腹巻猫です。2月16日スタート「烈車戦隊 トッキュウジャー」の音楽はシリーズ初登板となる羽岡佳さん。前作「獣電戦隊 キョウリュウジャー」では挿入歌の作曲を手がけていました。1977年生まれという期待の若手作曲家です。どんな音楽を聴かせてくれるか、胸が踊ります。
2月9日で終了した「獣電戦隊 キョウリュウジャー」の音楽を担当していたのは佐橋俊彦。1年間お疲れさまの気持ちをこめて、氏のサントラから1枚紹介しようと思う。
サントラ界では20年以上のキャリアを持つ佐橋俊彦。劇場作品・ドラマ・アニメなど、ジャンル、メディアを問わず活躍し、アニメ作品だけでも『赤ずきんチャチャ』(1994)、『キューティーハニーF』(1997)、『THE ビッグオー』(1999)、『フルメタル・パニック!』(2002)、『機動戦士 ガンダムSEED』(2002)、『家庭教師ヒットマン REBORN!』(2006)、『聖闘士星矢Ω』(2013)など代表作・注目作に事欠かない。
どれを取り上げるが迷うところだが……あまり迷うことなく決めた。
1993年に放映されたTVアニメ『GS(ゴーストスイーパー)美神』だ。
『GS美神』は椎名高志の原作マンガを東映動画(現・東映アニメーション)制作で映像化したアニメ作品。ゴーストスイーパーとは妖怪・悪霊を退治する専門家のこと(ゴーストバスターズですな)。美人でセレブでわがままでスゴ腕のゴーストスイーパー・美神令子を主人公にしたコメディタッチのオカルトファンタジーである。
音楽を担当した佐橋俊彦は、1991年に放映された『ゲンジ通信 あげだま』が本格的なアニメ音楽の初仕事だったという。1993年の『GS美神』は氏の映像音楽のキャリアの中でも比較的初期の作品になる。
けれど、本作の音楽は「初期作品」からイメージされる初々しさとは無縁の完成度をほこっている。それどころか、アニメサントラ殿堂入り決定の名盤だ。
佐橋俊彦は1959年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科卒。藝大出身というと「現代音楽を学んで……」と続けたくなるが、佐橋は在学中も十二音技法や無調音階を使った現代音楽っぽい作品は書かなかったという。同時期に藝大で学んでいた宮川彬良(宮川泰の長男で作曲家。『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽担当)の紹介で東京ディズニーランドのショーの音楽を書き始めたのが、プロ作曲家デビューだった。
その後、佐橋は劇団四季のミュージカルの音楽も手がけるようになる。時代は80年代。音楽予算は潤沢で、佐橋は大規模オーケストラのための譜面を来る日も来る日も書き続けた。
そんな経験を経て手がけたアニメ音楽だから、初期から完成度が高いのも無理ないのである。
『GS美神』のサウンドトラックは1993年7月21日にキングレコードから発売された。タイトルは『GS美神 極楽音楽大作戦!!』。収録曲は下記のとおり。
- GHOST SWEEPER(Vocal)
- It’s ゴージャス Life!
- GS美神 只今参上!!
