COLUMN

第118回 輝きを宿す音 〜コメットさん☆〜

 腹巻猫です。11月18日(土)19時より阿佐ヶ谷ロフトで「菅野祐悟トークライブ」を開催します。アニメでは『図書館戦争』『鉄腕バーディー DECODE』『PSYCHO-PASS』『ガンダム Gのレコンギスタ』『ジョジョの奇妙な冒険[2期・3期]』『亜人』『BLAME!』などの音楽を手がける作曲家・菅野祐悟さん。その音楽史や作曲秘話などをうかがう予定です。前売券はe+で発売中!

菅野祐悟トークライブ
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/76470


 今年は「ウルトラセブン」(1967)など、放映50周年を迎えた作品がいくつかある。TVアニメでは『リボンの騎士』『パーマン[白黒版]』『悟空の大冒険』『マッハGoGoGo』など。TV特撮だと「ジャイアントロボ」「仮面の忍者 赤影」「キャプテンウルトラ」などがそうだ。そんな50周年作品のひとつに「コメットさん」がある。
 「コメットさん」は1967年にTBS系で放映された国際放映制作の特撮TVドラマ作品。星から来たコメットさんが地球の家のお手伝いさんになり、魔法のバトンの力で難題を解決しながら子どもたちと交流を深めていく物語だ。実写版魔法少女もの(あるいはその元となった「奥様は魔女」の日本版)というべき作品である。歌手の九重佑三子が主演し、1年半にわたって放映された。放映終了から10年後の1978年には大場久美子の主演でリメイクされ、こちらも1年以上放映されている。現在も根強いファンを持つ作品だ。
 そのコメットさんをアニメ化したのが、2001年に放送されたTVアニメ『Cosmic Baton Girl コメットさん☆』(以下『コメットさん☆』と表記)。今回はこのTVアニメ版を取り上げよう。

 TVアニメ『コメットさん☆』は2001年4月から2002年1月までテレビ大阪/テレビ東京系で全43話が放映された。アニメーション制作は日本アニメーション。アニメーション協力としてシナジージャパンが参加している。のちに『エルフェンリート』(2004)、『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』(2010)、『すべてがFになる』(2015)などを手がける神戸守が監督を務めた。
 トライアングル星雲にあるハモニカ星国(ほしくに)のプリンセス・コメットさんは逃げ出した隣国の王子さまを探すために地球にやってくる。地球で星力(ほしちから)を使い果たしてしまったコメットさんは双子の子ども剛(つよし)と寧々(ねね)に助けられ、その家に居候させてもらうことに。コメットさんは地球の人々が持つ「輝き」に魅せられ、王子さま探しよりも地球で輝きを持つ人を見つけ、応援することによろこびを見出していく。
 実写版ではほとんど描かれなかったコメットさんの故郷の設定を大きくふくらませ、アニメ版独自の世界を作り上げている。大きなトピックスは、コメットさんの母親である王妃役を初代コメットさん=九重佑三子が演じ、第19話から登場するコメットさんの叔母・スピカ役を2代目コメットさん=大場久美子が演じていること。2人は若い頃に一度地球で暮らしたことがあり、星に帰ったあともその思い出をとても大切にしていた。王妃=1作目のコメットさん、スピカ=2作目のコメットさんとも受け取れる設定と配役で、実写版から観ているファンは胸が熱くなる。
 ユーモラスな場面をまじえながら、キャラクターの心情が丁寧に描かれているのが印象的だ。毎回、コメットさんやコメットさんが関わる人々の小さな成長が描かれて爽やかな感動を呼ぶ。「良心的」という言葉がこれほど似合う作品はない。実写版ファンの間ではあまり話題に上らないようだが、旧作の精神を受け継ぎ、新しい解釈のコメットさん像を示して見せたすばらしい作品である。

 音楽は音楽ユニットMOKA☆として活躍する小西香葉、近藤由紀夫の2人が担当している。
 筆者がMOKA☆の名をはじめて意識したのは2008年に放送されたTVアニメ『ポルフィの長い旅』だった。ヨーロッパの旅を描く物語に、エキゾティックな香りを漂わせる、素朴でふしぎな浮遊感のある音楽がよく合っていた。MOKA☆の小西香葉はこの作品で次回予告のナレーションも担当している。
 MOKA☆は異なった音楽背景を持つサウンドクリエイター近藤由紀夫と小西香葉のユニット。作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱等のサウンドプロデュースをこなし、アーティストへの楽曲提供や映像音楽を手がけるほか、オリジナルアルバムも発表している。映像音楽の代表作に、映画「恋文日和」(2004)、TVドラマ「R-17」(2001)、「火消し屋小町」(2004)、「だいすき!! ゆずの子育て日記」(2008)、「チャレンジド」(2009)、「僕とスターの99日」(2011)、TVアニメ『エルフェンリート』(2004)、『しにがみのバラッド。』(2006)、『純情ロマンチカ』(2008)、『さらい屋 五葉』(2010)、『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』(2014)、『pupa』(2014)などがある。
 『コメットさん☆』の音楽は楽器の響きを生かした、やさしく温かい曲が中心。魔法少女アニメっぽい華やかなサウンドやポップなサウンドは控えめだが、心に残るメロディと巧みな音使いが印象的だ。
 サウンドトラック・アルバムは「コメットさん BGM集I」「同II」の2枚がNECインターチャネルから発売された。
 「BGM集I」から紹介しよう。収録内容は以下のとおり。

