COLUMN

第280回 攻めたプログラム 〜コードギアス 反逆のルルーシュ〜

 腹巻猫です。5月4日に仙台銀行ホール イズミティ21大ホールで開催された仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサート「シンフォニック コードギアス リベリオン」を聴きました。アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』『コードギアス 反逆のルルーシュR2』の音楽をオーケストラ組曲に編曲して演奏するコンサートです。大変な力演で、仙台まで足を運んだ価値がありました。同時に『コードギアス 反逆のルルーシュ』の音楽の魅力を再認識するきっかけにもなりました。
 今回は、『コードギアス 反逆のルルーシュ』の音楽を紹介するとともに、コンサートの感想もお話ししたいと思います。


 『コードギアス 反逆のルルーシュ』は2006年10月から2007年7月にかけて放映されたTVアニメ(2007年3月にいったん終了し、7月に未放映だった2話を放映)。続編『コードギアス 反逆のルルーシュR2』が2008年4月から2008年9月にかけて放映された。その後も、同じ世界観を背景にしたOVA『コードギアス 亡国のアキト』、TVシリーズを再編集し、新規カットを追加した劇場版『コードギアス 反逆のルルーシュ』3部作、その続編となる劇場版『コードギアス 復活のルルーシュ』などが制作され、現在も新作『コードギアス 奪還のロゼ』が公開中という、人気シリーズである。
 日本が神聖ブリタニア帝国に占領された近未来。日本人はイレブンと呼ばれ、ブリタニアの支配に屈していたが、一部の日本人はブリタニアを相手にレジスタンス活動を展開していた。ブリタニアの貴族出身でありながら、その地位を追われ、日本(エリア11)で育った少年ルルーシュは、ある日、謎の少女C.C.(シーツ—)と出会ったことで、不思議な力「ギアス」を発現する。それは、目を合わせた相手に、一度だけ、どんな命令でも従わせることができる力だった。ルルーシュはこの力を使って、自分と家族を虐げた者たちに復讐しようと、ブリタニアへの反逆を開始する。レジスタンス組織「黒の騎士団」を指揮して活動するルルーシュの前に立ちふさがったのは、ルルーシュの旧友であり、今はブリタニア軍に所属するイレブンの少年・スザクだった。
 復讐を動機に、手段を選ばず、冷静沈着にことを進めていくルルーシュのキャラクターが新鮮。ピカレスクロマンであり、SFメカアクションであり、青春ものの一面も持つ、多様な魅力を持った作品である。

 音楽は中川幸太郎と黒石ひとみが共同で担当。中川幸太郎は本作の監督・谷口悟朗とTVアニメ『スクライド』『ΠΛΑΝΗΤΕΣ』『ガン×ソード』などですでに仕事をした経験があった。黒石ひとみは、『ΠΛΑΝΗΤΕΣ』『ガン×ソード』に楽曲を提供をしており、TVアニメ『LAST EXILE』の劇伴を担当した実績がある。『コードギアス 反逆のルルーシュ』における2人の音楽の役割分担について、谷口監督は「男性主観の部分を中川さん、女性主観の部分を黒石さんメインでお願いしました」と語っている。
 中川幸太郎は東映スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズの音楽でも知られる作曲家。ブラスサウンドを駆使したダイナミックな音楽が持ち味だ。いっぽうで東京藝術大学音楽学部で作曲を学んだ経歴から、精巧なスコアによる現代音楽的な曲も得意としている。『ΠΛΑΝΗΤΕΣ』や『GOSICK』といった作品にその方面の個性が生かされていると思う。『コードギアス 反逆のルルーシュ』は主人公がダークヒーローで、物語も暗くシリアスな展開が多い。そこで音楽もダイナミックなサウンドと現代音楽的なサウンドが融合した歯ごたえのある曲調になっているのが特徴だ。中川幸太郎サウンドのエンターテインメント志向の側面と現代音楽志向の側面が合体したおいしい作品なのである。
 黒石ひとみはシンガーソングライターとしても活動する音楽家。『コードギアス 反逆のルルーシュ』では自ら歌う挿入歌のほかに、女声コーラスを使った柔かいトーンの曲や神秘的な曲を劇伴として提供している。黒石ひとみの曲は、劇中ではC.C.やユーフェミア、シャーリーといった、戦闘に参加しない女性キャラクターのシーンによく使われていた。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「コードギアス 反逆のルルーシュ O.S.T.」「同2」のタイトルで、2006年12月20日と2007年3月24日にビクターエンタテインメントから発売された。
 収録曲は下記ページを参照(いずれも再発盤)。
https://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/-/Discography/A012120/VTCL-60485.html
https://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/-/Discography/A012120/VTCL-60486.html

