COLUMN

第75回 運命に翻弄される青春 〜六神合体ゴッドマーズ〜

 腹巻猫です。ちょっと前の仕事になりますが、1月27日に発売された「大恐竜時代 オリジナル・サウンドトラック」の解説を担当しています。1979年に日本テレビ系で放送されたTVアニメスペシャルのサントラで、音楽はSHOGUN。あの『俺たちは天使だ!』のSHOGUNですよ!(といっても一部の世代しか知らないかも)。『CAT’S EYE』や『愛の若草物語』の音楽を担当した大谷和夫もSHOGUNのメンバーでした。アニメサントラの中でも長らくCD化されなかったレア盤です。
http://www.amazon.co.jp/dp/B016P3D86S/


 今年早々に驚いたのは、アニメ音楽専門レーベル・スターチャイルド消滅のニュースだった。
 スターチャイルドは1981年にキングレコードで立ちあがった日本初のアニメ音楽専門レーベル。スターチャイルドの名は、「2001年宇宙の旅」のラストに登場する赤ん坊(新人類の子)に由来する。新世代に向けた新しい音楽作品を作り出そうという希望と願いをこめたレーベルだったのだ。アニメ音楽専門と書いたが、扱うジャンルはアニメ、特撮、実写劇場作品、ドラマ、コミックス、声優など、ビジュアル作品と結びついた音楽全般にわたる幅広いものだった。シンボルである星の子マークがついた第1弾は1981年7月5日に発売された「哀 戦士」のシングル盤だった。
 『機動戦士ガンダム』のヒットがスターチャイルド・レーベル発足のきっかけとなり、ビジネスを支えたことは間違いない。そして、スターチャイルドは『ガンダム』に続く意欲的な作品を次々と送り出した。『伝説巨神イデオン』『宇宙戦士バルディオス』『太陽の牙ダグラム』『銀河旋風ブライガー』などなど。そんな中で、『ガンダム』と並ぶ初期のヒット作となったのが『六神合体ゴッドマーズ』である。

 『六神合体ゴッドマーズ』は1981年10月から1982年12月まで日本テレビ系で全64話が放映されたTVアニメ作品。原作は横山光輝のマンガ作品「マーズ」。製作は東京ムービー新社が担当した。
 マンガ原作はあるが、設定や物語はオリジナル作品といってよいほどにアレンジされている。貴種流離譚的な要素が盛り込まれ、シリーズ構成と脚本を担当した藤川桂介の個性が強く出た作品になっている。
 地球人として育てられたギシン星人のタケル(マーズ)が巨大ロボット・ゴッドマーズを操って、宇宙支配をもくろむズール皇帝の侵略軍と戦う物語。タケルと双子の兄・マーグとの悲劇的なドラマが前半の軸となり、タケル役の水島裕、マーグ役の三ツ矢雄二の人気もあいまって、多くの女性ファンを生んだ。劇中で死亡したマーグを悼んで葬儀イベントが開かれたほどである。
 音楽を担当したのは若草恵。それまで主に演歌やポップスのアレンジャーとして活躍し、CM音楽やTVドラマの音楽などを手がけていたが、アニメ作品の音楽を担当するのはこれが初めてだった。
 若草恵は1949年、山形県出身。作曲家であった父の影響で幼少時から作曲を志した。高校時代はクラシックを学び、卒業後上京して、ヤマハ音楽振興会の渡辺貞夫のクラスでジャズ理論を2年間学んだ。その傍ら、20歳頃からCM音楽等の作曲活動を開始。作詞・作曲家の中山大三郎に師事し、歌謡曲のアレンジの仕事を始める。若草恵のペンネームは中山大三郎の命名によるものだ。
 代表的な編曲作品は、研ナオコ「かもめはかもめ」、欧陽菲菲「ラブ・イズ・オーバー」、小泉今日子「ヤマトナデシコ七変化」、美空ひばり「愛燦燦」、坂本冬美「夜桜お七」など。映像音楽作品にはTVドラマ「ザ・ハングマン」(1980)、TVアニメ『重戦機エルガイム』(1984)、『私のあしながおじさん』(1990)、『ロミオの青い空』(1995)、『ヒカルの碁』(2001)、劇場アニメ『河童のクゥと夏休み』(2007)などがある。

