腹巻猫です。5月3日に中野サンプラザで開催される「資料性博覧会16」に「劇伴倶楽部」で参加します。パンフレットのサークル紹介で「SOUNDTRACK PUBレーベルの新譜を頒布予定」と書いたのですが、間に合いませんでした。ごめんなさい。その代わり、2015年に発売した『カレイドスター』の完全版サントラを放送20周年記念で再プレスして持ち込みます。
資料性博覧会の詳細は下記を参照ください。
https://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/
『グリッドマン ユニバース』は面白かったなあ。マルチバース、メタバースの設定をフルに活用して、めちゃめちゃ燃える劇場作品になっていた。期待以上だった。
2023年3月24日に公開された劇場アニメ『グリッドマン ユニバース』は、TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』(2018)と『SSSS.DYNAZENON』(2021)の世界を受け継いだ新作劇場版。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のキャラクターが集合して新たな敵に立ち向かう、両番組を観ていたファンにはたまらない作品だ。
音楽はもちろん『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』を手がけた鷺巣詩郎。本作のために新曲を提供している。
鷺巣詩郎の代表作といえば「エヴァンゲリオン」シリーズだが、このところ鷺巣は『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』、そしてこのグリッドマンシリーズと怪獣(ヒーロー)ものを立て続けに手がけている。まるで水を得た魚のように力の入った音楽を書きまくっている。
鷺巣詩郎の父は特撮TVドラマ「マグマ大使」や「快傑ライオン丸」を制作したピープロダクションの社長・鷺巣富雄(マンガ家・うしおそうじ)。鷺巣は子どもの頃から撮影スタジオの中で育ち、特撮映画や特撮ドラマに親しんでいた。もちろん怪獣映画音楽にも。そんな鷺巣が書く怪獣映画音楽が、60〜70年代の特撮映画・特撮ドラマ音楽を受け継いだ本格的なものになるのは、きわめて当然のなりゆきだった。といったことを、鷺巣は『SSSS.GRIDMAN』のサントラCDのライナーノーツに書いている。鷺巣詩郎は、大編成のゴージャスな怪獣(ヒーロー)映画音楽を「誇りを持って」書き続けているのだ。
『SSSS.GRIDMAN』の音楽も『SSSS.DYNAZENON』の音楽も、怪獣映画ファンをうならせるダイナミックなサウンドだった。『SSSS.GRIDMAN』には80年代テクノ風サウンドが取り入れられていたり、『SSSS.DYNAZENON』はロック色が強かったりと、それぞれ特色はあるものの、中心になっているのはオーケストラサウンド。60年代の怪獣映画音楽は映画スタジオで録音されたこともあって、ちょっと泥臭い印象があるが(それが味わいだが)、鷺巣詩郎が作る現代の怪獣映画音楽は、ロンドンやワルシャワといった海外のオーケストラで録音され、洗練された音に仕上がっている。いかにも現代的だし、世界に打って出る作品に必要なサウンドである。その音がTVアニメで聴けるのが、『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』のぜいたくなところだった。
『グリッドマン ユニバース』でうれしいのは、TVアニメ版(『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』)の音楽の中でもとりわけ燃えるヒロイックな曲がリメイク(リミックス、リマスタリング)されて使用され、さらに新曲も聴けること。鷺巣作品で重要なピアノソロの新曲もある。グリッドマンシリーズの「音楽いいとこ取り」みたいな作品なのである。
本作のサウンドトラック・アルバムはポニーキャニオンより「グリッドマン ユニバース オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2023年3月22日に発売された。
収録曲は以下のとおり。
- HL pinch no vocals 2023)
- 1144 Fob 02 2023)
- all this fanfare 2023)
- all this human 2023)
- 1144 Fob 02 CH 2023 incomplete)
- peaceful 1805 no piano melody)
- HL 29 mysterious no vocals 2023)
- 00320 piano alterna 01)
- grid and dyna 108bpm choir only 2023)
- Human Love instrumental 2023)
- 1803 ending option 2023)
- all this monster 2023)
- Human Love CH edm 02 2023)
- dyna march 108bpm 2023)
- all this metal 2023)
- Human Love CH edm 04 2023)
- 1187 am suspense)
- 2201 suffocation)
- M10 emotion strings edit)
- Human Love CHHF 2023
- 11141 overture)
- GRIDMAN UNIVERSE full)
- M10 galaxy gridman edit)
- 1801 GALAXY)
- 1144 Fob 02 CH 2023 guitar finish)
- 00320 piano alterna 02)
- peaceful universe)
- 1801 GALAXY hiskool demo)
- 1144 Fob02 no choir)
- Human Love Robot Love 2023)
- GRIDMAN UNIVERSE choir logo)
収録されているのはTVアニメ版音楽をリミックス/リマスタリングした曲と、新たに録音された曲。本編の中で使用されていない曲も含まれている(とライナーノーツに書いてある)。また、作中ではこのアルバムに収録されていないTVアニメ版音楽も使用されているようだ。本編使用曲を登場順に並べたオーソドックスなサウンドトラック・アルバムではない。ユニークな構成である。
CDのブックレットには鷺巣詩郎自身による解説が掲載されており、TVアニメ由来の曲はどこが変わったのか、新曲はどんな意図で制作したのかなどが細かく語られている。楽曲は配信で聴くことができるが、CD版のブックレットを読むと、より興味深く聴くことができるだろう。
