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第213回 思わず胸がキュッとなる 〜あしたへアタック!&リトル・ルルとちっちゃい仲間〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第28弾「あしたへアタック!/リトル・ルルとちっちゃい仲間 音楽集」を8月25日に発売します。1977年放送の『あしたへアタック!』と1976〜77年放送の『リトル・ルルとちっちゃい仲間』、日本アニメーション制作のTVアニメ2作品をカップリングした2枚組CDアルバムです。音楽はどちらも越部信義。BGMは全曲初商品化! 堀江美都子が歌う主題歌・挿入歌とオリジナル・カラオケも収録しました。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B09BDT9HSF/

以下で試聴用ダイジェスト動画を公開中です。


 今回は、サウンドトラック初リリースとなる『あしたへアタック!』と『リトル・ルルとちっちゃい仲間』の音楽を紹介しよう。
 収録曲は下記を参照いただきたい。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC043.html
 ディスク1に収録した『あしたへアタック!』は、バレーボールに打ち込む高校生の少女たちを主人公にしたスポーツ青春もの。1977年11月に日本でバレーボール・ワールドカップが開催されることに合わせて企画された作品で、アイキャッチにワールドカップの告知が出るのが当時をしのばせる。
 主人公の聖美々はバレーボールが大好きな高校3年生。部員がいなくなって廃部寸前だった橘高校バレーボール部を再建し、猛練習を重ねて、ライバルチームとの試合に挑んでいく。原案は『サインはV』の原作者・神保史郎、監督に『アタックNo.1』の演出を担当した黒川文男。60年代の人気バレーボール番組を手がけたスタッフがタッグを組んだ作品である。

  越部信義は「おもちゃのチャチャチャ」等の子どもの歌やTVアニメ『マッハGoGoGo』(1967)、『サザエさん』(1969〜)、『昆虫物語みなしごハッチ』(1970)、『ジムボタン』(1974)、『ジェッターマルス』(1977)等の音楽を手がけた作曲家。歯切れのよいリズムと快活な中にペーソスただようメロディの音楽が持ち味だ。
 越部信義が手がけたアニメ作品の中で、「少女向け」と呼べるものは意外に少ない。本作と『風船少女テンプルちゃん』(1977)、『リトル・ルルとちっちゃい仲間』(1976)があるくらい。いや、『テンプルちゃん』と『リトル・ルル』は女の子が主人公ではあるが、どちらかといえば「子ども向け/ファミリー向け」に近いから、「少女向け」と呼べるのは本作だけかもしれない。『あしたへアタック!』は越部作品の中でも貴重な、ティーンエイジャーの少女たちを主人公にした作品なのである。
 『ジムボタン』のエンディング主題歌「ボッコちゃんが好き」や『ジェッターマルス』の挿入歌「キライ!スキ!」を聴くと、越部信義がアイドル歌謡的な曲も得意だったことがわかる。もし、越部信義が魔法少女アニメや『キャンディ・キャンディ』のような少女アニメを手がけていたらどんな曲を書いただろう……。書いてほしかったなあと思うのだ。
 そんな「もしも」が実現した気分を味わえる作品が『あしたへアタック!』である。
 美々たちの青春を彩るさわやかな曲や、ゆれ動く心情を表現するリリカルな曲、試合シーンを盛り上げるアップテンポの緊迫感のある曲など。越部信義のほかの作品ではあまり聴けない曲調の音楽がたっぷり聴けて、思わずにんまりしてしまう。
 試聴動画で聴ける「丘の上の学園」は第1話の冒頭で橘高校が紹介される場面に流れる曲。軽快なリズムにストリングスの流麗なメロディ、フルートの対旋律。「これぞ青春アニメ」と言いたくなる曲だ。
 同じく試聴動画で聴ける「友と呼べるなら」はギターとフルートのメロディが美々の切ない気持ちを表現する曲。亡き友の無念を晴らすために橘高校に挑戦してきた白バラ学園の花房みつる。激しい闘いを経て、美々とみつるのあいだに友情が芽生える。第10話で2人が手を取り合う感動的な場面に流れた曲だ。
 試合シーンの曲も充実している。試聴動画では重い曲想の「苦しい闘い」が紹介されているが、リズム主体のスピーディな曲「白熱のラリー」やトランペットとストリングスが熱い闘志を表現する「猛攻」など、越部信義がヒーローものや巨大ロボットものを手がけていたらこんな曲を書いていたかも(これも書いてほしかった)と思わせる曲調だ。
 筆者が本編で印象深かった曲の筆頭が、エンディング主題歌「バレーボールが好き」をアレンジした「美々の想い」である。しっとりとしたストリングスとピアノの演奏が美々の秘めた想いを表現する。第1話で美々が開かずの間になっていたバレーボール部の部室の扉を開ける場面、第9話で試合に破れた美々が「私にとってバレーとは何?」と自問する場面、第17話で美々の同級生・伏島一郎が「青春は短すぎる」と美々に語る場面、そして、第22話で決戦を前にした美々が一郎に心の弱さを指摘されて我に返る場面など、数々の名場面に流れた。
 本作のオープニング主題歌は「あしたへアタック」だが、もともとは「バレーボールが好き」のほうがオープニング用に作られた曲だった。「バレーボールが好き」は美々たちのバレーボールへの想いとバレーボールから得られるよろこびや友情を歌った曲。そのことから想像できるように、本作が描こうとしたのは60年代スポ根的な「試練に打ち克って勝利をつかむ」ドラマではなく、少女たちが悩んだりぶつかったりしながら、それぞれの明日を見つけていく物語なのである。「美々の想い」は、その象徴のような曲だ。
 もう1曲、試聴動画で聴ける「勝利へのアタック」はオープニング主題歌のピアノとストリングスなどによる力強いアレンジ。使用回数は多くないが、これも印象深い曲で、最終回では美々たちのインターハイ優勝を賭けた試合シーンを盛り上げた。
 ディスク1の終盤には、主題歌・挿入歌のフルサイズと主題歌のオリジナル・カラオケを収録。挿入歌「美しい今日」と「会うのは明日」は堀江美都子が歌うさわやかなアイドル歌謡風の曲。初出は放送当時に発売された4曲入りコンパクト盤だが、CD化される機会が少なく、これまで「堀江美都子 歌のあゆみ3」と「日本アニメーションの世界 主題歌・挿入歌大全集 第2集 〜スポーツアニメ編〜」に収録されたぐらい。貴重な音源なのである。