 若草恵といえば歌謡曲・ポップスの仕事で日本レコード大賞の作曲賞を1回、編曲賞を3回も受賞している歌謡界の名コンポーザー、名アレンジャーである。しかし映画音楽には少年時代から興味があり、もともとは映画音楽がやりたかったのだそうだ。レナード・バーンスタインやヘンリー・マンシーニなどが手がけた、青春時代に観た劇場作品の音楽が印象に残っている。音楽を聴きたくて何度も同じ劇場作品を観ることもあった。
 そんなプロフィールからもわかるとおり、若草恵の持ち味はどちらかというとロマンティックで情感豊かな音楽。攻撃的な音楽が必要とされるロボットアニメには似つかわしくない印象である。
 ところが、若草恵のロマンティックでスマートな音楽が『六神合体ゴッドマーズ』にはぴったりだった。前番組の『鉄人28号[新]』は鉄の塊同士がぶつかり合うダイナミックなロボット・アクションが見せ場になっていたが、『ゴッドマーズ』は一転して人間ドラマに重点が置かれ、ロボット戦がおまけ(とは言い過ぎですが)のようですらある。タケルを中心としたメロドラマ的な物語に、若草恵のロマンティックな作風がぴたりとはまったのだ。
 若草恵を『六神合体ゴッドマーズ』の音楽に抜擢したのは、日本テレビ音楽の飯田則子プロデューサーだった。筆者はそのことを最近、若草恵のインタビューで知ったのだが、思わず、なるほどとひざを打ちたくなった。
 飯田則子プロデューサーといえば、TVアニメ『宝島』(1978)の音楽に羽田健太郎を、TVドラマ「西遊記」(1978)の音楽にゴダイゴを起用するなど、新しい才能を次々と見出して、70年代後半から80年代にかけての日本テレビ作品の音楽に大胆な変革をもたらした人物。今回の枕で紹介した『大恐竜時代』の音楽にSHOGUNを推薦したのも飯田プロデューサーだった。『鉄人28号』と『ゴッドマーズ』の作品カラーの違いを見抜いて若草恵を選んだとしたら、さすがの慧眼というほかない。
 本作に関連する音楽アルバムとしては下記のものが発売されている。

  • 六神合体ゴッドマーズ BGM集(1982年2月5日発売)
  • 六神合体ゴッドマーズ BGM集 VOL.2(1982年7月21日発売)
  • 東宝東和映画 六神合体ゴッドマーズ BGM集(1982年12月21日発売)
    ※劇場版サントラ。
  • ベスト・オブ・六神合体ゴッドマーズ(1983年6月5日発売)
    ※主題歌・挿入歌とキャラクターの台詞を収録したアルバム。
  • メモリー・オブ・ゴッドマーズ(1983年8月5日発売)
    ※BGMをアレンジした新録音アルバム。
  • 未収録BGMコレクション4 六神合体ゴッドマーズ(1984年3月5日発売)
    ※未収録曲を補完したBGM集。

 全6タイトル。これにTV版のドラマ編アルバム2種、劇場版のドラマ編アルバム、オリジナル・アルバム「薔薇の騎士マーグ」まで含めると10タイトルにもなる。本作の人気のほどがうかがえるタイトル数である。本作のレコードはキングレコードのシングルヒット賞、LPヒット賞を受賞している。
 上記の音楽アルバムはすべてCD化されたが、現在は中古で入手するしかない。が、2011年に発売された全話収録Blu-ray「30th Anniversary 六神合体ゴッドマーズ SUPER COMPLETE BOX」に全アルバムが復刻されているので、映像も合わせて手に入れたい方にはこちらが断然お薦めである(新録音源を収録した30周年記念特典CDも同梱されている)。
 今回は、最初に発売された「BGM集」の内容から紹介したい。収録内容は以下のとおり。

  1. 宇宙の王者!ゴッドマーズ(歌:樋浦一帆)
  2. 1999年グランド・クロス
  3. クラッシャー隊のテーマ
  4. 暗殺者
  5. 銀河に一人(歌:水島裕)
  6. 俺は誰だ
  7. 愛の金字塔パート2
  8. 六神合体
  9. 母・静子
  10. 戦士の詩(うた)(歌:水島裕)
  11. ガイヤーロボット
  12. ギシン星〜ズール皇帝
  13. 超能力者
  14. 愛の金字塔(歌:樋浦一帆)

