第190回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作9 【とうとう作画が始まりました編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも、あっと驚くような新しい解釈が語られてきました。

 2022年5月7日(土)に開催する第9弾のサブタイトルは「とうとう作画が始まりました編」。片渕さんの新作は遂に作画作業に入りました。今回のトークでは、その制作状況について語っていただくことになります。勿論、制作の話題に研究調査の話が絡むはずです。出演は片渕須直さん、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みて、今回も配信のみのイベントとして開催します。先行してLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルではトーク本編とは別に「ここまで調べた片渕須直監督次回作・ミニトーク」も配信する予定です。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 ツイキャス配信のチケットは既に発売中です。詳しくは、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT CHANNEL
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/213356

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第190回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作9【とうとう作画が始まりました編】

開催日

2022年5月7日(土)
開演12時 終演14時~15時頃予定

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット(ツイキャス)

ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第189回アニメスタイルイベント
この人にもっと話を聞きたい 続・長濵博史

 5月1日(日)に配信トークイベント「第189回アニメスタイルイベント この人にもっと話を聞きたい 続・長濵博史」を開催します。『蟲師』『惡の華』等で非常に意欲的な仕事を残し、現在は『UZUMAKI』を手がけている長濵博史さんに、今までの仕事歴について話していただく連続企画で、4月2日(土)に開催したイベントの続編となります。
 今回のトークは『十兵衛ちゃん2 -シベリア柳生の逆襲-』の話題から始まり、『蟲師』『惡の華』『THE REFLECTION』等の監督作品についてうかがう予定です。チケットは現在発売中。詳しくはLOFT/PLUS ONEのページをご覧になってください。

 前回のイベントはアニメスタイルチャンネルで配信中です。未見の方は、併せてご覧になってください。

●トークイベント「第187回アニメスタイルイベント この人にもっと話を聞きたい 長濵博史」
https://www.nicovideo.jp/watch/so40304671

 今回のイベントも配信は先行してLOFT PROJECTがツイキャスで行い、ツイキャスで1週間のアーカイブ配信をした後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。  

 5月1日(日)は配信トークイベント「第188回アニメスタイルイベント アニメ様イベント2022」も開催します。こちらはツイキャスでの配信は無料となります。よろしかったら、こちらもどうぞ。

■関連リンク
LOFT CHANNEL
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/212678

第188回アニメスタイルイベント アニメ様イベント2022
http://animestyle.jp/2022/04/22/21895/

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第189回アニメスタイルイベント
この人にもっと話を聞きたい 続・長濵博史

開催日

2022年5月1日(日)
開演13時 終演15~16時予定

出演

長濵博史、小黒祐一郎

チケット(ツイキャス)

視聴チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第188回アニメスタイルイベント
アニメ様イベント2022

 5月1日(日)は配信トークイベントをふたつ開催します。ひとつ目は「第188回アニメスタイルイベント アニメ様イベント2022」。本誌編集長の小黒祐一郎が「アニメスタイル016」をはじめとする最近の仕事、これからの仕事等について語ります。45分ほどのショートイベントで、ゲストはお馴染みのサムシング吉松さん。リラックスムードのゆったりしたイベントになる予定です。
 今回も配信は先行してLOFT PROJECTがツイキャスで行います。ツイキャスの視聴は無料となります(投げ銭はあります)。ツイキャスで1週間のアーカイブ配信をした後、アニメスタイルチャンネルで配信予定。アニメスタイルチャンネルでの配信は会員のみの視聴となります。ツイキャスの配信については、以下のリンクをご覧になってください。

 5月1日(日)のふたつ目のイベントは「第189回アニメスタイルイベント この人にもっと話を聞きたい 続・長濵博史」です。こちらの詳細についても、以下のリンクをどうぞ。

■関連リンク
LOFT CHANNEL
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/212670

第189回アニメスタイルイベント この人にもっと話を聞きたい 続・長濵博史
http://animestyle.jp/2022/04/22/21897/

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第188回アニメスタイルイベント
アニメ様イベント2022

開催日

2022年5月1日(日)
開演12時 終演12時45分予定

出演

小黒祐一郎、サムシング吉松

チケット(ツイキャス)

視聴チケット/無料

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第752回 コンテチェックと「センス」

今、社内の若手に切って(描いて)もらった
コンテをチェックする毎日です!

 何度も話題にした(もののタイトルはまだ発表できない)シリーズの話。今のところ自前の(一から自分で切った)コンテは1本のみ。他は全て俺以外に撒き切っていて、半分が監督(まだ名前は出しません)、もう半分は社内の新人数名。それらを修正するのが現在の俺の仕事。時には、監督・新人に関わらずその第1稿をほぼ全修正する場合もありますが、手加減せず直しに直し、後でそのコンテを切った本人に修正意図を説明・解説する近頃のルーチン。
 10年前とかにもここで「絵(画)コンテの切り(描き)方について」とか、書いたことがあると思うのですが、その時から板垣の

絵(画)コンテにマニュアルは存在しない!

という考えは今も変わっていません。むしろ、年々確信としてより強固なものになってきています。社内で「コンテ描いてみたい人いる?」と声を掛けて、手を挙げた人に振りました。それこそ入社2年目のアニメーターでも、「描きたい」と言う人にはやらせるのが自分のやり方。その代わり「画はラフでいいから、スケジュール内に最後まで描き切って!」と。画がラフでもエンドマークまで打ったら、クレジットに載せることにしています。
 数年前、知り合いの監督の方とこういう議論をしたことがあります。たとえば絵(画)コンテ試験をやるとして、

“あるシナリオ(脚本)のワンシーンをコンテ化せよ”的な試験で適性を判断するか否か?

すると、その監督の方は「ワンシーン試験で採用不採用を決める」と仰いました。それに対し俺、板垣の答えは「ワンシーンなんかで見抜けないから、試験自体をそもそもやりません」でした。つまり、自分の経験則でしかないのですが、たかだかワンシーンのカット割りセンスを見極めて、その人をコンテマンにしたとて、TVシリーズ1話分上げ切るのに2ヶ月とか掛けられたってスケジュールが崩壊するだけなんです。もっと最悪の場合、全部描き切ってもいないのに「今日から俺はコンテマン!」と、こっちの仕事を途中で投げ出して、こっそり自宅で別会社のコンテを受けて描き始め、結果、こちらも別会社も共倒れ……って例も自分は知っています。数ページの試し描きセンス程度で、コンテマンという権威を下手に与えてしまうと、アニメ業界にとって良くない結果を招きかねません。だから言うなら、“センスより体力”! 数ページのコンテ試験とかでその人の職業適性に合格不合格と難癖付けるより、本人の自己申告で「やりたい!」と言ったなら、その「やる気の持続力」でもって、

たとえ雑な絵(画)でも1話分、100~120ページのコンテを3週間で上げ切れるか?

こそを試すべき! だと。「え、じゃあセンスはどうでもいいの?」と言う方もいるのですが、「センスを磨く」という言葉が成立している以上、後でも磨けるんです。むしろ、コンテマンに任命した後でもセンスを磨く手伝いをすることこそ“指導する”ことだと思います! 俺に言わせると「センス」って才能じゃなくて、“努力の結果”ですから。これは、師匠・友永和秀より、どこでも通用するするレイアウト・センスを磨かれた板垣の実感としてあります。
 あと、今のミルパンセに限らず、スタッフ不足の会社(スタジオ)で監督していると、制作プロデューサーからよくされる相談、「ウチの○○にコンテやらせてみたいのですが(汗)」というのがあります。その会社からの雇われ監督である以上、自分は「あ、いいよ~」と大抵快諾します。「その代わり、(出来が)良くなかったら俺、全修(全部描き直し)するけどOK?」と更に確認します。すると、制作Pも大概「はい、本人の勉強にもなるので是非お願いします!」と答えてきます。
 だから、これも以前言いましたよね?

週1本コンテが上げられるくらいじゃないと、アニメ監督は務まらない!

のです。だって、いつ何時コンテの全直しが起こるか予想がつかないのが「現場」だから!

 以上あくまで私見……板垣個人のスタッフの育て方でした。結局、会社は会社、監督は監督でやりたいように現場を育てていくしかないわけです。「人それぞれ、仕事のやり方は色々あっていい」って出﨑統監督『ブラック・ジャック 劇場版』(1996年)のラストで言ったましたよね!

アニメ様の『タイトル未定』
345 アニメ様日記 2022年1月2日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年1月2日(日)
引き続きドーミーイン池袋に。温泉に入って、散歩して、読書をした。正月らしい1日。Kindleで「三体」を読了。面白かったし、凄い作品だけど、前半のほうが面白かった。本格推理小説で前半の謎の提示部分が一番面白いのに感覚が近い。映像化が進んでいるようだけど、映画よりはネット配信ドラマのほうが向いているだろうなあ。改めてアニメの予告映像を観てみた。

2022年1月3日(月)
事務所に入って原稿に着手。数日ぶりの原稿作業は楽しい。やるのが原稿作業だけでいいというのも嬉しい。
ネットで幻の作品「’80アニメーション ザ・ベストテン」を観る。公式な配信ではない。ある人がフィルムを入手し、それを高解像度スキャンをしてアップしたのだそうだ。ソフト化もTV放送もされたことのない作品だ。「アニメ様365日」で取り上げた時には、記憶モードで書いた。

アニメ様365日[小黒祐一郎] 第47回 「’80年アニメーション ザ・ベストテン」
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_047.shtml

実際の映像を観てみると、記憶モードで書いた割りには、あまり間違っていなかった。「アニメ様365日」で、この中で使われた『Dr.スランプ アラレちゃん』の映像がパイロットフィルムのものではないかと書いた。確かにパイロットフィルムのものだった。確認できてよかった。

2022年1月4日(火)
朝から昼で、原稿作業が一山越える。その後、新文芸坐で「お早よう〈デジタル修復版〉」(1959/94分/DCP)を観る。プログラム「2022年新春興行 マイスター・小津安二郎の世界」の一本だ。物語はあっさりしたものだが、構図が素晴らしい。アニメで言うと、レイアウトが猛烈にいい。縦の構図が多くて、それが面白い。奥行きの出し方もいい。画面を観ているだけで楽しかった。

2022年1月5日(水)
散歩と原稿。いつまでもサブスク見放題にあると思っていた深夜アニメがレンタルになっていることを知り、少しばかりショックを受ける。昼間の居酒屋で、堺三保さんと食事をしつつ世間話。話題が『劇場版 呪術廻戦 0』から「マトリックス レザレクションズ」に移ったところで、隣のテーブルで食事をしていた若い男性がいきなり僕らの会話に割って入って「すいません。『マトリックス』はこれから観るので(ネタバレは)やめてもらえますか!」と言った。勿論、そこで「マトリックス」はやめたのだけど、我々は隣のテーブルの人に丸聞こえになるくらい大きな声で話していたのだろうなあ。反省反省。
うちのATOKは「16時に※※さんとあいます」を「16時に※※さんと『THE IDOLM@STER』」と変換する。

