腹巻猫です。先日、松本零士がデザインした隅田川クルーズ船ホタルナに乗ってきました。このシーズンだけ運航している花見遊覧コースで船上から隅田川沿いの桜を堪能。松本メカに乗って21世紀の花見という気分でしたよ。
昨年から発売を楽しみにしていたサウンドトラック・アルバムが2月15日にリリースされた。「Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection」だ。今回はこの音楽を紹介しよう。
『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』は2022年10月から12月まで放送されたTVアニメ。監督・米田和弘、シリーズ構成と脚本・筆安一幸、アニメーション制作・PINE JAMによるオリジナル作品である。
この春、高校に入学した結愛せるふはのんびりやで夢みがちな少女。やりたい部活が見つからずにいたせるふは、ある日、なりゆきでDIY部に入部することになる。部員がいなくて存続が危ぶまれていたDIY部だったが、少しずつ部員や仲間が増えていく。ぷりんたちはDIY部の宣伝のために校庭の木の上にツリーハウスを作ろうと考える。
舞台はものづくりの町として知られる新潟三条市。劇中では、無人バスが走り、空をドローンが飛び交う近未来的な町に描写されている。しかし、せるふたちがDIY部で進めるのは、のこぎりやカッターで材料を切り、ドリルで穴をあけ、ネジ止めや接着をして塗料を塗る、昔ながらのものづくり。時間もかかるし失敗することも多いが、手と体を動かしてものを作る楽しさが伝わってくる。
第1話のラストに流れるナレーションが、この作品のテーマを簡潔に伝えている(公式サイトのトップページにも同じ言葉が書かれている)。
「これは、家具や友情や、ひいては人生までも、考え、工夫し、苦労し、失敗し、それでも諦めずに自分の手で完成させて、未来を切り開いていこうとする少女たちの、その最初の一歩を描く物語である——」
筆者も子どもの頃は工作が好きで、模型を組み立てたり、材料を集めて一からものを作ったりしていた。だから、この作品にはすごく共感するところがあった。
それにこのアニメ、なにげに絵作りがすぐれている。シンプルな線で描かれたキャラクターにしっかり立体感があるし、レイアウトもセンスがいい。なにより、手の描き方がうまい。たびたび登場する工具を使う場面が、どれもさまになっている。手を描くのって、すごく難しいのだ。
原作のないオリジナル作品であり、いわゆる萌え系でもないし、派手な展開やシリアスな物語があるわけではない。ものづくりの楽しさをゆるーく描くアニメである。けれど、心に残る、とてもよい作品だった。
音楽を担当しているのは佐高陵平。驚くべきは、オープニング主題歌、エンディング主題歌の作詞・作曲と劇中音楽(劇伴)の作曲を佐高陵平がひとりで手がけていること。主題歌と劇伴の分業があたりまえになった現在では珍しい作り方だ。
その主題歌が今風のJ‐POP風の曲ではなく、懐かしいTVマンガ主題歌を思わせる楽しい曲調なのもいい。
佐高陵平は、アニメソングやアーティストへの楽曲提供(作詞・作曲・編曲)、『RELEASE THE SPYCE』(2018)、『D4DJ First Mix』(2020)などのアニメ音楽(劇伴)で活躍する音楽家。y0c1e(よしえ)名義でも活動している。ヒップホップ、エレクトロニカ、電波ソングなどを取り入れた現代的な曲も得意だが、本作の音楽はアコースティック楽器を中心とした素朴なサウンドで作られている。
本作の音楽について、佐高陵平はTwitterの投稿でこうコメントしている。
「劇伴は口笛・リコーダー・ピアニカ・木琴みたいな軽い音をアコギ/ピアノで支えるイメージで作りました。こじんまりな可愛さ。厚めの曲もなくはないのですが基本軽めで、ピンチの曲でもリコーダーが鳴ってます。のほほんと楽しく作ってましたが、作品にマッチしていて良かったです」
バンドサウンドを基調にした手作り感のある音は、本作のテーマであるDIYを意識しているのだろう。ピアノ、ギター、パーカッション、ピアニカ、トランペットなど、温かみのある楽器の音が耳に心地よい。
本作のサウンドトラック・アルバムはエイベックス・ピクチャーズからCD(2枚組)と配信でリリースされた。収録曲と構成は同じだが、CDの末尾に収録されているオリジナルドラマは配信されていない。CD版のディスク1から紹介しよう。収録曲は以下の通り。
- どきどきアイデアをよろしく!(TV size)(歌:潟女DIY部!!)
- どぅー・いっと・ゆあせるふ
- どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)
- どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)
- 毎日せるふ
- 夢見るせるふ
- 動物とせるふ(とお母さん)
- ぷくぷくなぷりん
- きっちりなぷりん
- センチなぷりん
- たよれる先輩
- たくみん
- にゃー!!