 コンサートでも演奏された印象深い曲を紹介していきたい。
 1枚目の「O.S.T.」では、なんといっても1曲目「0」。ルルーシュが黒の騎士団のリーダーとして活動するときの姿「ゼロ」のテーマであり、本作のメインテーマでもある。勢いのあるイントロからピアノと打楽器によるスリリングなリズムに転じ、ストリングスとギターによるスパニッシュなメロディが現れる。トランペットがメロディを引き継いだあとギターのアドリブが入り、キレのあるフレーズのコーダへ。本作のダークなイメージを象徴する楽曲だ。スピード感と緊張感たっぷりのパワフルな演奏に魅惑される。このメロディはアレンジを変えて劇中のさまざまな場面に使われている。
 トラック3「Prologue」はタイトルどおり、第1話のアバンタイトルに流れたプロローグの曲。もの憂いストリングスのメロディを中心に奏でられる。ブリタニアに支配されたイレブン(日本人)の現況を表現する重苦しい曲になっている。
 トラック4「Stream of Consciousness」は第1話の本編冒頭に流れた曲。ミステリアスな女声コーラスがこれから始まる物語が神秘的な要素を秘めていることを伝える。
 トラック6「The First Signature」は第1話のルルーシュとC.C.との出会いの場面に流れた。ここでも女声コーラスが使われて、C.C.の不思議なキャラクターを印象づける。「Stream of Consciousness」と「The First Signature」の2曲は映像の展開に合わせて作られたような雰囲気がある。どちらも黒石ひとみ作曲である。
 黒石ひとみの曲では、トラック16「Stray Cat」も耳に残る。弦と木管楽器によるユーモラスな曲で、本編ではルルーシュの学校生活など日常シーンによく使われている。使用頻度の高い曲だったが、仙台フィルのコンサートでは演奏されなかった。
 中川幸太郎らしさが出たのが、バトルシーンに流れる曲だ。トラック8「Outside Road」は「タンタン タタタン」というリズムにブラスや男声コーラスが重なるサスペンス曲。同じリズムが続くボレロ的な展開で緊迫感を盛り上げる。ゼロたちがブリタニア軍に向かっていく場面や逆にブリタニア軍が進撃する場面など、敵味方に限定せず使われている。『コードギアス 反逆のルルーシュ』では、この曲のように、同じ曲がルルーシュ側にもブリタニア側にも使われる演出がたびたび見られる。本作が単純な善悪対立の物語でないことの表れだろう。
 トラック9「In Justice」はスザクが愛機ランスロットで出撃する場面によく流れていたサスペンス曲。緊迫したイントロに続いてミリタリー的なリズムと悲壮感のあるメロディが展開する。
 次の「Nightmare」も戦闘シーンに多用された曲で、スパニッシュなメロディとギターやカスタネットによるリズムが特徴的。人型機動兵器ナイトメアフレームの活躍を熱く彩った。
 バトル曲では、ブリタニア軍侵攻の場面によく流れたトラック18「Shin Troop」、ランスロットのテーマ的に使われているトラック20「Elegant Force」も印象深い。
 ほかには、ルルーシュの苦悩や思考を描写するメインテーマアレンジの曲「Occupied Thinking」(トラック17)、ルルーシュがギアスを発動する場面に流れる、やはりメインテーマの変奏である「Devil Created」(トラック21)が重要な曲として挙げられる。
 サントラ2枚目「O.S.T.2」も1曲目の「Previous Notice」が聴きどころ。ショッキングなイントロから激しいリズムをバックにしたスパニッシュなギターの演奏に続く曲で、毎回の次回予告に使われて強烈な印象を残した。もともとは次回予告用に別の曲が用意されていたが、谷口監督の考えでこの曲が使われたとのこと。劇中でもルルーシュ(ゼロ)やスザクの活躍場面にしばしば使用されている。
 ブリタニア軍の空中戦艦アヴァロンのテーマとして使われた「Avalon」(トラック20)は弦合奏と低音のブラスを中心にした重厚な曲。アヴァロンの登場シーンだけでなく、ドラマティックな曲想を生かして、事態が大きく動くシーンなどに使われた。
 ほかには、第22話、23話の皇女ユーフェミアの悲劇を彩った「Bad Illusion」(トラック15)、「State of Emergency」(トラック18)、「Final Catastrophe」(トラック21)がファンには忘れられない曲だろう。悲劇を連想させるワーグナー的な「Bad Illusion」、スザクの怒りの突撃に重なる「State of Emergency」、ルルーシュの憤りが爆発する「Final Catastrophe」と、曲を聴いているだけで、トラウマになるような暗い展開が思い出される。
 「O.S.T.2」の劇伴パートのラストを飾る「Innocent Days」(トラック22)は黒石ひとみの詞・曲とボーカルによる讃美歌風の美しい曲である。劇中ではユーフェミアの束の間の幸せを象徴する曲として使われていて、全編を観てから聴くとかえって涙を誘う。アルバムの構成としては、ありえたかもしれないハッピーエンドを思わせる、秀逸な終わり方だと思う。『コードギアス 反逆のルルーシュ』の最終回は、明快な決着も救いもないまま終わってしまう(そして『R2』に続く)のだから。

