●注目の演出回
僕の仕事でもある演出的な視点から言うと、絵コンテをやっているスタッフが平田敏夫(2話、7話、12話、16話)、宮崎駿(26話、27話、41話)、石黒昇(19話、23話、43話)と日本のアニメでエポックな仕事をしている人たちばかりなのですが、中でも斉九陽名義での出崎統の仕事ぶりが秀でており、全体の4分の1の14本(2話、9話、10話、14話、18話、20話、21話、24話、25話、29話、31話、35話、40話、49話)の絵コンテをやっています。最初に何の予備知識なしで見ていても、「この話数は何だか面白いなあ〜」と思って見ていると、エンディングに絵コンテ・斉九陽の名前がクレジットされているのです。俗にいう出崎演出的な手法は一切なく、他の話数と全く同じ方法論で作られているのにハッキリと違います。テンポというか、リズム感がいいのです。赤胴鈴之助という作品自体がいらないカットがあまりない作りなのですが、出崎絵コンテの話数は明らかに絵コンテでさらに面白くしています。ルーティーンで作りつつもどこか1ヶ所、アングルで遊んでいたり、主張があって、この時の話を聞く機会がもうないのは大変残念です。先ほどあげたおススメ作画の河内作監回の26話は宮崎絵コンテ、29話、35話は出崎絵コンテ回ですので、そういった意味でもシリーズ中のこの3本は見どころの多い話数です。
余談ですが、ちょっと前まで「Aプロ調」という業界内で通用している言葉がありました。絵のルーツは東映動画にありつつ、Aプロでの作画作品『ど根性ガエル』『元祖天才バカボン』『ガンバの冒険』などの絵柄の傾向を指すもので、『赤胴鈴之助』はその系譜のルーツと言えるかもしれません。昨年作った自作の『キズナ一撃』もAプロ調だと自分では思っていたら、ネットの若者の間では「『クレヨンしんちゃん』みたい」という反応しかなくて、ちょっと驚きました。確かに気づくとAプロ調の作品はすっかりなくなってしまっています。こうして年寄りになっていくのか〜、としみじみしました。キャラクターの線が整理されていて、影なしで派手なアクションの作品の事は、できれば「Aプロ調」と呼びたいオジサンの僕です(笑)。
1972年当時に一視聴者として観たアニメの事を40年後の2012年に自分が人に語るなんて夢にも思いませんでした。当時見て記憶に残った『赤胴鈴之助』を、アニメの仕事を始めるようになってから、LD-BOXを清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入し、さらに同じ内容のDVD-BOXを今年になってもう一度、清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入しました。
『赤胴鈴之助』は、アニメ放送当時、リバイバル大ヒットとはいかなかった作品かもしれません。現代なら、つながったネットの情報で、視聴率が低かったり、ソフトの売り上げがいかないだけでダメな作品と烙印を押されてしまうかもしれません。それでも少なくとも40年の間、1人の人間の心をとらえ続ける魅力にあふれた「娯楽漫画映画」作品としては一級品である事を僕は保証します。機会があったら観てほしい過去のアニメーション作品は沢山あると思いますが、僕の趣味嗜好にぴったり合うのが理屈抜きの冒険活劇『赤胴鈴之助』なのです。