読者のこいのぼりさんから、045「【質問に答えます】絵コンテの読み方について」の感想をいただきました。メールから抜粋すると「日ごろから漠然と感じている作品のメイキングへの興味を掘り下げるための指針を、わかりやすく示していただいているようで感銘を受けました」とのこと。ありがとうございます。書いたかいがありました。とはいえ、こいのぼりさんは、まだ絵コンテ本を購入したことがないのだそうです。絵コンテ本との素敵な出会いがあるとよいですね。
さて、ここからが今日の本題だ。先月放映された『少年ハリウッド』10話「ときめきミュージックルーム」について記しておきたい。
前にこのコラムで『少年ハリウッド』の7話「人生に人生はかけられない」を取り上げた。7話も大変に意欲的なつくりで感心したのだけれど、10話にも驚かされた。この回のコンセプトは「歌番組をアニメで再現する」だったのだろう。少年ハリウッドのメンバーが「ときめきミュージックルーム」という歌番組に出演する。彼らがTVで歌うのはこれが初めてだ。
10話は30分かけて、歌番組をひとつを丸ごと全部描写した。「ときめきミュージックルーム」の番組冒頭でAパートがはじまり、「ときめきミュージックルーム」のエンディングでBパートが終わる。番組開始前や終了後の出演者同士のやりとり、幕間の描写も一切ない。少年ハリウッドのメンバーのモノローグもない。カット割りもカメラアングルも、歌番組風だ。つまり「架空の歌番組をリアルに描写する」以外のことは一切やっていない。番組中にアクシデントも起きない。だから、いわゆる起承転結もない。
5組のミュージシャンが登場した。ミス・モノクローム、少年ハリウッド、女性アイドルの高杉ちえり、演歌歌手の柿田川大介、男性歌手の大崎香だ。それぞれが番組中で1曲ずつ歌う。少年ハリウッドはAパートで歌ってしまったので、Bパートの出番はほぼない。セリフも他の歌手の歌の合閒に「カラオケには行くのか」と訊かれたときの回答と、番組最後の挨拶だけだ。
「Aパートで主人公たちを歌わせてしまって、Bパートはどうするの?」と心配しながら観ていたのだが、まさか少年ハリウッドが本当に何もしないとは! 作り手はコンセプチュアルなつくりを貫いたのだ。「TVの歌番組」という切り口で、時間と空間を鮮やかに切り取ることがスタッフたちの目的だろうか。思いつくのは簡単かもしれないが、それをやりきるのは決して簡単なことではない。繰り返しになるが、実に意欲的だ。
もうひとつ驚かされたのが、歌唱シーンの描写にとんでもなく力が入っていたことだ。CGキャラクターであり、中継での出演という設定だったミス・モノクロームは別扱いとして、他の4グループの歌唱シーンは、リアルかつ丁寧に作画されている。よく動いているし、口パクも動作も曲に合っている。カット割りなども制作的に楽ができるかたちに逃げていない。むしろ、手間のかかるカメラワークに挑戦している。ロトスコープか、それに近いテクニックで作られていると思われるが、そうだったとしても、あれだけの物量を動かしているのだ。とんでもない手間がかかっているはずだ。
この話の歌唱シーンは、そのひとつがTVアニメの劇中にあるだけでも、10年前なら大変な話題になっていたはずだ。いや、10年前でなく、現在でも驚異的と評して大袈裟でないくらいの仕上がりだ。深夜アニメのハイクオリティ合戦の中で埋もれさせてしまうのは、あまりにも惜しい。
『少年ハリウッド』は7話、10話以外にも意欲的なエピソードがあった。来年1月から始まる第2期が今から楽しみだ。
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