1曲目の「HL pinch no vocals 2023」は『SSSS.GRIDMAN』の危機描写曲「HL_pinch」のボーカル抜きリミックスバージョン。頭から緊迫した曲で危機感をあおる大胆な構成だ。曲名に「2023」とついているのは、TVアニメ版の曲をリミックス/リマスタリングして、より進化させたバージョンである(とライナーノーツに書いてある)。
次のトラック2「1144 Fob 02 2023」からトラック5「1144 Fob 02 CH 2023 incomplete」までは予告編で使用された楽曲(これもライナーノーツに書いてある)。
「1144 Fob 02 2023」は『SSSS.GRIDMAN』のメインテーマとも呼ぶべき勇壮なヒーロー音楽。トラック3「all this fanfare 2023」は『SSSS.DYNAZENON』を代表するオーケストラ音楽。トラック4「all this human 2023」も同じく『SSSS.DYNAZENON』を代表するEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)風のイケイケ音楽。トラック5「1144 Fob 02 CH 2023 incomplete」は「1144 Fob 02」をブツ切りにして再構成した本作のための新曲。本編で流れた完成版はトラック25に収録されている。
ここまで、燃える音楽のつるべ打ち。オーソドックスなサントラの構成だとこうはならないところを、「予告編で使用された曲」を並べることで最高の導入になった。このアイデアはすばらしい。
トラック6「peaceful 1805 no piano melody」は『SSSS.GRIDMAN』の曲「peaceful」をピアノ抜きでリミックスした日常コミカル曲。トラック7「HL 29 mysterious no vocals 2023」は『SSSS.GRIDMAN』の曲「HL 29 mysterious」をボーカル抜きでリミックスした疑念・不安描写曲。曲名でどういう由来の曲かわかるようになっている。
トラック8「00320 piano alterna 01」は本作のための新曲。学校で裕太が六花と話す場面に流れるデリケートなピアノソロの曲である。トラック26に収録された「00320 piano alterna 02」は同じ曲の演奏の異なるバージョンだ。
トラック9「grid and dyna 108bpm choir only 2023」からトラック16「Human Love CH edm 04 2023」までは、TVアニメ版の曲のリミックス/リマスタリング版。原曲と聴き比べてみると、もとは同じ音源なのに別曲に聴こえるくらい大胆に音が変えられている。音響テクノロジーの進化の反映であると同時に、同じようで異なるものがいくつも存在するマルチバースを意識した表現である(という話もライナーノーツに書いてあった)。
トラック17「1187 am suspense」からトラック28「1801 GALAXY hiskool demo」までは劇場作品のために制作された新曲。終盤に向けてしだいに曲調が盛り上がっていく。
トラック17、18とサスペンス描写曲が続き、緊張感が高まる。トラック19「M10 emotion strings edit」はアコースティックギターとストリングスによるしっとりとした心情曲。後半で裕太がグリッドマンと会話する場面に流れていた。グリッドマンと裕太の心のつながりを描写する感動的な曲である。
トラック20「Human Love CHHF 2023」からは、最終決戦に流れる怒涛のクライマックス曲の連続。
「Human Love CHHF 2023」は『SSSS.GRIDMAN』を代表する曲「Human Love」の最新ハード・フュージョン風アレンジ。ノリノリのバトル曲だ。アレンジは鷺巣詩郎の盟友であるCHOKKAKU。曲名の「CHHF」は「CHOKKAKU HARD FUSION」の略なのだろう。
トラック21「11141 overture」からは壮大なオーケストラ&コーラスの曲が並ぶ。「ぜんぶメインテーマ?」と言われてもうなずいてしまうくらい、濃厚で高揚感のある曲ばかりだ。
トラック23「M10 galaxy gridman edit」とトラック24「1801 GALAXY」の2曲は、本作の壮大な世界観にちなんで、ジョン・ウィリアムズのSF映画音楽風アレンジがほどこされている。これはTVアニメ版にはなかったテイストで、劇場版ならではの味だ。
そして戦いが終わり……。
トラック26「00320 piano alterna 02」とトラック27「peaceful universe」は、いずれもラストのしみじみとしたシーンに流れた曲。ピアノソロによる「00320 piano alterna 02」はアカネとグリッドナイト(アンチ)の会話のバックに、アコースティックギターによる「peaceful universe」はグリッドマンと裕太の別れの場面に流れていた。
トラック28「1801 GALAXY hiskool demo」は、学園祭で上演されるグリッドマンの劇のシーンに流れていた曲。トラック24に収録されている「1801 GALAXY」のデモバージョンである。高校生が作った曲という設定だからあえて未完成のデモのほうを使ったのだ(これもライナーノーツの受け売り)。本編で流れた曲が劇中劇のBGM(現実音楽)としても流れるというメタ構造が、いかにもグリッドマンらしい。
収録曲の別バージョンを集めたボーナストラック(トラック29〜31)でアルバムは締めくくられる。
燃える曲の連続で始まり、燃える曲の連続で終わる。本編の流れそのままではないが、劇場の興奮がよみがえる、とても充実したアルバムだ。『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』から選りすぐった楽曲(のリミックス/リマスタリング版)に新録音の楽曲を加えた内容が満足度を高めている。
本作を映像ソフトや配信で楽しめるようになったら、本アルバムに収録されていない劇中使用曲を『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のサウンドトラックから探して、完全版サントラを構成してみるのもよいかもしれない。
そのときは、学園祭準備のシーンで流れていた曲「ふたつの勇気(インストゥルメンタル)」もぜひ入れておきたい。グリッドマンシリーズのオリジンである特撮TVドラマ「電光超人グリッドマン」(1993)の挿入歌のインスト版である。作・編曲は戸塚修。「電光超人グリッドマン」のサウンドトラック・アルバムに収録されている。本作には、実写とアニメの垣根を越え、作曲家もレーベルも異なる楽曲が共演しているのだ。グリッドマンシリーズは、サントラもマルチバースなのである。
グリッドマン ユニバース オリジナルサウンドトラック
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