2022年1月6日(木)
雪の日。昼間は散歩とデスクワーク。「アニメスタイル016」の企画書を色々と書く。夕方から羽田市場食堂で吉松さんと呑む。途中からワイフも参加して、たっぷり食べて吞んだ。吞み終わった頃には雪はやんでいた。

2022年1月7日(金)
朝は雪で地面が凍っていた。履いている靴が雪や氷に弱くて、何度か転びそうになった。「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」公開日。グランドシネマサンシャインの朝8時10分の回で、ワイフと観た。IMAXでいい席がとれなかったのでATMOSにした。お話に関しては文句の付けようがない。僕は過去の映画「スパイダーマン」は観ていないものもあるし、細部を忘れているものもある。熱心なファンはもっと楽しめたことだろう。登場人物で言うと、MJの彼女感がよかった。

編集者の高橋和光さんが亡くなられたことを知る。1990年代には顔を合わせることが多かったし、高橋さんが編集しているムックに僕が参加したこともあった。最近は連絡をとることは滅多になかったが、昨年、電話で連絡をいただいて、ある書籍の企画について相談にのった。その時は用件だけで終わったけれど、近況などを聞いておけばよかった。心よりご冥福をお祈り致します。

2022年1月8日(土)
昼間はワイフと谷根千を歩く。今回は初めての道を歩いたのだけど、趣深い民家が多く、楽しめた。夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL フリクリ レイト」を開催。ゲストは鶴巻和哉監督と今石洋之さん。京都から佐藤裕紀プロデューサーもいらっしゃった。他にもキングレコードの方、TRIGGERの方もいらして、楽屋も賑やかだった。トーク終盤の今石さんの発言が『フリクリ』と自分の今までを総括するような内容で素晴らしかった。それを受けるかたちの鶴巻さんのまとめもよかった。

第229回 ココロのスキマお埋めします 〜笑ゥせぇるすまん〜

 腹巻猫です。漫画家・藤子不二雄Aさんが亡くなりました。『怪物くん』『まんが道』『魔太郎がくる!!』など、子どもの頃から愛読した作品は数知れず。特に怪奇ものやブラックユーモア作品はお気に入りでした。心より哀悼の意を表します。


  アニメになった藤子不二雄A作品は多い。『怪物くん』『忍者ハットリくん』『プロゴルファー猿』『笑ゥせぇるすまん』『ビリ犬』『ウルトラB』『パラソルヘンべえ』などなど。
 しかし、サウンドトラックが発売された作品はほとんどない。もともとこうしたファミリー向け作品はサントラが出ない傾向があるけれど、『怪物くん』『忍者ハットリくん』といった人気作でも発売がないのはさびしい限り。
 数少ない例外のひとつが『笑ゥせぇるすまん』である。今回はその音楽を聴いてみよう。
 『笑ゥせぇるすまん』は藤子不二雄Aの漫画「黒ィせぇるすまん」を原作にしたTVアニメ作品。アニメ化に際し、原作ともども『笑ゥせぇるすまん』と改題されている。放送は1989年10月からバラエティ番組「ギミア・ぶれいく」内の1コーナーとして始まり、中断をはさみながら、同番組が終了する1992年9月まで続いた。基本フォーマットは1話10分の短編で全112話。「ギミア・ぶれいく」終了後もTVスペシャル版が3回放送されている。
 不満や悩みを抱える人間の前に現れる全身黒ずくめのセールスマン・喪黒福造。喪黒は「あなたのココロのスキマをお埋めします」と言って、無償のサービスや助言を提供しようとする。その言葉に惹かれて喪黒の客となった者は、つかの間の幸せを手に入れるものの、結局は欲望や誘惑に負けて自滅してしまう。
 というのが基本的なお話のパターン。
 原作は青年マンガ誌に発表された作品。子ども向け作品とは一線を画したブラックユーモアの味わいが魅力だ。喪黒は人間を誘惑するメフィストフェレスの役割。毎回の物語の主人公は客のほうで、視聴者は主人公(客)が破滅していく姿を見てカタルシスを覚える。夜9時から放送される「ギミア・ぶれいく」内だからこそ実現したアニメである。ちなみに喪黒のモデルは「ギミア・ぶれいく」のホストを務めた大橋巨泉だと言われている。
 アニメ版の制作はシンエイ動画。総監督をクニトシロウ、監督を米谷良知が務め、音楽は田中公平が担当した。

 本作は田中公平のアニメ作品の中では初期のもののひとつ。田中公平は本作と前後して『エスパー魔美』(1987)、『チンプイ』(1989)、『21エモン』(1991)といった藤子・F・不二雄原作アニメの音楽も手がけている。ファミリー向け作品が多かった時期である。その中にあって、大人向けテイストの本作は異色の1本だ。
 音楽の中心になるのは、喪黒のテーマである。
 田中公平のインタビューによれば、喪黒のテーマは喪黒が歩き去る後ろ姿をイメージして発想したという。
 ほぼ毎回、物語のラストは去っていく喪黒の後ろ姿で締めらくくられる。作曲時に映像はできていなかったが、そのイメージを聞いてテンポとリズムを決め、ファゴットがメロディを奏でるメインテーマが完成した。メロディはミステリアスであると同時にユーモラスでもあり、ペーソスも感じられる。なるほど「喪黒の後ろ姿」と思わせる曲調だ。
 ファゴットが主旋律を奏でるメインテーマも珍しい。ファゴットは脇役に回ることが多い楽器だが、この曲は珍しくファゴットが主役なので、あとでファゴット奏者の大畠條亮から感謝された、と田中公平はふり返っている。
 藤子不二雄Aの訃報が流れたとき、TVで氏の代表作を紹介する際に喪黒のテーマがたびたびBGMとして使われていた。そのくらい、ワンフレーズ聴けば「あ、あの曲!」とわかる印象的なテーマである。アニメのインストゥルメンタルのテーマ曲としては、大野雄二の「ルパン三世のテーマ」と並んで一般によく知られた曲ではないだろうか。
 喪黒のテーマとしてよく使われた曲がもうひとつある。喪黒が客にセールス(?)をするときに流れるタンゴ調の曲だ。こちらはアコーディオンがメロディを演奏する。ファゴットのテーマよりもテンポが速く、喪黒があの大きい顔でぐいぐい迫ってくる雰囲気がタンゴのリズムで表現されている。こちらは、喪黒が速く歩いているイメージで作曲したそうだ。
 では、喪黒のテーマ以外の劇中音楽は?
 本作は毎回、登場人物も舞台設定も異なる短編集のような作品。喪黒以外に共通する要素はない。唯一の例外として喪黒がたびたび訪れるバー〈魔の巣〉があるが、毎回登場するわけではない。
 本作と似たタイプの海外ドラマ「ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)」では、毎回、映像に合わせて作曲家が音楽をつけていた。しかし、本作の音楽は溜め録り方式。あらかじめ多数の音楽を録音しておいて、その中から選曲している。そのため、どんなエピソードにも対応できるように多種多彩な音楽が要求された。
 1話10分の作品なのに、1回目の録音で60曲ほどが録音されている。うち10曲ほどが喪黒に関係する曲で、残りはさまざまなシチュエーションや心情を表現する曲である。曲調もクラシック風から、ロック風、ジャズ風、恋愛映画音楽風、怪奇映画音楽風など、バラエティに富んでいる。
 サウンドトラックを「バラエティに富んだ曲調」と紹介することはよくあるが、実態としては、核になるモチーフ(メロディ)がいくつかあり、それをさまざまなスタイルでアレンジしているケースが多い。
 ところが本作は一貫したストーリーや舞台設定がないため、本当にバラエティに富んだ曲がたくさん作られているのが特徴だ。音楽の見本市と言ってもよい。自身を「デパート(百貨店)タイプ」の作曲家と称する田中公平の持ち味が生かされた作品である。ふたたび田中公平インタビューによれば、ひとつのテーマでさまざまな曲を書くよりも、まったく異なるジャンルの曲や異なる雰囲気の曲をたくさん書くほうが書きやすかったという。
 こうして本作では、喪黒のテーマとともに多彩な曲調の音楽が流れることになった。喪黒のテーマが中心にあり、そのまわりを暗い色から明るい色まで、さまざまな色彩の楽曲がとりまいているような音楽世界。これが『笑ゥせぇるすまん』の音楽である。