  1. 星のトレイン
  2. オープニングテーマ〜君にスマイル(TVサイズ)
  3. ヘンシン!
  4. JOY OF LOVE
  5. 終わらない夜
  6. HORIZON
  7. Looking For Your Heart〜君のハートはどこ?〜
  8. マジカルコメット
  9. 輝きをさがして
  10. ワクワク惑星
  11. 涙の雨音
  12. へなちょこラグ
  13. ミステリアス・メテオ
  14. ハロー!ハロー!
  15. Feeling Soul
  16. いつもの笑顔
  17. らぶりーラバボー
  18. はじめての好き
  19. エンディングテーマ〜トゥインクル☆スター(TVサイズ)

 ドラムス、ベース、ギターにストリングスと木管(フルート、クラリネット、サックス)、ハープを加えた小規模な編成。浮遊感のあるシンセサイザーの音が加わって独特のサウンドを生んでいる。
 トラック1「星のトレイン」は第1話でコメットさんが地球へやってくるときに乗った星のトレインのテーマ。ファンタジックなイントロに導かれ、軽快なリズムに乗ってストリングスがメロディを奏でる。爽やかな躍動感にあふれた曲だ。第2話以降も、星のトレインの登場シーンやコメットさんが星のトンネルで空を駆ける場面などによく使われた。そして、最終話(現行版)のエンドクレジットに流れるのもこの曲。コメットさんの輝き探しはまだ終わらない。そんなことを感じさせる旅の始まりの曲である。
 2曲目はオープニング主題歌「君にスマイル」のTVサイズ。放送ではイントロに「コメットさーん」「はーい」という実写版から受け継がれた子どもたちとコメットさんのかけあいの声が入っていたが、CDでは採用されていない。ぜひ入れてほしかったところだ。
 トラック3「ヘンシン!」はタイトル通り、コメットさんがバトンを使ってミニドレス姿に変身する場面に使われた曲。キラキラしたイントロから上昇する音階をくり返すミステリアスでワクワク感のある曲調に展開。コメットさん登場を印象付ける。3曲目に変身BGMを持ってくる思い切った構成が効果的だ。
 次の「JOY OF LOVE」は本作の音楽の中でももっとも重要な、メインテーマとも呼べる曲である。コメットさんが決意を胸に行動を始める場面や星力で輝きを持つ人々を応援する場面によく流れていた。ストリングスとシンセが奏でるシンプルで力強いメロディが心の中にわき上がるよろこびや希望を表現する。バックのエスニカルなリズムに胸が躍る。このリズムの使い方はMOKA☆の特徴のひとつだ。
 このメロディをマーチ調にアレンジした「MARCH OF LOVE」やしっとりとしたスローアレンジ「JOY OF LOVE,again」も劇中の名場面によく使われていた。また、コーラス入りアレンジの「JOY OF LOVE, forever」は最終話でコメットさんが地球に戻る場面に流れて印象深い曲になった(いずれもサントラ2枚目に収録)。
 トラック5「終わらない夜」は第13話でコメットさんが病院で行われる手術に立ち会って青ざめる場面など、少し緊迫した場面に使われたサスペンス曲。アルバムの中ではほんわかした雰囲気を引き締めるスパイスのような曲になっている。
 ピアノとクラリネットが奏でるトラック6「HORIZON」は落ち着いた曲調の情景描写曲。それだけにとどまらない、なかなか味わい深い曲だ。第19話で高原に寝そべってくつろぐコメットさんの前にスピカおばさんが現れる場面、第29話でコメットさんがほら貝を耳に当てて遠く離れた少年ケースケの声を聞く場面など、日常の中で心がふっと波立つようなシーンに流れている。
 トラック7「Looking For Your Heart 〜君のハートはどこ?〜」とトラック15「Feeling Soul」は、シンガーソングライターの少年イマシュンこと今川瞬が劇中で歌っている曲のエレキギターによるメロオケ。歌入りはソングアルバムに収録されている。MOKA☆は「売れなさそうな歌」というオーダーに応えて渋いブルースを書いたそうだ。
 コメットさんが魔法(星力)を使う場面の定番曲「マジカルコメット」に続いて、シンセのふわっとした音色が耳に残る「輝きをさがして」。曲の頭の部分はサブタイトル音楽としても使用されている。細野晴臣が手がけた『銀河鉄道の夜』(1985)というアニメサントラの名盤があるが、この曲はそのサウンドや雰囲気を連想させる。星くずの中を自分だけに見える輝きを探して旅するような、新しい出会いへの期待と少しの不安とさびしさが一緒になったような、ふしぎな気持ちに包まれる曲である。
