのように、音楽が上手く語ってくれたシーンもありました。映像と音が上手くはまって、予想以上の効果を上げてくれたときは本当に嬉しいですね。

── 第III部が完成した今、監督としての手応えはいかがですか。

窪岡 いやもう、スタッフ共々、やれるだけのことはやったので……かなりいい出来だと思ってます。第I部のときは、まだ見えてないことが多かった。課題も多くて、パーツをちくちくいじってるような状況でしたから。それが、ここまでかたちになったんだという感慨はありますね。スタッフも最後の大きな「締め」に向かって、結構力が入っていたと思いますし。

── いや、すごい熱気のある作品だと思います。

窪岡 観終わったあとにどんな気分になるかというのは、すごく気になっています。原作のストーリーは、このあともずっと続いているわけですし。今回の『黄金時代篇』はこういう終わり方をしますが、そのリアクションをぜひ聞いてみたいとは思っています。

── 監督ご自身が決められることではないとは思うんですが、このあとのストーリーを映像化してみたいという意思はあるんですか? 例えば「断罪篇」とか。

窪岡 あ、実は最初にやりたいと思ったのは「断罪篇」なんですよ。

── そうなんですか。

窪岡 多分、そう考える人は多いと思うんですけど(笑)。キャラクターも面白いし、章として綺麗にまとまってるし。やれるといいですねえ、うん。

窪岡俊之監督インタビュー おわり

●関連サイト
『ベルセルク 黄金時代篇』公式サイト
http://www.berserkfilm.com/