 ディスク2には『リトル・ルルとちっちゃい仲間』の歌と音楽を収録した。本作の原作は1930年代からアメリカの新聞に連載された人気漫画「Little LuLu」。アメリカの小さい町を舞台に、7歳くらいのいたずら好きの女の子ルルと仲間たちの日常を描くコミカルな作品だ。
 「Little LuLu」は海外でも何度かアニメ化されているが、本作は日本向けにライセンスを取得してアニメ化したもの。現在は映像ソフト化や再放映、映像配信等がされておらず、本編を観ることがかなわない。キャラクターの画像も使用できない。いわば、「幻の作品」である。しかし、音楽だけなら商品化できるとのことで今回のリリースになった。実は『キャンディ・キャンディ』サントラ発売に匹敵する画期的なことなのだ。

 越部信義の仕事の中で大きな位置を占めるのが「おかあさんといっしょ」や「ひらけ!ポンキッキ」といった幼児向け番組の楽曲である。「おかあさんといっしょ」内で放送された着ぐるみ劇「にこにこぷん」の音楽をずっと手がけていたし、「はたらくくるま」「ぼくは電車」などの歌も子どもたちに親しまれた。
 小さい子どもたちを主人公にした『リトル・ルルとちっちゃい仲間』は、そんな越部信義の本領発揮!とも言える作品だ。
 本作のもうひとつのポイントは、これが越部信義初の日本アニメーション作品であること。それまでは『マッハGoGoGo』『昆虫物語みなしごハッチ』等のタツノコプロ作品や『サザエさん』『ジムボタン』等のエイケン作品が多かった。で、筆者の想像だが、越部先生、けっこう気合を入れて取り組んだのではないかと思うのだ。
 まず、BGMの1曲が長い。2分を超える曲もけっこうある(逆に『あしたへアタック!』は1分未満の曲が多い)。そして、曲がバラエティ豊かで、変化に富んだメロディとさまざまなスタイルのアレンジが聴ける。演奏もノッている。「楽しんで作っているなあ」と思わせる音楽なのである。
 試聴動画で紹介した「いたずらの種はつきず」はクラビネット(エレキピアノの一種)の音色が印象的なユーモラスな曲。クラビネットは70年代の洋楽によく使われた楽器で、アニメ音楽では1977年放送の『野球狂の詩』のテーマ曲や1978年放送の『はいからさんが通る』の主題歌で使われて「アニメソングのポップス化」を印象づけた。それを1976年放送の本作のBGMに使っているとは、越部先生、さすがのセンスである。試聴動画には入っていないが、クラビネットを使った主題歌アレンジのBGMもある。
 続いて試聴動画で紹介している「昼さがりの街角」はソプラノサックス、フルート、クラリネットなどの木管楽器が交代でメロディを奏でるのんびりムードの曲。ちょっと『サザエさん』を思わせる曲調だ。
 ギター(クラビか?)とブラスによる「角を曲がれば」は、ちょこまかと動くルルたちが目に浮かぶような軽快な曲。本作のBGMは60曲余りが録音されており、そのほとんどがテイク1でOKになっている。当時の音楽作りは「せーの」で全楽器が演奏を始める一発録音。ノリのよい演奏から、スタジオセッションの勢いと楽しさが伝わってくる。
 試聴動画では、ほかにエンディング主題歌「わたしはルル」をアレンジした「スキップ」と名づけられた曲を2バージョン紹介している。1曲は口笛ソロによるバージョン。この手のコミカルな作品に口笛ソロを採用するセンスにしびれる。口笛の音色がほのかな哀愁をただよわせ、胸がキュッとなる。これぞ越部サウンド。もう1曲はピアノとリズム(ウッドベース、ギター、ピアノ、ドラム)によるバージョン。ジャズ風のしゃれた雰囲気で聴かせる。どんな場面に流れているのか観てみたいものだ。
 ディスク2の終盤には、主題歌2曲のフルサイズとオリジナル・カラオケ、そして、ディスク1に収録できなかった『あしたへアタック!』の主題歌のTVサイズ・カラオケと挿入歌2曲のオリジナル・カラオケを収録。『あしたへアタック!』の主題歌TVサイズは、カラオケ、ヴォーカルともにレコード用フルサイズとは別録音である。今回はTVサイズもステレオマスターから収録した(初商品化)。
 BGMとともにぜひ味わってただきたいのが、主題歌・挿入歌のカラオケのすばらしさ。歌のバックに隠れていた対旋律やリズムを聴くと、越部信義がいかに精巧に楽曲を構築しているかがわかる。カラオケだけで音楽になっているのだ。歌うもよし、聴くもよし、である。

 「あしたへアタック!/リトル・ルルとちっちゃい仲間 音楽集」は越部信義が生み出した歌と音楽がたっぷり楽しめる2枚組。はずむリズムとペーソスただようメロディの魅力を堪能してほしい。越部信義大好きの筆者が自信を持ってお奨めします。

あしたへアタック!/リトル・ルルとちっちゃい仲間 音楽集
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