 トラック1とトラック14が小田裕一郎作曲のオープニング&エンディング主題歌。編曲は若草恵が担当している。ロボットアニメらしい高揚感とシンセのギミック音が印象的なオープニング、抑えた曲調に情熱を秘めたロックバラードのエンディング。どちらも若草恵のアレンジャーとしての手腕が実感できる名アレンジだ。
 トラック2「1999年グランドクロス」は第1話冒頭で使用されたプロローグ曲。惑星直列によって地球に天変地異が起こり、宇宙から6つの光(六神ロボ)が地球に飛来する場面に流れている。アルバムの導入としても、この上ない構成である。
 トラック3は地球の守りクラッシャー隊のテーマ。第1話のクラッシャー隊出撃シーンから使用された。ロボットアニメの出撃テーマといえばマイナーの勇壮な曲が定番だが、これはメジャーのさわやかなフュージョン曲。東京ムービーらしいシャープな作画とマッチして、爽快なカッコよさを生み出していた。タケルが登場するロボット・ガイヤーの活躍シーンに流れたトラック11「ガイヤーロボット」も同趣向の曲である。若草恵のセンスが生かされた、本アルバムの聴きどころだ。
 トラック4「暗殺者」は、ズール皇帝に逆らう反逆者としてタケル(マーズ)を狙うギシン星の暗殺者のテーマ。若草恵の手にかかると、こうしたサスペンス曲も海外映画音楽のようなスマートなサウンドに仕上がっている。
 トラック5「銀河に一人」は、タケル(マーズ)の視点でマーグへの想いを歌った挿入歌。第12話に挿入された。作詞はストーリー構成・脚本を手がけた藤川桂介、作曲・編曲は若草恵、歌はタケル役の水島裕。ドラマに寄り添ったキャラクターソングのお手本のような1曲。
 トラック10「戦士の詩(うた)」も同じ布陣による挿入歌。こちらは戦士としてのタケルの気持ちを歌った曲になっている。
 第1話のサブタイトルを付したトラック6「俺は誰だ」はオープニング主題歌をスローテンポにした希望的なアレンジ曲。第1部「ギシン星編」の最終話となる第25話のラストシーンに使用されている。
 続くトラック7「愛の金字塔パート2」はエンディング主題歌の弦を中心とした美しいアレンジ。
 LP盤ではトラック8からB面になり、オープニング主題歌のアレンジ曲「六神合体」で後半の幕が上がる。オリジナル・カラオケのイメージを残しながら、さらにパワーアップした曲に仕上がっている。六神ロボの合体シーンやゴッドマーズの戦闘シーンなどに使用された、ロボットアニメ的には最高に盛り上がる曲だ。
 トラック9はタケルの育ての母・明神静子のテーマ。第1話でタケルと静子が語らう場面など使用されている。本アルバムの中でもふっと心が和む抒情的なトラックである。
 アルバム終盤のトラック12になって、本作の敵であるギシン星とズール皇帝のテーマが登場。納谷悟朗の重厚な悪役声がよみがえってくる。後半は雰囲気が変わり、悲壮感を帯びた宿命のテーマに展開する。
 そして、トラック13「超能力」は緊迫感に富んだ超能力戦のテーマ。「タケル(マーズ)の運命は如何に?」というイメージの、不安含みの終わり方だ。次なる展開への引きを残してアルバムは締めくくられる。
 サントラ第1弾ということもあってか、BGM集第1弾は『ゴッドマーズ』の世界を俯瞰的に紹介する構成になっている。物語への導入としては十分な内容だし、この1枚で本作の雰囲気と音楽性は伝わってくる。
 本アルバムの発売時期は本編の2クール目を過ぎたあたり。マーグが登場して、いよいよドラマが盛り上がろうというところだ。だから、BGM集ではあまりネタバレにならないように気を遣った印象がある。曲名にも挿入歌の歌詞にもマーグの名がどこにもないあたりだ。
 このあと、マーズとマーグのドラマは怒涛の盛り上がりを見せていくのだが、その名場面を彩った楽曲の数々は「BGM集 VOL.2」に持ち越される……。
 と思うでしょう? ところがそうはならないのである。「BGM集 VOL.2」は第26話からスタートする第2部「マルメロ星編」のサントラとなり、「ギシン星編」のいくつかの重要曲は未収録のまま残されることになった。
 本作は当初は2クールの予定でスタートしたそうである。もし2クールで終了していたら、2枚目のサントラは「ギシン星編」第2弾となり、マーズとマーグのドラマを盛り上げた数々の楽曲がそこに収録されていたかもしれない。人気が出たおかげで3クール目以降の新展開と追加録音が決まったために、それはかなわかなった。本作はサントラ盤も、いわば運命に翻弄された作品なのである。
 だが、安心してほしい。2枚のサントラで未収録となったBGMも、1984年発売の「未収録BGMコレクション」でフォローされている。
 「ギシン星編」の代表的な重要曲としては、マーグの登場場面に頻繁に流れた「マーグのテーマ」とも呼べるミステリアスな曲M-32、第12話でマーズとマーグが対面する場面や第25話でズールとの決戦に勝利したマーズが仲間の前に姿を現す場面に流れた感動的な曲M-3がある。この2曲は「未収録BGMコレクション」の「安らぎの魂」のブロックの2曲目と3曲目に収録された。
 なお、最終回(第64話)のラストを締めくくったのは、M-3を劇場用にアレンジした劇場版のM-26。こちらは劇場版BGM集の「マーズ・マーグ運命の出会い」のブロック2曲目に収録されている。

 個人的に、若草恵の本領がもっとも発揮されたアニメ作品は『私のあしながおじさん』だと思う。ハリウッドのロマンティックなミュージカル映画のような華やかで美しい音楽は、若き日にバーンスタインやマンシーニの映画音楽に憧れたという若草恵が、その憧れをストレートに表現して存分に腕をふるった傑作である。『ゴッドマーズ』の音楽しか知らないというファンはぜひ、こちらも聴いていただきたい。
 が、この『六神合体ゴッドマーズ』の音楽もいい。ロボットアニメの音楽イメージを軽やかに裏切り、洋画か海外ドラマのような洗練されたサウンドで運命に翻弄される若者たちの青春ドラマを支えている。若草恵は、歌謡曲の仕事では歌詞の行間に隠された人間ドラマを映画音楽を書くようなつもりで曲に表現していくのだという。そんな若草恵だからこそ作りえた、ロマンの香り高い作品である。

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