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窪岡俊之監督インタビュー
第4回 CGの精度が上がった理由

── ハイブリッド表現についてですが、第Ⅲ部は作画の部分も多いそうですが、3Dモデルの仕上がりも、両者のマッチングも非常によかったと思います。特に、序盤でガッツがキャスカたちを助けにくるくだり、中盤のグリフィス救出シーンでガッツが大暴れするくだりは見応えがありました。

窪岡 実は、第I部・第II部・第III部と、3Dモデルの作りが変わってるんです。特に第II部の後半からかな。より手描きに近いものに作り直している。全部ではないんですけど、メインキャラクターに関してはそうなっています。

── 途中から変えたんですか。

窪岡 ええ。単純に、ずっとハイブリッドで作っていくと、コストが倍かかるんですよ。手描きとCG、両方のアニメーターにそれぞれ原画単価が発生するじゃないですか。

── あ、なるほど。

窪岡 それが実はバカにならないということに制作途中で気がついて(苦笑)。あとは時間もかかるし、合成がずれやすかったり、いろんな意味でやりづらくなっちゃった時期があって。それなら、なるべく寄り以外は3Dモデルのまんまいけるように、モデルの精度を上げようということになった。その前までは、バストサイズ以上の場合、キャラクターの顔は全部手描きのものに置き換える予定だったので。

── そうだったんですか。

窪岡 その代わり、置き換え前提のモデルだったので、寄りに耐えられるほど作りこんでいなかったんです。だけど時間がなくて、作画とすげ替えられずにベースの3Dモデルのまま画面に出てしまった個所もいくつかあったりして……そういう悔いが第I部のときはあったんですね。
 実を言うと、ハイブリッドではなく、甲冑とキャラをすべて手描きにしたカットもあったんですよ。カッコいい原画に、恩田(尚之)さんの素晴らしい修正が乗って。だけど、それを動画さんに撒いても、やってもらえないんです(苦笑)。結局それは、没になっちゃったんですけど。

── え、動画さんに「描けない」って言われたんですか?

窪岡 そうなんです。やっぱり、前のTVアニメが相当大変だったみたいなんですよ。それでいまだに業界内に噂のようなものが根づいているみたいで。『ベルセルク』はとにかく大変だ、と。

── ああ~。

窪岡 いくら手描きで綺麗に描いても、動画さんがやってくれない。多分、ものすごくお金を出すとか、日本じゃないところに出すとかいうのであれば、やれたかもしれないんですけど。

── 普通の単価でやるには大変すぎると。

窪岡 同じ単価で楽な作品はいくらでもありますから。仮に撒けたとして、それで変な動画が上がってきたら、こちらも直せる体制が作れないわけです。結局、動検さんが直すとかいう話になってしまう。それも現実的ではないということで、非常にもったいなかったんですけど、描いたのに使えなかったカットもいくつかあるんです。だから、ますます3Dだけでいけるところは3Dでやるしかない、という状況になっていきました。

── コンテの段階では、「このカットはハイブリッド」「ここは作画」「ここはCGオンリー」という判断は、ある程度は決めていくんですか?

窪岡 いや、コンテでは特に意識してないですね。大体、顔のアップは作画だろうとか、そういうことは考えますけど。微妙なところも、やっぱりあるんですよね。あと、コンテを書いていたときは、キャラクターアニメーションが3Dでどこまでできるのか、分からないところもありましたから。ひとまずそれはそれとして、コンテではまずやりたいことを定着させようと思っていました。

── CG作画に関しては、どんな作業の進め方をされたんですか。

窪岡 最初は、CGオンリーの場面にもラフ原があったんです。たとえば第I部のゾッドのシーンとか。

── それは、まず手描きでラフ原を描いて、それをCGアニメーターさんが参考にしながら動きをつける?