 3年間にわたって放送された人気作品のわりに、本作のサウンドトラック・アルバムはなかなか発売されなかった。大人向けということもあるし、番組内の1コーナーとして放映された短編作品ということもある。また、当初は主題歌がなく、レコードメーカーが制作に関わっていないという事情もあっただろう。
 結局、サウンドトラック・アルバムが発売されたのは2017年。リメイク作品『笑ゥせぇるすまんNEW』が放送されることになったのがきっかけだった。日本コロムビアが展開していた「Columbia Sound Treasure Series」の1枚として、2017年8月に「笑ゥせぇるすまん オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで発売された。ちなみに『笑ゥせぇるすまんNEW』の音楽も田中公平で、旧作の音楽をリメイクした曲が多数ある。サウンドトラックを聴き比べてみると面白い。
 「笑ゥせぇるすまん オリジナル・サウンドトラック」の収録曲は下記、商品ページを参照。
https://columbia.jp/prod-info/COCX-39988-9/
 構成は筆者が担当した。
 バラエティ豊かな楽曲が楽しめる作品だが、音楽アルバムとしてまとめるのは、なかなか苦心した。
 まず、曲のイメージを固めるために全話を観て音楽の使用場面を確認した。ここまではどの作品でも同じだが、なにせ短編集のような作品なので、曲の並べ方に悩む。
 結局、アルバム全体を短編集のようにまとめることにした。全体をいくつかのブロックに分け、状況説明、破滅へ向かっていく喪黒の客の描写、皮肉なオチ、というサイクルをくり返す構成を考えた。
 本アルバムは2枚組で、ディスク1は『笑ゥせぇるすまん』の定番のフォーマットを再現した構成、ディスク2はいくつかの特定のエピソードをイメージした構成になっている。
 ディスク1の内容を紹介しよう。
 冒頭は番組の導入部に使われた曲を収録した。トラック1は「オープニング〜メインタイトル」。「私の名は喪黒福造」と言いながら喪黒が登場するオープニングの曲とそれに続くメインタイトル曲である。トラック2は「この世は老いも若きも、男も女も、心のさみしい人ばかり……」と喪黒が語るプロローグの曲。タンゴ調の喪黒のテーマである。
 次のトラック3は喪黒登場シーンに流れる「忍び寄る喪黒」。悩みを抱えた人物の前に(あるいは背後から)喪黒がのそっと現れる場面によく流れていた。ファゴットによる喪黒のテーマの変奏だ。
 トラック4はタンゴ調の喪黒のテーマの変奏「わたくしこういう者です」。喪黒が客に名詞を渡して自己紹介する場面に使われている。
 トラック5〜7には喪黒の客の心情を表現する曲を並べた。哀愁ただよう曲調の「黄昏に」「ひたぶるにうら悲し」「美しい想い出」の3曲。つかの間の心の平安のイメージだ。知らずに聴けば、感動的な名作アニメの音楽か恋愛ドラマの音楽かと思うような美しい曲である。
 緊迫感のある「喪黒の警告」(トラック8)とホラーテイストの「襲いくる悪夢」(トラック9)で客の人生は暗転する。喪黒が笑いながら去っていくラストシーンの曲「エンディング -Short version-」(トラック10)が、妖しくも暗い余韻を残す。
 ここまでで、本作の代表的な音楽がひととおり出そろう。「そうそう、『笑ゥせぇるすまん』ってこういうアニメだった」と思ってもらえたらうれしい。
 以降は、さまざまな客やシチュエーションを音楽で紹介する構成。
 なかでも印象深い曲を挙げると——。
 トラック15「無謀な突撃」とトラック16「爆走」はテンポの速い緊迫感のある曲。客が危険を無視して暴走する場面などに使用された。ヒーローものならアクションシーンに流れるようなカッコいい曲調だ。
 トラック18の「ドーン!」はタイトルどおり、喪黒が「ドーン!」と客に人差し指をつきつける場面の短いブリッジ曲。
 トラック22と23は喪黒が訪れるバー〈魔の巣〉のBGMとして使われた曲。トランペット奏者・数原晋のアドリブ演奏をフィーチャーしたブルース風の曲である。喪黒のテーマと並んで記憶に残る曲なので商品化を待ち望んでいた人も多いと思う。
 トラック27「恋かしら」とトラック28「胸にあふれる思い」はロマンティックなシチュエーションを表現する曲。ヨーロッパのしゃれた恋愛映画音楽のような曲で、胸がキュンとなる。こういう曲が何気なくちりばめられているのが本作のすごいところ。
 しかし、そんないいムードがいつまでも続くわけがない。
 トラック48「イリュージョン」は喪黒の客が甘美な幻想から目覚め、悲劇的な現実に直面する場面に流れる曲。いわば「解ける魔法」のテーマである。
 そして、トラック49は「喪黒のタンゴ」。ザッザッザッと迫りくるようなリズムに乗って、ファゴットによる喪黒のテーマが奏でられる。
 トラック50「残酷な現実」はエンディング用の曲。夢の時間は終わり、痛い目にあった客が辛い現実に帰ってくる(あるいは永遠に帰ってこない)。本作ならではのバッドエンディング曲だ。
 トラック51「エンディング」は喪黒が去っていくラストシーンに使われた喪黒のテーマの変奏。トラック52に「次回予告」を配してディスク1の締めくくりとした。
 このあとには、ボーナストラックとして、田中公平が手がけたTVアニメ『夢魔子』の音楽が収録されている。これも「ギミア・ぶれいく」内で放映された藤子不二雄A原作のアニメ。『笑ゥせぇるすまん』の音楽ととも音源が発見されたので、あわせてサントラに収録することにしたのだ。もちろん初商品化。なかなかのレア音源である。

 『笑ゥせぇるすまん』の音楽は多彩だ。エピソードごとに異なるキャラクターと物語が描かれるため、定番のように使われる曲は喪黒のテーマとバー〈魔の巣〉の曲くらいしかない。別の見方をすれば、それ以外は記憶に残りづらい作品だとも言える。では、そんな本作のサウンドトラックの聴きどころはというと、ずばり、その多彩さを楽しむことだろう。
 田中公平が本作のために作った音楽は、クラシックからロック、ジャズ、ポップス、民族音楽風まで、幅広いジャンルにわたる。美しい曲はうっとりするほど美しく、カッコいい曲はとことんカッコいい。コミカルな曲は笑ってしまうし、怖い曲はぞくぞくする。どの曲も聴けばくっきりとイメージが浮かぶ。映像音楽のお手本集になりそうなサントラだ。
 このサントラ自体が、ココロのスキマを埋めてくれる豊かなサウンドの宝庫だとも言える。ただし、そこには喪黒という毒もまじっているので、使い方にはご用心を。

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第751回 やっぱり、藤子先生!

 まだ、藤子不二雄(A)先生の話、というかまた“藤子不二雄”先生の話。
 今さらですが、えびはら武司先生の著書「藤子スタジオアシスタント日記 まいっちんぐマンガ道」(竹書房刊)が面白いです! えびはら先生は元・藤子スタジオのアシスタント(独立後、代表作は『まいっちんぐマチコ先生』)で、主に藤子・F・不二雄(藤本弘)先生のアシスタントを務めていたとのこと。でも、たまに藤子(A)先生のお手伝いもしていて、魔太郎(『魔太郎がくる!!』)のシャツの“バラ模様”と『ドラえもん』のめんくいカメラの模様が一緒の描き方であるとか、(A)先生自らがアシスタント達に向けて「マンガ教室を開く」と豪語(?)しておきながら時間になっても現れず、結局無口なF先生が代打で必死にマンガ教室をやった話、さらに両先生と行く藤子スタジオの社員旅行等々——“2人で1人の藤子不二雄”だった頃の貴重なエピソード満載で、我々が憧れたコンビの藤子不二雄像がそこにあります。そこで、えびはら先生が“両先生の作品が区別されず一緒くたに藤子不二雄である”ことをF先生に尋ねたところ、F先生は「いいんだよ、藤子不二雄は“2人のチーム名”なんだから」と。これもまた良い話!
 藤子不二雄(A)、藤子・F・不二雄共著「二人で少年漫画ばかり描いてきた」という本も非常に良い本です。1977年版は“藤子不二雄”名義で毎日新聞社刊、2010年版は(A)、F共著名義で日本図書センター刊。(A)先生がメインで全体を執筆し、各章の冒頭に“藤本弘からひと言”としてF先生の中書きが挿入されているスタイルの本です。その第一章冒頭にF先生は「僕は寡黙で、安孫子((A)先生)はサービス精神旺盛な社交的性格」「中書きと本文の字数比は、普段の口数の比に等しい」と書いています。役割分担がしっかりできている、正に“名コンビ”。おそらく、自分らと同年代の藤子ファンの男子って、それぞれの作品の面白さも然ることながら、小学生の頃から一緒に作品を描き続けておられた、その将来を共にできる永遠の友人関係自体にも憧れていたのではないでしょうか? 少なくとも板垣はそうです。だって、小学5年生になったら一緒にマンガを描いて東京に行く“相方”が転校してくるハズだと本気で信じてましたから! ま、来なかったけど。
 F先生は生涯ほぼフィクションの世界(一部短編などでは実話的な作品も描いてはいますが)で勝負してきた天才だと思うのですが、(A)先生は『まんが道』のような半自伝的作品も多く、その他の著書にも『トキワ荘青春日記』や『PARマンの情熱的な日々』等の日記・コミックエッセイ的なノンフィクション(?)作品が多く、100%フィクションの作品も“ド現実”が舞台になってる作風で、そこも対照的な御二人でした。(A)先生は「ブラック・ユーモア短編」で、F先生は「異色SF短編」!

板垣は今でも両方大好きです!

 藤子不二雄(A)(安孫子素雄)先生、天国でまた藤子・F・不二雄(藤本弘)先生とコンビを組んでまた“藤子不二雄”再結成してください。ご冥福を心よりお祈りします。

アニメ様の『タイトル未定』
344 アニメ様日記 2021年12月26日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年12月26日(日)
デスクワークでは重めの原稿を進める。朝の散歩で『呪術廻戦』サウンドトラックの後半を聴いて、午後の散歩で『劇場版 呪術廻戦 0』のサウンドトラックを聴いた。午後の散歩は池袋から練馬辺りまでを歩くつもりだったのだけど、椎名町まで来たところで、トキワ荘マンガミュージアムが近くにあることに気づいて、そちらに。このミュージアムがトキワ荘を再現したものであるのは知っていたけれど、実際に足を踏み入れると大変なインパクト。マンガや読み物でしか知らなかったトキワ荘に、実際に入り込んだような感覚になる。これは凄い。ミュージアムの周辺も、マンガ関係の施設がいくつもあり、やたらと濃い街だった。

ながら観ではあるけれど、『らんぽう』DVD BOXを最終回まで完走。やっぱり突出していたのは18話A「宇宙海賊らんぽう大暴れ」だった。作画についても、エピソードとしての面白さとしても断トツ。摩砂雪さんの代表作のひとつだ。大雑把に言えば『未来少年コナン』+『風の谷のナウシカ』+『超時空要塞マクロス』で、特に『未来少年コナン』のパロディ部分はよくできている。本放送時も「すげえ」と思った。パロディ以外の部分も中盤からの飛ばしっぷりが素晴らしい。気になるのはどこからどこまでが脚本にあるパロディで、どこからどこまでがコンテで足した部分で、作画で広げた部分はどこなのかということだ。話が話だから、脚本の段階からアニパロだったのだろうとは思うけど。
19話Bパート「史上最大のスパイ大作戦!!」はアニメアール回。元気に、のびのびと作画している感じで楽しい。ゲストキャラの博士は作監の毛利和昭さんが描きやすいタイプなのか、妙に活き活きしている。序盤に出てくるスパイも『蒼き流星SPTレイズナー』世界のキャラみたい。パロディも多い。

以下は『らんぽう』の最終回について。
DVD BOXに21話として収録されている「らんぽうグラフィティ チュー太郎の泉ヶ丘(秘)レポート」は未放送とされているエピソード。ウィキペディアには「一部の局でのみ放送」とある(なお、ウィキペディアでは最終回は「らんぽうグラフィティ」「チュー太郎の泉ヶ丘(秘)レポート」の2本立てとなっているが、実際にはABパートで1話の構成だった)。総集編プラス新作の構成だが、シーンのチョイスと編集が上手で、総集編部分がやたらと面白い。ちなみに演出は中村憲由さん。
21話ラストで、1話で登場した宇宙人が再登場。らんぽうを現在の姿(劇中のセリフでは「できそこないのミュータント」)にしたのは彼らの計画の一部であり、1話以来の乱痴気騒ぎも、人類の未来にとって重要なことであるかもしれないことが示唆される。おお、『らんぽう』はSFだったのか。オチ部分には「宇宙大作戦」等のネタもあり。原作最終回は未読だけど、1話の宇宙人の謎については触れられていないではずなので、アニメ独自の結末だったと思われる。