 さて、冒頭に紹介した仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサート「シンフォニック コードギアス リベリオン」の話。
 実は2019年にも『コードギアス 反逆のルルーシュ』のオーケストラコンサートが開催されたことがある。編曲を中川幸太郎とピアニート公爵(森下唯)、タカノユウヤの3人が手がけ、オーケストラにドラム、ギター、ベースのリズムセクションを加えた約70人編成で演奏された。スクリーンにアニメの映像を投影し、ルルーシュ(福山潤)によるモノローグも流れる、コードギアスファンのためのイベントである。
 今回の「シンフォニック コードギアス リベリオン」は、それとはだいぶ趣が違う。まず。アニメの映像や音声を使った演出は一切なし。完全に演奏だけを楽しむコンサートだ。演奏されたスコアは今回のための新アレンジ。ポップスのリズムセクションを入れない、クラシカルなオーケストラ曲として編曲されている。
 オーケストラ編成は、2019年のコンサートのほうがサウンドトラックに近く、サントラの演奏を担当したミュージシャンも何人か参加していた。「シンフォニック コードギアス リベリオン」の演奏は仙台に拠点を置く仙台フィルハーモニー管弦楽団が主体で、客演奏者が加わる編成。総勢100名近い大編成である。
 2019年のコンサートはサウンドトラックの再現をねらったスタイルだったのに対し、「シンフォニック コードギアス リベリオン」は純然たるクラシックコンサートのスタイルだった。会場を訪れたコードギアスファンの中にはとまどった人もいたかもしれない。
 しかし、結論から言えば、すごくよかった。これはありだと思った。
 映画音楽のジャンルでは昔から、本編用に書かれたサウンドトラックのスコアをオーケストラコンサート用の管弦楽曲に編曲する試みが行われている。日本のアニメでいえば、『ジャングル大帝』の音楽が「子どものための交響詩 ジャングル大帝」に編曲され、さらに「交響詩 ジャングル大帝」に改訂されて現在もたびたび演奏されている例がある。『コードギアス 反逆のルルーシュ』の音楽は、もともと現代音楽的な要素の強い、歯ごたえのある音楽だった。だから管弦楽曲に編曲しても違和感がなく、聴きごたえがある。
 仙台フィルハーモニー管弦楽団の公式サイトにコンサートのセットリストが公開されている。
https://www.sendaiphil.jp/e1/
 1曲目はサウンドトラック盤でも1曲目に置かれている「0」(「序曲」とされている)。すさまじい熱演で心をつかまれた。ほぼ原曲どおりのテンポでリズムを刻むパーカッション群の上でストリングスと管楽器が演奏する旋律がうねる。思わず息をつめて聴いてしまい、演奏が終わるとため息がこぼれた。
 続いて、第1幕の第1場「Prologue」〜「Stream of Consciousness」〜「The First Signature」〜「In Justice」という流れ。コーラスは女声2人(ソプラノ、メゾソプラノ)と男声1人(バス)が担当していて、コーラス入りの曲も再現されている。
 うっかり再現と書いてしまったが、これは原曲の「再現」ではない。管弦楽曲に生まれ変わったコンサート用の音楽作品である。全体に原曲より重厚になり、マイクとスピーカーを通さないオーケストラの生音で勝負する編曲になっている(編曲はクラシック系の佐野秀典が担当)。随所にソロを聴かせるパートが設けられているのは、演奏者へのリスペクトだろう。演奏会を意識したアレンジなのだ。
 アニメの映像を使う演出がなかったことも好印象だった。演奏に集中することができるし、演奏者の手元や表情や息を合わせるようすなどを見ることができる。これが生でコンサートを鑑賞する楽しみのひとつなのである。
 「シンフォニック コードギアス リベリオン」は仙台フィルハーモニー管弦楽団の「エンターテインメント定期 第1回」と位置づけられている。「エンターテインメント定期」とは、「日本のアニメーションを中心としたジャンルの『音楽』にスポットを当て、オーケストラによる生演奏で仙台から世界へと発信」するプロジェクトなのだそうだ。そして、エンターテインメントパートナーとして、バンダイナムコフィルムワークス、バンダイナムコミュージックライブ、バンダイナムコピクチャーズの3社の名が挙げられている。
 近年、クラシックのオーケストラが演奏会でアニメ音楽をとりあげるケースがちらほら見られるようになった。筆者も「組曲 銀河鉄道999」や「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の演奏会を聴いたことがある。しかし、プロオケによるアニメ音楽の定期演奏会の試みはたぶん日本初だろう。
 その第1回が『コードギアス 反逆のルルーシュ』というのは、なかなか攻めたプログラムだと思う。仙台フィルの「本気」を感じさせる熱気あふれるコンサートだった。オーケストラサウンドの迫力を存分に味わい、原曲の魅力を再認識するきっかけにもなった。ついでに仙台名物の牛タンを食べることもできたので言うことない。
 8月10日には、「エンターテインメント定期 第2回」として『機動戦士Ζガンダム』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のコンサートが決まっている。この試み、これからどう展開していくか、楽しみに応援していきたいと思う。

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