- 天才小学生?
- アイキャッチ・A
- アイキャッチ・B
- 能天気
- 日常と女の子
- また13時間後に!
- ひとりぼっち
- ワクワクワンワン
- どきどき会議
- きらきら潮風
- もくもく作業
- がんばるDIY部
- 秘密基地
- せるふとぷりん
- 居場所
- 変わらないもの
- 続く話(TV size)(歌:せるふとぷりん)
オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌に終わるオーソドックスな構成。アイキャッチを挟んで前半・後半に分かれ、前半では、メインテーマ、せるふのテーマ、ぷりんのテーマ、DIY部の仲間たちのテーマが続く。後半はDIY部の活動と秘密基地作りをイメージさせる構成になっている。
オープニング主題歌「どきどきアイデアをよろしく!」はトンカチをたたく擬音をスキャット風に盛り込んだ楽しい曲。佐高陵平によれば「新しさと懐かしさの共存が目標」だったとのこと。「00年代日常アニメ的能天気さの上に10年代以降っぽいブラスの積み方や韻の感じを乗せ、現代っぽいMIXで仕上げる…みたいな」とTwitterでコメントしている。メインキャストが歌っているのも部活ものっぽくていい。
2曲目の「どぅー・いっと・ゆあせるふ」は本作のメインテーマ。軽快なリズムに乗ってリコーダー、トランペット、ピアノ、ピアニカなどがのびのびと合奏する。DIYの楽しさが表現された曲だ。第1話のラストでせるふが入部届けに名前を書く場面をはじめ、DIY部の活動場面にたびたび使用されている。
続く2曲はメインテーマの変奏。トラック3「どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)」はピアノソロによる心情曲で、第11話でぷりんがせるふの誘いに応えてDIY部に参加するシーンにフルサイズで流れていた。トラック4「どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)」はトランペットとオルガンなどによるミディアムテンポのアレンジ。第2話でたくみが、第3話でジョブ子が、それぞれDIY部に入部を決める場面に使われた。
トラック5「毎日せるふ」は第1話から使われているせるふのテーマ。せるふの能天気でマイペースな感じがよく表現されている。
次の2曲はせるふがらみでよく使われたユーモラスな曲。トラック6「夢みるせるふ」は妄想するせるふの場面など、トラック7「動物とせるふ(とお母さん)」はせるふが家で母と食事をする場面などに流れていた。
トラック8「ぷくぷくなぷりん」から3曲は、せるふの幼なじみで別の高校に進学したぷりん(須理出 未来)のテーマ。「ぷくぷくぷりん」はふくれっつらをするぷりん(それがあだ名の由来)のイメージ。トラック9「きっちりなぷりん」はその変奏で、ぷりんの可愛いツンデレをイメージさせるアレンジだ。
トラック10「センチなぷりん」はピアノとキーボードを主体にしたリリカルなアレンジ。ぷりんがせるふとの思い出を回想するシーンやぷりんに素直になれずため息をつく場面などに流れていて、しんみりさせられる。「ぷくぷくぷりん」のメロディの変奏から始まり、後半はよりエモーショナルなメロディに変わっていく。その展開が、ぷりんの心情の変化を表現しているようで味わい深い。
次の曲からはDIY部に集まった仲間たちのテーマである。
トラック11「たよれる先輩」はDIY部部長のくれい(矢差暮礼)のテーマ、トラック12「たくみん」はぷりんに誘われて入部するたくみん(日蔭匠)のテーマ、トラック13「にゃー!!」はDIY部が気になって遊びに来た、ぷりんと同じ高校の生徒しー(幸希心)のテーマ(語尾に「にゃー」をつけるのがくせ)、トラック14「天才小学生?」は飛び級で高校生になった12歳の天才留学生ジョブ子(ジュリエット・クイーン・エリザベス8世)のテーマ。くれいの曲はマーチ調のリズムと前進感のあるメロディ、引っ込み思案なたくみんのテーマはピアノやオルガンによるしっとりした雰囲気、にぎやかなしーのテーマはドタバタしたコミカルな曲調と、それぞれのキャラクターが巧みに表現されていて感心する。
メインテーマとキャラクターのテーマを続けて、DIY部の仲間がそろった! というところでアイキャッチになる。うまい構成だ。
トラック17「能天気」は日常シーンによく流れていた口笛の曲。せるふが自転車をこいで登校する場面などに使われていた。ディスク2には同じメロディをウクレレが演奏する別バージョン「能天気(ウクレレ)」が収録されている。本作の雰囲気を代表する曲である。
トラック18「日常と女の子」も日常シーンの定番曲で、第1話の冒頭から使われている。こちらはピアノやピアニカ、ビブラフォンなどの音がおしゃれで、女子高の華やいだ空気感が広がる。