2021年12月27日(月)
キーボードを叩きながら、録画してあった「BUZZ CREATORS」の「映画監督 堀 貴秀 たった一人の映像革命」を観る。面白い。番組の映像や構成もよかった。「AFTER TOKYO 2020 知られざる1970大阪万博」も観る。こちらも面白かった。

2021年12月28日(火)
仕事の合間に、ワイフと千駄ヶ谷のMOS PREMIUMに行く。お酒が飲めるモスバーガーだ。通常のモスバーガーのメニューでお酒も飲めるのかと思ったら、いわゆるグルメパーガーの店だった。バーガーも、オニオンリングも、サラダも美味しかった。
『先輩がうざい後輩の話』未視聴分をまとめて視聴中。うわあ、くすぐったい。最終回で、双葉と武田の関係について決着はつかない。勿論、決着をつけるわけにはいかないんだろうけど。シリーズを通じて、原作のキャラクターを大事にしたアニメ化だった。それから、前にも書いたけれど、作品のいい悪いではなく、色々と考えるポイントのあるシリーズだった。他にも深夜アニメの最終回を片っ端から観た。

2021年12月29日(水)
新文芸坐で「トムボーイ」(2011・仏/82分/DCP/PG12)を観る。「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマの2本目の監督作で、引っ越した先で少年として振る舞う少女の物語。面白かったんだけど、ラストはもう一押しほしかった。リアルな話として考えたら、あのラストが正解であるかもしれないけど。
編集部のスタッフは東京ビッグサイトでブースの設営。僕は15時から新宿で、「アニメスタイル016」の中村豊さんの取材。予想よりも濃い取材となった。

2021年12月30日(木)
コミックマーケット99の1日目。今回のアニメスタイルの新刊は「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」と「22/7 あの日の彼女たち Animation note」だ。分かっていたことではあるけれど、入場者数を制限しているため、お客さんの数は少ない。自分は途中で会場を抜け出して、葛西臨海公園辺りを散歩する。

2021年12月31日(金)
コミックマーケット99の2日目。午前中は会場を編集部スタッフに任せて、事務所で原稿作業を進める。正月にやるつもりだった取材のまとめに手をつける。とにかく手をつけることが大事だ。午後からコミケ会場に。池袋に戻り、ワイフとドーミーイン池袋に。大晦日から正月はドーミーインで過ごす予定だ。

2022年1月1日(土)
元旦は仕事をするつもりはなかったのだけれど、後回しにしていたテキスト作業を片づける。7時少し前に、初日の出を見るため、ワイフとIKE・SUNPARKに。他にも近所の人が大勢来ていた。その後、大鳥神社と鬼子母神にお参りする。元旦朝の初詣なんて生まれて初めてかもしれない。朝食の後、巣鴨までのんびりと歩く。『うる星やつら』再アニメ化が発表され、13時にティザーPVが公開された。散歩の途中でワイフと立ち止まり、スマホでPVを観る。神谷浩史さんの諸星あたるも、上坂すみれさんのラムも猛烈にいい。旧アニメ版をリスペクトしつつ、物真似に終わっているわけではない。いやあ、凄い。浅野直之さんのキャラクターも楽しみだ。

アニメ様の『タイトル未定』
343 アニメ様日記 2021年12月19日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年12月19日(日)
早朝の新文芸坐に行って、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 133 2021年の傑作!! ポンポさん・肉子ちゃん・ハサウェイ」の終幕に立ち合う。『閃光のハサウェイ』を少し観たが、新文芸坐さんの音量マシマシでの上映は迫力満点だった。話は前後して土曜夜の話になるが、オールナイトの序盤で『映画大好きポンポさん』の上映も観た。こちらは35ミリフィルムでの上映で、色が予想よりも落ち着いたものになっていた。キャラクターとしてのポンポさんは派手な感じが弱まっていた。雨で地面がキラキラしているような描写については、あまり印象は変わらず。
オールナイトの後はデスクワークと散歩。『スーパーカブ』を1話から改めて観る。今回はヘッドホンで音を聴きながらの視聴だ。15時から吉松さん、ワイフとラムしゃぶを食べる。これが今年最初で最後の忘年会かな。

2021年12月20日(月)
『スーパーカブ』の藤井俊郎監督にインタビューをした。「アニメスタイル016」のための取材だ。インタビューの窓口が知り合いだった。知り合いというか、アニメスタイルの卒業生の武井風太君だった。
『スーパーカブ』放映開始直前に、スタジオKAIのサイトに藤井監督の非常にしっかりとしたインタビューがアップされた。記事としてあまりにも上手にできているので、あれが制作会社のスタッフがまとめた記事なら凄い、いや、プロのライターより上手いのではないかと、僕の周囲で話題になっていた。そのインタビューを担当したのも、武井君だったことが分かった。どこの誰がやったのか分からずに誉めていたのだが、実は内輪誉めだった。

2021年12月21日(火)
『無職転生 異世界行ったら本気だす』終盤をまとめて観る。かなりよかった。最終回も最終回らしくなっていたと思う。ワイフとグランドシネマサンシャインで「マトリックス レザレクションズ」【IMAXレーザーGT字幕】を鑑賞。期待していたよりものとは違っていたけれど、別にがっかりはしなかった。メタ的な部分については少し戸惑った。

2021年12月22日(水)
翌日の取材の質問状を書く。今日は50分で書いた。これは傑作。質問状だけでも面白い。いや、質問状が面白くてもしかたないのだけど。仕事の合間に、こむぎこ2000初個展「KG-2000」に行く。色々と刺激的な展示だった。ご本人がいらしたので購入した本にサインをいただく。取材の予習で『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』を配信で観る。それから、深夜アニメの最終回を片っ端から観る。

2021年12月23日(木)
配信で『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし』を観る。全てのアニメ『クレヨンしんちゃん』の中で、みさえが一番美人に描かれているのではないか、と思った。午後は「アニメスタイル016」で『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』の取材。予想と違うことも多かったけれど、それも面白い。引き続き、深夜アニメの最終回を観る。

2021年12月24日(金)
公開初日の朝に『劇場版 呪術廻戦 0』を、ワイフと一緒にグランドシネマサンシャインで鑑賞。IMAXは席が取れなかったので、BESTIAで観た。立派な出来だった。ビジュアルを含めて「望まれているものをきちんと提供している」と思った。それをしっかりやっているという意味でも立派な出来だった。
DVD BOXで『らんぽう』を1話から11話Aパートまで観る。

2021年12月25日(土)
クリスマスプレゼントで、ワイフから手編みのニット帽とネックウォーマーをもらう。ワイフと大久保あたりを歩いて、外食。他はデスクワーク。
24日にひょっとして『無職転生 異世界行ったら本気だす』のサントラってサブスクにあるかなと思って探したら、あった。この日は『呪術廻戦』のサントラはあるかなと思って探したら、やっぱりあった。便利過ぎるなあ。いや、便利で困るのも変なんだけど。
『古見さんは、コミュ症です。』をまとめて観る。このシリーズについて、作品として出来はよく出来ているけど、キャラクターとしての古見さんはあまり好きになれないなあと思っていたのだけれど、視聴が進むうちに愛おしくなってきた。がんばれ、古見さん。
『らんぽう』は11話Bパートから14話まで観る。『らんぽう』14話「天国デスマッチ! 仏と鬼」は摩砂雪さんの作監回。終盤で天国の人(神様?)が、動きの途中でセル3枚分くらいだけ「顔が巨神兵になる」という全く意味の分からないギャグがあって、ちょっと驚いた。

第750回 藤子先生……

 急遽、書(描)きかけだった原稿を後に回して、やはりこちらを。

訃報・藤子不二雄(A)先生、逝去

藤子不二雄(A)(本名・安孫子素雄)先生がお亡くなりになられました。昭和を生きた方なら誰もが知る『怪物くん』『忍者ハットリくん』『プロゴルファー猿』『まんが道』『笑うせぇるすまん』などを描かれた先生です。
 代表作のひとつ『オバケのQ太郎』は藤子・F・不二雄(藤本弘)先生との共著と言うより、何年前かにも書いたとおり、我々世代ではF先生と(A)先生の区分けはなく、2人で1人の“藤子不二雄”先生なんですが。
 その藤子不二雄先生が板垣に与えた影響は多大でした。自分だけでなく、昭和50年代に子供時代を過ごした方々——早い話、俺らの同年代は皆、藤子不二雄先生で育っています。何せ1979年の『ドラえもん』以降、『怪物くん』『忍者ハットリくん』『パーマン』『オバケのQ太郎』『プロゴルファー猿』『エスパー魔美』『ウルトラB』『チンプイ』『ビリ犬』と、毎年のように“藤子アニメ”の新作が発表された時期ですから(今、若い方々、信じられます? 2人分とは言え、これだけ立て続けにアニメ化される作家って存在したんですよ、昭和は)。そんな訳で当然俺も、小学生の頃、丸々6年間はドハマりしました(もちろんアニメに狂う前の話です)。ハマっただけでなく、

“マンガ”というエンタメを描く“マンガ家”という職業がある!

要はTVでやってる『ドラえもん』や『怪物くん』と、それらを描いて作っている原作者の存在を同時に初めて知ったんです。だから、名前を憶えた最初の作家が藤子不二雄(故にF先生と(A)先生に別れても板垣に取っては、藤子不二雄は藤子不二雄なワケ)。
 これも何年か前にここで書(描)いた話のリバイバルですが、いつの時代でもどこのクラスにも1人は必ずいる“お絵描きが得意な子”だった板垣の小学生生活は、藤子不二雄キャラを描きまくる日々となっていた! の話。朝、登校すると「伸君、ドラえもん描いて」「俺はハットリくん!」とクラスメイトたちが、らくがき帳を俺の机の上に置いていくのです。

その皆からの注文のノートを、休み時間を使って1ページずつ消化して帰る毎日。ちなみに模写ではありません(今も昔も模写は嫌い!)。キャラを全て暗記して、オリジナルのポーズを考えたり、そのクラスメイトの希望するモノを描くんです。現在の仕事に就く時も就いた後も「何か描いていれば、自分は食いっぱぐれることがない」とどこかで思い続けているのも、実はこんなことばかり子供の頃からやってたせいでもあります。もちろん、その頃はお金なんて貰っていませんが。
 で、小学生の板垣が

いちばん好んで描いたキャラが
藤子不二雄(A)先生の『プロゴルファー猿』!

