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「第131回アニメスタイルイベント 長濱博史、THE REFLECTIONを語る!!」トーク抜粋

 TVアニメ『THE REFLECTION WAVE ONE』はアメコミの巨匠であるスタン・リーと共に『蟲師』『惡の華』で知られる長濱博史が原作を務めている作品だ。7月から放映開始となる本作だが、どういった経緯で制作されることになったのか、どんな内容の作品なのか等はまだ公になっていなかった。
 その一部が、2017年5月21日(日)に開催されたトークイベント「第131回アニメスタイルイベント 長濱博史、THE REFLECTIONを語る!!」によって語られた。以下はそのトークの抜粋である。

■「THE REFLECTION WAVE ONE」データ

2017年7月22日(土)より放映開始
NHK総合テレビにて、毎週土曜日午後11:00~11:25(全12回)

原作:スタン・リー 長濱博史
監督:長濱博史
脚本:鈴木やすゆき
音楽:トレヴァー・ホーン
キャラクターデザイン:馬越嘉彦
EDテーマ:9nine
アニメーション制作:スタジオディーン
制作・著作:THE REFLECTION製作委員会
©スタン・リー, 長濱博史/THE REFLECTION製作委員会

公式サイト
http://thereflection-anime.net/


■イベントトーク抜粋


●アメコミを日本のアニメにする夢

―― 『THE REFLECTION』の企画はどんなかたちで成立したのでしょうか。

長濱 元々自分はマーベル作品の大ファンなんです。それこそ日本のマンガより好きなくらいです。そういうことをアメリカで開催された日本アニメのイベントに呼ばれた際に言い続けていたら、向こうの方が「そんなに好きならスタン・リーに会おうか」と言って、機会を設けてくださって、そこから企画が動き出しました。

―― スタン・リーさんの印象は。

長濱 とても明確なビジョンを持っている、明晰な人だなと感じました。その一方で、アメコミの神様のような存在でありながら、こちらと対等にやろうとしている感じがありました。これは凄いことです。通常この手の大御所から感じられる近寄りがたさというものは一切感じませんでした。それから、今年で94歳ですが、まだまだ若いです。

―― 初めて会った時から企画が動いたのですか。

長濱 実は今回の『THE REFLECTION』は2回目の企画なんですね。1回目は『蟲師』の監督をするより前、10年以上昔になります。1回目の時がスタンと初対面で、その時はその場で決定しました。スタン自身が以前から日本と組んで幾つか企画をやってみたいと思っていたんだと話してくれました。アメリカでは基本的に、「やる?」と聞かれて「やる」と即答すれば企画が始まりますし、「考えます」と答えれば企画は流れます。僕がその場で「やります」と言ったら企画が始まった、ということですね。

―― 2回目の企画となる今回の経緯は。

長濱 今回はあちらから、「前回は企画が流れてしまったがもう一度やってみないか」と打診がありました。これももう4、5年前の話です。1回目の企画の時はスタンが積極的に、「日本とやるのだから日本とアメリカのいいところを混ぜたい」と主張していて、日本を舞台にし、さらに『パワーレンジャー』のような日本的なヒーロー像を下敷きにキャラを作っていたんです。でも今回はアメリカを舞台にアメコミをアニメにしようということで、日本の要素は削ろうとはしていないですが、積極的に取り込むということもしていません。アメコミをアニメーションにしたいというのが、今回の企画の成り立ちなんですよ。ブルース・ティムの『バットマン』のような例外はあるんですが、アメコミをきちんとアニメーションにした作品というものは存在しないんです。アメリカはどうしてもカートゥーン(アメリカ風の児童向けアニメーション)から抜け出せない。ちゃんとアメコミをアニメーションで観たいという思いが自分の中にあったんですね。

―― 「これこそがアメコミ」というアニメを作りたかった。

長濱 そういうことです。

―― 長濵さんが、以前からずっと言い続けていたために企画が成立したと受けとめてよいでしょうか。

長濱 そうですね。僕は言い続けていれば叶うとずっと思っているんです。『蟲師』もそうです。アニメ化は難しい企画でしたが実現した。『蟲師』も夢が実現した例です。この『THE REFLECTION』もそうですね。

馬越 普通は願っていれば叶うというものでもないんですが、長濱さんの場合、既に動いているんです。自分から呼び込んでいるという表現が正しいかと。

長濱 願うだけでは叶いませんが、口にすれば叶いますよ。時間差はあるかもしれないし、違ったかたちで叶うかもしれない。それでも、自分の好きという気持ちが相手に影響を与えているわけですよ。この影響を及ぼすというのが、好きということを口に出すことの力なんです。話はかなり戻りますが、私が初めてアメリカのイベントに参加したきっかけも、ずっとアメコミが好きだと言い続けていたところ、同時多発テロの影響でアメリカの日本アニメのイベントのゲストに欠員が出たので参加してみないか、という話が回ってきて掴んだものだったんです。

