COLUMN

第117回 続編へ続く

●2015年3月30月曜日(1698日目)

 この連載は2012年8月20日にはじまった。回を重ねて117回になった。連載開始からすでに2年7ヶ月が過ぎている。題名にある「1300日」は、そもそも自分が『この世界の片隅に』を映画化しようと志してからの日数なのだが、その1300日目は2014年2月25日に通り過ぎてしまった。
 本来は、このコラムはおよそ1300日くらいで完成するはずの映画の「制作日誌」のつもりで始めた。最初の目論見ではその頃には映画はできているつもりだったのだが、さまざまな事情により、今はもう1700日に近い。日誌的に書こうにも、なかなか書きにくいオトナの事情的状況も続いた。幸い制作支援クラウドファンディングが幸運な成果を生みつつあって、いろいろなことが前を向いてきたのだと思いたい。
 最初に日数をコラムの題名にしようと思ったのは、こうの史代さんの「この世界の片隅に」とは、すずさんが19年2月に嫁入りしてから21年1月に一応の幕が下りるまでの丸2年間、800日弱に及ぶ「記録」なのかもしれない、という意識があったからだった。「すずさんの790日」でもよいかと思ったのだが、何しろコラムを始めたばかりの頃のはまだ、作っているのが『この世界の片隅に』だということも名乗れなかった。
 1300日目を過ぎて大分経ってしまった途中で、「題名を変えようか」という話も出たのだが、編集担当の小川さんからは「『1300日プラス』くらいでいいんじゃないでしょうか」といわれてしまったりもした。この題名が居場所を得ていたのだとしたら、それはそれでありがたい。
 それにしても、さすがに「1300日」という題名は変える時期に来てしまっていると思う。と同時に、制作中の作品として足場を明確にするためにも、あまりにも長く軒を借りていたWEBアニメスタイルの中から引越しして、MAPPAの公式サイト内に引っ越そうと思う。実はMAPPA公式サイトも小黒さんの監督下に作られている。

 1300日が始まった頃、つまり『この世界の片隅に』の映像化を初めてプロデューサーに提案した頃は、まだ『BLACK LAGOON』のOVAシリーズを手がけている最中だった。「『マイマイ新子』の監督」だとか「『BLACK LAGOON』の監督」だとかではなく、「『この世界の片隅に』の監督」と初めて外部の人に紹介されるようになったのは2011年2月のことだった。震災を間に挟んでその年の5月『BLACK LAGOON』の全作業を終えた。それから『この世界の片隅に』の制作現場となるMAPPAの立ち上げに付き合い、スタジオにする場所を探して不動産屋さんといっしょに1日何万歩とか歩き詰めになったりもした。『BLACK LAGOON』を終えてからは、ほぼ『この世界の片隅に』に専念してほかにまとまった仕事はとらず、短編3本だけを間に挟んだ。
 『BLACK LAGOON』原作者の広江礼威さんとはその後も忘年会なども含めて何度も顔を合わせていたのだが、『この世界の片隅に』をやっている、という話になると広江さんはいつも、
 「あれは……! 時限爆弾が凶悪すぎる!」
  という感想をもらすのだった。広江さんは戦争のことに、単なる兵器趣味以上に、その裏側の社会事情なんかまで含めて詳しい。米軍が投下弾の中に時限爆弾を混ぜていたことも当然知った上で、こうの史代さんがその時限爆弾の凶悪さを的確に描写していることを賞賛するように「あの時限爆弾は……」というのだった。
 その広江さんが、阿佐ヶ谷ロフトAでやった「ここまで調べた『この世界の片隅に』6」で、『この世界の片隅に』のテストショット数カットを見せたという話を聞いて、
 「ええっ、それは観たいなあ!」
 ということになり、MAPPA2スタにお越しいただくことになった。
 広江さんは、こうの史代さんがこの作品の中であくまで示す思想的なニュートラル度にも感心していて、その結果、すずさんはがあの当時の世界からそこに住んでいた人間をそのまま切り出してきたみたいに見える、というのだった。戦後側からの目線として過剰に非戦的な態度を身にまとったすずさんであるわけでなく、当時の人だからといって過剰に好戦的でもなく、リアルだというのだった。
 例のグラマンのカットは、飛行機自体は人によってはそれほど敏感にはなれないかもしれないごく小さくしか描かれてないのだが、広江さんは「こわっ!」と的確に身震いした。
 「これは……ぜひ全編完成させてほしいなあ」

 というあたりで、この場所での『1300日の記録』は今回で一応最終回となる。続きはMAPPAの公式サイトで。

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