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第1話 お前のドリルで天を突け!

※この記事は放映当時に「WEBアニメスタイル」旧サイトに掲載されたものです

2007年のアニメ界でも最大級の話題作となったTVシリーズ『天元突破グレンラガン』。“21世紀におけるロボットアニメの大本命”をキャッチフレーズとしたGAINAX渾身の作品であり、初のシリーズ監督を務めた今石洋之監督にとっても新たな代表作となった。放送終了後もDVDは好調なセールスを上げ、深夜帯での再放送でも新たなファンを獲得し続けている。それに合わせ、WEBアニメスタイルでは『天元突破グレンラガン』全27話の各話解説インタビューを敢行。今石洋之監督、そして副監督を務めた大塚雅彦のお2人に、大小さまざまな思い出話をざっくばらんに語ってもらった。

第1話 お前のドリルで天を突け!

●記念すべき『グレンラガン』第1話は、地下の村・ジーハ村からスタート。穴掘り名人の内気な少年・シモンと、やみくもに男気溢れる兄貴分・カミナの絆、そして地上から現れた少女・ヨーコとの出会いを描く。謎の巨大メカ「ガンメン」相手に、1話目から激しいバトルアクションが展開。シモンの発見した顔メカ「ラガン」に乗って、3人が地上へ飛び出すカタルシス溢れるクライマックスも見どころだ。3人が地上へ飛び出すカタルシス溢れるクライマックスも見どころだ。3人が地上へ飛び出すカタルシス溢れるクライマックスも見どころだ。

脚本/中島かずき|絵コンテ/今石洋之|演出/大塚雅彦|作画監督/錦織敦史|原画/大塚健、向田隆、末冨慎治、菅沼栄治、山田勝哉、小松田大全、鈴木勤、友田政晴、西沢千恵、杉江敏治、二宮壮史、雨宮哲、山口智、小竹歩、長谷川ひとみ、貞方希久子、田中春香、榎本花子、戸田さやか、小林幸洋、吉成曜、錦織敦史、今石洋之

取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年1月4日

── ではさっそく、1話の制作エピソードからお願いします。

大塚 じゃあ、シナリオを破いたところから(笑)。

今石 いや、破いたわけじゃないですけど(苦笑)。第1稿の脚本では、確か巨大ミミズと闘ってたんでしたっけ。地中に始まって地中に終わる話で、人の何倍もあるでかいミミズを倒すのがメインのバトル(笑)。

大塚 ヨーコ出なかったよね。

── ガンメンも出ないんですか?

今石 出ないです。ラガンは出たっけかなあ……覚えてないや(笑)。

大塚 最初は、ちょっと鬱屈した感じを出そうとしていたよね。

今石 そう。一度そんな調子で2話ぐらいまでホンが上がったんですよ。それがピンとこなくて「1話からガンメン出しちゃいましょうよ」という話になった。それと最初は、カミナ達が苦労して地上に出たら、そこはガンメンが制圧している世界だったという設定だったんです。

大塚 上から落ちてくるという展開ではなかったよね。

今石 うん。やっと窮屈な世界から解放されて外に出たら、ちょうどロボット同士が組み合っている真ん中にポコッと出ちゃって「ウワー」みたいな。地上に出るとそこは戦場だった、という感じにしたかった。でも、それをやってると段取りが凄く長くなると分かって、1話でこんなノロい展開じゃダメなんじゃないかと思って、中島(かずき)さん達と相談して「じゃあ落っこちますか」という話になったんじゃないかなあ。そしたらなぜか、ブタに乗って脱走みたいな話になって返ってきて(笑)。

一同 (笑)

今石 そんなの一言も言ってなかった気がするんだけど(笑)。

大塚 一回、今石君がいろんなポイントを書いて、中島さんに渡してたよね。

今石 ああ、そうだ。ただ「直して」だけじゃ分からないと思って、わりと具体的に「こうしたいんだ」みたいなものを書いたんですよ。台詞もわりと入っていて、プロットよりは脚本っぽいけど、脚本にはなっていないような、字コンテみたいなものを書いて渡したんです。

大塚 それは中島さんと話し合う前?

今石 確か、ミーティングする時に前もって書いて持っていったんだと思う。違ったかな? もしくは中島さんから「よく分からないから自分で書いてきて」と言われたのかな。

── それがいわゆる「脚本を破いた事件」ですか。

今石 そうですね、そういう事になってますけど(苦笑)。確かその日は、中島さんの事務所に行ってミーティングして、もっと腹を割って話し合おうという事でファミレスに移動して、深夜2時ぐらいまで『あしたのジョー』の話を延々していた(笑)。

── 前回のインタビューでも話題になってましたね。

今石 そう、ウルフ金串が借金する話は素晴らしい! という話をずーっと、夜中のファミレスで。「分かった、通じ合った」みたいな事をお互いに言ってました(笑)。まあ、1話本編の内容からは全く伝わらない裏話ですけど。

── もっと内容に絡んだ話をお願いできますか(笑)。コンテは苦労されたんですか?

今石 狭い空間の感じを一所懸命出そうとしていて、2〜3ヶ月ぐらいやってたような気がします。ちょうど村の大きさにすっぽり入るぐらいの巨大ロボが、グルグル同じところで動いてるのを、上に昇ったり、下に降りたり、地下に潜ったりしながら倒すという。狭い空間の中で、3階建てのビルぐらいの奴と戦っている感じを出せるかどうか、そればっかり考えていたような気がします。でもガンメンの大きさはマチマチでしたね(苦笑)。カットによっては10階建てぐらいあったりして。

大塚 どんだけデカイんだよ、っていうところもあったし。でも「そういうのは、もういいんだ!」というのは、1話で分かった(笑)。

今石 1話からこれじゃ真面目にやってもしょうがねえや、って(苦笑)。

大塚 でも、巨大感を出そうというのは、わりと最初の頃から言っていたよね。

今石 そうですね。ちょうど「ワンダと巨像」が流行っていた頃で。だけどあんまり大変な事はできないから、やれる範囲でやりましょうみたいな。

大塚 1話のコンテって、今までの自分の作風とは少し感じを変えよう、とか思ってたの?

