COLUMN

第282回 戦わないプリキュア 〜わんだふる ぷりきゅあ!〜

 腹巻猫です。6月15日に蒲田studio80にてサントラDJイベントSoundtrack Pub【Mission#45】を開催します。特集は5月に発売された『牧場の少女カトリ』音楽集の紹介。ほかに、1枚のサウンドトラック・アルバムを掘り下げるコーナー「1枚のアルバム」、サントラオンリーのDJタイムなどを予定。ご都合よければ、ぜひお越しください! 詳細は下記ページを参照ください。
https://www.soundtrackpub.com/event/2024/06/20240615.html


 5月29日にTVアニメ『わんだふる ぷりきゅあ!』のサウンドトラック・アルバムが発売された。本編では、ようやくプリキュアが4人そろったところ。サウンドトラックを聴きながら、これまでの物語をおさらいするのも楽しいと思う。今回は『わんだふる ぷりきゅあ!』の音楽を紹介しよう。
 『わんだふる ぷりきゅあ!』は2024年2月から放送されているTVアニメ。通称『わんぷり』。プリキュアシリーズ第21弾となる作品である。
 人と動物が仲よく暮らすアニマルタウン。中学生の少女・犬飼いろはと飼い犬のこむぎは、謎の怪物ガルガルと遭遇したことをきっかけに、プリキュアに変身する力を手に入れる。ガルガルの正体は動物の楽園ニコガーデンにいたニコアニマルで、なんらかの原因で怪物化していたのだ。こむぎ(キュアワンダフル)といろは(キュアフレンディ)は、ガルガルとなったニコアニマルたちをプリキュアの力でもとの姿に戻すために、「わんだふるぷりきゅあ」と名乗って活動を始める。
 まず驚くのは、犬がプリキュアになる設定。これまで、妖精や人魚や宇宙人など、架空の生き物がプリキュアになることはあったが、実在する動物がプリキュアになるのは異例。しかも、飼い主のいろはではなく、犬のこむぎのほうが(一応の)主人公なのだ。
 また、本作のプリキュアは、ガルガルとなったニコアニマルを助けるために活動しているので、基本的にガルガルに攻撃を加えない。プリキュアがいかにしてガルガルの動きを止め、興奮を鎮めるかが見せ場になっている。前作の『ひろがるスカイ! プリキュア』がダイナミックな肉弾戦を見せ場にしていたのと対照的だ。
 動物との共生。戦うのではなく助けること。このふたつが本作の重要なポイントになっている。

 音楽は前作から引き続いて、深澤恵梨香が担当。
 上に挙げた本作のポイントは、当然、音楽にも反映されている。
 『ひろがるスカイ! プリキュア』では、「ヒーロー」がテーマに掲げられていたため、勇気や決意をイメージさせる曲や激しいアクションを描写する曲が音楽の中心になっていた。
 『わんだふる ぷりきゅあ!』は動物が題材になっている。そこで音楽にも、動物の声や足音、動作、感触などをイメージした描写的な表現が盛り込まれた。また、戦いを連想させる激しい曲や荒々しい曲が少なくなり、かわいらしさや共感を連想させるやわらかいトーンの曲が多くなった。全体に親しみやすく、やさしい印象の音楽になっている。『ひろプリ』のようなダイナミックなアクション曲を期待するとやや物足りないかもしれないが、じっくり聴ける曲の多い、味わい深い作品である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「わんだふるぷりきゅあ! オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・ワンダフル・サウンド!!」のタイトルで5月29日にマーベラスから発売された。構成は筆者が担当した。
 収録内容は以下のとおり。

  1. みんななかよし!わんだふる!
  2. わんだふるぷりきゅあ!evolution!!(TVサイズ)(歌:吉武千颯)
  3. サブタイトル
  4. 毎日がわんだふる!
  5. かわいい仲間たち
  6. うきうきお散歩
  7. 不安な気配
  8. ガルガルを追いかけて
  9. 私が守る!
  10. ワンダフルパクト!プリキュア!マイエボリューション! – Short version -
  11. わんだふるぷりきゅあ大奮闘!
  12. おうちにおかえり
  13. アニマルタウン
  14. 手がかりをさがせ
  15. ぶっちゃけたい
  16. 言っちゃダメェ〜
  17. わんだふるキャッチ!
  18. ニコガーデン
  19. あなたの声が聞けたら
  20. ひとり抱える想い
  21. 21.ともだちになれるかな
  22. いとしくて
  23. 知れば知るほどわんだふる!
  24. たじたじ
  25. 私、がんばる!
  26. 危険なにおい
  27. 夜にざわめく声
  28. ガルガル出現
  29. ワンダフルパクト!プリキュア!マイエボリューション!
  30. 行くよ!いっしょに助けよう!
  31. 心つなぐ絆
  32. プリキュア!フレンドリベラーレ!
  33. 澄んだ瞳で
  34. ここが大好き!わんだふる!
  35. FUN☆FUN☆わんだふるDAYS!(TVサイズ)(歌:石井あみ&後本萌葉)
  36. 来週もわんだふる!