今でも空で描けます。『猿』は藤子不二雄(A)先生“独自のカッコ良さ”に満ちています。F先生が天才的ストーリーテリングの作家なら、(A)先生は“情念で描かれる”作家。ストーリーの独自性や意外性とかではなく、「自分が自然に囲まれて暮らしたい」「野生の猿と温泉に入りたい」「こんなスーパーショットを打ってみたい」などの願望・欲望の具現化で、漫画を描かれた先生だと思います。例えば、『猿』は是非原作を読んで頂きたいのですが(特に1974〜80年「週刊少年サンデー」連載版)、各ショットの描き方を見てください。“アングル”も“ポーズ”も“動き表現”も、毎ショット全部違う画で見せています。作品順で言うと『猿』の前作品『魔太郎がくる!!』も同様で、この時期(昭和40〜50年代)の(A)作品は劇画的な見せ方(アニメで言うなら演出)が良く工夫されていて、いわゆる“正確なデッサン云々”じゃない“藤子流”劇画で、唯一無二の面白さにあふれています。『黒イせぇるすまん』(1991年のアニメ『藤子不二雄(A)の笑うせぇるすまん』の原題)もこの時期(昭和45年)の作品だったりします。
 ジャンル的にも(A)先生は幅広く、ギャグ・スポーツ・青春モノから、もちろんブラック・ユーモア、昔はSFも。でも、そのどれもが嫌味なインテリ感がなく、迫力あるエンタメ作品に特化してるのが特徴かと。『劇画・毛沢東伝』(1971年、大好き!)なども、ともすると歴史インテリマンガになりがちな題材のハズが、(A)先生が描くと骨太な黒い男(あくまで黒ベタ影多めの意)の迫力あるドラマになります。食糧難で食うものがなくて、「こりゃ、イケる!」と革のベルトや革靴をムシャムシャ食って笑うシーンとか、間違いなく(A)先生しか描けないムードってあるんです!

 と、時間切れ。コンテ・チェックに戻ります! やっぱり、(A)先生の話は1回じゃあ語り尽くせません。次週へ、

第228回 去り行く者へのレクイエム 〜平家物語〜

 腹巻猫です。2014年にSOUNDTRACK PUBレーベルよりリリースした「最強ロボ ダイオージャ 総音楽集」が「最強ロボ ダイオージャ オリジナルサウンドトラック」のタイトルで3月より配信開始されました。CDと同じ構成なので、BGM、組曲「スペースファンタジー ダイオージャ」、主題歌・挿入歌のフルサイズ、カラオケなど盛りだくさんの内容です。
 Spotify、Amazon Music、YouTube Music、Apple Music、レコチョクなどのストリーミング&ダウンロードで配信中。CDはすでに在庫切れ、販売終了していますので、未入手の方はぜひ配信版をどうぞ!
https://lnk.to/aFk3aZbJ


 3月に終了した1月期のTVアニメの中で、とりわけ印象に残った作品が『平家物語』だった。
 今回は、その音楽を聴いてみたい。
 『平家物語』は2022年1月から3月まで放映されたTVアニメ作品。TV放映に先だって、2021年9月からFOD(フジテレビオンデマンド)で全話配信された。
 古川日出男訳で話題となった軍記物語「平家物語」のアニメ化である。シリーズ構成・脚本と監督は『けいおん!』『リズと青い鳥』などを手がけた吉田玲子と山田尚子のコンビ。アニメーション制作はサイエンスSARUが担当した。
 最終回を観終わって、「いいものを見せてもらったなあ」としみじみ思った。
 古風でモダンなビジュアル。緻密で大胆な演出。古典を現代のアニメ作品としてみごとに再構築している。
 主人公として、未来を見通す目を持つ少女・びわを設定したのがポイント。びわは歴史の目撃者であり、物語の語り手でもある。同時に、びわとの交流が描かれることで平家の一族が人間味にあふれた、身近な人間だと感じられる。特殊な力を持つびわが「ふつうの人々」の代表でもあるというのが面白い。

 音楽は『リズと青い鳥』『映画 聲の形』で山田尚子監督と組んだ牛尾憲輔。シンセサイザーを使った音楽や実験的な音楽を書く印象がある牛尾憲輔が『平家物語』にどんな音楽をつけるのか? そこも放送前から大いに興味をそそられる点だった。
 『平家物語』の音楽といえば「邦楽器を使った和風のサウンド」というイメージがある。冨田勲が手がけた大河ドラマ『新・平家物語』の音楽が恰好の見本だろう。最近のアニメでは池頼広による『どろろ』の音楽が邦楽器をフィーチャーしたサウンドで時代感を演出していた。
 ところが、アニメ『平家物語』の音楽はそういう方向性ではない。テクノっぽい曲やロック調の曲が流れ、琵琶や笛などの和風のサウンドがからむ。ユニークな音楽設計である。この自由さが『平家物語』の時代のおおらかさや勢いを表現しているように思える。
 音楽は大きく分けると、物語の中で流れる、いわゆる劇伴音楽と、びわの語りとともに流れる琵琶の曲の2種類。後者の琵琶の曲が『平家物語』の柱となる音楽とも言える。そのため、ほかの曲はかえって自由に作ることができたという。
 劇伴は思い切って現代的な感覚で書かれている。
 メロディを聴かせるというより、短いフレーズをくり返すミニマルミュージック的な、あるいはアンビエントミュージック的なスタイルの曲が多い。特定の感情や状況を表現する音楽というよりは、雰囲気を醸成し、映像に心地よいテンポ感を与える音楽だ。こういう曲は視聴者が自由に想像力をふくらませる余地がある。
 また、現代的なサウンドには、『平家物語』の登場人物も現代のわれわれと変わらない人間なのだと感じさせる効果もある。視聴者が『平家物語』の世界にすっと入っていける音楽なのである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2022年1月に「TVアニメ 平家物語 オリジナル・サウンドトラック 諸行鎮魂位相 requiem phases」のタイトルでポニーキャニオンから発売された。アナログ盤と音楽配信も同時にリリースされている。
 CDは2枚組。ディスク1は劇伴、ディスク2はびわの語りのバックに流れる琵琶の曲が主に収録されている。
 ディスク1を聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. the beginning 序
  2. vortex 渦潮
  3. visions 幻視
  4. boy’s own 平家嫡男
  5. unknown plan 入道相国
  6. children 童舞
  7. sal blossoms 沙羅双樹
  8. the day after tomorrow 明日明後日
  9. clap your hands 囃子
  10. ladies 女御
  11. vague light 紫陽窓
  12. sign 兆
  13. courtesy 典礼
  14. sorrow 悲風
  15. nothing 無限
  16. pray with hands 祈請
  17. Kiyotsune, Atsumori 名手邂逅
  18. moonlight 盃月波
  19. conspiracy 陰謀
  20. war situation 戦況
  21. east saburahi 東侍
  22. bad boy Yoshi 悪童義仲
  23. cresc. 漸強楽
  24. maternal 御母
  25. cats 猫
  26. once in a lifetime 桜人
  27. snowscape 雪花
  28. Yoshitsune attacks 義経襲来
  29. the battle 決戦
  30. requiem phases 諸行鎮魂位相

