COLUMN

第854回 『(劇)ジョー2』の魅力(4)

 前回からの続き。

0:31:19~カーロス(OFF)「ジョー・ヤブキともう約束をした」の後ろ姿のジョー。なぜか鉄柱(?)に添えられた右手が、妙に艶っぽいと思うの、俺だけ? 女性の手の描き方っぽい。
0:31:39~葉子「矢吹君とカーロス選手へのクリスマスプレゼントとして」はTVの放送時期に合わせた話で、この劇場版公開時では7月。なるべく軽く触れる程度にしてあるようです。
0:31:54~はい。これもゴングを鳴らす手元とくれば、試合開始! かと思いきや、もう既に何ラウンドかの終了ゴング!『(劇)エースをねらえ!』級の端折り方です。
0:32:05~前カットの段平「大丈夫か、ジョー?」を受けてのジョー「へっへ……、大丈夫だよ」から即モノローグ! インターバルすら描かずに再びジョーのモノローグを被せて試合中! へ。
0:32:20~もうここから訳分かりません! いきなり一切の説明なしで“ロープ際攻防線戦”ですからね! 「経緯はTVで観たでしょ?」とかな感じではなく、「説明なんかしないから、観たまま感じて受け取ってくれ!」なんだと思います、出﨑監督は。
0:33:44~ここもインターバルのシーンを途中で切り上げてゴングすら切って、次ラウンド開始! ジョー(モノローグ)「決まってるよ……。このカーロスをぶっ倒す夢さぁっ!」
0:33:48~カーロスの光る(見えない)パンチがジョーにヒット! ~0:33:52で倒れ……の、
0:33:54~もう受けて(躱して)る!! 戦略を一切描かず・説明せず! いったい何が起こったんだ!? と突っ込みつつも、カッコイイ! 説明よりフィーリングなんです!
0:34:09~いつもよりさらに光で飛ばした感じの“止め+ハーモニー”の連続! こーいう瞬間の切り取り方が、純粋にフィルムとして面白い。
0:34:37~画面分割は好きではない! が俺の前提ですが、どーせやらなきゃならないならセンターの分割線は消したい。
0:35:10~ここからのファイト・シーンのコラージュは『ロッキー』シリーズ以上に大胆でスピーディーな編集に仕上がっています。
0:36:14~この“カメラ回り込みの激闘10数秒間”が板垣の人生を変えました! この“アニメならではの迫力”に魅せられ、そして自分をアニメ業界に引きずり込んだカットと言っても過言ではありません! この手のアクションを何度も“パラパラ漫画”で描いては家族やクラスメイトによく見せていました。中学・高校の同級生らに「俺、アニメーターになった~」と言って驚く奴は誰もいないでしょう。
0:37:11~で試合の結果すら知らせずに、そのリング上を見つめる葉子——を見つめる白木翁が“ボケ”で居てピン送りすらしない! “語らずに魅せる”クールな演出の宝庫です。
0:37:15~走行する電車内に立つジョー。そこへ被る乗客(OFF)「あれ矢吹丈じゃねーか?」。このカット一発で場所移動・時間経過だけでなく、世間の人々のジョーに対する現状の認知度向上を自然と入れてくる演出。これ書ける脚本家にも、俺はお会いしたことないです。
0:38:26~ジョー「何かの、間違いじゃねえのかい!?」の表情。こちらも秀逸!
0:39:18~出﨑監督作品超お馴染み“走行する電車車輪ショット”。激しい効果音と画面の明滅でキャラクターの動揺を表現しています。「演出って何する仕事?」という問いに「出﨑作品を観れば分かる!」の一言で片付くのがコレ、いい例です。同じ電車車輪ショットの使い回しでも入る場面・シチュエーションによって違う意味を伝えられるし、キャラの別の側面が感じられもするのです。「クレショフ効果」で検索しましょう。
0:39:23~この戦慄しつつも口元に微かに浮かべた笑み(のように見える)が、ザ・杉野昭夫作監!
0:39:27~この一連“深い青パラ”も良い!
0:39:44~前シーンの締めが閉まる扉で、このシーンの始まりが冷蔵庫のドアが開く。冒頭(第851回の[1])からの説明どおり、これも明らかに意図的な繋ぎ。それが証拠に(?)冷蔵庫のドアは閉まる前にカットしています。
0:40:27~前カットの紀子「矢吹君に誘われたの初めてだもん」に応えもしないで、一気に夕方。しかも次カット(0:40:29~)も何か言った後のような不穏なカットに。TVシリーズではあった会話を削って違う意味にしてまで、敢えてこの2カットを残したのが意味深。
0:40:47~暴走族シーン。後の出﨑作品OVA『B.B』3巻のアバンで同様のシーンがありますが、こっちの方が良い。
0:42:18~ジョーの名台詞、

燃えカスなんか残りゃあしない。真っ白な灰だけだ。
——力石だって、あのカーロスだってきっとそうだったんだ……!

ここで被る電車の走行音は“ジョーと紀子の断絶——埋めようがない距離感”を表現していて何度観ても痺れます。本当に単純な画(構図)の連続と動きと音……これで無限に心情を表現できることを出﨑作品は観る度教えてくれます!

 で、またチェックの時間! また色々敬称略で、すみません。