馬越 長濱さんは人の10倍ほど口に出していると思います。

長濱 今回音楽をトレヴァー・ホーンさんというイギリスの音楽プロデューサーにお願いしているんですが、これもスタジオディーンの野口(和紀)さんとこの作品が動き出す前から、いつかトレヴァー・ホーンの音楽でアニメをやりたいね、と語り合っていたところ、この企画が動き出してから彼とのパイプが見つかり、それで依頼したんです。向こうがその場で快諾してくれたことには驚きました。


●『THE REFLECTION』で描きたいもの

―― トレヴァー・ホーンさんがプロデュースした楽曲に合わせた新しいPVを拝見しました。独特の色使いだと感じましたが、アニメ本編でも同じようになるのでしょうか。

長濱 そうですね。その場面ごとに色のトーンがあり、シーンや時間でそのトーンが変わります。アメコミの作風ですね。結局、アメコミをアニメにするにしても、自分が『蟲師』や『惡の華』で経験したものと同じプロセスを通っている。作品独自の何かがあるのか、それとも通常の方法でなんとかなるのか、それを考えるプロセスです。僕が好きなアメコミはシルバーエイジ(1950年代から1960年代)の作品で、この頃のグラデーションなどを再現してみたかったんです。ところが、いざ実際に取り組んでみると、『蟲師』並みに徹底的にやり尽くさないと、ウソが浮いて見えてくることが分かったんです。撮影段階で様々な処理を加えれば加えるほど、ウソが目立つ。なので無駄なものを一切足さない、引き算のアニメにすることにしたんです。こういう方向性に舵を切れるのも、馬越さんが色々とやってみてくれているからですね。

―― 色使いがとてもシンプルなんですね。空にしても、ベタ塗りというか、濃淡がない。

長濱 ないんです。でも表現として成立しています。

―― 馬越さんの名前が出ましたが、馬越さんがキャラクターデザインとして参加し始めたのはいつ頃だったのでしょうか。

馬越 最初から参加する流れはありました。が、初めて打診された時は断りました。

長濱 馬越さんが、「スタン・リーと一緒に作品を作るというあなたの夢が叶うのだから、キャラクターの原案は自分で作るべきだ」と主張したんです。デザインをアニメ的に動かせるようにアレンジする作業はしてもよいが、自分が一から作ることはしない、と。もっとも、馬越さんはそのデザインのアレンジをすることにも渋っていましたが。

馬越 長濱さんが凄いことをやっている、というのを遠くから眺めていたかったんです。

長濱 そういうわけで、ティザーPVに出てきた止め画のキャラクターは、自分が元を作っています。当初は影が付くのかどうかも分からない状態でした。結局黒の影だけを付けることになりました。

―― 随分とスタイリッシュなビジュアルになりそうですね。

長濱 というよりシンプル。動かすのは難しいのですが、スタッフが渋らずやってくれています。

―― ビジュアル面以外で、長濱さんが描きたかったものとはなんだったのでしょうか。

長濱 今回僕がやりたかったことというのは、スタンが生み出したマーベルの宇宙(ユニバース)というものを彼に返したい、ということだったんです。アメコミの世界では、原作者がキャラを保有できず、出版社がその権利を抱えています。しかし、マーベルの宇宙のかなりの部分は、スタンが作り上げたものなんです。なので、それを違ったかたちで翻訳して、彼に返したかったんです。今回原作として僕がスタンと連名でクレジットされていますが、これは僕が彼に軽く言ったら、相手がそれを快諾してくれたのが理由です。嬉しかったですが、アニメを作っている過程では、スタンを仮想の原作者、僕を一人の読者としてイメージしながら制作しています。もうひとつ、僕はアニメで『アベンジャーズ』のようなことをしたかったというのもあります。『アベンジャーズ』に登場するヒーローは誰もが独立したタイトルの主人公であるわけですが、観客はその個別のタイトルに触れた経験がなくとも『アベンジャーズ』を楽しむことができるわけです。今回の『THE REFLECTION』はその逆の過程を辿っています。個々のキャラクターについては誰も何も知らないが、それでもキャラクターを楽しみながら見ることができる、そういう作品を目指しています。なので、登場するキャラの数はとても多いですし、すぐ死ぬような悪役にも名前を付けバックボーンを設定として与えています。


●スタン・リーと長濱博史が企画の中心にいるということ

―― NHKで夏から放映することになっているようですが、これにはどういう経緯があったのでしょうか。

長濱 詳しいことは舞台脇にいる野口さんに聞いてみましょう。

(野口和紀プロデューサーが登壇する)

野口 スタジオディーンの野口です。NHK総合で今年の7月から毎週土曜夜に放映となります。詳しい日程はまだ確定していませんが、6月にはお伝えできるかと思います(編注:イベントの後、放映開始日等が告知された)。