 曲名は英語表記が正式らしく、配信版は英語タイトルしか表記されていない。しかし、CDのインナーやアナログ盤のジャケットには漢字タイトルが併記されている。これがあるほうがイメージが伝わりやすいと思うので、上記のリストでも併記した。
 BGM30曲を物語を意識した曲順で並べた構成。ただし、未使用曲や劇中で使用されたものとバージョンの異なる曲も含まれているので、サウンドトラックとイメージアルバムがミックスされたような内容だ。
 アルバムの序盤に収録された曲は初期のエピソードで使われたものが多い。
 第1話を例に紹介しよう。
 アバンタイトルの蝶が舞う映像のバックに流れたのが1曲目の「the beginning 序」。幻想的なサウンドで『平家物語』の世界へ誘う導入の曲だ。
 続いて、びわの父が殺され、びわが右目で平家一族の未来を見る場面。びわの目には渦舞く海が映る。ここで流れる曲が2曲目の「vortex 渦潮」。不穏な空気がただよい、物語全体の予兆となる。
 びわの語りとオープニングテーマが流れたあと、平家の宴の場面。平清盛と重盛の対話の場面に流れるのがトラック5「unknown plan 入道相国」。エレキギターが鳴り響くロック調の曲である。降り始める雪に重盛が気づく場面ではトラック4「boy’s own 平家嫡男」。弦のフレーズがくり返され、ビートが加わって軽快な曲調に変化していく。平家の人々が身近に感じられるシーンである。
 びわと重盛が出逢い、重盛がびわに「お前も見えるのか?」とたずねる重要な場面ではトラック3の「visions 幻視」が流れる。びわの目に映る平家の運命を象徴するような曲として劇中たびたび使用された。第9話で母親との対面を果たしたびわが、自分にもできることが見つかったと語る印象的なシーンでも選曲されている。
 重盛に引き取られたびわの描写にはトラック6「children 童舞」、トラック7「clap your hands 囃子」といったシンセメインの軽いタッチの曲が使われている。日常シーンではけっこうテクノっぽい曲が使われているのが本作の特徴である。
 その代表と呼べるのが、トラック7の「sal blossoms 沙羅双樹」とトラック8の「the day after tomorrow 明日明後日」。日常の描写によく使われた曲で、筆者は『平家物語』の音楽というと、こういう曲が思い浮かぶ。
 「the day after tomorrow 明日明後日」は過ぎていく日々の時間を淡々と描写するアンビエント系の曲。第2話で「明日、明後日……、この先、いいこともある」とびわが重盛に話す場面から帝に輿入れする徳子を泣いて見送る場面まで流れていた。
 その徳子の登場するシーンでよく流れていたのが、トラック10の「ladies 女御」。徳子の場面以外にも、第2話の後白河法皇と滋子の場面や第9話でびわが母をたずねる場面などに使用されている。シンプルなフレーズのくり返しを聴いていると『平家物語』に登場する女性たちの思いやびわのさみしさに寄り添っているような気持ちになる。全編を通して使用頻度の高い曲である。
 アルバムの中盤は心情を表現するタイプの曲が並んでいる。トラック11「vague light 紫陽窓」は哀感ただようリリカルな曲で、第1話の重盛とびわが月明かりの下で語らう場面や第2話でびわが出家した祇王と話す場面などに使用された。トラック14の「sorrow 悲風」は深い悲しみを表す曲。第4話で重盛が妹・盛子の死を嘆く場面に流れている。
 トラック18「moonlight 盃月波」は3本の笛で演奏される曲。第6話で描かれた、月夜の浜辺で重衡、清経、敦盛の3人が笛を合奏する場面のイメージなのだろう。全編の中でも心に残るシーンのひとつである。ここに収録されたのは3分以上の長いテイクで本編では未使用。実際のそのシーンにはディスク2に収録された「Owada Harbor 大輪田泊」が使用されている。こちらは絵に合わせて演奏されたテイクのようだ。
 アルバムの終盤は、平家と源氏の決戦に向けた曲が並ぶ。トラック19「conspiracy 陰謀」やトラック20「war situation 戦況」はシンセサウンドを生かしたサスペンスタッチの曲。トラック22の「bad boy Yoshi 悪童義仲」はズバリ、木曽義仲のテーマで、テクノロック風サウンドで義仲の破天荒なキャラクターを表現している。
 トラック23の「cresc. 漸強楽」は、波紋を広げるように徐々に厚くなっていくサウンドとリズムで危機感、切迫感を表現する曲。第8話で維盛が敗走する場面や第9話で清経たちが大宰府から追われて立ち去る場面に使用。特に印象深いのが第10話でびわが維盛の最期を見る場面と第11話でびわが入水する徳子を助けようとする場面。クレッシェンドしたサウンドは曲の終盤に向かうにつれて徐々に薄くなり、波立った水面が静まるように終わる。平家の滅亡を見送る曲と言えるかもしれない。
 ここでひと息ついて、びわの慕情を描写するトラック24「maternal 御母」とコミカルな「cats 猫」が並ぶ。続くトラック26「once in a lifetime 桜人」とトラック27「snowscape 雪花」は第10話で使用された、静御前と源義経の恋心を彩る曲である。
 トラック28「Yoshitsune attacks 義経襲来」は第9話の義経出陣のシーンに流れる曲。力強いリズムとシンセサイザーのうなりが義経の若々しいパワーと勢いを伝える。
 第11話の壇ノ浦での決戦シーンは、トラック29「the battle 決戦」だけで描写されている。男声コーラスとリズム、シンセサウンドがからみあい、敵味方入り乱れる戦場を表現する。まさにクライマックスの音楽だ。
 最後の曲は「requiem phases 諸行鎮魂位相」。最終話のラストに流れる本作のメインテーマとも呼べる曲だ。静かな導入から徐々に音が増えていき、シンセ、笛、琵琶などのサウンドが重なりあい、呼応し、ふたたび消えゆくように終わる。シンプルな音型をくり返すミニマルミュージック的な曲である。
 この曲も本編に使われたものはバージョンが異なる。本編ではディスク2に収録された、より音数が少ないバリエーション「purple clouds 諸行鎮魂位相 紫雲」が使用されている。最後に響く琵琶の音は、物語を締めくくる音でもある。
 ちなみにアナログ盤では「requiem phases 諸行鎮魂位相」が1曲目に収録されている。レコードでは外周の曲ほど音がよいので大事な曲を1曲目に配置することが多い。このことからも、この曲が本作を代表する音楽であることがわかる。
 ディスク2に収録された琵琶の曲は『平家物語』を語る音楽。古典としての重みや格調を感じさせる、本作の世界観の核となる音楽である。いっぽう、ディスク1に収録された劇伴は『平家物語』の世界に生きる人間たちの日常や喜怒哀楽を彩る音楽だ。バラエティ豊かな曲調から、生き生きとした心情が伝わってくる。この音楽があったから『平家物語』は人間味豊かな作品になった。そう言えるのではないだろうか。

 本作のサウンドトラックはハイレゾ配信も行われている。アナログ盤も同じマスターから作られたとすれば、CDよりもいい音質で聴くことができるわけだ。特に琵琶の音色は、アナログで聴くと迫力が違う(気がする)。再生環境をお持ちの方は、ぜひアナログ盤でも聴いていただきたい。

TVアニメ 平家物語 オリジナル・サウンドトラック 諸行鎮魂位相 requiem phases
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※アナログ盤
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アニメ様の『タイトル未定』
342 アニメ様日記 2021年12月12日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年12月12日(日)
午前中はデスクワーク。昼飯はワイフと大塚へ。目当ての店が休みだったので、前から何度も前を通っているけれど、一度も入ったことがなかった居酒屋に。昔風の作りの店で、メニューも昔風なんだけど、どれも美味しかった。やはり老舗は侮れない。午後は年末に刊行する書籍の作業。15時くらいで終わらせて、早めに休むつもりだったけれど、そんなわけにはいかなかった。

2021年12月13日(月)
1月8日(土)にレイトショー「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL フリクリ レイト」を開催することを告知する。アニメスタイルは2005年に『フリクリ』のトークイベントをやって、2010年と2015年に新文芸坐で『フリクリ』のオールナイトをやった。5年に一度の『フリクリ』イベントということで、2020年にもオールナイトやるつもりだったのだが、コロナのために実現しなかった。1年遅れで今年の秋にやるつもりで動いていたのだけれど、諸般の事情で2022年1月の開催となった。そして、オールナイトがレイトショーになった。チケットは元旦から発売開始だ。
仕事中の流し観で「騙し絵の牙」を観た。こういう映画だったの? 犯罪もので詐欺師と詐欺師が騙し合って、騙し合いにつぐ騙し合いで、最後に全てをひっくり返して高らかに笑う主人公、みたいな映画だと思っていた。何度も劇場で予告を観ていたのに勘違いしていた。話題の「浅草キッド」も観た。確かによくできている。
先週の金曜に「今日は今年で一番忙しい日だな」と思ったけれど、今日も負けないくらいに忙しい。

2021年12月14日(火)
午前中に配信で「怪猫トルコ風呂」をながら観。確かに変な映画なんだけど、最初から「この作品はカルトだ」と思って観るのは、ちょっと違うなあ。録画してあった「Gメン’75」1話をちょっと観る。すっげえいい。めちゃめちゃ力入っているなあ。1話だけで、どんだけフィルム使っているんだ、という感じ。

令和3年12月15日(水)
年末刊行の書籍編集作業の大詰め。

八奈見乗児さんが亡くなられたことを知る。数々の作品で素晴らしい仕事をされた名優だ。特に印象に残っているのが『巨人の星』の伴宙太役、『ヤッターマン』のボヤッキー役、『DRAGON BALL』のナレーターだ。仕事で少しだけご一緒させていただいたこともある。心よりご冥福をお祈り致します。

2021年12月16日(木)
仕事の合間に「和田誠展」に。ワイフの希望で行く計画を立てたのだけれど、本人は仕事疲れのため行くことができず。だけど、この日に行くため、打ち合わせのスケジュールをズラしていたので、行かないのも勿体ないと思って、1人で行くことにした。入場までに時間はかかったけれど、中はそれほどは混んでいなかった。展示物はかなりの数。そして、多岐にわたる。展示の仕方についてもアイデアが豊富だ。「庵野秀明展」でも庵野さんの学生時代の作品が残っているのに驚いたけど、こちらも凄い。そして、学生時代の落書きすら巧い。売店はまるで「和田誠書店」のようになっており、それも楽しかった。図録と共に「和田誠 日活名画座ポスター集」を購入する。
「Gメン’75 DVDコレクション」の1号を開封。先日1話を観たあとに、すぐにAmazonで注文したのだ。1話から3話の途中まで観る。面白いなあ。ずっとBGVとして流すのもいいな。
配信が始まった『アグレッシブ烈子』シーズン4を全話観る。これはシーズン5が本番かな。

2021年12月17日(金)
前にも似たことを書いているかもしれないけれど、年内に刊行する書籍本体の編集作業は一段落しているし、1月発売のアニメージュの作業も終わっているのに、猛烈に忙しい。これか、これが年末か。
最近、インタビューの質問状を書くのに凝ってしまって、数時間かけてしまったりするのだけど、今日は30分で仕上げたよ。いや、それでも時間をかけすぎか。

「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」についてのメモ。この書籍セットがどれくらいマニアックかというと、Flip Bookに原画が載っているカットのラフ原画がBookletに載って、さらにラフ原画の前の没ラフ原画まで載るということですよ(全部動きを追って載せています)。「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」がどれくらい大人げないかというと、本文16ページの予定で編集作業が始まったBookletが、出来上がったら、96ページになっていることですよ。

2021年12月18日(土)
東映チャンネルで『キン肉マン 晴れ姿!正義超人』をやっている。『キン肉マン』もリマスターするとビスタサイズになるのね。いや、劇場公開時もビスタだったはずだけど。映像はかなり綺麗だった。
午前中に「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」の特典小冊子「中村豊の白黒エフェクトの描き方」の校正紙を受け取って、午後はBONESへ。中村さんに校正紙を見てもらう。事務所に戻って「佐藤順一の昔から今まで」の原稿を進める。少し休んでから新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 133 2021年の傑作!! ポンポさん・肉子ちゃん・ハサウェイ」を開催。トークでは平尾隆之さんが積極的に語ってくださった。

第749回 つまらない答え

 この間、大好きなYouTubeを観ていたら、

貴方にとって“アニメ”とは何ですか?

的なCMが流れていました。もちろん、これは一視聴者に向けて発された言葉だと思われるので、我々アニメ業界人が考えることではないのでしょうが、敢えてふと考えてみたのです——自分にとってアニメとは? と。そしたら、ふたつ答えが出ました。
 ひとつは一視聴者としての自分にとって、アニメとはハッキリ“出﨑統”です! 人生の全てを“出﨑アニメ”から学んだと言っても過言ではない板垣にとって、当たり前な答えです。少なくとも自分は、出﨑アニメ以外不要論!
 もうひとつの答え、業界人である自分にとって、やはり

アニメとは“仕事”!

です。まあ、世間的に好きなことを生業にしている者が軽々しく“仕事”とか言うと、これまた打算的で良いイメージでは受け入れられないのは分かっているのですが、板垣個人としては“仕事”って決して打算でも悪いイメージでもありません。単純に言って生活費を稼いで人生を成立させる手段が“仕事”なはずです。自分の場合、たまたま運よくそれがアニメだったと。「食う為にやってる~」? 全然結構な話じゃない! むしろアニメを“皆に褒め称えられるための手段”とか“アニメ著名人として富と名声を得て芸能人同様の扱いをされたい”か、ましてや“~賞を取るため”などと捉えてる方がよっぽど歪だと思います。そもそも、

別に誰に褒められなくても、日々の生活を送ること自体が、皆に平等に許された人生!