 バイオリンの優雅なメロディとエスニックなリズムを組み合せた「ワクワク惑星」は高揚する心を表現する曲。楽しい場面に流れる曲だが、コメットさんとケースケの絡みの場面にも使われて、コメットさんのケースケへの気持ちの変化を表現していた。登場人物の心情をすくいとる音楽演出のうまさが光る。
 トラック11「涙の雨音」は悲しみや寂しさを表現する曲。シンセとピアノをメインにした淡々とした曲調で、コメットさんたちの気持ちに寄り添う繊細な曲だ。使用頻度は高く、数々の名場面に流れている。なんといっても記憶に残るのは最終話前の第42話で、カスタネット星国の王女メテオが地球でお世話になった老夫婦とさよならする場面。コメットさんになにかと競争心を燃やすメテオはわがままで高慢に見えるけれど、実はやさしい気持ちを持った少女。そのメテオが地球を去る前に仮の両親にきちんと別れを告げようとする場面は涙なしに観られない。ああ、思い出すと涙が……。
 トラック13「ミステリアス・メテオ」はそのメテオのテーマだが、妖しくミステリアスな曲調を生かして、謎の人影が現れる場面や心が不安でざわざわする場面などによく使用されていた。
 「へなちょこラグ」「ハロー!ハロー!」「らぶりーラバボー」はややエキセントリックなサウンドと強めのリズムを使ったコミカルな曲。劇中ではあまり使われなかったが、アルバムの中では楽しい雰囲気をかもし出してメリハリをつける格好のアクセントになっている。
 トラック16の「いつもの笑顔」はコメットさんと双子の日常シーンによく流れた曲だ。ピアノのリズムにオカリナ風の音色の素朴なメロディが重なる。本作のほんわかした、やさしい空気感をよく表わしている。同じメロディをアレンジした「雲のおさんぽ」という曲(サントラ2枚目に収録)もいい曲で、第9話「雲のゆりかご」でコメットさんと双子が雲のベッドに乗って空の散歩を楽しむシーンに使われていた。
 エンディング主題歌の前に置かれた「はじめての好き」は、「JOY OF LOVE」と並ぶ本作を代表する楽曲のひとつである。
 コメットさんは地球で輝き探しをするうちに、星国の王子さまでなく地球の少年に恋をしてしまう。プリンセスとしての責任と自分の気持ちとの間で揺れるコメットさん。まるで『ローマの休日』のようなロマンティックで切ない心の動きが物語後半の見どころだ。コメットさんだけでなく、コメットさんのお付きの妖精ラバボーにも、メテオにも、恋の季節が訪れる。「はじめての好き」はそんな恋する想いを美しいメロディで表現する曲。胸の奥がキュンとなるようないい曲である。
 2枚目の「BGM集II」についても書いておこう。すでに紹介した「JOY OF LOVE」のバリエーションや「雲のおさんぽ」、メテオのテーマをストリングスが妖しく奏でる「PRINECSS METEO」、コメットさんの新変身テーマ「REBORN」、「はじめての好き」をアレンジした「さいごの好き」など、1枚目に劣らず名曲が詰まった1枚だ。中でも重要なのは「胸に住む人」と題された曲。コメットさんが初めて「好き」と言われてとまどう場面やケースケへの気持ちを意識する場面など、揺れ動く心を表現する曲として全編を通してよく使われた。最終話でコメットさんが地球でお世話になった人たちと別れる場面にも流れている。これも本作を代表する楽曲のひとつである。

 『コメットさん☆』のサントラは1枚目も2枚目も収録時間は40分少々。CDとしては短めだ。もっと曲を入れてほしかったとも思うが、その分、凝縮されたアルバムになっている。1枚目のライナーノーツでMOKA☆の二人が「1曲1曲私たちが感じている輝きをこめて音楽を創らせていただきました」と書いているように、じっくり聴くほどにキラッと輝くものが見つかる音楽である。
 しかし、こんな良質のサウンドトラックが今では入手困難とは。配信でもよいから、いつでも手に入るようにしてほしいったら、してほしいものですよ(とメテオさんの口調で)。

コメットさん☆ BGM集I
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コメットさん☆ BGM集II
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