 第1回録音で収録された本作の音楽(BGM)は約40曲。アルバムには、その中から33曲を収録した。
 1曲目「みんななかよし!わんだふる!」は本作のメインテーマ。動物と人間が仲よく暮らす楽しさやよろこびをイメージした曲である。本編では第1話の冒頭から流れていた。イントロで聞こえる鳥の声や動物の声(を模した音)に耳を傾けてほしい。動物が身近にいる世界が音で描写されているのだ。劇中でこの曲が使用される際は鳥の声などはほとんどカットされているので、アルバムで聴ける完全版は貴重である。
 また、曲の途中から入る女声ボーカル(ボーカリーズ)も聴きどころ。『魔法つかい プリキュア!』『スター☆トゥインクル プリキュア』などの主題歌を歌った北川理恵がボーカルを担当している。深澤恵梨香によれば、「人と動物の両方をあたたかく包み込む音」として人の声を入れようと思ったとのこと。女声ボーカルは共感や愛情の象徴として、変身BGMやサブタイトル曲、アイキャッチ曲などでもフィーチャーされている。
 オープニング主題歌とサブタイトル曲を挟んで、トラック4からはアニマルタウンの日常を描写する音楽を続けて収録した。
 「毎日がわんだふる!」(トラック4)は使用頻度の高い日常曲で、ユーモアをたたえた明るい曲調が本作にぴったり。「かわいい仲間たち」(トラック5)は動物の愛らしさを表現する曲。「うきうきお散歩」(トラック6)は、毎回のエンディング後のミニコーナー「あなたのおうちのわんだふる」のBGMとしても使われている、ビッグバンドジャズ風の楽しい曲だ。
 これらの曲に共通するユーモラスなトーンは、本作独特の味わいにもなっている。コミカルというよりユーモラスなのである。「ぶっちゃけたい」(トラック15)、「言っちゃダメェ〜」(トラック16)、「たじたじ」(トラック24)、「私、がんばる!」(トラック25)なども同様。くすっと笑えるようなシーンに流れて、ほのぼのとした気分にさせてくれる。
 トラック7「不安な気配」からトラック12「おうちにおかえり」までは、ガルガル出現〜プリキュア変身〜事件解決までの流れを定番の曲で再現してみた。
 「不安な気配」はこむぎがガルガルの気配を感じ取る場面などによく流れるサスペンス曲。次の「ガルガルを追いかけて」(トラック8)は、こむぎたちがガルガルを追ったり、逆にガルガルに追われたりするシーンに流れるアクション曲。ほぼ毎回のように使われている。
 トラック9「私が守る!」は、こむぎやいろはが初めてプリキュアに変身するときに使われた曲。大切な存在を守ろうとする強い決意を表わす曲調は、前作『ひろがるスカイ! プリキュア』を思わせる。
 変身BGM「ワンダフルパクト!プリキュア!マイエボリューション!」のショート・バージョンに続いて、プリキュアの活躍を描写する「わんだふるぷりきゅあ大奮闘!」(トラック11)。もともとはフレンドリータクトの使用場面を想定した曲で、頭の部分はプリキュアがフレンドリータクトを振ってキラリンアニマルのパワーを借りる場面の曲、そのあとがプリキュアの活躍シーンに流れるアクション曲という2部構成になっている。アクション曲のパートがバトルのイメージではなく、躍動感や疾走感を重視した曲調になっているのが本作らしい。
 トラック12「おうちにおかえり」は、もとの姿に戻ったキラリンアニマルがプリキュアに導かれてニコガーデンに帰っていく場面に流れる、おなじみの曲である。
 本作の音楽の聴きどころのひとつが、繊細な心情描写に使用される曲だ。人間と動物、立場やメンタリティの異なるキャラクターが、ときには衝突したり、ときには違いを乗り越えて共感しあったりする。トラック19「あなたの声が聞けたら」からトラック22「いとしくて」までは、そんな場面に流れる心情描写曲を集めてみた。
 「あなたの声が聞けたら」は、いろはとケンカして家出してしまったこむぎが、いろはを恋しく思う場面(第7話)などに使われた曲。第10話では、猫屋敷まゆが飼い猫のユキと初めて会ったときのことを語る場面にも流れていた。木管や弦楽器が奏でるメロディが、気持ちの通じない切なさ、もどかしさを表現している。