が人間の基本でしょう。そういったメッセージを教えてくれるのもまた“出﨑アニメ”で、人生を半分以上消化したこの歳になるとさらに実感できてきます。
 仕事としてもアニメ程面白いものはなく、

二次元の中にペン一本で空間とキャラクターを作り出し、さらにそれを動かす!

という快感は何者にも勝る魅力に満ちていますし、これからも続けたいと思う仕事! たぶん、どこからも仕事がこなくなっても、一人で作画ツールを使ってアニメ作ってると思います。だから板垣に取っては、

面白くて楽しくて絶対に辞めたくない仕事——それがアニメです!

と今のところ、断言!

 後、近況報告として、今ミルパンセ制作中の作品(シリーズ構成・総監督)に関してはまだ発表できないのです、スミマセン。が、去年夏頃~今年初めに掛けて、作画の指導やら原画作業したもの、そして演出処理のお手伝いをした下請け仕事の方は近々放映されると思うので、よかったら観てください(そちらもまだタイトルは言えませんが)。そもそもノンクレジットのもあるか?

第187回アニメスタイルイベント
この人にもっと話を聞きたい 長濵博史

 4月2日(土)のトークイベントは「第187回アニメスタイルイベント この人にもっと話を聞きたい 長濵博史」です。監督として『蟲師』『惡の華』などで非常に意欲的な仕事を残し、現在は『UZUMAKI』を手がけている長濵博史さん。このイベントでは、インタビュー形式で学生時代の話から現在までをうかがいます。

 なお、このイベントは連続企画になる予定です。今回はうかがえるところまでうかがって、続きは続編イベントとして開催することになるはずです。今回も配信は先行してLOFT PROJECTがツイキャスで行い、その後でアニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。  

 チケットは現在発売中。詳しくはLOFT/PLUS ONEのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT CHANNEL
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/210120

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第187回アニメスタイルイベント
この人にもっと話を聞きたい 長濵博史

開催日

2022年4月2日(土)
開演12時 終演14~15時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

長濵博史、小黒祐一郎

チケット(ツイキャス)

視聴チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第748回 コンテ描く時間を!

 ——いきなりですが、また短い原稿になりそうです!

撒いていたコンテマンからギブ・アップが出て、急遽自分の方でやる事になりました故!

 結構UP予定日をぶっちぎってのギブ・アップで(汗)。スケジュールを立て直すには、チェックする者が直に描いた方が早い——ま、シリーズをやるとままあること。でも今回の自分は“総監督”なので、こういう事故もカバーし易く、打ち合わせなどは現場の監督に任せて、こちらは「ま、久々にコンテ切る(描く)のも楽しいか~」と。こういう時、ギブ・アップした本人や制作会社を責めてもなんにも前進しません。自分の場合、コンテラフを淡々と上げ「次はこんなことない人に振ろう」と決意を新たにするのみ。

よって、ゴメンナサイ! コンテ作業に戻ります、また来週!

第227回 ミラクルはお好き? 〜ミラクル☆ガールズ〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第29弾「ミラクルガール オリジナル・サウンドトラック」を3月30日に発売します。1980年に放映されたTVドラマ「ミラクルガール」の初のサウンドトラック・アルバムです。「ミラクルガール」は由美かおるが主演した女性探偵アクションドラマで、音楽は渡辺岳夫が担当。おしゃれで軽快なサウンドは、渡辺岳夫が手がけた『キューティーハニー』の音楽に通じるところがあります。ただいま予約受付中!
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VKLP45H/
試聴用動画も公開中です。


 もちろん、「ミラクルガール」と『ミラクル☆ガールズ』のあいだにはなんの関係もない。
 とおことわりした上で、今回はTVアニメ『ミラクル☆ガールズ』の音楽を聴いてみたい。ネットで「ミラクルガール」を検索すると、高確率で永井真理子の歌う曲「ミラクル・ガール」とマンガ・アニメの『ミラクル☆ガールズ』がヒットする……というご縁である。
 『ミラクル☆ガールズ』は1993年1月から12月まで放送されたTVアニメ。「なかよし」(講談社)に連載された秋元奈美の同名マンガをアニメ化した作品だ。
 松永ともみと松永みかげは、性格も趣味も正反対の双子の姉妹。ふたりには秘密があった。姉妹が心を合わせるとテレパシーやテレポーテーションなどの超能力を使うことができるのだ。ふしぎなふたりの学校生活や恋や冒険を描くファンタジック・ストーリー。
 「なかよし」誌上では「美少女戦士セーラームーン」と並ぶ2大連載だったという人気作品。その「セーラームーン」は1992年にアニメ化されている。
 アニメ版『ミラクル☆ガールズ』は、『セーラームーン』との差別化を考えてか、異なるテイストをねらって作られたようである。
 原作は中学生編からスタートするのに、アニメはいきなり高校生編から始まる。当初の監督は『魔法のスター マジカルエミ』などを手がけた安濃高志(第1話〜第17話まで担当)。『マジカルエミ』でも印象的だった、セリフに頼らず、細かい芝居や風景描写を重ねて心情を表現する演出が本作でも見られる。『セーラームーン』より対象年齢高めの「お姉さん向け」に作られている印象なのだ。

 そんな作品だから、音楽もちょっと大人っぽい。
 音楽を担当したのは大島ミチル。本作は大島ミチルが手がけたアニメ作品の中でも初期のもののひとつである。
 大島ミチルといえば、オーケストラを使った華やかでスケール感豊かな音楽がイメージされる。が、本作の音楽は、シンセサイザーと少数の生楽器によるミニマムな編成での演奏。弦楽器がバイオリン1本しか使われていないのだから徹底している。
 そのぶん、ミュージシャンは豪華だ。ピアノとシンセサイザーは大島ミチル自身。バイオリン・篠崎正嗣、パンフルート・旭孝、ギター・土方隆行、ベース・高水健司と、日本の映像音楽やポップスを支えてきたミュージシャンが集められている。
 コーラスとコーラスアレンジに黒石ひとみが参加していることにも注目したい。黒石ひとみは、のちにTVアニメ『プラネテス』(2003)、『LAST EXILE』(2003)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006)などの音楽(楽曲提供や劇伴作曲)で活躍するアーティスト。『ミラクル☆ガールズ』はその10年前の作品になる。
 音楽の内容もユニークだ。リズムは控えめで、しっとりしたメロディを聴かせる曲やサウンド重視の曲が多い。ピアノの音、シンセサイザーのふわっとした音やキラキラした音、民族楽器の音などが耳に残る。ヒーリングミュージックや環境音楽系のサウンドで編まれた音楽なのである。のちに大島ミチルが手がけた魔法少女アニメ『魔法のステージ ファンシーララ』(1998)、『リトルウィッチアカデミア』(2013)などと比べても、だいぶイメージが異なる。
 クラシック系でも、ジャズでも、ロックでもない。そのサウンドをひと言で表現するなら、「ニューエイジ・ミュージック」と呼ぶのがぴったりくる。
 ニューエイジ・ミュージックに明解な音楽的定義はないが、ウィンダム・ヒル・レコードのピアノ音楽や喜多郎などのシンセサイザー音楽が、この時期そう呼ばれていた。ヒーリング音楽や環境音楽に近いが、もっとポップス寄りの作家性の強い音楽である。
 そこで思い出すのが、大島ミチルが1993年に発表した「ワーズワースの庭で」(1994年から「ワーズワースの冒険」に改題)のテーマ音楽「シャ・リオン」。これもニューエイジ・ミュージック的な曲だった。また、1990年に篠崎正嗣とのユニット「式部」で手がけたNHKスペシャル「大英博物館」の音楽もエスニカルなニューエイジ・ミュージックの趣がある。
 『ミラクル☆ガールズ』もその系譜につらなる作品なのである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで1993年3月にソニー・ミュージックレコーズから発売された。初回盤はデジパック仕様。1993年8月には2枚目のサントラと呼べるアルバム「ミラクル☆ガールズ リミックス」が発売されている。
 「オリジナル・サウンドトラック」を聴いてみよう。収録内容は以下のとおり。

  1. キッスの途中で涙が(歌:GARDEN)
  2. ミラクル・ブレス -Wake Up-
  3. ミステリー —神秘の国—
  4. 伝説の花
  5. クリスタル・ウェイヴ〜サスペンス
  6. Premonition(予感)
  7. グッド・モーニング!! ガールズ
  8. ハーフ・ムーン
  9. ミラクル・ブレス
  10. メモリー -Good Night-
  11. ふたりじゃなきゃだめなの(歌:Dio)