今石 うーん……どうだったかなあ。ロボットの巨大感を出そうと思ってたから、状況のリアル感を伝えようと思ってたんですよね。作画や動きはリアルでなくてもいいんだけど、状況自体や空間はリアルに考えたいなと思っていて。そういうところで、光を一所懸命入れようとしていたかな。それまではひたすら画だけで画面を作ろうとしていて、光の具合とかをあんまり考えずに平面的に捉えていたんですよね。今回はもうちょっと空間の雰囲気を出そうと思って、撮影部には負担がかかるけど、撮影処理にも余白を残すような画作りをしようと思っていました。ひとつの画面の中で明暗が3段階ぐらいに分かれているような画を、作画だけでなく撮影でもコントロールできるようにしたかった。例えば、前半は広場の池が光っているから、下からの逆光だとか。後半は天井から光が射してくるので、上からの強い逆光だとか。そういうのが印象的になるようにしたくて。

── なるほど。作画についてはいかがでしたか。

今石 1話では、向田(隆)さんの原画が巧いですね。シモン達3人が洞窟を進んでいくシーンの原画は、9話の作監もやってる向田さんです。ヨーコが岩に胸をこすりながら歩いてくるところとか。あともう1ヶ所やってもらってるのかな。

大塚 ラガンが発動して飛び出してくるところ。

今石 そうそう、主観映像の背動で洞窟の中を飛んでいって、外に出てきて転がるところまで。実は1話の中でも面倒くさいところをふたつ、向田さんに振ってます。

大塚 凄く助かったよね。錦織(敦史)君も、顔しか作監を入れてないし。

── 監督も1話では原画まで目を通しているんですか?

今石 原画は見ていないけど、レイアウトは見ていました。1話は大塚さんがレイアウトを見た後に、監督チェックという事で僕のところに回ってきて、それから錦織のところに回るというシステムでやっていたんです。

大塚 動きのラフ原とかも入れていたよね。

今石 ええ。だから1話ではちゃんと目を通したという意識があります。

── 大塚さんは1話を演出されていかがでしたか?

大塚 演出的には、意外とやりやすかったです。さっきのコンテの話に繋がるんですけど、やる前に錦織と「今までの今石君の作品とは違う画にしよう」と話していて。それは「もうちょっとリアルな方向で」という事だったんですけど。今石君の方も、コンテの段階でライティングの事とかを考えていたから、やりやすかったですね。画は頭身が大分違うから、原画を描く人としてはちょっとしんどかったかな。ただ、それが結果的にどういう画面になるかは、でき上がるまで誰も分かってなかった。

今石 僕も分かってなかったですからね。菊地(大輔)君の描いたイメージボードだけが頼りでしたから。「多分こうなるんだな」っていう(笑)。

大塚 そういう意味では、今までにないチャレンジだったかな、という気はします。結果が見えない状態でやるというのは、恐い反面、楽しみでもあった。そういう感覚は久しぶりで、面白かったです。

今石 『グレン』では、「このぐらいやればこうなる」というのが見える範囲じゃなくて、見えないところまで試してみようとしていました。やっていて答えが見えてしまうような事は、やる意味がないと思っていて。結果はどうあれ、どうなるか分からない状態でやってる方が楽しいかな、という感覚でやっていたと思います。

── 作画以外で他にこだわったところは?

大塚 撮影部に「破片の感じを出せないか」とオーダーしてたよね。作画でもやるけど、ちょっと撮影でも出してほしいと。

今石 それは最初の頃から言ってました。ガンメンが地下に落ちてきて、起き上がるところの破片などは、撮影でかなり足してるんですよ。タタキも試行錯誤して、もの凄い時間かけてやってましたからね。

── セルアニメの時代には筆でやっていたタタキの効果を、撮影で加えているんですか?

今石 そうです。特効の負担が大きくなるので、そのあたりは撮影部の方で受け持ってもらう事にしたんです。で、撮影さんが延々とタタキ処理をやってるので「どうですか?」って見に行ったら、動いてるんですよ。中割りされたようにキレイに送られたりとかしていて。これじゃ作画だろ、やりすぎでしょう、みたいな(笑)。

── アバンタイトルについては?

今石 アバンは僕じゃなくて中島さんが、お客さんに対して「ここまでやる気があるよ」というのを見せておいた方がいいんじゃないか、という事で入れました。サービスじゃないけど、軽い説明というか。

── 初見の時は、あれが強力なツカミになっていると思いました。

今石 まあ確かに、1カット目から吉成爆発で入るというのはやりたかった(笑)。あれ、ツカミになってたんですかね?

大塚 うん。シリーズ的にも途中で起伏があるじゃない。そういう意味では先が楽しみになるというか、「なんだこれ!?」と思う反面、ここからあそこまでどうやって行くんだろう、という興味は持ってくれたみたいだから。やっぱりアバンはあって正解だったかな。こっちは分かってやってるけど、お客さんは(アバン抜きで観たら)「どんなアニメなの?」って不安に思うだろうから。そういう意味では中島さん、さすがだなあと。

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http://animestyle.jp/news/2021/06/30/19952/

●関連リンク
『天元突破グレンラガン』ポータルサイト
http://www.gurren-lagann.net/