COLUMN

『タイガーマスク』を語る
第19回 あまりにも違った「原作とアニメの直人の歩んだ道」

 このコラムの第1回でも触れたように『タイガーマスク』は語られる機会が少ない。語られるとしても、いくつかのポイントのみだ。語られるポイントのひとつに最終回がある。そのひとつが「原作の最終回では伊達直人が自動車に撥ねられて死んでしまう」というものである。原作のラストについてはトンデモない結末として扱われ、笑いのネタとして語られることが多いのではないだろうか。
 原作で直人が自動車に撥ねられて命を落とすのは本当である。だが、それはドラマとして意味のある結末なのだ。
 「アニメと原作で最終回があまりに違う」という言い方もされているはずだ。確かに違っている。しかし、ラストだけを取り上げて「違う」と指摘するのはどうなのだろうか。
 マンガ「タイガーマスク」と、アニメ『タイガーマスク』は途中からまるで違った物語を展開し、まるで違ったテーマを読者と視聴者に伝えたのである。物語やテーマが違うのだから、結末が違うのは当たり前のことなのだ。これもこのコラムで、僕が読者の皆さんに伝えたいことだ。
 今回からの数回で、原作とアニメの展開の違い、テーマの違いを取り上げたいと思う。なお、これ以降の原稿で、原作の巻頭に触れる場合、内容や巻数表記について発売中の電子書籍(Kindle)版を基準とすることをお断りしておく。

 『タイガーマスク』という物語において、伊達直人が何を目的としているのかが重要だ。直人の目的とは、ひとつが「虎の穴と戦うこと」であり、もうひとつが「みなしごのために何かをすること」である。まずは後者について触れたい。
 先に結論を書いておくと、原作の直人は物語の半ばから「みなしごランド」を作ることを夢みるようになる。それは、日本中のみなしごのための遊園地であり、同時にみなしごが両親のいる生活を体験することができる巨大な施設である。それをたった一人の力で実現しようするのだ。それに対してアニメの直人は、このコラムの第8回( http://animestyle.jp/2024/05/23/27202/ )等で話題にしたように、自分一人の力で不幸な境遇にいる全ての人達を救うことが不可能であることを悟る。そして、世界中の人達が他人の幸せを考えるようになることを信じて、自分ができることをやっていくことを誓った。
 原作の直人の目標は、客観的に見れば実現不可能な夢物語だ。ではあるが、彼は日本中のみなしごに最大限の幸福を与えることを目標とした。アニメの直人は自分の無力を知り、それでも理想は捨てず、できる範囲で努力を続けようとした。これほどに、原作とアニメの直人は歩んだ道が違うのだ。

 どうして二人の道はこんなにも違ってしまったのだろうか。それについては、次回以降で触れることとしたい。

●第20回 「みなしごランド」と第38話の衝撃 に続く

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