COLUMN

『タイガーマスク』を語る
第1回 この作品について書く理由

 このコラムでは『タイガーマスク』について書く。1969年から1971年に放映されたTVアニメ『タイガーマスク』についてだ。
 僕が「『タイガーマスク』について書きたい」と思うようになったのは10年くらい前のことだ。DVD BOXの解説書等でこの作品について何度か文章を書いているが、自分の原稿として、まとまったかたちで書きたいと思ったのだ。時間に余裕がある時に色々と調べてから書くつもりだったが、そんな「いつか」はこないかもしれない。それに気がついたので、今、書き始める。充分な調査をして執筆するわけではないので、少し粗い原稿になるかもしれない。

 『タイガーマスク』を「虎のマスクをかぶったヒーローが、怪人的な覆面レスラー達と戦いを繰り広げる荒唐無稽なプロレスアニメ」だと思っている人は多いと思う。それは決して間違っていないし、それも本作の魅力ではあるのだが、それだけではないのである。『タイガーマスク』にはハードボイルドタッチの「大人のためのドラマ」という一面がある。そして、「人間はどのように生きるべきか」といったテーマに対して真摯に向き合って作られた作品でもある。巧みに計算されたシリーズ構成の妙についても、多くの人に知ってほしい。
 本作には作画や演出、音楽等、様々な見どころがあるが、今回からのコラムではその中の、主に物語について語ることになる。決して、アニメ『タイガーマスク』の全てを語るものではない。それについても先にお断りしておく。
 この作品は放映当時に大変な人気であったにも関わらず、その後、あまりにも語られる機会が少ない。同時期に放映された同じ梶原一騎原作の『巨人の星』(1968年~1971年)と『あしたのジョー』(1970年~1971年)に比べても語られることが少ない。それが「『タイガーマスク』について書きたい」と思ったきっかけのひとつだ。
 『タイガーマスク』について触れられる時に、ポイントになることが多いのが「最終回が凄い」である。確かに最終回は素晴らしい出来だ。しかし、最終回以外にも素晴らしいところは沢山ある。最終回だけで『タイガーマスク』を語ったことにされるのを、僕は非常に残念に思ってきた。
 「被爆者や公害といった社会的なテーマを描いたエピソードがある」と言われることもある。確かにそれらのエピソードは『タイガーマスク』の中でも重要なものであるのだが、重要なのは被爆者や公害を扱っているからではない。これも是非とも書いておきたいポイントだ。

 作品の概略について説明する。『タイガーマスク』は同名マンガを映像化したTVアニメである。マンガ「タイガーマスク」の原作は梶原一騎、作画が辻なおきだ。当初は雑誌「ぼくら」に連載され、後に「週刊ぼくらマガジン」「週刊少年マガジン」で連載されている。アニメを制作したのは東映動画(現・東映アニメーション)だ。これは他の当時の東映動画作品も同様ではあるのだが、監督に相当する演出家は存在しない。これはシリーズ全体を統括する監督がいないという意味であり、各話の演出家がそれぞれ自分の担当話数を監督していると考えてほしい。シリーズ構成にあたる仕事は、プロデューサーの斉藤侑が担っていたようだ。番組開始時のキャラクターデザインは木村圭市郎が担当。『タイガーマスク』の作画は斬新なものであり、後のクリエイターや作品に多大な影響を残している。各話の作画スタッフの仕事も素晴らしい。
 物語の導入部分についても触れよう。主人公の伊達直人は孤児であり、ちびっこハウスという孤児院で育てられていた。しかし、ちびっこハウスハウスは借金を抱えており、解散することになる。孤児達が他の施設に引き取られる前の日に彼等は上野動物園に行き、そこで虎を見た直人は「虎のように強くなりたい」と願う。虎のように強くなって、悪い大人達をやっつけたいと考えたのだ(アニメの第1話のこのシーンで、直人は孤児院のことを誉めていた大人達の偽善についても言及している)。動物園で皆の前から姿を消した直人は「虎の穴」に拾われる。虎の穴とは悪役レスラーを世界中のプロレス界に送り込んでいる世界規模の秘密組織だ(なお、アニメの第1話では悪役レスラーを育てているのは虎の穴の活動のひとつであると、ジャイアント馬場が語っている)。
 10年の月日が流れた。虎の穴で特訓の日々を乗り越えた直人は、反則を得意とする覆面レスラーのタイガーマスクとして、アメリカのプロレス界で悪名を馳せていた。直人は久しぶりに帰国し、懐かしのちびっこハウスを訪れる。ちびっこハウスは前院長の子供であり、直人の幼馴染みでもある若月先生とルリ子の兄妹によって再建されていた。しかし、直人が訪れた時、ちびっこハウスは借金のために立ち退きを迫られていた。10年前と同じ状況になっていたのだ。虎の穴には所属するレスラーがファイトマネーの50%を虎の穴に納めなくてはいけないというルールがあった。そのルールを破った者には死の制裁が待っている。だが、直人はちびっこハウスを救うために今まで貯めたファイトマネーを使ってしまい、さらに次の試合のファイトマネーもちびっこハウスのために使わざるを得ない状況となる。ファイトマネーを納めることができなかった直人は、裏切り者として虎の穴に命を狙われることになってしまった。直人はタイガーマスクとして、虎の穴が送り込んでくる怪人的な覆面レスラーと戦い続けることになる。
 ちびっこハウスの子供達はタイガーマスクのファンであり、中でも元気で生意気な健太は熱烈なファンだ。直人は自分がタイガーマスクであることが知られれば、彼等に危険が及ぶかもしれないと考えたのだろう。ルリ子やちびっこハウスの子供達に対して、自分がタイガーマスクであることを隠している。直人は裕福ではあるが頼りない青年を演じており、ちびっこハウスの子供達は彼を「キザにいちゃん」と呼んでいる。なお、ちびっこハウスの健太以外の子供はガボテン、ヨシ坊、チャッピー。他にも何人もの子供がいる。シリーズ中にちびっこハウスに加わるのがミクロと洋子だ。
 他のレギュラーのキャラクターは虎の穴のマネージャーであり、直人にとっての宿敵となるミスターX。実在のプロレスラーであり、タイガーマスクのよき先輩であるジャイアント馬場。そして、アントニオ猪木である。

 次回はシリーズ全体の物語の流れについて触れることにする。なお、この一連のコラムではキャラクター名の「タイガーマスク」を「タイガー」と、「ちびっこハウス」を「ハウス」と省略することがある。本編でもそのように省略されることが多いのだ。主人公の名前を直人と表記する場合は伊達直人として行動している場面、タイガーマスク(タイガー)として表記されている場合はタイガーマスクとして行動している場面だと思っていただきたい。また、固有名詞の表記は同作DVD BOX、単体DVDソフト(DVD‐COLLECTION)の解説書に準ずることとする。
 また、ここまで読まれて作品を興味を持たれた方は、次回以降のコラムを読む前に『タイガーマスク』本編をご覧になってもいいかもしれない。『タイガーマスク』は2024年5月現在、Amazon prime videoのアニメタイムチャンネルで全話を視聴することができる。

●『タイガーマスク』を語る 第2回 第1クール~第4クール に続く

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