 1曲目と12曲目がオープニング主題歌とエンディング主題歌。それぞれフルサイズで収録されている。残る10曲がBGMである。
 アニメサントラとしては異色のアルバムだ。本編でたびたび使われているコミカルな曲や明るい日常曲はほとんど収録されず、神秘的な曲やエスニカルな曲が主に選ばれている。また、曲の頭にSEがミックスされていたり、2つの曲がクロスフェードする形で1トラックに編集されていたりする。アニメで流れていた音楽を楽しむというより、独立した音楽作品として聴くことを意識したアルバムになっている。
 これは、いわば『ミラクル☆ガールズ』の「ミラクル」に着目して構成されたニューエイジ・ミュージック・アルバムなのである。
 2曲目の「ミラクル・ブレス -Wake Up-」は時計と目覚ましのベルの音から始まる曲。超能力発動場面に流れるSE的なサウンドに続いて、バイオリンとシンセサイザーによる、ゆったりとした神秘的な音楽が聴こえてくる。曲名の「ミラクル・ブレス」とは、ともみとみかげが左手首に付けているブレスレットのこと。ふたりが超能力を使うとブレスレットの花の飾りが光る設定だ。10曲目の「ミラクル・ブレス」はこの曲の別アレンジ。超能力発動シーンや、第10話の雪の大樹が現れるシーン、第17話の過去の幼い自分と出逢うみかげなど、幻想的な場面に使われていた。
 トラック3の「ミステリー —神秘の国—」はざわめく人の声から始まる。雑踏の中のイメージなのだろう。バグパイプ風の笛の音がエキゾティックな旋律を奏で、異国を旅している気分になる。曲の終盤は、ダルシマーかツインバロム風の弦の音が東欧風のメロディを演奏するパート。この部分は第1話の冒頭など、ミステリアスな場面にたびたび使われている。
 トラック4「伝説の花」はパンフルートが哀愁を帯びたメロディを奏でるフォークロア風の曲。バイオリンとギター、ベース、シンセなどの音が重なり、ファンタジックな曲に仕上げられている。第1話では、あこがれの倉茂先輩の海外留学を知ったみかげの心情を表現する曲として選曲されていた。
 トラック5「夢」はたゆたうようなバイオリンのメロディにパーカッションやベースがからむドリーミィな曲。第11話の太古の恋人たちの別れの場面や第18話のともみとみかげがユニコーンに乗って夜空を飛ぶ場面など、本作の中でもとりわけファンタジー色の強い場面に流れていた。
 テクノっぽいシンセサウンドから始まるトラック6「クリスタル・ウェイヴ〜サスペンス」はサスペンスシーンによく流れた曲。後半のシンセがリズムを刻むパートは追っかけ場面の定番曲である。
 トラック8「グッド・モーニング!! ガールズ」は本アルバムの中でもサントラらしい1曲。鍵盤ハーモニカのソロに続いて、軽快なリズムと女声コーラスによる伴奏が始まり、鍵盤ハーモニカが軽やかなメロディを演奏する。さわやかな朝の情景を思わせる曲である(この曲はあまりニューエイジっぽくない)。ともみとみかげの明るい日常のシーンによく使われていた。
 トラック9「ハーフ・ムーン」は、大島ミチル自身の演奏によるピアノソロの曲。本編ではピアノソロの曲がたびたび使われており、明るい曲、悲しい曲、主題歌アレンジなど、さまざまな曲想のものが確認できる。このトラックは、その中から代表して1曲という感じなのだろう。月を見上げてもの思う少女の姿が目に浮かぶような、幻想的でロマンティックな曲である。第15話の桜の花びらが舞う中にたたずむみかげ(の分身)の場面などに使用された。
 ねじを巻く音から始まるトラック11「メモリー -Good Night-」は、オルゴールの音色で奏でられるリリカルなワルツ。タイトルどおりのノスタルジックな曲である。同じメロディをシンセで演奏した曲もよく使われていた。
 曲名を見ればわかるように、本アルバムは「Wake Up」で始まり、「Good Night」で終わる構成になっている。ふしぎな姉妹のミラクルな日常をニューエイジ風サウンドで綴った1枚——そんなコンセプトで作られたアルバムなのだろう。
 本アルバムのサウンドプロデュース&ミックスとしてクレジットされているのが、シンセサイザープログラミングも担当した伊藤圭一。実は伊藤圭一は「大英博物館」のサウンドプロデュースも手がけており、大島ミチルが本作のあとに手がけた劇場アニメ『はじまりの冒険者たち レジェンド・オブ・クリスタニア』(1995)やTVアニメ『鋼の錬金術師』(2003)、黒石ひとみが手がけた『コードギアス 反逆のルルーシュ』などの音楽作りにも参加している。『ミラクル☆ガールズ』の独特なサウンドとアルバムを作り上げたキーパーソンは伊藤圭一ではないか、と筆者は推測している。

 2枚目のアルバム「ミラクル☆ガールズ リミックス」もまた、伊藤圭一のサウンドプロデュース&ミックスによる作品。ブレイクビーツに乗せてBGMをメドレーで聴かせる、DJ向けを意識したようなアルバムだ。これまたアニメサントラのイメージを打ち破るコンセプトに驚かされる。サントラファンとしては、ふつうに聴かせてほしいと思うけれど……。
 ただ、このアルバムの3曲目に収録された「Miracle Girls Medley」は、BGMを余計なミックスなしにメドレーで聴かせるトラック。後期のアバンタイトル音楽やサブタイトル曲、アイキャッチ曲、みかげのテーマ、ともみのテーマなど、劇中でなじみのある曲を聴くことができる。本作の音楽アルバムの中で、もっともサントラらしいトラックと言えるだろう。これを聴くと、「あれ、意外とファンキーな曲や軽快な曲も多いな」と思ってしまう。
 そう考えると、「ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック」はプロデュースの力を強く感じるアルバムだ。ニューエイジ・ミュージックとして聴ける魅力的なアルバムであるが、それを成立させたのは、音楽自体もさることながら、ミックスとプロデュースの力によるところが大きい。ふつうにサウンドトラックとして作っていたら、まったく印象の異なるアルバムになっただろう。「ミラクルな仕事だなあ」と思わせる1枚である。

ミラクル☆ガールズ オリジナル・サウンドトラック
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ミラクル☆ガールズ オリジナル・リミックス
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第747回 観なくてもよくないですか?

年々、無欲の度が増している気がします!

 それは良いことなのか? 悪いことなのか? こないだカミングアウトしたとおり、アニメ業界人としての必須科目的アニメも、バシバシ観逃している板垣です。別にどんな職種でもよく言われる、“「好き」を仕事にすると「嫌い」になる”的な贅沢な不幸話ではありません。それで言うなら俺、マンガ読むのも、アニメ観るのも、ゲームやるのも、好きで好きでのめり込んだことなんてほぼありませんから。むしろ多分、

それらを観た人・やった人の話を聞く方が好きなんです!

 エンタメ自体を己で楽しむことに意味を感じていなくて、“そのエンタメを味わった人が何を感じたのか?”にこそ興味があるのです。だから俺の場合アニメの“感想”は言っても、“批評”らしいことは自分発で言うことが殆ど皆無なんです。Twitterも自分ではやらないけど、他人の発信を見るのは嫌いじゃないんです。「あ、世の中こんなこと考える人が増えたんだ~」と。
 今頃気付くことじゃないかも知れないけれど、恐らく「客観視点」で生きてきたし、これからもそう生きたいと思ってるんでしょう。でも、何かを作る時だけ「主観人間」になりたい、と。

 で、この前の日曜日——

ホント、久っ々に(コ●ナ禍以降初めて?)、BOOKOFFにて中古Blu-rayを買い漁りました!

 自分、やっぱり映画・アニメはレンタルとか配信とかより、ソフトとして実物が欲しい人間なので、BOOKOFFで「今晩何買って観ようかな~」と店内散策するのが至福の時なんです! まず手に取ったのは「八甲田山」(1977年)。木村大作撮影監督の監修による4Kリマスター版(前に買ったDVD版は画質が酷かったので今回Blu-rayで買い直し)。脚本/プロデューサー・橋本忍、森谷司郎監督作品。森谷監督と言えば、黒澤明監督ファンの皆さんならご存知、「用心棒」「椿三十郎」「天国と地獄」などの黒澤映画の黄金期を支えた名助監督! 監督作品としては、本作同様に大ヒットした「日本沈没」(1973年)ももちろん有名ですが、個人的には「小説吉田学校」(1983年、残念ながら遺作)が好き! で、「八甲田山」は自分が3歳の時の映画。当然、TV放送などで知ってた程度。我々世代にとって本作以外にも「二百三高地」(1980年)や「連合艦隊」(1981年)といった全尺2.5~3時間に及ぶ超大作は“TVで好きなレギュラー番組を平気で3~4時間ぶち抜いて放映する”という、子供からするととてもはた迷惑な映画群の一本。高校生くらいから映画自体に興味を持つようになって初めて認めるタイプの作品です。昭和だったら「観てたら先生に褒められる賢い子」で「これを観ずにアニメばっか観てると馬鹿な子」と区分けする物差し的役割を担っていた、いわゆる「高尚映画」。でも、昭和の子供にとっての「我慢が伴い、本音を言うと“退屈”な2時間越え映画」も、成人迎えた頃になると「うん、中々いいじゃない!」と思える不思議。公開当時のリアルタイムに劇場で観たら、一種アトラクション感覚だったのではないでしょうか?

密閉された暗闇で共に大画面を見上げる何百人の観客と共に、猛吹雪で遭難する雪中行軍を“疑似体験”するヴァーチャル感を味わうことができる豪華な映画だったはずです!

 次はアニメ。『八百八町表裏 化粧師』(1990年)Blu-ray。石ノ森章太郎原作による、江戸後期を舞台にした“ビジネス漫画”。化粧師と名乗る主人公が、「江戸の町を化粧する!」と人々のメイクはもちろん、町ぐるみイベントをプロデュースしたりと、とにかくアイデアマン。TBS「ギミア・ぶれいく」内、あの『藤子不二雄(A)の 笑うせぇるすまん』の充電期間に挟まれたアニメで、まだ名古屋にいた頃、リアルタイムで毎週ビデオ録画していたものの、当然当時のVHSとか残っておらず、これも買い直し(?)気味。いや、でもこれ──

改めて観直して本当に良かった(現在2周目視聴中)!
本当に素晴らしい!

 総監督・福冨博、作画監督・木上益治のあにまる屋(現・エクラアニマル)コンビ。『怪物くん』(1980年)や『キャッツ♡アイ』(1983年)などでご活躍されてた方々。自分的に面識はないのですが、新人だった頃、先輩方から名前を聞いて知っていました。会社は別でも、巧い人は巧い人とどこかで繋がってるのがアニメ業界の狭いところ。福冨監督はTVスペシャル版『プロゴルファー猿』(1982年)の監督や『ハイスクール!奇面組』(1985年)『ついでにとんちんかん』(1987年)のオープニング・エンディングが最高だと思ってます。特に『奇面組』『とんちんかん』のOP・EDは洒落てて好き。“背景動画(背景を作画で描いて動かす)”が印象的な監督で、『化粧師』でもそれは発揮されてます。監督御自身によるコンテ本数は多くはないですが、どれも背景動画が効果的な箇所で使われて「ニヤリ」とさせられます。木上益治作画監督は後に京都アニメーションの取締役で御活躍される方。『化粧師』も作画がとにかくハイクオリティ! 芝居の一挙手一投足がちゃんと作監修正で押さえられてるのが分かります。しかも最終話(第22話)ではコンテ・演出までなさってます。これまた素晴らしい出来で、今ではダサいと言ってやらなくなった“80~90年的イメージ画面”も木上さんがやるとダサいどころか、一回りして美しく見せるセンスの良さ。シャープでカッコいいアクションシーンも、手足のフォルムから全体のポーズまで本当に洗練されてて、現在でも十分通用する“粋”な作画! こんなに凄い最終回がデータを観ると、“未放映”とのこと(第17~22[終]話が未放映話数)。勿体ない!! 何やってるんですかTB●さん!?

江戸時代をリアルに描く! ではなく、TVの製作内で“感じさせる”演出・作画が素晴らしい!

 そして最後は言わずと知れた『チャージマン研!』(1974年)のBlu-ray! マニアの間では『チャー研』の愛称で親しまれている名作で、だーいぶ前、今石洋之監督がDVD-BOX買ってたのを羨ましく思い出し、BOOKOFFで発見! しかもBlu-ray! 今さら即買い! 内容は一体何が“チャージマン”なのかも視聴者に知らせもせず突き進む怪しさ! しかもSE(効果音)もほとんどない! 変な尺埋め追っ駆けっこ!

おかしなことが、とにかくいっぱい!