窪岡 そうです。最初は全部それでやろうと思ってたんですが、作画のスケジュールが圧迫されるとCGも付随して遅れてしまうことになるし、スケジュール管理も難しくなる。だからなおさら、CGのほうで全部できるに越したことはない、という状況にはなっていきましたね。

── 逆に言うと、CGアニメーターの方のスキルもだんだん上がってきて、一から任せられるようになった?

窪岡 そうですね。正直、最初はどうなるんだろうと思ってたんですけど、わりと早い時期にいいカットがちょこちょこ上がり出して。社内のサーバーにある動画をちらちら見てたんですけど、「あ、こんなカットができるようになったんだ」と。そこからはかなり上向きの曲線だったと思いますね。

── 3Dの甲冑アクションについては、大半はCGアニメーターさんがじかに動きをつけているんですか。

窪岡 それか、モーションキャプチャーですね。モーキャプにしても、データ作りからちゃんとしないと、なかなかアニメにはならないんだということは、やってみてよく分かりました。今回はアクションディレクターとして、前に出たPS2の「ベルセルク」のゲーム(「ベルセルク 千年帝国の鷹篇 聖魔戦記の章」)でガッツ役を演じた方に、たまたま入っていただいたんです。当初は演技指導だけのはずだったんですけど、どう見てもいちばんうまいので、結局その方にガッツの演技を全部やってもらったんです。マイムと呼んでいましたけど、強く打ち合ったり、当たった感じを出したり、リアクションを自分で入れたり、そういう演技をモーションキャプチャーのアクターさん自身が入れていかないと、キレのある芝居にならない。そういうところも面白かったですね。

── 合戦シーンとかは、手描きでは絶対できないですもんね。

窪岡 そうですね。手描きでやるしかないのであれば、もっと逃げた見せ方で……。

── そんなに大勢の人数をフレームに入れないようにしたりとか。

窪岡 あと、引っ張れば済むような見せ方とか(苦笑)。そういうTVアニメ的な工夫をしなければならなかったと思うんですけど、それをしなくてよかったのはラッキーだったというか、驚きでしたね。「ああ、こんなことやれちゃうんだ」みたいな。

── スコープサイズをフルに使った合戦シーンなんて、少なくともアニメでは観たことないです。

窪岡 そうですねえ。いやあ、僕自身もできあがった映像を見ているだけだったので、よく驚かされてました。作っている過程は、実はそんなに見てないんですよ。大変だったんじゃないかなあ(笑)。

── 個々のカットに関しては、細かいディレクションなどはされていないんですか。

窪岡 ええ。最初のころはそういう時間もあったんですけど、だんだん物量がとんでもないことになって、とにかく前へ前へ進むことが重要だった。もう、とりあえず全部かたちにしちゃって、リテイクなんてあと回しだと(苦笑)。直せるものはあとで直そう、という感じでやってましたから。

── 以前、制作の真っ最中にSTUDIO4℃にうかがったとき、第I部・第II部・第III部のスケジュール表がみっついっぺんに並んでいて。「うわ、本当に同時に作っているんだ」と思いました。第I部の作画をしながら、第III部のレイアウトをやっているみたいな。

窪岡 そうですね。元々、1本のスケジュールで途中までは動いていましたから。第I部の時でも、第III部の「蝕」の前のシーンが意外に早くできたりしてたんですよ。作画も含めて。

── どのあたりですか?

窪岡 風の吹く丘とかですね。あの辺はずいぶん最初のテストでも使っていたシーンでしたし。それから公開時期が決まって、近いものから仕上げていった感じですね。ドルドレイのくだりなんかは、もっとかかるんじゃないかと思ってたんですけど、意外に早く上がりましたね。あそこはコンテもだいぶ尺が延びてしまって、不安だったんですけど……シナリオからの秒数計算だと、12~13分くらいなんです。でも、ゲノンのくだりを変えたり、いろいろ描写を足していったら、最終的に30分以上の尺になってしまった。それからまた少し切ったんですけど、あまり変わってないですね。

第5回につづく

●関連サイト
『ベルセルク 黄金時代篇』公式サイト
http://www.berserkfilm.com/