ドラマ「アオイホノオ」が最終回を迎えた。僕は、マンガの実写ドラマ化にはあまり期待しないことにしている。今までの人生でがっかりすることがあまりに多かったからだ。
「アオイホノオ」は1980年代初頭を舞台にし、マンガやアニメを志す若者たちを描いた青春群像劇である。主人公の焔モユル(ホノオモユル)は、作者である島本和彦自身の若き日をモデルにしたキャラクターだ。他にも後年、ガイナックスの主要メンバーとなる庵野秀明、赤井孝美、山賀博之といった実在の人物をモデルにしたキャラクターが入れ乱れる。さらに当時のマンガ、アニメが大量に引用されている。そして、マンガ家志望の学生であるホノオは、プロの作家であるあだち充や高橋留美子の仕事について、実に失礼なことを言う。
ただでさえマンガのドラマ化は難しいのに、「アオイホノオ」はドラマ化への障害が山盛りだ。成功するとは思えなかった。表面的なところをなぞって終わりだろう。一つ間違えれば、学芸会みたいな番組になってしまうだろう。そう思っていた。
ところがフタをあけてみると、とんでもない仕上がりだった。原作へのリスペクトが濃かった。細部にまでこだわり、丁寧につくられていた。ここまでやるのか、と驚かされた。実在の人物をモデルにしたキャラクターが、ドラマにも登場(さらにその中の数人は、本人が別役で出演した)。あだち充作品などについてのホノオの発言も活かされている。
既存作品の引用にも異様なくらいに熱心だった。マンガのセリフが引用されるときには、一部の例外を除き、アニメ版の声優を起用するという念の入りよう。わずかなセリフのために、ハーロック役の井上真樹夫を呼び、矢吹丈役のあおい輝彦を呼んでいる。
映像の引用もあった。TVアニメだけではない。『DAICON III OPENING ANIMATION』をはじめとするアマチュアのアニメ、特撮作品の映像を劇中に挿入していた。オリジナルの映像を使ったものもあれば、元の映像を再現したものもあったようだ。引用ではないが、オープニングの映像ではアニメのデフォルメアクションを、ドラマの俳優たちが再現している。元になっている映像の大半が、金田系作画であり、カットのセレクトも含めて見事な仕上がりだった。
役者もよかった。その芝居がよかった。引用よりもこちらが重要だ。原作のホノオは、島本マンガの主人公らしい熱い男である。熱すぎるくらいに熱いのである。つまり、マンガ的なデフォルメの強いキャラクターであるのだが、ドラマでもそれを見事に再現。ホノオ役の柳楽優弥は、文字どおりの熱演だった。しかも、やりすぎていない。「こんなやつはいないよ」と視聴者が思う寸前のところで踏みとどまっているのだ。そこについては、演出の手柄であるはずだが、絶妙のバランスだった。
感心したのが、ヒロインの森永とんこ、津田ヒロミの2人だった。とんこは原作のキャラクターを再現しつつ、実写ドラマならではの存在感を獲得していた。津田は原作ではアクティブなスポーツウーマンだったが、ドラマではキャラクターが少し変わっており、明るさと可愛らしさを強調。1980年代アイドル的なキラキラ感が素敵だった。
原作がそうであるように、ドラマ版も、1980年頃のマンガファン、アニメファンの「記憶」や「気分」を伝える作品になっているはずだ。若いファンがどう受け止めたか分からないが、懐古的なだけの作品でなく、前向きな青春ドラマとしてまとまっている点に好感がもてた。
それにしても、自分が知っている時代が、一種の時代劇として再現されるのは不思議な感覚だった。
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