 トラック20「ひとり抱える想い」は孤独感やさびしさを描写する曲。第6話のこむぎといろはの仲たがいの場面など、すれ違う気持ちを表現する曲として使われることも多い。
 トラック21「ともだちになれるかな」は、初めて出会ったふたりが友情を育んでいくようすを音楽で表現した曲。なんといっても、第10話の回想シーンでまゆがユキと少しずつ距離を縮めていく場面に流れていたのが印象的。第19話ではまゆとユキが和解するラストシーンにふたたび使われ、ふたりの絆がより深くなったことが音楽でも表現されている。
 次の「いとしくて」(トラック22)は愛情をストレートに表現する曲で、弦合奏によるやさしいメロディが心にしみる。第2話でキュアフレンディがガルガルに対して「あなたを傷つけたりしない」と呼びかける場面や第19話でまゆがユキに「いつもいっしょにいてくれた」と感謝を伝える場面など、胸を打つ名シーンに使われた。
 深澤恵梨香は、本作の音楽打ち合わせで「心の交流を描くシーンに付ける曲は大切にしてほしい」と言われたと語っている。これらの心情描写曲は、本作のテーマに直結する重要な楽曲なのである。
 トラック26「危険なにおい」からトラック32「プリキュア!フレンドリベラーレ!」までは、ふたたび出現したガルガルを力を合わせて助けるプリキュア、というイメージでまとめてみた。
 「危険なにおい」は異変発生や募る不安感を描写するサスペンス曲。トラック27「夜にざわめく声」には怪しげな声が入っていて、不気味なムードが高まる。この曲も本編では声をカットして使われることが多い。次の「ガルガル出現」(トラック28)は暴走するガルガルの場面によく使われる危機感に富んだ曲である。
 そしてトラック29は、変身BGM「ワンダフルパクト!プリキュア!マイエボリューション!」のフルサイズ。本作では、キュアワンダフル&キュアフレンディの「犬組」とキュアニャミー&キュアリリアンの「猫組」とで別々の変身BGMが作られている。これも従来のプリキュアシリーズになかった新機軸だ。本アルバムでは発売日の都合で(発売日に猫組がそろっていなかったので)犬組の変身BGMのみを収録した。曲の中に犬をイメージした音やフレーズが盛り込まれているので、ぜひ、サウンドトラックでじっくり聴いてもらいたい。
 トラック31「心つなぐ絆」は試練を乗り越えて強くなる心の絆を表現する曲。第5話でキュアワンダフルとキュアフレンディの気持ちに応えてワンダフルタクトが出現するシーンや第19話でまゆがプリキュアに変身する力を手に入れる場面に流れていた。トラック32「プリキュア!フレンドリベラーレ!」はキュアワンダフルとキュアフレンディの合体技の曲である。
 トラック33以降はエピローグのイメージで構成。
 「澄んだ瞳で」(トラック33)はピアノとストリングスと木管のアンサンブルによる美しい曲。本編では、第1話のまゆの初登場シーンや第12話でまゆがいろはから「友だち」と言われて感激するシーンなど、まゆの場面によく流れている印象がある。本来はくもりのない純真な心を表現する曲で、まゆのテーマというわけではないのだが、まゆのキャラクターと曲の相性がよいのだろう。
 トラック34「ここが大好き!わんだふる!」は、まゆの母が経営するコスメショップ「プリティホリック」の場面などに流れている軽快な曲。『わんぷり』らしい明るいムードに戻して、BGMパートの締めくくりとした。

 さて、本作では4人のプリキュアが登場することが当初からアナウンスされていたが、6月9日放送の第19話にして、ようやく4人目のキュアリリアンが登場した。「サウンドトラック1」に収録できなかった猫組の変身BGMは、「サウンドトラック2」に収録する予定である。それまでしばし、「サウンドトラック1」を聴きながら、お待ちいただきたい。

わんだふるぷりきゅあ! オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・ワンダフル・サウンド!!
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