―― 7月放映開始ということは、もうすぐですね。

野口 特殊な状況で決定しました。元は配信だけの予定だったのですが、NHKさんから企画を認めてもらい、急遽放映できることになりました。よろしくお願いします。

(野口プロデューサーが降壇する)

―― なぜ当初は配信だけで考えていたのでしょうか。

長濱 原作者の一人がアメリカ在住、音楽プロデューサーはイギリス人ということで、必然的に「自分たちのところでも作品を観られるようにしてほしい」ということを言われるわけです。なので、世界同時に公開できる配信を考えていた。今回の企画に日本の出版社が関わっていないのも大きいかもしれません。

―― 今回のプロジェクト自体、内容以外の部分も長濱さんが動かしているわけですね。

長濱 企画の中心にスタンと自分がいるという点で、今回の企画は特殊だと思います。スタジオディーンで制作することになった理由も、スタン側から「確実に企画を遂行できる人を連れてきてほしい」と言われ、野口さんに連絡したところ、すぐOKの返事があったからですし。他にも、先ほど音楽の話をしましたが、それもこちらから打診しました。9nineというチームにEDを歌ってもらうのですが、トレヴァー・ホーンが日本のユニットをプロデュースするのは初めてなんですよ。これは凄いことです。9nineは作中で日本のヒーローチームとしても登場しますね。

―― チームですか。

長濱 チームです。『プリキュア』シリーズにせよ、『パワーレンジャー』にせよ、日本のヒーローやヒロインはチームを組む場合が多いんです。そういった日本のヒーロー・ヒロイン像を投影しています。そう、投影なんです。英単語のreflectionには確かに反射という意味があるんですが、それだけではない。投影という意味もあります。イメージとしては水面のきらきらとした光です。そういったイメージを持ちながらタイトルや作中でのある事件名にreflectionを用いています。


●あらゆる箇所に見どころが

―― アクションは毎回あるのでしょうか。

長濱 ない回もあるかもしれませんが、基本的にはあります。

―― 登場するヒーロー的なキャラクターは、皆が特殊能力を持っているのでしょうか。

長濱 持っています。悪者も持っています。悪者の方が面白いですね、様々な意味で。キャラ立ちしています。デザイン的にはヒーロー側のキャラクターは……。

馬越 アイガイというヒーローがいるんですが、そのキャラクターを描くだけでも大変です。

長濱 デザインが複雑なのは、僕が元を描いたからです。

馬越 監督の指示が細かい。

―― キャラの数も多いとのことでしたが。

長濱 削ったんですが、それでもまだ多い。先ほども言いましたが、どれほど出番が少なかろうと、キャラには名前と設定を与えています。アメコミでは使い捨ての戦闘員は許されませんし、そうした設定があるからこそ後に別の作品で再登場できるわけです。

―― 最後に一言ずつお願いします。

馬越 現段階では多くは話せませんが、私自身も楽しみにしています。

長濱 アメコミ好きなら楽しめる作品になっていると思います。悪い奴をやっつけるという単純なストーリーではありません。音楽や声優にも力が入っています。長く続けていきたいと考えていますのでよろしくお願いします。

■プロフィール

長濱博史(Hiroshi Nagahama)
アニメ監督・演出家。1970年3月15日生まれ。マッドハウスに入社しアニメ業界に入り、現在はフリー。1997年『少女革命ウテナ』でコンセプトデザインを担当。『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』『十兵衛ちゃん2 ―シベリア柳生の逆襲―』など大地丙太郎作品への参加が2000年代前半に多かった。2005年『蟲師』で初監督、注目を集める。以降の監督作としては『デトロイト・メタル・シティ』『惡の華』『蟲師 続章』など。2017年7月から放送予定の『THE REFLECTION』では監督をこなすと同時に原作者(スタン・リーと共同)としてもクレジットされている。

馬越嘉彦(Yoshihiko Umakoshi)
アニメーター、キャラクターデザイナー、作画監督。1968年7月30日生まれ。日曜朝の少女マンガ原作アニメ三部作『ママレード・ボーイ』『ご近所物語』『花より男子』でキャラクターデザインを手がけ、『おジャ魔女どれみ』シリーズではキャラクターコンセプトデザインを担当。近年では『ハートキャッチプリキュア!』『僕のヒーローアカデミア』でキャラクターデザインを担っている。長濱博史監督とのコンビは、長濱がチーフディレクターを務めた『十兵衛ちゃん2 ―シベリア柳生の逆襲―』から。その後、長濱が監督した『蟲師』『蟲師 続章』でもキャラクターデザインを受け持った。2017年『THE REFLECTION』でもキャラクターデザインとして長濱監督と組んでいる。

■イベントデータ
日時:2017年5月21日(日)
会場:阿佐ヶ谷ロフトA
登壇者:長濱博史、馬越嘉彦、小黒雄一郎(アニメスタイル編集長)

■記事構成
深川和純、アニメスタイル編集部