トラック19「また13時間後に!」とトラック20「ひとりぼっち」は、しみじみとした雰囲気の心情曲だ。「また13時間後に!」はノスタルジックなサウンドで友情を表現する曲で、最終話でDIY部のみんなが集まってジョブ子の送別会をする場面の使用が印象深い。ギターと口笛が奏でる「ひとりぼっち」は、いつもは明るいジョブ子やしーが、ひとりでもの思う場面などに流れていた。
トラック21「ワクワクワンワン」はくれいの両親が経営するDIYショップ「ワークワン」の店内で流れているテーマソング。歌は作詞家としても活躍する山本メーコ。佐高陵平によれば「地方企業とか地元スーパーのCMソング」みたいなイメージで作ったとのこと。そのままCMで流れても違和感のない完成度である。
DIY部の日常を描くトラック22「どきどき会議」、トラック23「きらきら潮風」(第6話の海へ行くエピソードで使用)を挟んで、トラック24「もくもく作業」は本作ならではの楽しい曲。工具で金属を叩くようなパーカッションの音がリズムを刻み、ギターやリコーダー、ピアノなどのフレーズが重なる。曲名通り、せるふたちが工作をするシーンによく使われていた。この曲と似た曲に、ディスク2に収録された「ばりばり作業」がある。こちらもトンカチで釘を打つような音色のリズムを使った曲で、やはり工作シーンに使われている。
トラック25「がんばるDIY部」は第11話のせるふたちがツリーハウス(秘密基地)作りを進める場面に、トラック26「秘密基地」は、最終話でツリーハウスが完成し、せるふたちが秘密基地を見上げる場面に流れていた曲。「秘密基地」はメインテーマの変奏になっている。物語のクライマックスにメインテーマのメロディーが流れる演出には胸が熱くなる。
ディスク1の終盤には、じんわりと胸にしみる3曲が並んだ。
トラック27「せるふとぷりん」はせるふとぷりんの友情の曲。ストリートオルガン風の郷愁を誘う音色が、幼なじみのふたりの心のつながりを表現する。よく聴くと「毎日せるふ」のメロディと「センチなぷりん」のメロディが織り込まれている。
トラック28「居場所」は数々の名場面に流れた印象深い曲。ピアノとギター、バイオリンなどが奏でるやさしいメロディが、居場所を求めるせるふたちの心情に寄りそっていく。第5話でしーが海外に暮らす母に電話で「心配しなくても、ちゃんと居場所ができたよ」と話す場面、第9話で自分が役に立ってないと落ち込むせるふをぷりんたちが励ます場面などに流れている。曲の後半には女声スキャット(コーラス)が入ってきて、熱い想いを表現する。第10話で顧問の治子先生がDIY部の先輩の想いをせるふたちに語る場面、第11話で秘密基地完成を前にせるふとぷりんが語らう場面、第12話で涙ぐむジョブ子にたくみんがハンカチを渡す場面では、その女声スキャットの部分が流れて感動をいっそう盛り上げた。スキャットを歌っているのは声優・作詞家としても活躍する藤村鼓乃美。佐高陵平も「個人的に印象深い1曲」と語っている曲である。
トラック29「変わらないもの」は演奏時間5分を超える大曲。ドリーミィな曲調で始まり、後半からストリングスが入って雄大な曲想に展開する。劇中ではぷりんやジョブ子が大切な思い出を回想するシーンに流れていた。本作の音楽の中でも映画音楽のようなスケール感を持つ聴きごたえのある曲だ。
ディスク1のラストはエンディング主題歌「続く話」。せるふとぷりんが歌う、ふたりの友情のテーマである。佐高陵平はこの曲について、「こちらも新旧の共存で、基本アコギのミディアムバラードに、リズムやシンセは少し今っぽく」「歌詞の関係性や掛け合いの作り方が楽しかった」と語っている。本編を最後まで観て聴きなおすと、この作品はせるふとぷりんの物語でもあったんだなあ、とあらためて思う。
ディスク2にはBGM17曲とオリジナルドラマ(約24分)を収録。ディスク1だけで世界が完結している感もあるので、ディスク2は特典ディスクみたいな印象だ。とはいえ、こちらにも「ひまわりの少女」をめぐるエピソードで印象的な「乙女な先輩」やDIY部のシーンでよく使われた「たのしいDIY部」「ようこそDIY部」などが収録されているので、十分楽しめる。微妙な空気感を表現する「なまやけクッキー…」の絶妙な曲調には思わずニヤリとしてしまう。
『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』の音楽は、ものづくりのわくわく感や仲間と一緒にひとつのことをやりとげるよろこびを思い出させてくれる。シンプルに聴こえる音楽の中に、さまざまなアイデアや工夫が盛り込まれていて、それを探すのもサントラを聴く楽しみのひとつだ。DIYって、どの曲も、いい場面が、よみがえる。未見の方は、ぜひ本編といっしょにどうぞ。
Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection
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