- 夜に乾杯
- ダンスのD(Vocal)
- 恋はおあずけ
- 幸せにまわり道
- Dangerous Game
- クールなハートに…
- Try my heaven(Vocal)
- 月下の群れ
- 底なしの現実
- ハイヒールでKiss
- とっておきの明日
- BELIEVE ME(Vocal)
アルバムの構成は、BGMの間に挿入歌を数曲はさみこむ、この時期のアニメサントラによくある形式。1枚で2度おいしいし、聴いていて飽きない。アニメソング・ファンにもサントラを聴いてもらうきっかけにもなる。最近ではあまり見かけなくなった構成だが、このスタイルのサントラはもう一度復活してほしいと思う。
アルバム・タイトルの「極楽音楽大作戦」は原作マンガのタイトル『GS美神 極楽大作戦!!』を引用したものだが、本作の音楽のイメージをみごとに伝えている。
ゴージャスな音楽なのである。華麗とか豪華というよりもゴージャス。聴いているとぜいたくな気分になってくる音楽だ。
ブラスセクションを存分に鳴らすビッグバンド・オーケストラのスタイル。佐橋がディズニーランドやミュージカルの音楽で経験したショー音楽の手法が生かされている。
トラック2「It’s ゴージャス Life!」はブラスのファンファーレでスタート。ピアノが奏でる小粋なメロディが雰囲気を盛り上げ、トランペット、トロンボーン、サキソフォンが華やかにテーマを引き継いでいく。「さあ、幕が上がるぞ!」というイメージのアルバムの導入にぴったりの曲だ
トラック3「GS美神 只今参上!!」はサキソフォンとブラスによるオープニング主題歌「GHOST SWEEPER」のアレンジから始まる。続いて、サックスとストリングス・セクションがロマンティックに艶やかに演奏する美神のテーマ。途中で曲調が変わりピアノと木管がちょっとリリカルなフレーズを聴かせるブレイク部分もいい。
トラック4「夜に乾杯」はピアノ・ソロによる都会的なナンバー。「『GS美神』ってこれほどおしゃれな番組じゃないんだけど(苦笑)」と思ういっぽう、リッチな音楽が作品の世界観を裏で支えているんだなあと感じる。笑ってしまうくらい思い切りゴージャスに、思い切り派手に。それが『GS美神』の音楽だし、それで正解なのだ。
佐橋俊彦らしい曲といえば、トラック8の「Dangerous Game」。重厚なリズムをバックにブラスとエレキギターがサスペンスを盛り上げる「事件発生!」という感じの曲だ。
「危機迫る!」というイメージのトラック11「月下の群れ」、ゴーストの気配を感じさせる神秘的なトラック12「底なしの現実」を経て、トラック13「ハイヒールでKiss」はエンディング主題歌「BELIEVE ME」のメロディを使ったクールなピアノ曲。大胆に崩したメロディがスリリングでカッコいい。アルバムのクライマックスにこういう曲を配するところが実にいいセンスで心憎い。
トラック14の「とっておきの明日」は穏やかな曲調の平和曲……と思わせて、弦がたっぷりと歌うダイナミックなポップス・オーケストラの曲へと展開し、派手に盛り上がって終わる。最後まで『GS美神』らしい。
サウンドトラック・アルバムというよりも、『GS美神』をテーマにしたイメージアルバム、コンセプトアルバム、と呼びたくなるような充実の1枚である。
注文をつけるなら、内容に比べてジャケットがちょっと地味(サントラ2枚目のジャケはすばらしいんだけど)。そして、これだけの演奏を聴かせてくれたミュージシャンのクレジットがあればよかった。けれど、それは音楽のすばらしさとは関係ない。
幼少時から「サンダーバード」や「ウルトラセブン」のテーマ曲をピアノで弾いて同級生の人気を集めていたという佐橋俊彦。映画音楽の大ファンでもあった。
だから、映像音楽のツボ——「ここでこういう音が鳴ると作品が盛り上がる」「こういうサウンドがドラマの雰囲気を作る」「こういう音楽演出が映像にメリハリを与える」といったノウハウ——を知りつくしている。
佐橋俊彦の映像音楽が心地よいのは、ショー音楽の経験からエンターテインメントとしての音楽づくりを心得ているから、そして、「映像音楽の快感のツボ」をぴたりと突いてくれるからだ。聴いているほうは、そのツボ押しに安心して身をゆだねていればよい。
加えて、『GS美神』は、美貌のセレブ・美神が活躍する作品。音楽もゴージャスになろうというもの。華麗に、美しく、ぜいたくに。耳においしい音楽だ。久しぶりに聴き直してみて、華やかな音の洪水を浴びるよろこびを味わった。
まさに「極楽音楽」。
バブル景気の余韻が残るこの時期の、この作品だからこそ実現した名作である。
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